[インデックス 1018] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコンパイラの一つであるgccgo
が生成するエラーメッセージを、テストスイートが正しく認識できるようにするための変更です。具体的には、インターフェースの不適合に関するエラーメッセージのパターンに、gccgo
が出力する可能性のある新しいメッセージを追加しています。
コミット
commit 2eb17d78947efbb3140f8ab4e017693fc633301d
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date: Fri Oct 31 14:55:57 2008 -0700
Recognize gccgo error message:
interface1.go:29:6: error: incompatible type in initialization (missing method Next)
R=rsc
DELTA=1 (0 added, 0 deleted, 1 changed)
OCL=18183
CL=18271
---
test/interface1.go | 2 +--
1 file changed, 1 insertion(+), 1 deletion(-)
diff --git a/test/interface1.go b/test/interface1.go
index 089a8b5c1b..c81cad54ba 100644
--- a/test/interface1.go
+++ b/test/interface1.go
@@ -30,6 +30,6 @@ func AddInst(Inst) *Inst {
func main() {
re := new(Regexp);
print("call addinst\\n");
- var x Inst = AddInst(new(Start)); // ERROR "illegal"\n
+ var x Inst = AddInst(new(Start)); // ERROR "illegal|incompatible"\n
print("return from addinst\\n");
}
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/2eb17d78947efbb3140f8ab4e017693fc633301d
元コミット内容
このコミットの目的は、「gccgo
が生成するエラーメッセージを認識する」ことです。具体的には、interface1.go
というテストファイルにおいて、インターフェースの不適合によって発生するエラーメッセージのパターンに、gccgo
が出力する可能性のある「incompatible type in initialization (missing method Next)
」というメッセージを追加しています。これにより、テストがgccgo
で実行された際にも、期待されるエラーが正しく検出されるようになります。
変更の背景
Go言語の初期段階では、複数のコンパイラが存在しました。このコミットが作成された2008年当時、Goの主要なコンパイラはgc
(Goコンパイラ)とgccgo
(GCCベースのGoコンパイラ)でした。テストスイートは、これらの異なるコンパイラが生成する可能性のあるエラーメッセージのバリエーションを考慮に入れる必要がありました。
test/interface1.go
のようなテストファイルは、特定のコードがコンパイルエラーを引き起こすことを意図しており、そのエラーメッセージが期待されるパターンと一致するかどうかを検証します。もしコンパイラが異なるエラーメッセージを出力した場合、テストは失敗してしまいます。このコミットは、gccgo
がインターフェースの不適合に対して「incompatible type
」というメッセージを出力するようになったため、既存のテストがこの新しいメッセージを認識できるようにするために行われました。
前提知識の解説
Go言語のインターフェース
Go言語のインターフェースは、型が実装すべきメソッドのシグネチャ(メソッド名、引数、戻り値)の集合を定義します。Goのインターフェースは、JavaやC#のような明示的なimplements
キーワードを必要とせず、型がインターフェースで定義されたすべてのメソッドを実装していれば、そのインターフェースを満たしているとみなされます(構造的型付け)。これにより、柔軟なポリモーフィズムを実現します。
例えば、以下のようなインターフェースがあるとします。
type Reader interface {
Read(p []byte) (n int, err error)
}
もしある型がRead
メソッドを定義していなければ、その型はReader
インターフェースを満たしません。インターフェースを満たさない型をインターフェース型の変数に代入しようとすると、コンパイルエラーが発生します。
Go言語のコンパイラ (gc
とgccgo
)
gc
(Go Compiler): Go言語の公式コンパイラであり、Goツールチェインの一部として提供されています。Go言語の進化に合わせて開発され、高速なコンパイルと最適化が特徴です。gccgo
(GCC-based Go Compiler): GCC(GNU Compiler Collection)のフロントエンドとして実装されたGoコンパイラです。GCCの強力な最適化機能や、C/C++との連携のしやすさといった利点があります。しかし、gc
とは独立して開発されているため、エラーメッセージの形式や、特定の言語機能の解釈に微妙な違いが生じることがありました。
テストにおけるエラーメッセージの検証
ソフトウェア開発において、特定の入力に対してエラーが発生することを期待するテストは一般的です。コンパイラのエラーメッセージを検証するテストでは、正規表現などを用いて、コンパイラが出力するエラーメッセージが期待されるパターンに一致するかどうかを確認します。これは、コンパイラの挙動が正しいことを保証するため、また、将来のコンパイラの変更によってエラーメッセージの形式が変わった場合にテストが失敗し、その変更を開発者に知らせるために重要です。
技術的詳細
このコミットの技術的なポイントは、Go言語のテストフレームワークが、コンパイラが出力するエラーメッセージをどのように検証しているかという点にあります。
Goのテストスイートでは、特定の行にコメントとして// ERROR "pattern"
のような形式で、その行がコンパイルエラーを引き起こすことを期待し、かつそのエラーメッセージがpattern
に一致することを指定できます。このpattern
は正規表現として解釈されます。
元のコードでは、var x Inst = AddInst(new(Start));
という行に対して、// ERROR "illegal"
というコメントが付与されていました。これは、この行が「illegal
」という文字列を含むエラーメッセージを生成することを期待していることを意味します。
しかし、gccgo
がこのコードをコンパイルした際に、「incompatible type in initialization (missing method Next)
」というエラーメッセージを出力するようになりました。このメッセージは「illegal
」という文字列を含んでいないため、gccgo
でテストを実行すると、テストが失敗してしまいます。
このコミットでは、エラーメッセージのパターンを"illegal|incompatible"
に変更しています。これは正規表現のOR演算子(|
)を使用しており、「illegal
」または「incompatible
」のいずれかの文字列がエラーメッセージに含まれていれば、テストが成功することを意味します。これにより、gc
とgccgo
の両方のコンパイラで、このテストが正しく動作するようになりました。
これは、コンパイラのバージョンや実装の違いによってエラーメッセージの文言が異なる場合でも、テストの堅牢性を保つための一般的なアプローチです。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/test/interface1.go
+++ b/test/interface1.go
@@ -30,6 +30,6 @@ func AddInst(Inst) *Inst {
func main() {
re := new(Regexp);
print("call addinst\\n");
- var x Inst = AddInst(new(Start)); // ERROR "illegal"\n
+ var x Inst = AddInst(new(Start)); // ERROR "illegal|incompatible"\n
print("return from addinst\\n");
}
コアとなるコードの解説
変更はtest/interface1.go
ファイルの1行のみです。
元の行:
var x Inst = AddInst(new(Start)); // ERROR "illegal"
変更後の行:
var x Inst = AddInst(new(Start)); // ERROR "illegal|incompatible"
この変更は、Goのテストフレームワークがエラーメッセージを検証するために使用する正規表現パターンを更新しています。
var x Inst = AddInst(new(Start));
: この行は、Start
型の新しいインスタンスをAddInst
関数に渡し、その結果をInst
型の変数x
に代入しようとしています。このテストの文脈では、Start
型がInst
インターフェースを正しく実装していないため、コンパイルエラーが発生することが期待されています。// ERROR "..."
: これはGoのテストスイートが認識する特別なコメントです。このコメントが付与された行でコンパイルエラーが発生した場合、コメント内の文字列がエラーメッセージのどこかに含まれているかを検証します。"illegal"
: 元のパターンです。gc
コンパイラがこの状況で「illegal」という単語を含むエラーメッセージを出力していたことを示唆しています。"illegal|incompatible"
: 変更後のパターンです。正規表現の|
(OR)演算子により、「illegal
」または「incompatible
」のいずれかの文字列がエラーメッセージに含まれていれば、テストが成功するようになります。これは、gccgo
が「incompatible type in initialization (missing method Next)
」のようなメッセージを出力するようになったため、そのメッセージもテストで許容されるようにするための対応です。
このシンプルな変更により、異なるGoコンパイラ間でのエラーメッセージの差異を吸収し、テストの互換性と堅牢性を高めています。
関連リンク
- Go言語のインターフェースに関する公式ドキュメント: https://go.dev/tour/methods/9 (Go Tourのインターフェースのセクション)
- GCCGoプロジェクトの概要: https://gcc.gnu.org/onlinedocs/gccgo/
参考にした情報源リンク
- Web search results for "gccgo error message interface Go" (Google Search)
- https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQFCwk3WFqImh8WTNUBO6p74DQTgyPGCTEbemVev4_F7vJySeCjT9ptPB8NIJey5yJyoz5odK2OY57TWyR_JEu7bnMNZwmpQhj4IZ7SKDyTLYbBRwWjGIoNa67Uuv5kHFIJcf7qB
- https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQFeHwekzxyTMkRD-1oCTBULMiVTARG42Hajcd9oRCRJGZyUC0UWV_RsE8qjcw5kKTErGn33sUIrcaCHyAh771e2RS-jcGirvsF1UTGbUbri5FMHXLzYPCLYsl-50Xn_yySqc-QwnKw-yU6Tmr690psQCeR_KYd2ywJchiZs7LWJtPjnwaJ6PW8hOIG1sM1SdLhEe2V61Pif9XNMg_jV3-bbW
- https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQGt2TLID_Rv-bj-kvOwI3VFPCy4yIjwAFKjSJnYoSXvTU4RpUHCm8HSz0GA6Y7ZCTkgysM6wYtDcPQGlzaCJGkz0CparB2OL--_qoqn_0Y9qEwa6JxMCyef3gJA-eiUTS4JICHg
- https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQGy6AnZCA3lS1lSSpFJ_n7TYLdsgwLIKl4jpAJXwhCgiAOi6AgkEPWeSY-gcvbaes29TLINXRPU0d97bYibdlP-R6BQcYCGCVD___NoHRCSjHVtjPZG2wzw7elM