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[インデックス 1039] ファイルの概要

コミット

コミットハッシュ: 730fd707cb4ce48b21ccda2c881e0750d6475244 作者: Rob Pike r@golang.org 日時: Mon Nov 3 15:50:11 2008 -0800 コミットメッセージ: support ... as a special type in the reflection library.

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/730fd707cb4ce48b21ccda2c881e0750d6475244

元コミット内容

このコミットでは、Goのリフレクションライブラリに...(三点リーダー)を特別な型として追加するサポートが実装されました。以下の変更が行われました:

  • 17行追加 (17 added, 0 deleted, 0 changed)
  • 影響を受けたファイル: 3ファイル
    • src/lib/reflect/test.go
    • src/lib/reflect/tostring.go
    • src/lib/reflect/type.go

変更の背景

2008年11月の時点で、Goはまだ開発初期段階にあり、言語の基本機能が順次実装されていました。この時期は、Go言語の仕様書が作成された2008年3月から約8ヶ月後にあたり、リフレクション機能の詳細な実装が進められていた時期です。

可変長引数(variadic parameters)は多くのプログラミング言語で重要な機能であり、Goにおいても関数の柔軟性を向上させる重要な要素でした。しかし、リフレクションライブラリでこれらの可変長引数を適切に表現し、実行時に型情報を取得できるようにする必要がありました。

Rob Pikeは、Go言語の創設者の一人として、言語の設計哲学である「直交性」と「理解しやすさ」を重視していました。この変更も、リフレクション機能を可変長引数に対応させることで、言語の一貫性と表現力を向上させることを目的としていました。

前提知識の解説

リフレクションライブラリとは

リフレクション(reflection)とは、プログラムが実行時に自身の構造や型情報を調べ、操作する機能のことです。Goのリフレクションライブラリ(reflectパッケージ)は、以下の機能を提供します:

  1. 型情報の取得: 変数や値の型を実行時に調べる
  2. 値の操作: 型情報を基に値を読み取り、変更する
  3. 動的な関数呼び出し: 関数を動的に呼び出す
  4. 構造体フィールドの操作: 構造体のフィールドに動的にアクセスする

可変長引数(Variadic Parameters)とは

可変長引数は、関数が不定数の引数を受け取れる機能です。Goでは...(三点リーダー)記法を使用して表現されます:

func Printf(format string, args ...interface{}) {
    // 実装
}

この機能により、以下のような呼び出しが可能になります:

Printf("Hello %s", "World")           // 1つの追加引数
Printf("Hello %s %d", "World", 42)    // 2つの追加引数
Printf("Hello")                       // 追加引数なし

2008年のGo言語の状況

2008年時点のGo言語は:

  • 開発開始: 2008年3月に仕様書が作成
  • 公開前: 2009年11月の公開まで1年近くの開発期間
  • 基本機能の実装期: 型システム、リフレクション、標準ライブラリの基礎部分が実装されていた時期
  • 内部開発: Googleの研究プロジェクトとして内部で開発

技術的詳細

DotDotDotKindの導入

このコミットの中核となるのは、新しい型種別DotDotDotKindの導入です。これは、リフレクションシステムで可変長引数を表現するための特別な型です。

const (
    // 既存の型種別
    ArrayKind;
    BoolKind;
    ChanKind;
    DotDotDotKind;    // 新しく追加
    FloatKind;
    // ... その他の型
)

型システムの拡張

リフレクション型システムに以下の要素が追加されました:

  1. DotDotDotString: 文字列表現として"..."を定義
  2. DotDotDot型: 基本型としてDotDotDotを作成
  3. DotDotDotStub: 型スタブとしてDotDotDotStubを追加

パーサーの拡張

型文字列をパースする際に、...パターンを認識できるようパーサーが拡張されました:

case c == '.':
    if p.index < len(p.str)+2 && p.str[p.index-1:p.index+2] == DotDotDotString {
        p.index += 2;
        p.token = DotDotDotString;
        return;
    }
    fallthrough;

この実装により、型文字列中の...パターンが適切に解析されるようになりました。

コアとなるコードの変更箇所

1. type.go の変更

最も重要な変更はsrc/lib/reflect/type.goで行われました:

// 行46-50: 新しい型種別の定義
DotDotDotKind;

// 行57-58: 文字列定数の定義
var DotDotDotString = "..."

// 行85-86: 基本型の作成
DotDotDot = NewBasicType(DotDotDotString, DotDotDotKind, 16);

// 行373-374: スタブ型の宣言
var DotDotDotStub *StubType;

// 行400-420: 初期化処理
types[DotDotDotString] = &DotDotDot;
DotDotDotStub = NewStubType(DotDotDotString, DotDotDot);
basicstub[DotDotDotString] = DotDotDotStub;

2. tostring.go の変更

型を文字列に変換する際の処理が追加されました:

// 行67-68: 型種別のスイッチ文に新しいケース追加
case DotDotDotKind:
    return "...";

3. test.go の変更

テストケースが追加されました:

// 行124-125: 新しいテストケース
typedump("struct {f *(args ...)}", "struct{f *(args ...)}");

コアとなるコードの解説

型システムの設計思想

このコミットでは、Goのリフレクション型システムの一貫性を保つために、...を独立した型種別として扱う設計が採用されました。これにより:

  1. 型の一意性: 各型種別が明確に区別される
  2. 拡張性: 将来の機能追加に対応しやすい構造
  3. デバッグ容易性: 型情報を文字列として表現する際の可読性向上

サイズ設定の考慮

DotDotDot型のサイズが16バイトに設定されているのは、当時のインターフェース型のサイズを考慮してのことです:

DotDotDot = NewBasicType(DotDotDotString, DotDotDotKind, 16); // TODO(r): size of interface?

このTODOコメントからも分かるように、適切なサイズの決定は当時の開発における課題の一つでした。

パーサーの効率的な実装

文字列パーサーでは、...パターンを効率的に認識するためのアルゴリズムが実装されました:

if p.index < len(p.str)+2 && p.str[p.index-1:p.index+2] == DotDotDotString {

このチェックにより、文字列の境界を越えることなく、3文字のパターンマッチングが行われます。

初期化処理の一貫性

基本型の初期化処理では、既存の型(Missing型など)と同様のパターンでDotDotDot型が登録されました:

types[DotDotDotString] = &DotDotDot;
basicstub[DotDotDotString] = DotDotDotStub;

これにより、型システム全体の一貫性が保たれています。

関連リンク

参考にした情報源リンク