[インデックス 10018] ファイルの概要
コミット
- コミットハッシュ:
fdc6376c001f29a1245ce3f692c35a852053924d
- 作成者: David Symonds dsymonds@golang.org
- 日付: 2011年10月18日 12:26:09 +1100
- コミットメッセージ: "reflect: fix test failure reporting."
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/fdc6376c001f29a1245ce3f692c35a852053924d
元コミット内容
commit fdc6376c001f29a1245ce3f692c35a852053924d
Author: David Symonds <dsymonds@golang.org>
Date: Tue Oct 18 12:26:09 2011 +1100
reflect: fix test failure reporting.
There's a problem that is manifesting on the 386 builders,
but this test bug is masking it.
R=adg
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5295042
diff --git a/src/pkg/reflect/all_test.go b/src/pkg/reflect/all_test.go
index 85022818a0..915c84d3e7 100644
--- a/src/pkg/reflect/all_test.go
+++ b/src/pkg/reflect/all_test.go
@@ -887,7 +887,7 @@ func TestMap(t *testing.T) {
if i >= len(keys) {
t.Errorf("Missing key #%d %q", i, k)
} else if kv := keys[i]; kv.String() != k {
- t.Errorf("Keys[%q] = %d, want %d", i, kv.Int(), k)
+ t.Errorf("Keys[%q] = %q, want %q", i, kv.String(), k)
}
i++
変更の背景
このコミットは、Go言語の reflect パッケージにおけるテストの不具合を修正するものです。具体的には、386アーキテクチャビルダーで発生していた問題を隠蔽してしまうテストバグが発見され、その修正が必要となりました。
David Symonds氏は、Google Go チームの重要なメンバーであり、2011年頃にGoの開発に積極的に参加していました。このコミットは、Go言語の安定性と信頼性向上のための重要な修正の一つです。
2011年10月当時、Go言語はまだ1.0リリース前の開発段階にあり、様々なアーキテクチャでの安定性確保が重要な課題でした。特に386(32ビットx86)アーキテクチャでのビルドテストにおいて、実際の問題が発生していたにも関わらず、テストコード自体にバグがあることで、本来の問題が隠蔽されてしまう状況が発生していました。
前提知識の解説
Go言語のreflectパッケージ
Go言語のreflectパッケージは、実行時リフレクション機能を提供します。これにより、プログラムは任意の型のオブジェクトを検査・操作できます。reflectパッケージは以下の主要な機能を提供します:
- 型情報の取得:
reflect.Type
インターフェースを通じて型情報を取得 - 値の操作:
reflect.Value
構造体を通じて値の読み取り・書き込み - 動的型変換: インターフェース値の実際の型や値の取得
テストフォーマット文字列
Go言語のテストでは、testing.T.Errorf
関数を使用してテストエラーを報告します。フォーマット文字列には以下のような指定子が使用されます:
%q
: 文字列をダブルクォートで囲んで表示%d
: 整数として表示%s
: 文字列として表示
386アーキテクチャビルダー
386アーキテクチャは、Intel 80386プロセッサーに基づく32ビットアーキテクチャです。2011年当時、Goの継続的インテグレーションシステムでは、異なるアーキテクチャでのビルドとテストが自動実行されていました。
Map操作のリフレクション
Go言語でmapをリフレクションで操作する際は、以下のような処理が行われます:
- キーの取得:
MapKeys()
メソッドでmapのキー一覧を取得 - 値の取得:
MapIndex()
メソッドで特定のキーの値を取得 - 型変換:
String()
やInt()
メソッドで適切な型に変換
技術的詳細
問題の本質
この修正の核心は、テストエラーメッセージの形式不整合でした。修正前のコードは以下のような問題を抱えていました:
- 型の不整合:
kv.Int()
メソッドの戻り値(整数)を%d
で表示しようとしていたが、比較対象のk
は文字列型 - 情報の欠落: 実際の値が数値として表示されるため、デバッグ時に必要な文字列情報が失われる
- テストマスキング: 不正確なエラーメッセージにより、真の問題が隠蔽される
386アーキテクチャでの問題
386アーキテクチャでは、以下のような問題が発生していた可能性があります:
- メモリアライメント: 32ビットアーキテクチャ特有のメモリアライメント問題
- エンディアンの違い: バイト順序に関する問題
- ポインタサイズ: 32ビットポインタサイズによる影響
これらの問題が正確に報告されず、テストバグにより隠蔽されていたため、修正が必要となりました。
コアとなるコードの変更箇所
// 修正前(line 890)
t.Errorf("Keys[%q] = %d, want %d", i, kv.Int(), k)
// 修正後(line 890)
t.Errorf("Keys[%q] = %q, want %q", i, kv.String(), k)
変更箇所の詳細:
- 行番号: 890行目の
TestMap
関数内 - ファイル:
src/pkg/reflect/all_test.go
- 変更内容: フォーマット指定子を
%d
から%q
に変更、メソッド呼び出しをkv.Int()
からkv.String()
に変更
コアとなるコードの解説
修正されたテストコードの動作
このテストコードは、mapのキー一覧を取得し、期待されるキーと実際のキーを比較する処理を行っています:
func TestMap(t *testing.T) {
// ... (前部分省略)
// mapのキー一覧を取得
keys := mv.MapKeys()
// 各キーを検証
for i, k := range keys {
if i >= len(keys) {
t.Errorf("Missing key #%d %q", i, k)
} else if kv := keys[i]; kv.String() != k {
// 修正された部分:文字列比較として正しく表示
t.Errorf("Keys[%q] = %q, want %q", i, kv.String(), k)
}
i++
}
}
修正の意図
- 型の一貫性: 比較対象の
k
が文字列型であるため、kv.String()
メソッドを使用して文字列として取得 - 可読性の向上:
%q
フォーマット指定子により、文字列がダブルクォートで囲まれて表示され、デバッグ時の視認性が向上 - 正確性の確保: 実際の値と期待値を同じ型・同じ形式で表示することで、テストの失敗原因を正確に把握可能
修正の影響
この小さな変更により、以下の改善が達成されました:
- 真の問題の可視化: 386ビルダーで発生していた実際の問題が適切に報告されるようになった
- デバッグ効率の向上: 開発者が問題を特定しやすくなった
- ビルドシステムの信頼性向上: 継続的インテグレーションシステムの精度が向上した
関連リンク
- Go言語公式ドキュメント - reflect パッケージ
- The Laws of Reflection - Go Blog
- Go言語のテスト - testing パッケージ
- Go言語のフォーマット文字列 - fmt パッケージ
- Go言語の開発履歴