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[インデックス 1079] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の初期のコンパイラである6gの内部コードにおける変更を記録しています。具体的には、src/cmd/6g/gsubr.cファイル内で使用されていたginsという関数(またはマクロ)がgbranchに置き換えられています。これは、コンパイラのコード生成ロジックにおける命名規則の変更、あるいはより適切な抽象化への移行を示唆しています。

コミット

commit ec81145565af06164c31bb83532eb11f48198a0b
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Thu Nov 6 15:05:19 2008 -0800

    s/gins/gbranch/
    
    R=ken
    OCL=18713
    CL=18713

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/ec81145565af06164c31bb83532eb11f48198a0b

元コミット内容

このコミットの目的は、src/cmd/6g/gsubr.cファイル内のginsという文字列をgbranchに置換することです。これは、コード内の特定の関数呼び出しまたはマクロの使用箇所を更新するものです。

変更の背景

Go言語のコンパイラは、その初期段階から継続的に進化してきました。このコミットが行われた2008年という時期は、Go言語がまだ活発に開発されていた黎明期にあたります。このような時期には、内部APIの設計、命名規則、およびコードの構造が頻繁に変更されることが一般的です。

ginsからgbranchへの変更は、以下のいずれかの背景が考えられます。

  1. 命名規則の改善: ginsという名前が、その機能や意図を正確に表していなかったため、より分かりやすいgbranchという名前に変更された可能性があります。branchという言葉は、プログラムの制御フローにおける分岐(条件分岐やジャンプ命令など)を強く示唆します。
  2. 機能の再定義または抽象化: ginsが提供していた機能が、より広範な「分岐」に関連する操作の一部として再定義されたか、あるいはより高レベルの抽象化の下に統合された可能性があります。これにより、コンパイラのコード生成ロジックがよりモジュール化され、理解しやすくなったと考えられます。
  3. バグ修正または最適化の準備: 特定のバグを修正するため、または将来的なコンパイラの最適化のために、関連するコード生成ロジックのインターフェースが変更された可能性もあります。

この変更は、Goコンパイラのコードベースが成熟していく過程で、内部的な整合性と保守性を高めるための典型的なリファクタリングの一環と見なせます。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の前提知識が役立ちます。

  • Go言語コンパイラ (6g):
    • 6gは、Go言語の初期バージョン(Go 1.5以前)において、amd64(x86-64)アーキテクチャ向けのコンパイラの名前でした。当時のGoツールチェーンでは、8g386(x86-32)向け、5gARM向けでした。
    • これらのコンパイラは、Plan 9オペレーティングシステムのツールから派生したC言語で書かれたgcツールチェーンの一部でした。
    • Go 1.5以降、これらのアーキテクチャ固有のコンパイラ名は統合され、現在はgo tool compileコマンドが環境変数(GOOS, GOARCH)に基づいてターゲットアーキテクチャを決定します。
  • コンパイラのバックエンド:
    • コンパイラは、ソースコードを機械語に変換するソフトウェアです。このプロセスは通常、フロントエンド(構文解析、意味解析)、中間コード生成、最適化、そしてバックエンド(コード生成、アセンブリ生成)の段階に分かれます。
    • src/cmd/6g/gsubr.cのようなファイルは、コンパイラのバックエンド、特にアセンブリコードの生成や低レベルの命令操作を担当する部分に関連している可能性が高いです。
  • ginsgbranch:
    • ginsは、Goコンパイラの内部で命令(instruction)を生成するための関数またはマクロであったと推測されます。Web検索結果からも、コンパイラのバックエンドやコード生成フェーズにおける役割が示唆されています。
    • gbranchは、その名前から、プログラムの制御フローにおける「分岐」命令(例: JMP (ジャンプ), JLT (より小さい場合にジャンプ) など)を生成または操作するための関数である可能性が高いです。コンパイラは、if文、forループ、switch文などの高レベルな制御構造を、これらの低レベルな分岐命令に変換します。
  • pc (Program Counter):
    • pcは、プログラムカウンタの略で、次に実行される命令のアドレスを保持するCPUレジスタです。コンパイラのコード生成においては、生成される命令のオフセットやアドレスを追跡するために使用されます。
  • patch関数:
    • コンパイラがジャンプ命令などを生成する際、ジャンプ先のアドレスがまだ確定していない場合があります(例: 前方参照)。このような場合、まず仮のジャンプ命令を生成し、後でジャンプ先のアドレスが確定した時点で、その命令のオペランドを正しいアドレスで「パッチ」(修正)します。patch関数は、この修正処理を行うためのものです。

技術的詳細

このコミットは、src/cmd/6g/gsubr.cファイル内のgmove関数の一部を変更しています。gmove関数は、Goコンパイラにおいて、あるノード(Node)から別のノードへデータを移動させるためのアセンブリ命令を生成する役割を担っていると考えられます。この関数は、レジスタ割り当て、定数ロード、そして条件付きジャンプ命令の生成といった低レベルな操作を含んでいます。

変更前のコードでは、gins(AJLT, N, N)gins(AJMP, N, N)という形でジャンプ命令を生成し、その直後にpc(プログラムカウンタ)の値をp1p2に保存していました。これは、後でpatch関数を使ってこれらのジャンプ命令のターゲットアドレスを修正するためです。

変更後のコードでは、ginsの代わりにgbranchという新しい関数が導入されています。

  • p1 = gbranch(AJLT, T);
  • p2 = gbranch(AJMP, T);

この変更は、ジャンプ命令の生成と、その命令のパッチングに必要なプログラムカウンタの保存を、gbranch関数内部で一括して処理するようにリファクタリングされたことを示唆しています。つまり、gbranchは単に命令を生成するだけでなく、その命令がジャンプ命令である場合に、後でパッチングするために必要な情報を(おそらくpcの値を返すことで)提供する、より高レベルなユーティリティ関数になったと考えられます。

これにより、gmove関数内のコードはより簡潔になり、ジャンプ命令の生成とパッチングのロジックがgbranch内にカプセル化されることで、可読性と保守性が向上しています。

また、nodconstの呼び出しも、インデントが修正されています。これは機能的な変更ではなく、コードの整形(スタイル)に関する変更です。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/6g/gsubr.c
+++ b/src/cmd/6g/gsubr.c
@@ -722,18 +722,16 @@ gmove(Node *f, Node *t)
 		regalloc(&nod, f->type, f);\n 		gmove(f, &nod);\n 		regalloc(&nod1, t->type, t);\n-nodconst(&nodc, types[TUINT64], 0);\n+\t\tnodconst(&nodc, types[TUINT64], 0);\n \t\tgins(ACMPQ, &nod, &nodc);\n-\t\tp1 = pc;\n-\t\tgins(AJLT, N, N);\n+\t\tp1 = gbranch(AJLT, T);\n \t\tgins(a, &nod, &nod1);\n-\t\tp2 = pc;\n-\t\tgins(AJMP, N, N);\n+\t\tp2 = gbranch(AJMP, T);\n \t\tpatch(p1, pc);\n \t\tregalloc(&nod2, f->type, N);\n \t\tregalloc(&nod3, f->type, N);\n \t\tgmove(&nod, &nod3);\n-nodconst(&nodc, types[TUINT64], 1);\n+\t\tnodconst(&nodc, types[TUINT64], 1);\
 \t\tgins(ASHRQ, &nodc, &nod2);\n \t\tgmove(&nod, &nod3);\n \t\tgins(AANDL, &nodc, &nod3);\n```

## コアとなるコードの解説

変更されたのは`gmove`関数内の以下の部分です。

1.  **`nodconst`のインデント修正**:
    ```diff
    -nodconst(&nodc, types[TUINT64], 0);
    +\t\tnodconst(&nodc, types[TUINT64], 0);
    ```
    と
    ```diff
    -nodconst(&nodc, types[TUINT64], 1);
    +\t\tnodconst(&nodc, types[TUINT64], 1);
    ```
    これは、`nodconst`関数の呼び出しのインデントが修正されたものです。機能的な変更はなく、コードの整形(フォーマット)に関する修正です。

2.  **`gins`から`gbranch`への置き換えとロジックの変更**:
    ```diff
    -\t\tp1 = pc;
    -\t\tgins(AJLT, N, N);
    +\t\tp1 = gbranch(AJLT, T);
    ```
    と
    ```diff
    -\t\tp2 = pc;
    -\t\tgins(AJMP, N, N);
    +\t\tp2 = gbranch(AJMP, T);
    ```
    これがこのコミットの主要な変更点です。
    *   変更前は、まず`pc`の現在値を`p1`(または`p2`)に保存し、その後に`gins`関数を使ってジャンプ命令(`AJLT`または`AJMP`)を生成していました。`gins`は、おそらく汎用的な命令生成関数であり、ジャンプ命令のターゲットアドレスは後で`patch`関数によって埋められることを前提としていました。
    *   変更後は、`gbranch`という新しい関数が導入されています。この`gbranch`関数は、ジャンプ命令(`AJLT`や`AJMP`)を生成すると同時に、その命令のパッチングに必要な情報(おそらく生成された命令のアドレス、つまり`pc`の値)を直接`p1`(または`p2`)に返しています。
    *   この変更により、ジャンプ命令の生成と、その命令を後でパッチングするための準備(`pc`の保存)が`gbranch`関数内にカプセル化され、`gmove`関数内のコードがより簡潔になりました。これは、コンパイラのコード生成ロジックにおける抽象化レベルの向上と、より専門的なユーティリティ関数の導入を示しています。

## 関連リンク

*   Go言語の公式ドキュメント: [https://go.dev/](https://go.dev/)
*   Go言語のコンパイラに関する情報(Go 1.5以降の変更点など): [https://go.dev/doc/go1.5](https://go.dev/doc/go1.5)

## 参考にした情報源リンク

*   Go 1.5 Compiler: The Go Programming Language: [https://go.dev/doc/go1.5](https://go.dev/doc/go1.5)
*   Stack Overflow - What is the difference between 6g, 8g, 5g, and go tool compile?: [https://stackoverflow.com/questions/29909000/what-is-the-difference-between-6g-8g-5g-and-go-tool-compile](https://stackoverflow.com/questions/29909000/what-is-the-difference-between-6g-8g-5g-and-go-tool-compile)
*   GitHub issue mentioning `gins` in a compiler crash: [https://github.com/golang/go/issues/10000](https://github.com/golang/go/issues/10000) (これは直接的な情報源ではないが、`gins`がコンパイラ内部の用語であることを示唆)
*   Google検索結果: "golang 6g compiler gins gbranch"