[インデックス 10918] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のビルドシステムにおける特定のシナリオ、具体的には USE_GO_TOOL
環境変数が false
に設定されている場合に発生するビルドエラーを修正するものです。src/run.bash
スクリプト内のテスト実行コマンドが go test
から gotest
に変更され、代替のビルドパスでのテストが正しく実行されるように修正されました。
コミット
build: fix the build with USE_GO_TOOL=false
R=golang-dev, r, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5502051
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/0735e06cfd9b7e132589f555eca3ab72f26d6e91
元コミット内容
commit 0735e06cfd9b7e132589f555eca3ab72f26d6e91
Author: Brad Fitzpatrick <bradfitz@golang.org>
Date: Tue Dec 20 15:30:36 2011 -0800
build: fix the build with USE_GO_TOOL=false
R=golang-dev, r, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5502051
---
src/run.bash | 2 +--
1 file changed, 1 insertion(+), 1 deletion(-)
diff --git a/src/run.bash b/src/run.bash
index 90e8797c09..7d8b9bce06 100755
--- a/src/run.bash
+++ b/src/run.bash
@@ -59,7 +59,7 @@ if $USE_GO_TOOL; then
go test runtime -short -cpu=1,2,4
else
(xcd pkg/runtime;
- go test -short -cpu=1,2,4
+ gotest -short -cpu=1,2,4
) || exit $?\n fi
変更の背景
このコミットは、Go言語のビルドプロセスにおいて、USE_GO_TOOL
という内部的なフラグが false
に設定されている場合に発生していたビルドの不具合を修正するために導入されました。Go言語のビルドシステムは複雑であり、特に初期の段階やクロスコンパイル、あるいはブートストラップ(Goコンパイラ自体をGoでビルドするプロセス)のような特殊なシナリオでは、標準の go
コマンドがまだ完全に利用できない、または特定の代替ツールを使用する必要がある場合があります。
USE_GO_TOOL=false
の設定は、おそらく標準の go
コマンド(go build
, go test
など)が利用できない、あるいは意図的に使用しない特定のビルドパスを意味していました。このパスでは、テストを実行するために go test
ではなく、gotest
という別の実行ファイルが期待されていました。しかし、既存のスクリプトでは誤って go test
が呼び出されており、これがビルドエラーの原因となっていました。このコミットは、その誤りを修正し、USE_GO_TOOL=false
の場合でもテストが正しく実行されるようにしました。
前提知識の解説
- Go言語のビルドシステムと
go
コマンド: Go言語は、go
という単一のコマンドラインツールを通じて、ソースコードのビルド、テスト、依存関係の管理、ドキュメント生成など、開発の多くの側面を統合的に扱います。go test
は、Goの標準テストフレームワークで書かれたテストを実行するためのサブコマンドです。 src/run.bash
: これはGo言語の公式リポジトリのルートディレクトリにあるシェルスクリプトです。Goのソースコード自体をビルドしたり、テストを実行したりするための主要なスクリプトの一つであり、Goのビルドプロセスにおける様々な環境設定や条件分岐を管理しています。このようなスクリプトは、Goのブートストラッププロセス(GoコンパイラをGo自身でビルドする)や、異なる環境でのビルドをサポートするために不可欠です。USE_GO_TOOL
フラグ: このフラグは、Goのビルドシステム内部で使用されるもので、Goの標準ツールチェーン(go
コマンド)を使用するかどうかを切り替えるためのものです。false
に設定されるシナリオは、例えば、Goのツールチェーンがまだ完全にビルドされていない初期段階や、特定の古いツールセットとの互換性を保つ必要がある場合などが考えられます。gotest
とgo test
の違い:go test
: 現在のGo言語の標準的なテスト実行コマンドです。Goモジュールやパッケージのテストを管理し、実行します。gotest
: このコミットの文脈では、go test
とは異なる、おそらくGoの初期のバージョンや特定のビルド環境でのみ使用されていた、あるいは内部的なテスト実行ラッパーのようなコマンドを指していると考えられます。Goの進化の過程で、コマンド名やその機能が変更されたり、統合されたりすることは珍しくありません。この修正は、特定のレガシーなビルドパスがgotest
を期待していたことを示唆しています。
xcd
:src/run.bash
スクリプト内で使用されているxcd
は、おそらくcd
コマンドのラッパーであり、ディレクトリ変更が失敗した場合にスクリプトを終了させるなどのエラーハンドリング機能を追加していると考えられます。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、src/run.bash
スクリプト内の条件分岐ロジックにあります。スクリプトは USE_GO_TOOL
変数の真偽を評価し、それに基づいて異なるテスト実行パスを選択します。
元のコードは以下のようになっていました。
if $USE_GO_TOOL; then
# USE_GO_TOOLがtrueの場合、標準のgo testコマンドを使用
go test runtime -short -cpu=1,2,4
else
# USE_GO_TOOLがfalseの場合
(xcd pkg/runtime;
go test -short -cpu=1,2,4 # ここが問題の箇所
) || exit $?
fi
USE_GO_TOOL
が false
の場合、スクリプトは pkg/runtime
ディレクトリに移動し、そこでテストを実行しようとします。しかし、このパスでは go test
コマンドが期待されておらず、代わりに gotest
コマンドが使用されるべきでした。この不一致がビルドエラーを引き起こしていました。
コミットによる変更は、この else
ブロック内の go test
を gotest
に置き換えることで、この問題を解決しました。
if $USE_GO_TOOL; then
go test runtime -short -cpu=1,2,4
else
(xcd pkg/runtime;
gotest -short -cpu=1,2,4 # 修正後
) || exit $?
fi
この修正により、USE_GO_TOOL=false
のビルドパスでも、runtime
パッケージのテストが正しく gotest
コマンドによって実行されるようになり、ビルドが成功するようになりました。-short
フラグは短時間で実行できるテストのみを実行することを示し、-cpu=1,2,4
はテストを異なるCPU数で実行して並列処理のテストを行うことを意味します。|| exit $?
は、直前のコマンド(gotest
)が失敗した場合にスクリプト全体の実行を停止し、その終了ステータスを返すことで、エラーを早期に検出する標準的なシェルスクリプトのプラクティスです。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/run.bash
ファイルの以下の部分です。
--- a/src/run.bash
+++ b/src/run.bash
@@ -59,7 +59,7 @@ if $USE_GO_TOOL; then
go test runtime -short -cpu=1,2,4
else
(xcd pkg/runtime;
- go test -short -cpu=1,2,4
+ gotest -short -cpu=1,2,4
) || exit $?\n fi
具体的には、src/run.bash
の59行目から始まる if/else
ブロックの else
節において、go test
が gotest
に変更されています。
コアとなるコードの解説
この変更は、Go言語のビルドスクリプト src/run.bash
内の条件分岐ロジックを修正するものです。
if $USE_GO_TOOL; then ... fi
: この構造は、シェルスクリプトにおける条件分岐です。$USE_GO_TOOL
変数の値が真(空でない文字列、または0
以外の数値)であればthen
以下のブロックが実行され、そうでなければelse
以下のブロックが実行されます。go test runtime -short -cpu=1,2,4
:USE_GO_TOOL
が真の場合に実行されるコマンドです。これは、Goの標準的なgo test
コマンドを使用して、runtime
パッケージのテストを実行します。-short
は時間のかかるテストをスキップし、-cpu=1,2,4
はテストを1、2、4つのCPUコアで実行して並行処理のテストを行います。(xcd pkg/runtime; ... ) || exit $?
:USE_GO_TOOL
が偽の場合に実行されるブロックです。xcd pkg/runtime;
:pkg/runtime
ディレクトリに移動します。xcd
はエラーハンドリング付きのcd
コマンドのラッパーと考えられます。gotest -short -cpu=1,2,4
: この行が変更された箇所です。元々はgo test
でしたが、gotest
に修正されました。これは、この特定のビルドパスではgotest
という別のテスト実行ツールが期待されていることを示しています。|| exit $?
: これはシェルスクリプトの一般的なイディオムで、直前のコマンド(この場合はgotest
)が非ゼロの終了ステータス(エラーを示す)を返した場合に、スクリプト全体の実行を停止し、その終了ステータスを返します。これにより、テストの失敗がビルド全体の失敗として適切に伝播されます。
この修正は、Goのビルドシステムが異なる環境やブートストラップの段階で、適切なツールを呼び出すための重要な調整であり、ビルドの堅牢性を高めるものです。
関連リンク
- Go Change-Id (Gerrit): https://golang.org/cl/5502051
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (go test コマンド): https://pkg.go.dev/cmd/go#hdr-Test_packages
- Go言語のソースコードリポジトリ (src/run.bash): https://github.com/golang/go/blob/master/src/run.bash (コミット時点のバージョンとは異なる可能性があります)
- Gerrit Code Review: https://gerrit-review.googlesource.com/ (GoプロジェクトがコードレビューにGerritを使用していることの一般的な情報源)
- Go言語のブートストラップに関する一般的な情報 (例: Goのビルドプロセスに関するブログ記事やドキュメント)