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コミット
commit 11fe7cd6e32bdd41dcf9ff9b5fb82048b1340509
Author: Lucio De Re <lucio.dere@gmail.com>
Date: Mon Nov 14 15:59:27 2011 -0500
6l, 8l: add missing space in error message
R=golang-dev
CC=golang-dev, rsc
https://golang.org/cl/5374085
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/11fe7cd6e32bdd41dcf9ff9b5fb82048b1340509
元コミット内容
このコミットは、Go言語の初期のツールチェーンにおけるリンカー(6l、8l)のエラーメッセージの修正を行っています。具体的には、「incompatible type signatures」エラーメッセージの末尾に欠落していたスペースを追加する、非常に小さなフォーマット修正です。
変更対象ファイル:
src/cmd/6l/obj.c
(AMD64アーキテクチャ向けリンカー)src/cmd/8l/obj.c
(386アーキテクチャ向けリンカー)
両ファイルにおいて、同じ箇所で同じ修正が行われています:
- diag("incompatible type signatures"
+ diag("incompatible type signatures "
変更の背景
2011年当時のGo言語は、Plan 9オペレーティングシステムから継承されたツールチェーンアーキテクチャを採用していました。このアーキテクチャでは、各CPUアーキテクチャごとに専用のコンパイラ、アセンブラ、リンカーが存在していました。
当時のツールチェーン構成
- 6g, 6a, 6l: AMD64(x86-64)アーキテクチャ用
- 8g, 8a, 8l: 386(x86)アーキテクチャ用
- 5g, 5a, 5l: ARM アーキテクチャ用
この命名規則は、Plan 9の伝統に従ったもので、数字がアーキテクチャを表していました。
エラーメッセージの重要性
リンカーのエラーメッセージは、開発者がコンパイル時のエラーを理解し、修正するために重要な情報を提供します。このコミットで修正されたエラーメッセージは、型シグネチャの不整合を検出する際に出力されるもので、適切なフォーマットで表示されることが、開発者の作業効率に影響します。
前提知識の解説
型シグネチャとは
Go言語において、関数の型シグネチャは以下の要素から構成されます:
- 引数の型と数
- 戻り値の型と数
- レシーバーの型(メソッドの場合)
型シグネチャの整合性は、Go言語の型安全性を保証する重要な仕組みです。
リンカーの役割
リンカーは、以下の主要な機能を持ちます:
- シンボル解決: 関数や変数への参照を実際のアドレスに変換
- 型検証: 異なるオブジェクトファイル間での型の整合性確認
- 実行可能ファイル生成: 最終的な実行可能バイナリの作成
Plan 9からの継承
Go言語のツールチェーンは、Plan 9オペレーティングシステムから多くの設計思想を継承しています:
- アーキテクチャ固有のツール分離
- 数字による命名規則
- C言語ベースの実装
技術的詳細
修正内容の詳細分析
修正されたエラーメッセージは、以下の文脈で出力されます:
if(s->sig != 0 && s->sig != sig)
diag("incompatible type signatures "
"%ux(%s) and %ux(%s) for %s",
s->sig, s->file, sig, pn, s->name);
この条件分岐は、シンボルの型シグネチャが既に設定されており、かつ新しいシグネチャと一致しない場合に実行されます。
エラーメッセージの構造
修正後のエラーメッセージは以下の情報を含みます:
- 既存のシグネチャ値 (
s->sig
) - 既存のファイル名 (
s->file
) - 新しいシグネチャ値 (
sig
) - 新しいファイル名 (
pn
) - シンボル名 (
s->name
)
修正の必要性
スペースの欠落により、エラーメッセージが以下のように表示されていました:
incompatible type signatures12345(file1.go) and 67890(file2.go) for symbolName
修正後は、より読みやすい形式になりました:
incompatible type signatures 12345(file1.go) and 67890(file2.go) for symbolName
コアとなるコードの変更箇所
src/cmd/6l/obj.c (line 462-468)
if(s->sig != 0 && s->sig != sig)
- diag("incompatible type signatures"
+ diag("incompatible type signatures "
"%ux(%s) and %ux(%s) for %s",
s->sig, s->file, sig, pn, s->name);
src/cmd/8l/obj.c (line 480-486)
if(s->sig != 0 && s->sig != sig)
- diag("incompatible type signatures"
+ diag("incompatible type signatures "
"%ux(%s) and %ux(%s) for %s",
s->sig, s->file, sig, pn, s->name);
コアとなるコードの解説
diag関数の役割
diag
関数は、リンカーにおけるエラー報告の中核的な機能です。この関数は:
- エラーメッセージをフォーマットして出力
- 適切な診断情報を開発者に提供
- ビルドプロセスの中断を指示
シグネチャ検証のロジック
if(s->sig != 0 && s->sig != sig)
この条件は以下を検証します:
- シンボルに既にシグネチャが設定されているか (
s->sig != 0
) - 新しいシグネチャが既存のものと異なるか (
s->sig != sig
)
両条件が真の場合、型の不整合が検出され、エラーメッセージが出力されます。
フォーマット指定子の意味
%ux
: 16進数の符号なし整数%s
: 文字列
これにより、シグネチャの値が16進数で、ファイル名とシンボル名が文字列として表示されます。
歴史的コンテキスト
この修正は、Go言語の品質向上に対する継続的な取り組みの一環です。小さな修正であっても、開発者エクスペリエンスの向上に寄与するという思想が反映されています。
関連リンク
- Go 1.3 Linker Overhaul
- Go Programming Language Specification
- Plan 9 from Bell Labs
- Go Release History