[インデックス 10582] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のドキュメンテーション生成ツールであるgo/doc
パッケージにおける見出し検出ロジックの改善を目的としています。具体的には、コメント行が見出しとして認識されるための条件をより厳格にし、末尾がコロン(:
)で終わる行を見出しから除外するように変更されました。これにより、誤って見出しとして解釈されていた行が減少し、生成されるドキュメントの品質と正確性が向上します。
コミット
commit 6ea3a268b6263db0c98dbeb8076b1aa710d8f498
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date: Thu Dec 1 15:14:15 2011 -0800
go/doc: exclude lines ending in ':' from possible headings
This is a more conservative approach to heading detection and
removes 11 headings from the current repository (several in
fmt). The current headscan output is:
/home/gri/go3/src/cmd/goinstall (package documentation)
Remote Repositories
The GOPATH Environment Variable
/home/gri/go3/src/pkg/exp/gotype (package documentation)
Examples
/home/gri/go3/src/pkg/html/template (package template)
Introduction
Contexts
Errors
A fuller picture
Contexts
Typed Strings
Security Model
/home/gri/go3/src/pkg/text/template (package template)
Actions
Arguments
Pipelines
Variables
Examples
Functions
Associated templates
Nested template definitions
18 headings found
R=golang-dev, adg, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5437105
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/6ea3a268b6263db0c98dbeb8076b1aa710d8f498
元コミット内容
go/doc: exclude lines ending in ':' from possible headings
This is a more conservative approach to heading detection and
removes 11 headings from the current repository (several in
fmt). The current headscan output is:
/home/gri/go3/src/cmd/goinstall (package documentation)
Remote Repositories
The GOPATH Environment Variable
/home/gri/go3/src/pkg/exp/gotype (package documentation)
Examples
/home/gri/go3/src/pkg/html/template (package template)
Introduction
Contexts
Errors
A fuller picture
Contexts
Typed Strings
Security Model
/home/gri/go3/src/pkg/text/template (package template)
Actions
Arguments
Pipelines
Variables
Examples
Functions
Associated templates
Nested template definitions
18 headings found
R=golang-dev, adg, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5437105
変更の背景
Go言語のドキュメンテーションツールであるgo/doc
パッケージは、Goのソースコード内のコメントから自動的にドキュメントを生成します。このプロセスにおいて、コメントブロック内の特定の一行を見出し(セクションヘッディング)として識別する機能があります。しかし、これまでの見出し検出ロジックは、一部の行を誤って見出しとして解釈してしまう問題がありました。
特に、説明的なテキストの一部としてコロン(:
)で終わる行(例: "A typical usage:" や "This code:")が、意図せず見出しとして扱われることがありました。このような誤検出は、生成されるドキュメントの構造を乱し、読者にとって混乱を招く可能性がありました。
このコミットの目的は、見出し検出のロジックをより「保守的」に、すなわちより厳格にすることで、このような誤検出を減らすことにあります。コミットメッセージに記載されているように、この変更によって既存のリポジトリから11個の見出しが削除されたことは、以前のロジックがいかに多くの誤検出をしていたかを示しています。これにより、go/doc
が生成するドキュメントの正確性と品質が向上し、よりクリーンで意図通りのドキュメントが提供されるようになります。
前提知識の解説
Go言語のドキュメンテーションツール (go/doc
)
Go言語は、ソースコードのコメントから自動的にドキュメントを生成する強力なメカニズムを持っています。これはgo doc
コマンドやpkg.go.devのような公式ドキュメントサイトで利用されています。この機能の中核を担うのが、Go標準ライブラリのgo/doc
パッケージです。
go/doc
パッケージは、Goのソースコードを解析し、パッケージ、関数、型、変数などの宣言に付随するコメントを読み取ります。そして、これらのコメントを構造化されたドキュメントに変換します。この変換プロセスにおいて、コメントブロック内の特定の行を「見出し」として識別し、ドキュメントのセクション分けに利用します。見出しの検出は、ドキュメントの可読性とナビゲーションを向上させる上で非常に重要です。
unicode
パッケージとutf8
パッケージ
Go言語では、文字列はUTF-8エンコーディングで扱われます。unicode
パッケージとutf8
パッケージは、GoでUnicode文字やUTF-8エンコーディングを扱うための標準ライブラリです。
unicode
パッケージ: Unicode文字のプロパティ(例: 文字であるか、数字であるか、句読点であるかなど)をテストするための関数を提供します。このコミットでは、unicode.IsLetter(r)
(r
が文字であるか)やunicode.IsDigit(r)
(r
が数字であるか)といった関数が使用されています。utf8
パッケージ: UTF-8エンコーディングされたバイト列からルーン(Unicodeコードポイント)をデコードしたり、その逆を行ったりするための関数を提供します。このコミットでは、utf8.DecodeLastRuneInString(line)
が使用されており、文字列の最後のルーン(文字)を取得するために使われます。
strings
パッケージ
strings
パッケージは、Go言語で文字列を操作するための基本的な関数群を提供します。このコミットでは、strings.TrimSpace(line)
が使用されており、文字列の先頭と末尾の空白文字を削除するために使われます。また、変更前のコードではstrings.IndexAny
も使用されており、特定の文字セットが文字列内に含まれているかをチェックするために使われていました。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、src/pkg/go/doc/comment.go
ファイル内のheading
関数のロジック変更にあります。heading
関数は、与えられた文字列(コメント行)が見出しとして有効かどうかを判断し、有効であれば整形された見出し文字列を、無効であれば空文字列を返します。
変更前、heading
関数は、見出しとして認識される行の末尾の文字が「文字、数字、またはコロン(:
)」であるという条件を含んでいました。さらに、もし行がコロンで終わっていた場合、そのコロンを削除して見出しとして扱っていました。このロジックが、"A typical usage:" のような、実際には見出しではないが説明の一部である行を誤って見出しとして検出する原因となっていました。
変更後、heading
関数の見出し検出ロジックはより厳格になりました。行の末尾の文字が「文字または数字」である場合にのみ見出しとして認識されるようになりました。これにより、末尾がコロンで終わる行は、たとえ他の条件(例: 大文字で始まる、空白を含まないなど)を満たしていても、見出しとは見なされなくなりました。また、末尾のコロンを削除する処理も不要になったため、コードが簡素化されました。
この変更は、go/doc
が生成するドキュメントのセマンティックな正確性を向上させます。開発者が意図しない見出しがドキュメントに現れることを防ぎ、よりクリーンで理解しやすいドキュメント構造を提供します。コミットメッセージに記載されているheadscan
ツールは、この変更が既存のGoリポジトリのドキュメント生成にどのような影響を与えるかを検証するために使用された内部ツールであり、変更の有効性を示す証拠となっています。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットによる主要なコード変更は、以下の2つのファイルに集中しています。
src/pkg/go/doc/comment.go
: 見出し検出ロジックを実装しているheading
関数の変更。src/pkg/go/doc/comment_test.go
:heading
関数の新しい動作を検証するためのテストケースの更新。
src/pkg/go/doc/comment.go
の変更
--- a/src/pkg/go/doc/comment.go
+++ b/src/pkg/go/doc/comment.go
@@ -241,8 +241,8 @@ func unindent(block []string) {
}
}
-// heading returns the (possibly trimmed) line if it passes as a valid section
-// heading; otherwise it returns the empty string.
+// heading returns the trimmed line if it passes as a section heading;
+// otherwise it returns the empty string.
func heading(line string) string {
line = strings.TrimSpace(line)
if len(line) == 0 {
@@ -255,17 +255,12 @@ func heading(line string) string {
return ""
}
- // it must end in a letter, digit or ':'
+ // it must end in a letter or digit:
r, _ = utf8.DecodeLastRuneInString(line)
- if !unicode.IsLetter(r) && !unicode.IsDigit(r) && r != ':' {
+ if !unicode.IsLetter(r) && !unicode.IsDigit(r) {
return ""
}
- // strip trailing ':', if any
- if r == ':' {
- line = line[0 : len(line)-1]
- }
-
// exclude lines with illegal characters
if strings.IndexAny(line, ",.;:!?+*/=()[]{}_^°&§~%#@<\\\">\\\\\") >= 0 {
return ""
src/pkg/go/doc/comment_test.go
の変更
--- a/src/pkg/go/doc/comment_test.go
+++ b/src/pkg/go/doc/comment_test.go
@@ -18,7 +18,8 @@ var headingTests = []struct {
{"Foo 42", true},
{"", false},
{"section", false},
- {"A typical usage:", true},
+ {"A typical usage:", false},
+ {"This code:", false},
{"δ is Greek", false},
{"Foo §", false},
{"Fermat's Last Sentence", true},
@@ -26,7 +27,7 @@ var headingTests = []struct {
{"'sX", false},
{"Ted 'Too' Bar", false},
{"Use n+m", false},
- {"Scanning:", true},
+ {"Scanning:", false},
{"N:M", false},
}
コアとなるコードの解説
src/pkg/go/doc/comment.go
の変更点
-
コメントの更新:
// heading returns the (possibly trimmed) line if it passes as a valid section // heading; otherwise it returns the empty string.
から// heading returns the trimmed line if it passes as a section heading; // otherwise it returns the empty string.
に変更されました。これは、見出しの定義がより厳格になり、コロンのトリミングがなくなったことを反映しています。 -
見出し検出ロジックの変更: 最も重要な変更は、
heading
関数内の以下の条件文です。変更前:
// it must end in a letter, digit or ':' r, _ = utf8.DecodeLastRuneInString(line) if !unicode.IsLetter(r) && !unicode.IsDigit(r) && r != ':' { return "" }
このコードは、行の最後の文字(ルーン
r
)が文字でも数字でもなく、かつコロン(:
)でもない場合に、その行を見出しではないと判断していました。つまり、文字、数字、またはコロンで終わる行は見出しの候補となり得ました。変更後:
// it must end in a letter or digit: r, _ = utf8.DecodeLastRuneInString(line) if !unicode.IsLetter(r) && !unicode.IsDigit(r) { return "" }
この変更により、行の最後の文字が「文字でも数字でもない」場合に、その行を見出しではないと判断するようになりました。これにより、コロンで終わる行は、たとえ他の見出し条件を満たしていても、見出しとして認識されなくなりました。
-
末尾のコロンを削除するロジックの削除: 変更前には、以下のコードがありました。
// strip trailing ':', if any if r == ':' { line = line[0 : len(line)-1] }
これは、見出しとして認識された行の末尾にコロンがある場合、そのコロンを削除する処理でした。新しいロジックではコロンで終わる行を見出しと見なさないため、この処理は不要となり削除されました。これにより、コードが簡潔になりました。
src/pkg/go/doc/comment_test.go
の変更点
headingTests
というテストデータ配列が更新されました。この配列は、様々な文字列が見出しとして正しく検出されるか(true
)または検出されないか(false
)をテストするために使用されます。
{"A typical usage:", true}
が{"A typical usage:", false}
に変更されました。これは、コロンで終わる「A typical usage:」という文字列が、もはや見出しとして認識されないことをテストしています。{"This code:", false}
という新しいテストケースが追加されました。これもコロンで終わる文字列が見出しではないことを確認しています。{"Scanning:", true}
が{"Scanning:", false}
に変更されました。これも同様に、コロンで終わる「Scanning:」という文字列が、もはや見出しとして認識されないことをテストしています。
これらのテストケースの変更は、heading
関数の新しい、より厳格な動作を正確に反映しており、変更が意図通りに機能していることを保証します。
関連リンク
- Go言語公式サイト: https://golang.org/
- Go言語のドキュメンテーション(pkg.go.dev): https://pkg.go.dev/
- Go言語の
go/doc
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/go/doc - このコミットのGerrit変更リスト: https://golang.org/cl/5437105
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
unicode
パッケージのGoDoc: https://pkg.go.dev/unicodeutf8
パッケージのGoDoc: https://pkg.go.dev/unicode/utf8strings
パッケージのGoDoc: https://pkg.go.dev/strings- Gitのコミット履歴と差分情報