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[インデックス 10680] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の実験的な型システムパッケージである exp/types 内の src/pkg/exp/types/gcimporter.go ファイルに対する修正です。gcimporter.go は、Goコンパイラが生成するオブジェクトファイル(gc-generated object files)をインポートし、コンパイル済みパッケージのエクスポートデータを読み込む役割を担っています。これにより、コンパイラやその他のツールが、インポートされたパッケージの型情報やAPI構造を理解できるようになります。

コミット

commit 41453d2ed2a0ddb6c4acf5f1c41323749c0bafce
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Thu Dec 8 23:20:21 2011 -0500

    exp/types: fix linux build
    
    I don't understand why it was only broken on Linux
    
    TBR=gri
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5479045

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/41453d2ed2a0ddb6c4acf5f1c41323749c0bafce

元コミット内容

exp/types: fix linux build

I don't understand why it was only broken on Linux

TBR=gri
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5479045

変更の背景

このコミットの主な目的は、exp/types パッケージがLinux環境でビルドエラーを起こしていた問題を修正することです。コミットメッセージには「I don't understand why it was only broken on Linux」(なぜLinuxだけで壊れていたのか理解できない)とあり、特定のOS環境でのみ発生するビルドの問題に対処していることが示唆されています。

exp/types パッケージは、Goの型チェックと解析に関する実験的な機能を提供するものであり、Goコンパイラの進化やツール開発において重要な役割を担っています。gcimporter.go はその中でも、コンパイル済みGoパッケージのメタデータ(エクスポートデータ)を読み込み、型システムがそれらの情報を利用できるようにする部分です。

Linux環境でのビルドエラーは、おそらくGoのパーサーが特定の構文(特に定数宣言における括弧の使用)を処理する際に、OS固有の挙動の違いや、コンパイラのバージョン、あるいはビルド環境の差異によって発生していたと考えられます。この修正は、パーサーの期待するトークンと実際の入力の不一致を解消し、Linux上でのビルドを成功させることを目指しています。

前提知識の解説

exp/types パッケージ

exp/types は、Go言語の標準ライブラリの一部である go/types パッケージの実験的なバージョン、または関連するパッケージ群を指す可能性があります。go/types パッケージは、Goプログラムの型チェッカーとして機能し、式の型を決定し、識別子を解決し、型が正しいことを保証するために使用されます。golang.org/x/exp リポジトリは、Goの実験的で不安定なパッケージをホストしており、新しい機能や変更が標準ライブラリに取り込まれる前にここで試されることがあります。このコミットの時点(2011年)では、Goの型システムはまだ発展途上にあり、exp/typesはその初期の実験的な取り組みの一部であったと考えられます。

gcimporter.go の役割

gcimporter.go は、Goコンパイラ(gc)が生成するオブジェクトファイルからエクスポートデータをインポートするためのGoツールチェーンの重要な部分です。このファイルは、コンパイルされたGoパッケージが公開する型、関数、変数を記述したバイナリ形式のエクスポートデータを解析します。gcimporter パッケージは Importer インターフェースの実装を提供し、コンパイラやその他のツールが依存関係を解決し、インポートされたパッケージから型情報にアクセスできるようにします。これにより、Goプログラムが複数のパッケージに分割されていても、それらが正しくリンクされ、型チェックが行われることが保証されます。

scanner.TokenString 関数

scanner.TokenString 関数は、Goの text/scanner パッケージの一部です。この関数は、rune(トークンまたはUnicode文字を表す)を入力として受け取り、そのトークンまたは文字の人間が読める文字列表現を返します。例えば、scanner.Ident のような定義済みトークンに対しては「Ident」のような文字列を返し、それ以外のUnicode文字に対しては引用符で囲まれた文字(例: 'a'"a")を返します。これは、特にパーサーやスキャナーのデバッグにおいて、現在のトークンを視覚的に確認するために非常に有用です。

panic 関数とその影響

Go言語において、panic はプログラムの通常の実行フローを停止させるための組み込み関数です。これは、プログラムが安全に、または意味のある形で続行できないような、回復不能な例外的なエラーを処理するために使用されます。panic が呼び出されると、現在の関数の実行は即座に停止し、その関数内の panic 呼び出し以降のコードは実行されません。代わりに、defer された関数がLIFO(後入れ先出し)順で実行され、その後、コールスタックを遡りながらパニックが伝播します。もし recover 関数によって捕捉されなければ、最終的にプログラム全体が終了し、スタックトレースが出力されます。panic は通常、プログラマーのエラーや、プログラムが起動できないような致命的な設定エラーなど、回復が不可能であると判断される状況でのみ使用されるべきです。

Goの定数宣言と括弧

Go言語では、const キーワードを使用して定数を宣言します。複数の関連する定数を宣言する場合、可読性と整理のために括弧 () を使用して定数ブロックを形成することができます。

const (
    Pi = 3.14159
    AppName = "MyGoApp"
)

この構文は、特に iota を使用して連続する定数値を生成する場合に頻繁に利用されます。定数ブロック内では、各定数宣言は通常、識別子と値のペアで構成されます。このコミットの変更は、この定数ブロックの解析、特に括弧の扱いに関連している可能性があります。

技術的詳細

このコミットは、src/pkg/exp/types/gcimporter.go ファイルの2つの異なる箇所に修正を加えています。

  1. expect 関数の変更: expect 関数は、パーサーが特定のトークンを期待する際に使用されます。もし期待するトークンと現在のトークンが一致しない場合、エラーを報告します。元のコードでは、この不一致が発生した場合に p.errorf を呼び出してエラーメッセージをフォーマットしていました。 修正後のコードでは、p.errorf の呼び出しの前に panic(1) が追加されています。これは、予期しないトークンが検出された場合に、即座にプログラムをパニックさせて終了させることを意味します。これはデバッグ目的で一時的に追加されたか、あるいは、このエラーが回復不能な状態を示しており、それ以上処理を続行するべきではないという判断が下されたことを示唆しています。 また、p.errorf のフォーマット文字列も変更されています。scanner.TokenString(tok)scanner.TokenString(p.tok) の出力形式が %q (引用符で囲まれた文字列) から %s (通常の文字列) に変更されています。これは、エラーメッセージの表示形式を調整するための小さな変更ですが、panic(1) の追加と合わせて、エラーハンドリングの挙動を根本的に変えるものです。

  2. parseConstDecl 関数の変更: parseConstDecl 関数は、Goの定数宣言を解析する役割を担っています。元のコードでは、特定の条件(p.tok == '('、つまり開き括弧が検出された場合)で、p.next()p.expect('+')、そして p.parseNumber() を呼び出していました。これは、おそらく (x + y) のような形式の定数式を解析しようとしていた部分です。 修正では、p.parseNumber() の直後に p.expect(')') が追加されています。これは、定数宣言の解析中に開き括弧 ( が検出され、その後に数値が続いた場合、その数値の後に閉じ括弧 ) が続くことをパーサーが期待するように変更されたことを意味します。この変更は、Goの定数宣言の構文解析において、括弧のペアリングが正しく行われるようにするために不可欠です。Linuxでのビルドエラーは、この閉じ括弧の期待が欠けていたために、パーサーが不正な状態に陥っていたことが原因である可能性が高いです。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/exp/types/gcimporter.go
+++ b/src/pkg/exp/types/gcimporter.go
@@ -199,7 +199,8 @@ func (p *gcParser) errorf(format string, args ...interface{}) {
 func (p *gcParser) expect(tok rune) string {
 	lit := p.lit
 	if p.tok != tok {
-\t\tp.errorf("expected %q, got %q (%q)", scanner.TokenString(tok), scanner.TokenString(p.tok), lit)
+\t\tpanic(1)
+\t\tp.errorf("expected %s, got %s (%s)", scanner.TokenString(tok), scanner.TokenString(p.tok), lit)
 	}\n \tp.next()\n \treturn lit\n@@ -681,6 +682,7 @@ func (p *gcParser) parseConstDecl() {\n \t\t\tp.next()\n \t\t\tp.expect('+')\n \t\t\tp.parseNumber()\n+\t\t\tp.expect(')')\n \t\t\t// TODO: x = ...\n \t\t\tbreak\n \t\t}\n```

## コアとなるコードの解説

### `func (p *gcParser) expect(tok rune) string` 内の変更

```go
 	if p.tok != tok {
-\t\tp.errorf("expected %q, got %q (%q)", scanner.TokenString(tok), scanner.TokenString(p.tok), lit)
+\t\tpanic(1)
+\t\tp.errorf("expected %s, got %s (%s)", scanner.TokenString(tok), scanner.TokenString(p.tok), lit)
 	}
  • panic(1) の追加: この行は、パーサーが期待するトークン (tok) と現在のトークン (p.tok) が一致しない場合に、即座にプログラムをパニックさせるように変更されました。panic(1) は、Goの組み込み関数 panic を呼び出し、引数 1 をパニック値として渡します。これは通常、回復不能なエラーが発生したことを示し、プログラムの実行を強制的に終了させます。この変更は、デバッグ中に問題の箇所を特定しやすくするための一時的な措置であるか、あるいは、この特定のトークン不一致が、それ以上解析を続行しても意味がないほど深刻な構文エラーであることを示している可能性があります。

  • p.errorf のフォーマット文字列の変更: p.errorf は、エラーメッセージをフォーマットして報告するためのメソッドです。元のコードでは、scanner.TokenString の結果を %q フォーマット指定子(引用符で囲まれた文字列)で出力していました。変更後には %s フォーマット指定子(通常の文字列)に変更されています。これは、エラーメッセージの出力形式を微調整するためのもので、機能的な変更というよりは、表示上の改善です。しかし、panic(1) の追加と合わせて、エラー発生時の挙動と報告方法がより厳格になったことを示しています。

func (p *gcParser) parseConstDecl() 内の変更

 	\t\t\tp.next()\n \t\t\tp.expect('+')\n \t\t\tp.parseNumber()\n+\t\t\tp.expect(')')\n \t\t\t// TODO: x = ...\n \t\t\tbreak
  • p.expect(')') の追加: この行は、parseConstDecl 関数内で、定数宣言の解析中に p.parseNumber() が呼び出された直後に、閉じ括弧 ) が続くことをパーサーが期待するように変更されました。Goの定数宣言において、( で始まる式が数値の後に続く場合、その式は ) で閉じられる必要があります。この変更は、パーサーがこのような構文を正しく認識し、解析できるようにするために不可欠です。

    Linuxでのビルドエラーは、おそらくこの閉じ括弧の期待が欠けていたために発生していたと考えられます。パーサーが開き括弧 ( を処理した後、数値は解析できても、その後に続くべき閉じ括弧 ) を期待していなかったため、構文エラーとして認識されず、不正な状態に陥っていた可能性があります。この修正により、パーサーは定数宣言の構文規則をより厳密に適用し、Linux環境でのビルドエラーを解消することができました。

関連リンク

参考にした情報源リンク