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[インデックス 10495] ファイルの概要

コミット

  • コミットハッシュ: 63e48ccd8ea9399b411bf092f53ad8cd606946a0
  • 作者: Robert Griesemer gri@golang.org
  • コミット日時: 2011年11月23日 16:20:55 -0800
  • コミットメッセージ: go/ast: trivial cleanup (remove superfluous string conversion)
  • レビュー担当者: iant, bradfitz
  • CC: golang-dev
  • Gerrit Change-ID: https://golang.org/cl/5430059

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/63e48ccd8ea9399b411bf092f53ad8cd606946a0

元コミット内容

go/ast: trivial cleanup (remove superfluous string conversion)

R=iant, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5430059

変更の背景

このコミットは、Go言語の標準ライブラリであるgo/astパッケージ内のresolve.goファイルにおける、些細ながらも重要なコードのクリーンアップを目的としています。具体的には、strconv.Unquote関数を呼び出す際に、不要なstring()型変換を削除しています。

Go言語では、文字列リテラルは通常string型として扱われますが、抽象構文木(AST)のノードによっては、リテラルの値が[]byte型として保持されることがあります。strconv.Unquote関数は、引用符で囲まれた文字列リテラル(例: "foo")から引用符を取り除き、エスケープシーケンスを解釈する役割を担います。この関数はstring型だけでなく、[]byte型も引数として受け取ることができます。

以前のコードでは、spec.Path.Value[]byte型であるにもかかわらず、明示的にstring()に変換してからstrconv.Unquoteに渡していました。これは冗長であり、不必要なメモリ割り当てやコピーを引き起こす可能性がありました。このコミットは、この冗長な変換を取り除くことで、コードの可読性を向上させ、わずかながらもパフォーマンスの最適化を図っています。これは「些細なクリーンアップ」と表現されていますが、Go言語の設計思想である効率性とシンプルさを追求する典型的な例と言えます。

前提知識の解説

Go言語のgo/astパッケージ

go/astパッケージは、Go言語のソースコードを抽象構文木(Abstract Syntax Tree, AST)として表現するためのデータ構造と関数を提供します。ASTは、プログラムの構造を木構造で表現したもので、コンパイラやリンター、コード分析ツールなどがソースコードを解析する際に利用します。

  • ast.File: 単一のGoソースファイルを表すASTのルートノード。
  • ast.ImportSpec: import宣言内の個々のインポートパスを表すノード。
    • Path: インポートパスのリテラル(例: "fmt")を表す*ast.BasicLit型のフィールド。
  • ast.BasicLit: 基本的なリテラル(文字列、数値、真偽値など)を表すノード。
    • Value: リテラルの実際の値を保持するフィールド。文字列リテラルの場合、このフィールドは通常[]byte型で、引用符を含む元の文字列が格納されています。

strconv.Unquote関数

strconvパッケージは、基本的なデータ型と文字列との間の変換機能を提供します。strconv.Unquote関数は、引用符で囲まれた文字列リテラル(例: "hello""foo\nbar")を受け取り、その引用符を取り除き、内部のエスケープシーケンス(例: \n, \t, \")を解釈して、実際の文字列値を返します。

例えば、strconv.Unquote("\"hello\\nworld\"")"hello\nworld"を返します。この関数は、string型だけでなく、[]byte型も引数として受け入れるオーバーロードされたシグネチャを持っています。

Go言語におけるstring[]byte

Go言語では、string型は不変のバイトシーケンスを表し、UTF-8エンコードされたテキストを扱うのに適しています。一方、[]byte型は可変のバイトスライスであり、バイナリデータや、文字列操作の途中でバイトレベルの処理が必要な場合によく使用されます。

Goのコンパイラは、[]byteからstringへの変換(例: string(byteSlice))や、stringから[]byteへの変換(例: []byte(myString))をサポートしています。これらの変換は、多くの場合、新しいメモリ領域を割り当ててデータをコピーするため、頻繁に行うとパフォーマンスに影響を与える可能性があります。

strconv.Unquoteのように、string[]byteの両方を受け入れられる関数は、内部で適切な処理を行うため、呼び出し側で不必要な型変換を行う必要はありません。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、Go言語の型システムと、strconv.Unquote関数の柔軟な引数処理に集約されます。

変更前のコードは以下のようになっていました。

path, _ := strconv.Unquote(string(spec.Path.Value))

ここで、spec.Path.Value[]byte型です。ast.BasicLit構造体のValueフィールドは、リテラルの生の値(引用符を含む)をバイトスライスとして保持しています。例えば、ソースコードにimport "fmt"と書かれている場合、spec.Path.Value[]byte{'"', 'f', 'm', 't', '"'}のようなバイトスライスになります。

この[]byte型の値をstring(spec.Path.Value)とすることで、Goランタイムは新しいstring型の値を生成し、元のバイトスライスの内容をその新しい文字列にコピーします。その後、この新しいstringstrconv.Unquote関数に渡されます。

しかし、strconv.Unquote関数のシグネチャは以下のようになっています(Go 1.0のドキュメントに基づく、またはそれに準ずる挙動)。

func Unquote(s string) (string, error)
func UnquoteBytes(s []byte) ([]byte, error) // 実際にはUnquoteが両方を受け入れる

実際には、strconv.Unquotestring型の引数を受け取りますが、Go言語のコンパイラは、[]byte型の値がstring型の引数を期待する関数に渡された場合、暗黙的に(または効率的に)変換を行うことができます。これは、stringがバイトスライスを基盤としているため、多くの場合、データのコピーを伴わずに参照を渡すことで処理できるためです。

変更後のコードは以下の通りです。

path, _ := strconv.Unquote(spec.Path.Value)

この変更により、spec.Path.Value[]byte型)が直接strconv.Unquoteに渡されます。strconv.Unquoteは内部でこの[]byteを効率的に処理できるため、明示的なstring()変換は不要になります。これにより、不必要な中間的なstringオブジェクトの生成と、それに伴うメモリ割り当ておよびデータコピーが回避されます。これは、特にASTの解析のような、大量の文字列リテラルを処理する場面では、わずかながらもパフォーマンスの向上に寄与します。

この最適化は、Go言語のコンパイラが[]byteからstringへの変換を賢く処理できること、そしてstrconv.Unquoteがその内部でバイトスライスを効率的に扱えることを示しています。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/pkg/go/ast/resolve.goファイルの一箇所のみです。

--- a/src/pkg/go/ast/resolve.go
+++ b/src/pkg/go/ast/resolve.go
@@ -113,7 +113,7 @@ func NewPackage(fset *token.FileSet, files map[string]*File, importer Importer,
 				importErrors = true
 				continue
 			}
-			path, _ := strconv.Unquote(string(spec.Path.Value))
+			path, _ := strconv.Unquote(spec.Path.Value)
 			pkg, err := importer(imports, path)
 			if err != nil {
 				p.errorf(spec.Path.Pos(), "could not import %s (%s)", path, err)

コアとなるコードの解説

変更された行は、NewPackage関数内のインポートパスを処理する部分です。

元のコード: path, _ := strconv.Unquote(string(spec.Path.Value))

変更後のコード: path, _ := strconv.Unquote(spec.Path.Value)

この行は、Goソースコード内のimport文で指定されたパスを処理しています。

  1. spec.Pathは、import "path/to/package"のようなインポートパスを表す*ast.BasicLit型の構造体です。
  2. spec.Path.Valueは、このリテラルの生の値(例: []byte{'"', 'p', 'a', 't', 'h', '/', 't', 'o', '/', 'p', 'a', 'c', 'k', 'a', 'g', 'e', '"'})を[]byte型で保持しています。
  3. strconv.Unquote関数は、この引用符で囲まれたバイトスライスを受け取り、引用符を取り除き、エスケープシーケンスを解釈した結果の文字列を返します。

変更のポイントは、string(spec.Path.Value)という明示的な型変換が削除されたことです。これにより、[]byte型のspec.Path.Valueが直接strconv.Unquoteに渡されます。Go言語のコンパイラとランタイムは、このような状況で[]byteからstringへの変換を効率的に処理できるため、手動でのstring()変換は不要であり、むしろ冗長でした。この変更は、コードをより簡潔にし、不必要なメモリ割り当てとコピーを削減することで、わずかながらもパフォーマンスを向上させます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のソースコード(特にgo/astおよびstrconvパッケージ)
  • Go言語におけるstring[]byteの変換に関する一般的な知識
  • Gerrit Change-ID: https://golang.org/cl/5430059 (コミットメッセージに記載されているGerritの変更リスト)