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[インデックス 10602] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラ (gc) および関連パッケージにおけるマップ型 (map) の文字列表現のフォーマットを、gofmt の標準的なスペーシングに合わせる変更です。具体的には、map[KeyType] ValueType のようにキーと値の型指定の間にあったスペースを削除し、map[KeyType]ValueType という形式に統一しています。これにより、Go言語のコードベース全体で型表現の一貫性が向上します。

コミット

commit 434a6c85cb80ccb413377c550a94039bac6b33b3
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Fri Dec 2 14:45:07 2011 -0500

    gc: use gofmt spacing when printing map type
    
    R=ken2
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5450071
---
 src/cmd/gc/fmt.c                     | 4 ++--
 src/pkg/encoding/xml/marshal_test.go | 4 ++--
 src/pkg/fmt/fmt_test.go              | 8 ++++----
 src/pkg/go/ast/print_test.go         | 2 +-\n src/pkg/reflect/all_test.go          | 6 +++---\n test/escape2.go                      | 4 ++--
 6 files changed, 14 insertions(+), 14 deletions(-)

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/434a6c85cb80ccb413377c550a94039bac6b33b3

元コミット内容

gc: use gofmt spacing when printing map type

R=ken2
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5450071

変更の背景

Go言語には gofmt という公式のコードフォーマッタが存在します。これは、Goのソースコードを標準的なスタイルに自動的に整形し、コードベース全体の一貫性を保つために非常に重要なツールです。このコミットが行われた2011年当時、Go言語はまだ発展途上にあり、言語仕様やツールの細部が固められている段階でした。

この変更の背景には、Goコンパイラ (gc) が内部で型情報を文字列として出力する際、特にマップ型 (map[KeyType]ValueType) の表現において、gofmt が推奨するスペーシングと異なる形式(map[KeyType] ValueType のようにキーと値の型指定の間にスペースが入る形式)を使用していたという問題がありました。

このような不一致は、以下のような問題を引き起こす可能性があります。

  1. 一貫性の欠如: gofmt で整形されたコードと、コンパイラやリフレクション、AST (Abstract Syntax Tree) 関連のツールが出力する型表現との間で、視覚的な不一致が生じる。
  2. テストの脆弱性: 型の文字列表現を直接比較するテストケースにおいて、gofmt の出力とコンパイラ等の出力が異なるために、テストが失敗する可能性がある。実際に、このコミットでは複数のテストファイルが修正されています。
  3. ユーザーの混乱: 開発者が型情報をデバッグ出力などで確認する際に、gofmt で慣れ親しんだ形式と異なる表示がされることで、わずかながら混乱を招く可能性がある。

このコミットは、このような不一致を解消し、Go言語のエコシステム全体でマップ型の文字列表現を gofmt の標準に合わせることを目的としています。これにより、Go言語のツールチェーン全体の一貫性と信頼性が向上します。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語および関連ツールの基本的な知識が必要です。

  1. Go言語のマップ型 (map): Go言語におけるマップは、キーと値のペアを格納するデータ構造です。宣言は map[KeyType]ValueType の形式で行われます。例えば、map[string]int は文字列をキーとし、整数を値とするマップです。

  2. gofmt: gofmt はGo言語の公式なコードフォーマッタです。Goのソースコードを自動的に整形し、Goコミュニティ全体で統一されたコーディングスタイルを強制します。これにより、コードの可読性が向上し、スタイルに関する議論の必要がなくなります。gofmt は、Goのツールチェーンにおいて非常に重要な役割を担っています。

  3. Goコンパイラ (gc): gc はGo言語の標準コンパイラです。Goのソースコードを機械語に変換します。コンパイラは、プログラムの型チェックや最適化など、様々な処理を行います。このコミットでは、コンパイラが内部で型情報を文字列として表現する部分 (src/cmd/gc/fmt.c) が変更されています。

  4. fmt パッケージ: Go言語の標準ライブラリの一部で、フォーマットされたI/O(入出力)を提供します。fmt.Printf などの関数を使って、様々な型の値を文字列として出力できます。このパッケージは、デバッグ出力やユーザーへの情報表示によく利用されます。

  5. reflect パッケージ: Go言語の標準ライブラリの一部で、実行時にプログラムの構造(型、値、メソッドなど)を検査・操作するための機能を提供します。リフレクションは、汎用的なデータ処理や、特定の型に依存しないライブラリの作成に利用されます。このコミットでは、reflect パッケージが型情報を文字列として表現する際のテストケースが変更されています。

  6. go/ast パッケージ: Go言語の標準ライブラリの一部で、Goのソースコードの抽象構文木 (Abstract Syntax Tree, AST) を表現するためのデータ構造と、それを操作するための機能を提供します。ASTは、コンパイラやリンタ、コード分析ツールなどがソースコードの構造を理解するために利用します。このコミットでは、ASTのプリント機能に関するテストケースが変更されています。

  7. encoding/xml パッケージ: Go言語の標準ライブラリの一部で、XMLデータのエンコードとデコードを提供します。Goの構造体とXML要素間のマッピングを処理します。このコミットでは、XMLマーシャリング時のエラーメッセージに含まれる型表現が変更されています。

  8. エスケープ解析 (Escape Analysis): Goコンパイラが行う最適化の一つで、変数がヒープに割り当てられるべきか、それともスタックに割り当てられるべきかを決定します。これにより、ガベージコレクションの負荷を軽減し、プログラムのパフォーマンスを向上させます。エスケープ解析の警告メッセージに含まれる型表現も、このコミットの対象となっています。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Go言語の内部におけるマップ型の文字列フォーマットの統一です。変更は主に、型情報を文字列に変換する処理と、その文字列を期待するテストケースに及びます。

具体的には、以下の変更が行われています。

  1. src/cmd/gc/fmt.c の変更: このファイルはGoコンパイラ (gc) の一部であり、Goの型を文字列としてフォーマットするロジックが含まれています。 変更前: fmtprint(fp, "map[%T] %T", t->down, t->type); 変更後: fmtprint(fp, "map[%T]%T", t->down, t->type); ここで %T はGoの型をフォーマットするための動詞であり、t->down はマップのキーの型、t->type はマップの値の型を指します。この変更により、キーの型と値の型の間のスペースが削除され、gofmt の出力と一致するようになります。同様に、式をフォーマットする exprfmt 関数内の OTMAP (マップ型) のケースも修正されています。

  2. テストファイルの更新: マップ型の文字列表現が変更されたため、その表現を直接文字列リテラルとして期待している多数のテストケースが更新されています。これは、Go言語のテストが厳密な文字列比較を行うため、わずかなスペーシングの変更でもテストが失敗する可能性があるためです。

    • src/pkg/encoding/xml/marshal_test.go: XMLマーシャリングのエラーメッセージに含まれるマップ型の文字列が修正されています。例えば、"xml: unsupported type: map[string] string""xml: unsupported type: map[string]string" に変更されています。
    • src/pkg/fmt/fmt_test.go: fmt パッケージのテストにおいて、%#v (Goの構文で値を表示するフォーマット動詞) を使用した際のマップ型の期待される出力が修正されています。例えば、map[string] intmap[string]int に変更されています。
    • src/pkg/go/ast/print_test.go: go/ast パッケージのテストにおいて、ASTのプリント出力に含まれるマップ型の文字列が修正されています。
    • src/pkg/reflect/all_test.go: reflect パッケージのテストにおいて、TypeOfnew を使って取得したマップ型の文字列表現が修正されています。
    • test/escape2.go: エスケープ解析の警告メッセージに含まれるマップ型の文字列が修正されています。例えば、"map[*int] *int literal escapes to heap""map[*int]*int literal escapes to heap" に変更されています。

これらの変更は、Go言語の内部的な型表現の統一と、それに伴うテストの整合性維持のためのものであり、Go言語の安定性と保守性を高める上で重要な役割を果たします。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットにおけるコアとなるコードの変更は、主に src/cmd/gc/fmt.c ファイル内の型フォーマット関数にあります。

--- a/src/cmd/gc/fmt.c
+++ b/src/cmd/gc/fmt.c
@@ -610,7 +610,7 @@ typefmt(Fmt *fp, Type *t)
 		return fmtprint(fp, "chan %T", t->type);
 
 	case TMAP:
-		return fmtprint(fp, "map[%T] %T", t->down, t->type);
+		return fmtprint(fp, "map[%T]%T", t->down, t->type);
 
 	case TINTER:
 		fmtstrcpy(fp, "interface {");
@@ -1067,7 +1067,7 @@ exprfmt(Fmt *f, Node *n, int prec)
 		return fmtprint(f, "(%N)", n->left);
 
 	case OTMAP:
-		return fmtprint(f, "map[%N] %N", n->left, n->right);
+		return fmtprint(f, "map[%N]%N", n->left, n->right);
 
 	case OTCHAN:
 		switch(n->etype) {

コアとなるコードの解説

上記のコードスニペットは、Goコンパイラ (gc) が型情報を文字列に変換する際のロジックの一部を示しています。

  • typefmt(Fmt *fp, Type *t) 関数: この関数は、Goの内部的な型構造 (Type *t) を受け取り、それをフォーマットされた文字列として出力 (fmtprint) する役割を担っています。 case TMAP: のブロックは、処理対象の型がマップ型 (TMAP) である場合のロジックです。 変更前は fmtprint(fp, "map[%T] %T", t->down, t->type); となっており、マップのキーの型 (t->down) と値の型 (t->type) の間にスペース ( ) が挿入されていました。 変更後は fmtprint(fp, "map[%T]%T", t->down, t->type); となり、このスペースが削除されています。これにより、map[KeyType]ValueType という gofmt に準拠した形式でマップ型が表現されるようになります。

  • exprfmt(Fmt *f, Node *n, int prec) 関数: この関数は、Goの内部的な式ノード (Node *n) を受け取り、それをフォーマットされた文字列として出力する役割を担っています。 case OTMAP: のブロックは、処理対象の式がマップ型 (OTMAP) である場合のロジックです。 ここでも typefmt と同様に、マップのキーの型 (n->left) と値の型 (n->right) の間のスペースが削除されています。

これらの変更は、コンパイラが生成する型情報の文字列表現に直接影響を与え、Go言語のツールチェーン全体でマップ型の表示が一貫するようにするための基盤となります。この変更が、fmtreflectgo/astencoding/xml、そしてエスケープ解析のテストに波及しているのは、これらのパッケージや機能がコンパイラが生成する型情報やその文字列表現に依存しているためです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語のソースコード (GitHub): https://github.com/golang/go
  • Go言語のコードレビューシステム (Gerrit): https://go-review.googlesource.com/ (コミットメッセージに記載されている https://golang.org/cl/5450071 はGerritのチェンジリストへのリンクです)
  • gofmt の設計思想に関する情報 (Go Blogなど)
  • Go言語のコンパイラ内部に関する資料 (Goの公式ドキュメントやブログ、または関連する論文など)
  • Go言語のテストフレームワークに関する情報 (Goの公式ドキュメント)