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[インデックス 10747] ファイルの概要

このコミットは、GoコンパイラのARMアーキテクチャ向けバックエンドである5gにおけるビルドエラーを修正するものです。具体的には、スタックフレームの定義に関連するコードから不要なレジスタフラグの設定を削除しています。

コミット

  • コミットハッシュ: c0951e9f8b06279d871f87c4d6231ad3202d8bf0
  • 作者: Russ Cox rsc@golang.org
  • コミット日時: 2011年12月13日 火曜日 14:12:16 -0500
  • レビュー担当者: ken2
  • CC: golang-dev

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/c0951e9f8b06279d871f87c4d6231ad3202d8bf0

元コミット内容

5g: fix build

R=ken2
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5482059

変更の背景

このコミットは、Go言語のコンパイラツールチェーンの一部である5gのビルドプロセスで発生していた問題を解決するために行われました。5gは、Go言語のソースコードをARMアーキテクチャ向けの機械語にコンパイルするためのツールです。当時のGoコンパイラは、各アーキテクチャ(例: 8gはx86、6gはamd64、5gはARM)ごとに独立したバックエンドを持っていました。

ビルドが失敗していた具体的な原因はコミットメッセージからは直接読み取れませんが、コードの変更内容から推測すると、コンパイラの内部表現やコード生成ロジックの変更に伴い、特定の命令(Prog構造体で表現される)のレジスタフィールドの扱いが変更されたか、あるいは以前は必要だった設定が不要になったか、あるいは誤った設定になっていた可能性が高いです。このようなビルドの不壊は、コンパイラ開発において頻繁に発生するもので、特に大規模なリファクタリングや新しい機能の導入時に、既存のコードパスとの整合性が失われることで引き起こされます。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGoコンパイラの内部構造と概念に関する知識が必要です。

  • Goコンパイラ (gc): Go言語の公式コンパイラは、gc (Go Compiler) と呼ばれるツールチェーンの一部です。歴史的に、gcは複数のコンパイラ(例: 8g, 6g, 5gなど)とアセンブラ(例: 8a, 6a, 5aなど)、リンカ(8l, 6l, 5lなど)から構成されていました。これらはそれぞれ特定のCPUアーキテクチャ(x86, amd64, ARMなど)に対応していました。
  • 5g: GoコンパイラのARMアーキテクチャ向けバックエンドです。GoのソースコードをARMプロセッサが実行できるバイナリに変換する役割を担います。
  • src/cmd/5g/ggen.c: このファイルは、5gコンパイラのコード生成(genはgenerateの略)フェーズに関連するC言語のソースコードです。Goコンパイラの初期バージョンはC言語で書かれており、このファイルはGoの抽象構文木(AST)からARMアセンブリ命令を生成するロジックの一部を含んでいます。
  • Prog構造体: Goコンパイラのバックエンドにおいて、Progは単一のアセンブリ命令またはそれに相当する中間表現を表す構造体です。コンパイラは、Goのコードを解析し、最適化を行った後、最終的にProgのリストとして命令列を生成します。
  • defframe関数: この関数は、Goの関数呼び出しにおけるスタックフレームの定義を担当します。スタックフレームは、関数のローカル変数、引数、戻りアドレスなどを格納するために使用されるメモリ領域です。defframeは、関数の引数のサイズやローカル変数のサイズに基づいて、スタックフレームのレイアウトを決定し、対応するアセンブリ命令(Prog)を生成します。
  • ptxt: defframe関数内で使用されるProg構造体へのポインタです。これは、現在の関数のプロローグ(関数開始時に実行される初期化コード)を構成する命令を表します。
  • ptxt->to.type = D_CONST2;: Prog構造体のtoフィールドは、命令の宛先オペランド(destination operand)を表します。D_CONST2は、そのオペランドが定数であることを示すタイプの一つです。この文は、スタックフレームのサイズを定数として設定する命令であることを示唆しています。
  • ptxt->reg: Prog構造体のregフィールドは、命令が使用するレジスタを指定するために使われます。コメント// flagsから、このフィールドが命令の動作を制御するフラグとしても利用されていたことが示唆されます。
  • ptxt->to.offset2: Prog構造体のtoフィールド内のoffset2は、オフセット値を格納するために使用されます。ここでは、rnd(curfn->type->argwid, widthptr)の結果が代入されており、これは関数の引数の合計サイズを計算し、ポインタの幅に合わせてアラインメント(整列)していることを意味します。
  • rnd(val, round): valroundの倍数に切り上げる(アラインメントする)ためのユーティリティ関数です。
  • curfn->type->argwid: 現在コンパイル中の関数の引数の合計幅(バイト単位)を表します。
  • widthptr: ポインタの幅(バイト単位)を表す定数です。32ビットシステムでは4、64ビットシステムでは8になります。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、src/cmd/5g/ggen.c内のdefframe関数からptxt->reg = 0; // flagsという行が削除された点にあります。

defframe関数は、Go関数のスタックフレームを構築する際に、プロローグ命令(ptxt)を設定します。このプロローグ命令は、関数の引数のサイズや最終的なスタックサイズを決定し、それらをアセンブリ命令のオペランドとして埋め込みます。

削除された行は、ptxt->to.type = D_CONST2;の直後にありました。D_CONST2は、オペランドが定数であることを示すタイプであり、この文脈ではスタックフレームのサイズを定数として設定する命令に関連しています。

ptxt->reg = 0; // flagsという行は、この命令のregフィールドを明示的に0に設定していました。コメント// flagsは、このregフィールドが単なるレジスタ番号ではなく、命令の動作を制御するフラグとしても機能していた可能性を示唆しています。

この行が削除された理由はいくつか考えられますが、最も可能性が高いのは以下のいずれかです。

  1. 冗長性の排除: D_CONST2タイプの命令において、regフィールドが常に0であるべきであり、かつそれがデフォルトで0に初期化されるようになったため、明示的な設定が不要になった。
  2. 意味の変更: Prog構造体やD_CONST2タイプの命令のセマンティクスが変更され、regフィールドがこの文脈ではもはや意味を持たなくなった、あるいは別の方法で設定されるようになった。
  3. バグの修正: ptxt->reg = 0;という設定が、特定の条件下で誤ったコードを生成したり、コンパイラの他の部分と競合したりして、ビルドエラーを引き起こしていた。例えば、regフィールドが別の目的で使用されるようになったにもかかわらず、ここで0に上書きされていた、といったケースです。

この変更は、コンパイラの内部的な整合性を保ち、ビルドプロセスを正常化するために不可欠でした。Goコンパイラは継続的に進化しており、このような低レベルの変更は、パフォーマンスの最適化、新しいアーキテクチャのサポート、または既存のバグ修正の一環として頻繁に行われます。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/cmd/5g/ggen.cファイルの一箇所のみです。

--- a/src/cmd/5g/ggen.c
+++ b/src/cmd/5g/ggen.c
@@ -14,7 +14,6 @@ defframe(Prog *ptxt)
 {
 	// fill in argument size
 	ptxt->to.type = D_CONST2;
-	ptxt->reg = 0; // flags
 	ptxt->to.offset2 = rnd(curfn->type->argwid, widthptr);
 
 	// fill in final stack size

具体的には、defframe関数内の以下の行が削除されました。

	ptxt->reg = 0; // flags

コアとなるコードの解説

削除された行は、defframe関数内でスタックフレームの引数サイズを設定する部分にありました。

defframe関数は、Goの関数が呼び出されたときに、その関数のスタックフレームをどのように構築するかを決定する重要な役割を担っています。これには、引数の格納場所、ローカル変数のためのスペース、戻りアドレスなどが含まれます。

削除されたptxt->reg = 0; // flagsという行は、ptxtが指すProg(アセンブリ命令の中間表現)のregフィールドを0に設定していました。このProgは、ptxt->to.type = D_CONST2;によって、定数オペランドを持つ命令としてマークされています。

この行の削除は、D_CONST2タイプの命令において、regフィールドがもはや明示的に0に設定される必要がなくなったことを意味します。これは、以下のような理由が考えられます。

  • コンパイラの内部表現の変更: Prog構造体や命令のセマンティクスが進化し、D_CONST2のような特定の命令タイプではregフィールドが使用されなくなったか、その値が常に0であることが保証されるようになった。
  • 最適化: 不要な代入操作を削除することで、コンパイラのコード生成パスをわずかに効率化する。
  • バグの修正: 以前はptxt->reg = 0;が特定の状況で誤ったコードを生成したり、コンパイラの他の部分との不整合を引き起こしたりしていたため、その行を削除することでビルドエラーが解消された。例えば、regフィールドが別の目的で再利用されるようになったにもかかわらず、古いコードがそれを0にリセットしていた、といった状況です。

この変更により、5gコンパイラは正しくビルドされるようになり、ARMアーキテクチャ向けのGoプログラムのコンパイルが可能になりました。これは、Goコンパイラの継続的なメンテナンスと改善の一環であり、低レベルのコード生成における正確性と効率性を維持するために不可欠な修正です。

関連リンク

  • Go Gerrit Change: https://golang.org/cl/5482059
    • これは、Goプロジェクトがコードレビューと変更管理に使用しているGerritシステム上の変更セットへのリンクです。このリンクから、このコミットに関連するレビューコメントや、より詳細なコンテキストを確認できる場合があります。

参考にした情報源リンク

  • Go Programming Language: https://go.dev/
  • Go Compiler Design: Goコンパイラの設計に関する公式ドキュメントやブログ記事は、Goの進化とともに変化しています。このコミットが作成された2011年当時のコンパイラ設計に関する具体的なドキュメントを見つけるのは難しい場合がありますが、一般的なGoコンパイラの構造については、Goの公式ブログやGoのソースコード自体が最も信頼できる情報源となります。
  • ARM Architecture: ARMプロセッサのアーキテクチャに関する一般的な情報。
  • コンパイラ設計の基本: コンパイラのフロントエンド、中間表現、バックエンド、コード生成、スタックフレームの概念など、一般的なコンパイラ設計に関する知識。
    • コンパイラに関する教科書(例: Dragon Book - "Compilers: Principles, Techniques, and Tools" by Aho, Lam, Sethi, Ullman)
    • オンラインのコンパイラ設計コースやチュートリアル。