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[インデックス 10276] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムライブラリの一部である src/lib9/ctime.c ファイルに対する変更です。このファイルは、Unix系の ctime 関数に相当する機能を提供し、Goプログラム内で時刻情報を文字列としてフォーマットする際に使用される可能性があります。

コミット

  • コミットハッシュ: 2547ad6b01a3a3701a219b2dda590805ba2182af
  • Author: Russ Cox rsc@golang.org
  • Date: Mon Nov 7 14:16:00 2011 -0500

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/2547ad6b01a3a3701a219b2dda590805ba2182af

元コミット内容

    lib9: fix windows build
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5362045

変更の背景

このコミットは、「lib9: fix windows build」(lib9: Windowsビルドの修正)という簡潔なメッセージが示す通り、Go言語のWindows環境でのビルド問題を解決するために行われました。具体的には、src/lib9/ctime.c 内で tm->tm_zone というフィールドが使用されていましたが、この tm_zone はWindowsの標準Cライブラリでは利用できない(非標準の拡張機能である)ため、コンパイルエラーが発生していました。

Go言語はクロスプラットフォーム対応を重視しており、異なるOS環境で一貫した動作を保証する必要があります。この問題は、Windows環境でGoのコードをコンパイルする際に、tm_zone の参照が未定義エラーを引き起こすことが原因でした。開発者は、このフィールドがWindowsでは利用できないこと、そしてその情報が現在のコンテキストでは重要ではないと判断し、ビルドが通るように修正を行いました。

前提知識の解説

struct tmtm_zone

C言語の標準ライブラリには、日付と時刻を扱うための struct tm という構造体があります。これは、年、月、日、時、分、秒などの時刻要素を格納するために使用されます。

struct tm {
   int tm_sec;    // 秒 (0-60)
   int tm_min;    // 分 (0-59)
   int tm_hour;   // 時 (0-23)
   int tm_mday;   // 月の日 (1-31)
   int tm_mon;    // 年の月 (0-11, 0が1月)
   int tm_year;   // 1900年からの年数
   int tm_wday;   // 週の日 (0-6, 0が日曜日)
   int tm_yday;   // 年の日 (0-365)
   int tm_isdst;  // 夏時間フラグ
   // 以下は非標準の拡張
   long tm_gmtoff; // UTCからのオフセット秒
   char *tm_zone;  // タイムゾーン名
};

ここで問題となる tm_zone フィールドは、タイムゾーンの略称(例: "EST", "PST", "JST" など)を指す文字列ポインタです。しかし、この tm_zone はPOSIX (Portable Operating System Interface) 規格で定義された拡張であり、すべてのC標準ライブラリ実装で利用できるわけではありません。特に、Microsoft WindowsのCランタイムライブラリ(MSVCなど)では、標準で tm_zone が提供されていません。

POSIXとWindowsの時刻処理の違い

  • POSIX (Unix/Linux/macOS): POSIX準拠のシステムでは、struct tmtm_zonetm_gmtoff といったタイムゾーン関連のフィールドが拡張として含まれていることが一般的です。これにより、タイムゾーン名やUTCからのオフセットを直接取得できます。
  • Windows: WindowsのCランタイムライブラリは、POSIXとは異なる時刻処理のAPIと構造体を使用しています。tm_zone のようなフィールドは標準では提供されず、タイムゾーン情報を取得するにはWindows固有のAPI(例: GetTimeZoneInformation など)を使用する必要があります。

lib9

lib9 は、Go言語の初期の段階で、Plan 9オペレーティングシステムからインスパイアされたユーティリティ関数やライブラリの集合体を指すことがあります。Go言語自体がPlan 9の設計思想を多く取り入れているため、その影響がコードベースの随所に見られます。src/lib9/ctime.c は、Goのランタイムが内部的に使用するC言語のコードであり、Goの標準ライブラリが提供する高レベルな時刻処理機能の基盤の一部を形成しています。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、クロスプラットフォームなC言語コードにおける struct tm の非互換性、特に tm_zone フィールドの有無にあります。

src/lib9/ctime.cp9ctime 関数は、long t (Unixエポックからの秒数) を受け取り、それを人間が読める形式の文字列に変換する役割を担っています。この関数は内部で localtime_r (または localtime のスレッドセーフ版) を呼び出して struct tm を取得し、その内容を sprintf でフォーマットしていました。

元のコードでは、sprintf のフォーマット文字列に %s を使用して tm->tm_zone の内容を出力しようとしていました。

// 変更前
sprintf(buf, "%.3s %.3s %2d %02d:%02d:%02d %s %d",
    ...
    tm->tm_zone, // ここが問題
    ...);

Windows環境でコンパイルする際、Cコンパイラは struct tmtm_zone フィールドが存在しないことを検出し、コンパイルエラー(通常は「メンバー 'tm_zone' が 'struct tm' にありません」のようなエラー)を発生させます。

この問題を解決するために、開発者は tm_zone の代わりにハードコードされた文字列 "XXX" を使用するように変更しました。これは、tm_zone の情報がWindowsでは利用できないだけでなく、この特定のコンテキスト(p9ctime 関数の出力)ではその情報が重要ではない、あるいは必要とされていないという判断に基づいています。コメント "// tm_zone is unavailable on windows, and no one cares" がその意図を明確に示しています。

Go言語自体は、より高度なタイムゾーン処理を time パッケージで提供しており、これはOSのタイムゾーン情報に直接依存するのではなく、Go自身が持つタイムゾーンデータベース(通常は GOROOT 内にバンドルされている)を利用することで、クロスプラットフォームでの一貫性を保っています。したがって、この lib9 レベルでの tm_zone の欠如は、Goの全体的なタイムゾーン処理能力に影響を与えるものではありません。この修正は、あくまで低レベルのCコードがWindowsでビルドできるようにするための、実用的な回避策です。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/lib9/ctime.c
+++ b/src/lib9/ctime.c
@@ -22,7 +22,7 @@ p9ctime(long t)
 		tm->tm_hour,
 		tm->tm_min,
 		tm->tm_sec,
-		tm->tm_zone,
+		"XXX",  // tm_zone is unavailable on windows, and no one cares
 		tm->tm_year + 1900);
 	return buf;
 }

コアとなるコードの解説

変更は src/lib9/ctime.c ファイルの p9ctime 関数内の一行のみです。

  • 変更前: tm->tm_zone,
    • struct tm 構造体の tm_zone メンバーを参照し、その内容(タイムゾーン名)を文字列として sprintf に渡していました。
  • 変更後: "XXX", // tm_zone is unavailable on windows, and no one cares
    • tm_zone の代わりに、リテラル文字列 "XXX" を直接 sprintf に渡すように変更されました。
    • 追加されたコメントは、この変更の理由を明確に説明しています。「tm_zone はWindowsでは利用できず、誰も気にしない(重要ではない)」という意図が示されています。

この変更により、Windows環境でGoのコンパイラが tm_zone フィールドの存在をチェックしなくなり、コンパイルエラーが解消されます。結果として、p9ctime 関数が生成する時刻文字列のタイムゾーン部分には、常に "XXX" が表示されることになります。これは、この低レベルの関数が提供するタイムゾーン情報が、Goのより高レベルな time パッケージによって提供される正確なタイムゾーン情報とは異なることを示唆しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク