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[インデックス 10753] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリ archive/tar パッケージ内のテストファイル src/pkg/archive/tar/reader_test.go に関連する変更です。このファイルは、tar アーカイブの読み込み機能が正しく動作するかを検証するための単体テストを含んでいます。具体的には、tar ヘッダーの比較方法を reflect.DeepEqual から直接的な構造体値の比較 (*hdr != *header) に変更しています。

コミット

commit 0e9ee93cea231186c565ab10e3e5f3161cd4c769
Author: Christopher Wedgwood <cw@f00f.org>
Date:   Wed Dec 14 08:08:49 2011 +1100

    archive/tar: (test) structure comparison not reflect.DeepEqual
    
    R=dsymonds
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5487064

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/0e9ee93cea231186c565ab10e3e5f3161cd4c769

元コミット内容

このコミットは、src/pkg/archive/tar/reader_test.go ファイルにおいて、tar.Header 構造体の比較方法を変更しています。

具体的には以下の変更が行われました。

  1. reflect パッケージのインポートが削除されました。
  2. テスト内の2箇所で、reflect.DeepEqual(hdr, header) という比較が *hdr != *header に変更されました。

これは、tar.Header 構造体の内容を比較する際に、Goの組み込みの構造体比較機能を使用するように変更したことを意味します。

変更の背景

この変更の背景には、Go言語における構造体比較のセマンティクスと、reflect.DeepEqual の特性が関係しています。

reflect.DeepEqual は、2つの値が「深く」等しいかどうかを再帰的に比較する関数です。これは、スライス、マップ、構造体など、Goの組み込みの比較演算子 (==!=) では直接比較できない、あるいは期待するセマンティクスで比較できない複雑なデータ型に対して非常に便利です。しかし、reflect.DeepEqual はリフレクションを使用するため、パフォーマンスのオーバーヘッドが発生します。

一方、Goの構造体は、そのすべてのフィールドが比較可能である場合(数値型、文字列型、ブール型、ポインタ型、チャネル型、配列型、および比較可能な構造体型)、組み込みの比較演算子 (==!=) を使用して直接比較できます。この比較はフィールドごとに実行され、すべてのフィールドが等しい場合にのみ構造体全体が等しいと判断されます。

tar.Header 構造体は、そのフィールドがすべて比較可能な型で構成されています。したがって、reflect.DeepEqual を使用する必要はなく、より効率的で直接的な構造体値の比較 (*hdr != *header) を使用することが可能です。テストの目的は、tar.Header の内容が期待通りであるかを検証することであり、reflect.DeepEqual のような汎用的な深い比較は、この特定のケースでは過剰であり、不必要なパフォーマンスコストを伴う可能性がありました。

この変更は、テストの実行効率を向上させ、よりGoらしい(idiomatic)比較方法を採用することを目的としています。

前提知識の解説

Go言語における構造体の比較

Go言語では、構造体のすべてのフィールドが比較可能な型である場合、その構造体は比較可能です。比較可能な型には、数値型(int, float64 など)、文字列型(string)、ブール型(bool)、ポインタ型、チャネル型、配列型、そして比較可能な構造体型が含まれます。マップ、スライス、関数は比較不可能な型です。

比較可能な構造体 S のインスタンス s1s2 がある場合、s1 == s2 または s1 != s2 のように直接比較できます。この比較は、s1 の各フィールドと s2 の対応する各フィールドを比較し、すべてのフィールドが等しい場合にのみ構造体全体が等しいと判断します。

reflect.DeepEqual

reflect.DeepEqual は、reflect パッケージが提供する関数で、2つの値が「深く」等しいかどうかを判定します。これは、値の型、内容、および再帰的に参照されるすべての要素(例えば、スライス内の要素、マップのキーと値、構造体のフィールド)を比較します。

reflect.DeepEqual は、以下のような場合に特に有用です。

  • スライスやマップなど、Goの組み込みの比較演算子では直接比較できないデータ型を比較する場合。
  • ポインタが指す先の値の内容を比較したい場合(ポインタ自体ではなく)。
  • 構造体内に比較不可能なフィールド(スライス、マップ、関数)が含まれており、それらの内容を再帰的に比較したい場合。

しかし、reflect.DeepEqual はリフレクションを使用するため、直接比較可能な型に対して使用すると、パフォーマンスのオーバーヘッドが発生します。

ポインタのデリファレンスと値の比較

Goにおいて、ポインタ p がある場合、*p はそのポインタが指す先の値を取得する「デリファレンス」操作です。

このコミットでは、hdrheader*tar.Header 型のポインタであるため、*hdr*header はそれぞれ tar.Header 型の構造体値になります。*hdr != *header は、これら2つの tar.Header 構造体値が等しくないかどうかを直接比較しています。tar.Header 構造体は比較可能なフィールドのみで構成されているため、この直接比較が可能です。

技術的詳細

この変更は、archive/tar パッケージのテストにおける tar.Header 構造体の比較ロジックを最適化し、よりGoらしいアプローチに移行したものです。

tar.Header 構造体は、Name, Mode, Uid, Gid, Size, ModTime, Typeflag, Linkname, Uname, Gname, Devmajor, Devminor, Xattrs, PAXRecords, Format などのフィールドを持ちます。これらのフィールドは、string, int64, os.FileMode, time.Time, byte, map[string]string など、Goの組み込みの比較演算子で比較可能な型、または比較可能な型のみを含む構造体で構成されています。

特に注目すべきは time.Time 型と map[string]string 型です。

  • time.Time 型は構造体ですが、その内部フィールドは比較可能であり、== 演算子で直接比較できます。
  • map[string]string 型はマップであり、Goの組み込みの == 演算子では直接比較できません。しかし、tar.HeaderXattrsPAXRecords フィールドは map[string]string 型です。

ここで重要なのは、Goの構造体比較のルールです。 構造体は、そのすべてのフィールドが比較可能である場合にのみ、== 演算子で比較できます。もし構造体内にマップやスライスのような比較不可能なフィールドが含まれている場合、その構造体全体は == 演算子で比較できません。コンパイルエラーになります。

このコミットが行われた2011年12月時点のGoのバージョン(おそらくGo 1.0リリース前後の開発版)では、tar.Header 構造体はマップフィールドを含んでいなかったか、あるいはテストのコンテキストでマップフィールドが比較対象外であった可能性があります。もし tar.Header がマップフィールドを含んでいて、かつそのマップフィールドも比較対象とする必要があった場合、reflect.DeepEqual の使用は避けられなかったでしょう。

しかし、このコミットで *hdr != *header が採用されたということは、当時の tar.Header 構造体が直接比較可能であったか、またはテストの目的上、マップフィールドの比較が不要であったことを示唆しています。一般的に、Goの標準ライブラリのテストでは、可能な限りリフレクションを避け、より直接的で効率的な比較方法が好まれます。

reflect.DeepEqual を削除し、直接比較に切り替えることで、以下の利点が得られます。

  1. パフォーマンスの向上: リフレクションのオーバーヘッドがなくなるため、テストの実行速度が向上します。特に、多数のテストケースや大きなデータ構造を比較する場合に顕著です。
  2. コードの簡潔さ: reflect パッケージのインポートが不要になり、比較コードがより簡潔になります。
  3. Goらしいイディオム: 構造体が直接比較可能である場合、==!= を使用するのがGoの慣習に沿った方法です。

この変更は、テストコードの品質と効率を向上させるための、細かではあるが重要な改善と言えます。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/archive/tar/reader_test.go ファイルの以下の箇所です。

--- a/src/pkg/archive/tar/reader_test.go
+++ b/src/pkg/archive/tar/reader_test.go
@@ -10,7 +10,6 @@ import (
 	"fmt"
 	"io"
 	"os"
-	"reflect"
 	"testing"
 	"time"
 )
@@ -127,7 +126,7 @@ testLoop:
 			f.Close()
 			continue testLoop
 		}
-		if !reflect.DeepEqual(hdr, header) {
+		if *hdr != *header {
 			t.Errorf("test %d, entry %d: Incorrect header:\nhave %+v\nwant %+v",
 				i, j, *hdr, *header)
 		}
@@ -201,7 +200,7 @@ func TestIncrementalRead(t *testing.T) {
 		}
 
 		// check the header
-		if !reflect.DeepEqual(hdr, headers[nread]) {
+		if *hdr != *headers[nread] {
 			t.Errorf("Incorrect header:\nhave %+v\nwant %+v",
 				*hdr, headers[nread])
 		}

コアとなるコードの解説

  1. import "reflect" の削除: reflect.DeepEqual 関数が使用されなくなったため、reflect パッケージのインポートが不要になりました。これにより、コンパイル時の依存関係が減り、コードのクリーンアップにも繋がります。

  2. !reflect.DeepEqual(hdr, header) から *hdr != *header への変更 (2箇所): これはこのコミットの主要な変更点です。

    • hdrheader (または headers[nread]) は、*tar.Header 型のポインタです。
    • *hdr はポインタ hdr が指す tar.Header 構造体そのものの値を取得するデリファレンス操作です。
    • したがって、*hdr != *header は、2つの tar.Header 構造体値が等しくないかどうかを直接比較しています。
    • この比較は、tar.Header 構造体のすべてのフィールドをGoの組み込みの比較演算子で比較することで行われます。もし一つでもフィールドが異なれば、構造体全体が等しくないと判断されます。

この変更により、テストコードは tar.Header の比較にリフレクションを使用せず、より効率的で直接的なGoの組み込み機能を利用するようになりました。これは、tar.Header 構造体が直接比較可能であるという前提に基づいています。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の reflect パッケージに関する公式ドキュメント: https://pkg.go.dev/reflect
  • Go言語の構造体比較に関する情報 (例: Go言語の仕様書や関連ブログ記事など)