[インデックス 10078] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリであるnet/http
パッケージにパッケージコメントを追加し、既存の重複するコメントを削除するものです。これにより、net/http
パッケージのドキュメントがより包括的で分かりやすくなります。
コミット
commit 2b5aa28383b78c33e5d6a3e2a8994a6c7a9dee0f
Author: Brad Fitzpatrick <bradfitz@golang.org>
Date: Mon Oct 24 13:59:31 2011 -0700
http: add package comment
Fixes #2378
R=rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5312052
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/2b5aa28383b78c33e5d6a3e2a8994a6c7a9dee0f
元コミット内容
このコミットの目的は、Go言語のhttp
パッケージにパッケージコメントを追加することです。これにより、パッケージ全体の機能と使用方法が明確に説明され、ドキュメントが改善されます。また、関連するイシューである#2378
を修正します。
変更の背景
Go言語のパッケージは、その機能や使い方を説明するための「パッケージコメント」を持つことが推奨されています。これは、go doc
コマンドやpkg.go.devのようなドキュメント生成ツールによって自動的に抽出され、開発者がパッケージを理解する上で非常に重要な情報源となります。
このコミットが行われた2011年当時、net/http
パッケージには包括的なパッケージコメントが存在しなかったか、あるいは不十分であったと考えられます。そのため、パッケージの全体像を把握しにくく、利用者が混乱する可能性がありました。コミットメッセージにある「Fixes #2378」は、おそらくこのドキュメントの不足や不備に関するイシューを指していると推測されます。パッケージコメントを追加することで、net/http
パッケージの目的、主要な機能(クライアントとサーバーの実装)、および基本的な使用例が明確に示され、開発者の利便性が向上します。
また、既存のsrc/pkg/http/request.go
ファイルに記述されていた「HTTP Request reading and parsing. // Package http implements parsing of HTTP requests, replies, and URLs and // provides an extensible HTTP server and a basic HTTP client.」というコメントは、パッケージ全体の概要を説明するものであり、request.go
という特定のファイルに置かれるべきではありませんでした。このコミットは、このコメントを適切なパッケージコメントとしてdoc.go
に移動し、重複を避けることで、コードベースの整理も行っています。
前提知識の解説
Go言語のパッケージとドキュメンテーション
Go言語では、コードは「パッケージ」という単位で整理されます。各パッケージは、関連する機能の集合体であり、再利用可能なモジュールとして機能します。Goの設計思想の一つに「ドキュメンテーションの重視」があり、コードとドキュメンテーションを密接に連携させるための仕組みが提供されています。
パッケージコメント
Go言語において、パッケージの最上位に記述されるコメントは「パッケージコメント」として扱われます。これは、パッケージの目的、主要な機能、使用例などを説明するために使用されます。パッケージコメントは、通常、パッケージ宣言の直前に記述されます。
doc.go
ファイル
Go言語の慣習として、パッケージコメントやパッケージ全体のドキュメンテーションは、doc.go
という名前のファイルに記述されることがよくあります。このファイルは、パッケージのコード自体には直接的な影響を与えませんが、go doc
コマンドやGoの公式ドキュメントサイト(pkg.go.devなど)がドキュメンテーションを生成する際に参照されます。doc.go
ファイルにパッケージコメントを記述することで、パッケージのコードとドキュメンテーションを分離し、管理しやすくするメリットがあります。
net/http
パッケージ
net/http
パッケージは、Go言語の標準ライブラリの中でも非常に重要なパッケージの一つです。このパッケージは、HTTPクライアントとHTTPサーバーの両方の機能を提供し、Webアプリケーションの開発において中心的な役割を果たします。
- HTTPクライアント機能:
http.Get
,http.Post
,http.PostForm
などの関数や、http.Client
構造体を通じて、外部のHTTPサーバーにリクエストを送信し、レスポンスを受信することができます。 - HTTPサーバー機能:
http.ListenAndServe
関数やhttp.Server
構造体を通じて、HTTPリクエストを受け付け、それに応答するHTTPサーバーを構築することができます。http.Handler
インターフェースやhttp.HandleFunc
関数を使って、特定のリクエストパスに対する処理を定義します。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、Go言語のドキュメンテーション生成メカニズムと、net/http
パッケージの構造に関する理解に基づいています。
doc.go
の役割
doc.go
ファイルは、Goのドキュメンテーションツール(go doc
やgodoc
)がパッケージの概要を抽出するために特別に認識するファイルです。このファイルに記述されたパッケージコメントは、パッケージ全体のドキュメンテーションの冒頭に表示されます。これにより、開発者はパッケージのコードを深く読み込む前に、そのパッケージが何をするものなのか、どのように使うのかを素早く理解することができます。
このコミットで追加されたdoc.go
ファイルには、net/http
パッケージの主要な機能であるHTTPクライアントとサーバーの実装について、具体的なコード例を交えながら詳細に説明されています。
- HTTPクライアントの利用:
http.Get
,http.Post
,http.PostForm
といった基本的なリクエスト送信方法から、http.Client
を使ったヘッダーの追加やリダイレクトポリシーの制御、さらにhttp.Transport
を使ったプロキシ、TLS設定、圧縮などの詳細な制御方法までが網羅されています。特に、http.Client
とhttp.Transport
が複数のゴルーチンで安全に並行利用でき、効率のために一度だけ作成して再利用すべきであるという重要なベストプラクティスも明記されています。 - HTTPサーバーの利用:
http.ListenAndServe
を使った基本的なサーバーの起動方法、http.Handle
やhttp.HandleFunc
を使ったハンドラの登録方法が示されています。また、http.Server
構造体を使って、アドレス、ハンドラ、読み取り/書き込みタイムアウト、ヘッダーの最大バイト数など、サーバーの動作をより細かく制御する方法も説明されています。
コメントの移動と整理
以前、src/pkg/http/request.go
ファイルには、パッケージ全体の概要を説明するコメントが含まれていました。しかし、request.go
はHTTPリクエストの読み取りと解析に特化したファイルであり、パッケージ全体の概要を記述する場所としては適切ではありませんでした。このコミットでは、このコメントを削除し、新しく作成されたdoc.go
ファイルにパッケージコメントとして移動することで、ドキュメンテーションの論理的な配置を改善しています。これにより、コードの可読性と保守性が向上し、ドキュメンテーションがより一貫性のあるものになります。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットでは、主に以下の2つのファイルが変更されています。
src/pkg/http/doc.go
: 新規作成されたファイルで、net/http
パッケージの包括的なパッケージコメントが追加されています。src/pkg/http/request.go
: 既存のファイルから、パッケージ全体の概要を説明するコメントが削除されています。
src/pkg/http/doc.go
(新規追加)
--- /dev/null
+++ b/src/pkg/http/doc.go
@@ -0,0 +1,79 @@
+// Copyright 2011 The Go Authors. All rights reserved.
+// Use of this source code is governed by a BSD-style
+// license that can be found in the LICENSE file.
+
+/*
+Package http provides HTTP client and server implementaions.
+
+Get, Head, Post, and PostForm make HTTP requests:
+
+ resp, err := http.Get("http://example.com/")
+ ...
+ resp, err := http.Post("http://example.com/upload", "image/jpeg", &buf)
+ ...
+ resp, err := http.PostForm("http://example.com/form",
+ url.Values{"key": {"Value"}, "id": {"123"}})
+
+The client must close the response body when finished with it:
+
+ resp, err := http.Get("http://example.com/")
+ if err != nil {
+ // handle error
+ }
+ defer resp.Body.Close()
+ body, err := ioutil.ReadAll(resp.Body)
+ // ...
+
+For control over HTTP client headers, redirect policy, and other
+settings, create a Client:
+
+ client := &http.Client{
+ CheckRedirect: redirectPolicyFunc,
+ }
+
+ resp, err := client.Get("http://example.com")
+ // ...
+
+ req := http.NewRequest("GET", "http://example.com", nil)
+ req.Header.Add("If-None-Match", `W/\"wyzzy\"`)
+ resp, err := client.Do(req)
+ // ...
+
+For control over proxies, TLS configuration, keep-alives,
+compression, and other settings, create a Transport:
+
+ tr := &http.Transport{
+ TLSClientConfig: &tls.Config{RootCAs: pool},
+ DisableCompression: true,
+ }
+ client := &http.Client{Transport: tr}
+ resp, err := client.Get("https://example.com")
+
+Clients and Transports are safe for concurrent use by multiple
+goroutines and for efficiency should only be created once and re-used.
+
+ListenAndServe starts an HTTP server with a given address and handler.
+The handler is usually nil, which means to use DefaultServeMux.
+Handle and HandleFunc add handlers to DefaultServeMux:
+
+ http.Handle("/foo", fooHandler)
+
+ http.HandleFunc("/bar", func(w http.ResponseWriter, r *http.Request) {
+ fmt.Fprintf(w, "Hello, %q", html.EscapeString(r.URL.RawPath))
+ })
+
+ log.Fatal(http.ListenAndServe(":8080", nil))
+
+More control over the server's behavior is available by creating a
+custom Server:
+
+ s := &http.Server{
+ Addr: ":8080",
+ Handler: myHandler,
+ ReadTimeout: 10e9,
+ WriteTimeout: 10e9,
+ MaxHeaderBytes: 1 << 20,
+ }
+ log.Fatal(s.ListenAndServe())
+*/
+package http
src/pkg/http/request.go
(変更)
--- a/src/pkg/http/request.go
+++ b/src/pkg/http/request.go
@@ -4,8 +4,6 @@
// HTTP Request reading and parsing.
-// Package http implements parsing of HTTP requests, replies, and URLs and
-// provides an extensible HTTP server and a basic HTTP client.
package http
import (
コアとなるコードの解説
src/pkg/http/doc.go
このファイルは、net/http
パッケージのパッケージコメントを定義しています。Go言語のドキュメンテーションツールは、このファイルのpackage http
宣言の直前にある複数行コメント(/* ... */
)をパッケージコメントとして認識します。
コメントの内容は、net/http
パッケージが提供する主要な機能(HTTPクライアントとサーバー)について、具体的なコード例を豊富に含んで説明しています。
-
HTTPクライアントの例:
http.Get
,http.Post
,http.PostForm
といった基本的なHTTPリクエストの送信方法。- レスポンスボディを閉じるための
defer resp.Body.Close()
の重要性。 http.Client
構造体を使ったヘッダーの追加やリダイレクトポリシーの制御。http.Transport
構造体を使ったプロキシ、TLS設定、圧縮などの低レベルな制御。http.Client
とhttp.Transport
がゴルーチンセーフであり、効率のために一度だけ作成して再利用すべきであるという注意点。
-
HTTPサーバーの例:
http.ListenAndServe
を使った基本的なHTTPサーバーの起動方法。http.Handle
とhttp.HandleFunc
を使ったリクエストハンドラの登録方法。http.Server
構造体を使った、サーバーのアドレス、ハンドラ、タイムアウト、最大ヘッダーサイズなどの詳細な設定。
これらの例は、net/http
パッケージの基本的な使い方から、より高度な設定までをカバーしており、開発者がパッケージを効果的に利用するためのガイドとなります。
src/pkg/http/request.go
このファイルでは、以前存在していた以下のコメントが削除されています。
// Package http implements parsing of HTTP requests, replies, and URLs and
// provides an extensible HTTP server and a basic HTTP client.
このコメントは、request.go
という特定のファイルの内容(HTTPリクエストの読み取りと解析)ではなく、http
パッケージ全体の概要を説明するものでした。そのため、パッケージコメントとしてdoc.go
に移動されたことで、コードの論理的な構造が改善され、ドキュメンテーションの一貫性が保たれています。request.go
に残されたコメント「// HTTP Request reading and parsing.
」は、このファイルが担当する具体的な機能に限定されており、より適切です。
関連リンク
- Go CL (Change List): https://golang.org/cl/5312052
- このコミットに対応するGoのコードレビューシステム(Gerrit)上の変更リストです。詳細な議論やレビューコメントが残されている可能性があります。
- GitHubコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/2b5aa28383b78c33e5d6a3e2a8994a6c7a9dee0f
- このコミットのGitHub上のページです。変更されたファイルや差分を直接確認できます。
参考にした情報源リンク
- Go言語のドキュメンテーション: Go言語の公式ドキュメンテーションは、パッケージコメントや
doc.go
ファイルの役割について詳しく説明しています。- https://go.dev/doc/effective_go#commentary (Effective Go - Commentary)
- https://pkg.go.dev/ (Go Package Documentation)
- Go言語の
net/http
パッケージ:- https://pkg.go.dev/net/http (Go
net/http
package documentation)
- https://pkg.go.dev/net/http (Go
注記: コミットメッセージに記載されている「Fixes #2378」というイシュー番号について、2011年当時のGoプロジェクトのイシュートラッカーにおける具体的なイシューの内容を特定することは、現在の公開情報からは困難でした。しかし、コミット内容から、このイシューがnet/http
パッケージのドキュメンテーション不足や不備に関連するものであったと推測されます。