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[インデックス 10228] ファイルの概要

コミット

  • コミットハッシュ: 41dc7d3a99da6894110085e78c07e711f925948e
  • Author: Russ Cox rsc@golang.org
  • Date: Thu Nov 3 15:30:57 2011 -0400

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/41dc7d3a99da6894110085e78c07e711f925948e

元コミット内容

    container/heap: document what Push and Pop do
    
    Now that vector is gone, there is no precedent to refer to.
    This is a confusing point for people looking to use the
    package.
    
    R=golang-dev, r, cw
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5322069

変更の背景

このコミットは、Go言語の標準ライブラリである container/heap パッケージにおける Push および Pop メソッドのドキュメントを改善することを目的としています。コミットメッセージに「Now that vector is gone, there is no precedent to refer to. This is a confusing point for people looking to use the package.」とあるように、以前は vector パッケージが存在し、container/heapPush および Pop の動作を説明する際に vector パッケージの慣例を参照することができました。しかし、vector パッケージがGo言語の標準ライブラリから削除されたため、参照すべき前例がなくなり、ユーザーが container/heap パッケージを使用する際に PushPop の具体的な動作について混乱が生じる可能性がありました。

この変更は、このような混乱を解消し、container/heap パッケージの使いやすさを向上させるために行われました。特に、Interface 型が定義する PushPop メソッドが、ヒープの実装内部でどのように利用されるか、そしてユーザーがヒープに要素を追加・削除する際には heap.Push および heap.Pop 関数を使用すべきであるという点を明確にすることが重要視されました。

前提知識の解説

ヒープ (Heap)

ヒープは、ツリーベースのデータ構造であり、ヒーププロパティと呼ばれる特定の順序付けプロパティを満たします。

  • 最小ヒープ (Min-Heap): 親ノードの値がその子ノードの値よりも常に小さいか等しい。
  • 最大ヒープ (Max-Heap): 親ノードの値がその子ノードの値よりも常に大きいか等しい。 Go言語の container/heap パッケージは、デフォルトで最小ヒープを実装するための機能を提供します。ヒープは、優先度キューの実装や、ソートアルゴリズム(ヒープソート)などで広く利用されます。

container/heap パッケージ

Go言語の container/heap パッケージは、任意の型をヒープとして扱うための汎用的なインターフェースと関数を提供します。このパッケージ自体は具体的なデータ構造(例えばスライス)を保持するわけではなく、ユーザーが提供するデータ構造が特定のインターフェース(heap.Interface)を満たすことで、ヒープ操作(要素の追加、削除、最小値の取得など)を可能にします。

sort.Interface

Go言語の sort パッケージで定義されている sort.Interface は、ソート可能なコレクションが満たすべきインターフェースです。以下の3つのメソッドを定義します。

  • Len() int: コレクションの要素数を返します。
  • Less(i, j int) bool: インデックス i の要素がインデックス j の要素よりも小さい場合に true を返します。
  • Swap(i, j int): インデックス ij の要素を入れ替えます。

container/heap パッケージの heap.Interface は、この sort.Interface を埋め込んでおり、ヒープとして機能するためにさらに PushPop メソッドを追加で要求します。これにより、ヒープ操作が sort.Interface のメソッド(特に Less)を利用して要素の順序を決定できるようになります。

PushPop 操作

ヒープにおける PushPop は、それぞれ要素の追加と削除を意味します。

  • Push: ヒープに新しい要素を追加します。追加後もヒーププロパティが維持されるように、必要に応じて要素の位置が調整されます。
  • Pop: ヒープのルート要素(最小ヒープの場合は最小値、最大ヒープの場合は最大値)を削除し、その値を返します。削除後もヒーププロパティが維持されるように、残りの要素が再配置されます。

Goの container/heap パッケージでは、heap.Interface が定義する PushPop は、ヒープの内部操作(例えば、スライスの末尾に要素を追加したり、末尾の要素を削除したりする)を抽象化したものです。ユーザーがヒープに要素を追加したり、ヒープから要素を削除したりする際には、heap パッケージが提供するグローバル関数 heap.Push および heap.Pop を使用します。これらのグローバル関数は、heap.InterfacePush および Pop メソッドを呼び出すことで、実際のヒープ操作を行います。この区別が、今回のドキュメント改善の核心です。

技術的詳細

Go言語の container/heap パッケージは、ヒープデータ構造を直接提供するのではなく、ユーザーが提供するスライスなどのデータ構造をヒープとして操作するためのアルゴリズムとインターフェースを提供します。この設計思想は、Goのインターフェースの強力な側面を示しています。

heap.Interface は、ヒープとして機能するために必要な最小限の操作を定義します。これには sort.Interface のメソッド(Len, Less, Swap)に加えて、PushPop が含まれます。

このコミットの変更点は、heap.Interface 内の PushPop メソッドのコメントを明確にすることにあります。以前のコメントでは、これらのメソッドが具体的に何をするのかが不明瞭でした。特に、これらのメソッドがヒープの「内部的な」操作であり、ユーザーが直接呼び出すべきものではないという点が曖昧でした。

新しいコメントでは、以下の点が明確にされています。

  • Push(x interface{}): // add x as element Len()
    • これは、ヒープの基盤となるデータ構造(通常はスライス)の末尾に要素 x を追加する操作であることを示しています。ヒーププロパティの維持は、heap.Push グローバル関数がこの Push メソッドを呼び出した後に行います。
  • Pop() interface{}: // remove and return element Len() - 1.
    • これは、ヒープの基盤となるデータ構造(通常はスライス)の末尾から要素を削除し、その値を返す操作であることを示しています。ヒーププロパティの維持は、heap.Pop グローバル関数がこの Pop メソッドを呼び出す前に行います(ルート要素を末尾に移動させるなど)。

さらに、heap.Interface の定義の直前に新しいコメントが追加されました。 // Note that Push and Pop in this interface are for package heap's // implementation to call. To add and remove things from the heap, // use heap.Push and heap.Pop. このコメントは、heap.Interface 内の PushPopcontainer/heap パッケージの内部実装によって呼び出されるものであり、ユーザーがヒープに要素を追加したり削除したりする際には、heap.Push および heap.Pop というグローバル関数を使用すべきであることを明確に指示しています。これは、ライブラリの正しい利用方法をユーザーにガイドする上で非常に重要な情報です。

コアとなるコードの変更箇所

diff --git a/src/pkg/container/heap/heap.go b/src/pkg/container/heap/heap.go
index 2dfe5b43ca..ca91139675 100644
--- a/src/pkg/container/heap/heap.go
+++ b/src/pkg/container/heap/heap.go
@@ -11,14 +11,17 @@ import "sort"
 
 // Any type that implements heap.Interface may be used as a
 // min-heap with the following invariants (established after
-// Init has been called):
+// Init has been called or if the data is empty or sorted):
 //
 //
 //	!h.Less(j, i) for 0 <= i < h.Len() and j = 2*i+1 or 2*i+2 and j < h.Len()
 //
+// Note that Push and Pop in this interface are for package heap's
+// implementation to call.  To add and remove things from the heap,
+// use heap.Push and heap.Pop.
 type Interface interface {\n 	sort.Interface
-\tPush(x interface{})\n-\tPop() interface{}\n+\tPush(x interface{}) // add x as element Len()\n+\tPop() interface{}   // remove and return element Len() - 1.\n }\n \n // A heap must be initialized before any of the heap operations

コアとなるコードの解説

変更は src/pkg/container/heap/heap.go ファイルに集中しています。

  1. Interface のコメントの追加: type Interface interface { の直前に以下の3行のコメントが追加されました。

    // Note that Push and Pop in this interface are for package heap's
    // implementation to call.  To add and remove things from the heap,
    // use heap.Push and heap.Pop.
    

    このコメントは、heap.Interface 内で定義されている PushPop メソッドが、container/heap パッケージの内部実装によって呼び出されることを明確にしています。そして、ユーザーがヒープに要素を追加したり削除したりする際には、heap.Push および heap.Pop というグローバル関数を使用すべきであるという、重要な利用ガイドラインを提供しています。これにより、ユーザーがインターフェースのメソッドを直接呼び出してヒープを操作しようとする誤解を防ぎます。

  2. Push メソッドのコメントの追加: Push(x interface{}) の行に // add x as element Len() というコメントが追加されました。 このコメントは、heap.InterfacePush メソッドが、基盤となるデータ構造(通常はスライス)の末尾に要素 x を追加する操作であることを簡潔に説明しています。これは、ヒーププロパティを維持するための再配置(ヒープアップ)が行われる前の、純粋な要素追加操作を指します。

  3. Pop メソッドのコメントの追加: Pop() interface{} の行に // remove and return element Len() - 1. というコメントが追加されました。 このコメントは、heap.InterfacePop メソッドが、基盤となるデータ構造(通常はスライス)の末尾から要素を削除し、その値を返す操作であることを簡潔に説明しています。これは、ヒーププロパティを維持するための再配置(ヒープダウン)が行われる前の、純粋な要素削除操作を指します。

これらの変更により、container/heap パッケージの Interface の役割と、その Push および Pop メソッドの具体的な動作が、より明確に、かつ誤解のないようにドキュメント化されました。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • 上記の「関連リンク」に記載した公式ドキュメント。
  • コミットメッセージに記載されている Go CL (Change List): https://golang.org/cl/5322069