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[インデックス 10844] ファイルの概要

このコミットは、Go言語プロジェクト内の様々なMakefileにおいて、Goコンパイラ($(GC))の呼び出し方法を標準化するものです。具体的には、$GCFLAGS$GCIMPORTSという変数をGoコンパイラに明示的に渡すように変更しています。これにより、ビルドプロセス全体でコンパイラフラグとインポートパスの扱いが一貫し、Makeシステムが意図する通りの挙動を実現します。

コミット

commit bf6dd2db04f08d86f81e39c693922e9869016a56
Author: Maxim Pimenov <mpimenov@google.com>
Date:   Fri Dec 16 11:31:39 2011 -0500

    various: use $GCFLAGS and $GCIMPORTS like Make does
    
    R=golang-dev, rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5489065

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/bf6dd2db04f08d86f81e39c693922e9869016a56

元コミット内容

このコミットは、Go言語のソースコードリポジトリ内の複数のMakefileファイルを変更しています。変更の要点は、Goコンパイラ($(GC))を呼び出す際に、$GCFLAGS$GCIMPORTSという変数を引数として追加することです。

変更前は、Goソースファイルをコンパイルするコマンドは以下のようでした。

$(GC) $*.go

または

$(GC) <filename>.go

変更後は、以下のようになります。

$(GC) $(GCFLAGS) $(GCIMPORTS) $*.go

または

$(GC) $(GCFLAGS) $(GCIMPORTS) <filename>.go

この変更は、doc/codelab/wiki/Makefilemisc/cgo/gmp/Makefilemisc/cgo/life/Makefileなど、合計13の異なるMakefileファイルにわたって一貫して適用されています。

変更の背景

この変更の背景には、Go言語のビルドシステムにおけるコンパイラフラグとインポートパスの管理の一貫性向上が挙げられます。Goプロジェクトでは、Makeユーティリティが主要なビルドツールとして使用されており、ビルドプロセス全体で特定の環境変数やフラグがGoコンパイラに渡されることが期待されます。

以前は、一部のMakefileでは$GCFLAGS$GCIMPORTSが明示的にGoコンパイラに渡されていませんでした。これにより、これらの変数が設定されていても、特定のビルドターゲットではその設定が適用されない可能性がありました。例えば、デバッグフラグや最適化フラグ、あるいはカスタムのインポートパスが、一部のコンパイルステップで無視されるといった問題が発生し得ます。

このコミットは、「Makeがそうするように」という意図のもと、すべてのGoコンパイラ呼び出しでこれらの重要な変数を確実に含めることで、ビルドの再現性、設定の適用範囲、および全体的な堅牢性を向上させることを目的としています。これにより、開発者はGCFLAGSGCIMPORTSを設定するだけで、プロジェクト内のすべてのGoコンパイルがその設定に従うことを期待できるようになります。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の前提知識が必要です。

  1. MakefileとMakeユーティリティ:

    • Makefileは、プログラムのコンパイルやその他のタスクを自動化するためのルールを記述するファイルです。
    • Makeユーティリティは、Makefileに記述されたルールを読み込み、依存関係に基づいてコマンドを実行します。
    • $(VAR)構文は、Makefile内で変数VARの値を参照するために使用されます。
    • $*は、パターンルールにおいて、ターゲット名からサフィックスを除いた部分(stem)を表す自動変数です。例えば、%.o: %.cというルールでfoo.oをビルドする場合、$*fooになります。
  2. Go言語のビルドプロセス:

    • Go言語のソースコードは、go tool compile(または古いバージョンではgc)コマンドによってコンパイルされ、オブジェクトファイル(.oまたは.a)が生成されます。
    • その後、go tool link(または古いバージョンではld)コマンドによって、これらのオブジェクトファイルがリンクされ、実行可能ファイルやライブラリが生成されます。
    • Goのビルドシステムは、環境変数やコマンドラインフラグを通じて、コンパイルやリンクの挙動を制御できます。
  3. GCFLAGSGCIMPORTS:

    • GCFLAGS: Go Compiler Flagsの略で、Goコンパイラ(gcまたはgo tool compile)に渡されるコマンドラインフラグを定義するための変数です。これには、最適化レベルの指定(例: -Nで最適化無効化、-lでインライン化無効化)、デバッグ情報の追加、特定の警告の有効/無効化など、コンパイル時の挙動を制御する様々なオプションが含まれます。
    • GCIMPORTS: Go Compiler Importsの略で、Goコンパイラがパッケージをインポートする際の検索パスやその他のインポート関連のオプションを定義するための変数です。Goのビルドシステムでは、通常、GOPATH環境変数やモジュールパスに基づいてインポートが解決されますが、GCIMPORTSはより低レベルな制御や特定のビルド環境での調整に使用されることがあります。

これらの変数は、Goのビルドシステムにおいて、コンパイル時の挙動を細かく制御するための重要なフックとして機能します。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、Makefileにおける変数の展開とGoコンパイラの挙動に集約されます。

Goコンパイラ($(GC))は、通常、Goソースファイルを引数として受け取ります。例えば、$(GC) main.gomain.goをコンパイルします。しかし、コンパイラの挙動をカスタマイズするためには、追加のフラグを渡す必要があります。

このコミット以前は、多くのMakefileではGoコンパイラがソースファイル名のみを引数として受け取っていました。これは、GCFLAGSGCIMPORTSといった変数が、Goのメインのビルドスクリプトや環境設定によって自動的に適用されることを期待していたか、あるいは特定のビルドターゲットではそれらのフラグが不要であると見なされていたためかもしれません。

しかし、Makeの設計思想では、変数は明示的にコマンドラインに展開されることでその効果を発揮します。このコミットは、このMakeの原則に沿って、$(GC)コマンドラインに$(GCFLAGS)$(GCIMPORTS)を明示的に追加することで、これらの変数の値が常にGoコンパイラに渡されるように変更しました。

これにより、以下のような技術的メリットが生まれます。

  1. 一貫したビルド挙動: GCFLAGSGCIMPORTSに設定された値が、プロジェクト内のすべてのGoコンパイルステップで確実に適用されるようになります。これにより、異なるMakefileやビルドターゲット間でのビルド挙動の不一致が解消されます。
  2. デバッグと最適化の容易化: 開発者がGCFLAGSを設定してデバッグ情報を追加したり、最適化を無効にしたりする場合、その設定がプロジェクト全体にわたって有効になります。これは、特定のモジュールやパッケージのデバッグ、あるいはパフォーマンス分析を行う際に非常に有用です。
  3. ビルド設定の集中管理: GCFLAGSGCIMPORTSの定義をGoプロジェクトのトップレベルのMakefileや環境設定ファイルに集中させることで、個々のMakefileを変更することなく、プロジェクト全体のコンパイル設定を調整できるようになります。
  4. 将来的な拡張性: 新しいコンパイラフラグやインポート関連のオプションが導入された場合でも、既存のMakefileを変更することなく、これらの変数を更新するだけで対応できるようになります。

この変更は、Go言語のビルドシステムが成熟し、より堅牢で設定可能なものへと進化していく過程の一部と見なすことができます。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットにおけるコアとなるコードの変更箇所は、Goコンパイラ($(GC))の呼び出し部分です。

変更前:

-	$(GC) $*.go

または

-	$(GC) <filename>.go

変更後:

+	$(GC) $(GCFLAGS) $(GCIMPORTS) $*.go

または

+	$(GC) $(GCFLAGS) $(GCIMPORTS) <filename>.go

このパターンは、以下のファイルで確認できます(一部抜粋):

  • doc/codelab/wiki/Makefile
  • misc/cgo/gmp/Makefile
  • misc/cgo/life/Makefile
  • misc/cgo/stdio/Makefile
  • misc/cgo/testso/Makefile
  • misc/swig/callback/Makefile
  • misc/swig/stdio/Makefile
  • src/cmd/goyacc/Makefile
  • src/pkg/encoding/gob/Makefile
  • src/pkg/exp/norm/Makefile
  • src/pkg/go/doc/Makefile
  • src/pkg/unicode/Makefile
  • test/bench/garbage/Makefile

すべての変更は、GoソースファイルをコンパイルするMakefileのルール内で行われています。

コアとなるコードの解説

コアとなるコードの変更は、Makefileのルール内でGoコンパイラを呼び出す際の引数リストに、$(GCFLAGS)$(GCIMPORTS)という2つの変数を追加することです。

  • $(GC): これはMakefile内で定義された変数で、Goコンパイラへのパス(例: go tool compileまたは古いGoバージョンでのgcコマンド)を指します。
  • $(GCFLAGS): この変数は、Goコンパイラに渡す追加のフラグを含みます。例えば、-N(最適化を無効にする)、-l(インライン化を無効にする)などのデバッグ関連のフラグや、特定の警告を有効にするフラグなどが設定されることがあります。
  • $(GCIMPORTS): この変数は、Goコンパイラがパッケージをインポートする際に使用する追加のパスやオプションを含みます。これは、カスタムのパッケージパスや、特定のビルド環境でのインポート解決の調整に利用されることがあります。
  • $*.go または <filename>.go: これはコンパイル対象のGoソースファイル名です。$*Makefileのパターンルールで使われる自動変数で、ターゲット名からサフィックスを除いた部分(例: foo.ofoo)を表します。

この変更により、MakeがこれらのMakefileルールを実行する際、$(GCFLAGS)$(GCIMPORTS)に設定された値が、Goコンパイラのコマンドラインに直接展開されます。例えば、GCFLAGS=-N -lと設定されている場合、コンパイラコマンドは$(GC) -N -l $*.goのように実行されます。

これにより、Goコンパイラは、これらの変数を通じて提供されるすべての設定とオプションを考慮に入れてコンパイルを実行するようになります。これは、Goプロジェクトのビルドシステム全体で、コンパイル時の挙動をより細かく、かつ一貫して制御するための重要なステップです。

関連リンク

  • Go言語の公式ウェブサイト: https://golang.org/
  • Go言語のソースコードリポジトリ(GitHub): https://github.com/golang/go
  • Go言語のMakeシステムに関するドキュメント(当時のもの、または関連する現在のドキュメントを探す必要があるかもしれません)
  • Go言語のコンパイラフラグに関するドキュメント(go tool compile -helpまたは関連する公式ドキュメント)

参考にした情報源リンク

  • GitHub上のコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/bf6dd2db04f08d86f81e39c693922e9869016a56
  • Go Gerrit Code Review (CL 5489065): https://golang.org/cl/5489065 (このリンクは古いGerritの変更IDであり、現在では直接アクセスできない可能性がありますが、コミットメッセージに記載されているため参照として含めます。)
  • Makefileの一般的な構文と機能に関する知識
  • Go言語のビルドツール(go tool compile, go tool linkなど)に関する一般的な知識
  • Go言語の環境変数(GOPATH, GOOS, GOARCHなど)に関する一般的な知識
  • Go言語の歴史とビルドシステムの進化に関する一般的な知識(特に2011年頃の状況)