[インデックス 1093] ファイルの概要
Go言語の初期開発段階におけるcontainer/vector
パッケージへのSet
メソッドの追加
コミット
commit 176e256b264fcbd1be1c30a56b720b5437ec1041
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date: Fri Nov 7 18:31:50 2008 -0800
Added missing Set method for Vector
BUG=1474670
TBR=r
DELTA=6 (6 added, 0 deleted, 0 changed)
OCL=18839
CL=18843
---
src/lib/container/vector.go | 6 ++++++
1 file changed, 6 insertions(+)
diff --git a/src/lib/container/vector.go b/src/lib/container/vector.go
index c646917678..5feea65d46 100644
--- a/src/lib/container/vector.go
+++ b/src/lib/container/vector.go
@@ -42,6 +42,12 @@ func (v *Vector) At(i int) Element {
}
+func (v *Vector) Set(i int, e Element) {
+// range check unnecessary - done by runtime
+v.elem[i] = e;
+}
+
+
func (v *Vector) Remove(i int) Element {
ret := v.elem[i];
n := v.Len();
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/176e256b264fcbd1be1c30a56b720b5437ec1041
元コミット内容
このコミットは、Go言語の初期開発段階において、container/vector
パッケージ内のVector
型に不足していたSet
メソッドを追加するものです。BUG=1474670
という内部バグトラッキングIDが関連付けられています。変更内容は6行の追加のみで、既存のコードの削除や変更はありません。
変更の背景
このコミットが行われた2008年11月は、Go言語がまだ一般に公開される前の、活発な初期開発段階にありました。container/vector
パッケージは、現在のGo言語の組み込み型であるスライス([]T
)に相当する動的配列の機能を提供しようとしていた実験的なデータ構造でした。
Vector
型には、特定のインデックスの要素を取得するAt
メソッドは存在していましたが、そのインデックスの要素を新しい値で更新するSet
メソッドが欠落していました。データ構造として、要素の読み取りだけでなく、書き込み(更新)機能も提供することは、そのデータ構造が実用的に機能するために不可欠です。この欠落は、Vector
の完全な機能性を阻害するものであり、このコミットはその基本的な操作を追加することで、Vector
のユーティリティを向上させることを目的としています。
前提知識の解説
- Go言語の初期開発: このコミットは2008年に行われました。Go言語がオープンソースとして公開されたのは2009年11月であり、最初の安定版であるGo 1.0がリリースされたのは2012年3月です。したがって、この時期のGo言語のコードベースは、現在のGo言語とは異なる設計思想やAPIを含んでいる可能性があります。特に、標準ライブラリの構造や組み込み型の実装は、後のバージョンで大きく進化しました。
container/vector
パッケージ: これはGo言語の標準ライブラリの一部として存在した初期の実験的なパッケージです。C++のstd::vector
やJavaのArrayList
のような動的配列の機能を提供することを意図していました。しかし、Go言語の設計が進むにつれて、より汎用的で効率的な組み込み型である「スライス([]T
)」が導入され、container/vector
パッケージは最終的に廃止されました。このコミットは、その過渡期におけるVector
の実装の一部を示しています。- メソッドとレシーバ: Go言語では、構造体(または任意の型)に「メソッド」を関連付けることができます。メソッドは、特定の型のインスタンスに対して操作を行う関数です。メソッドの定義には「レシーバ」と呼ばれる特別な引数を使用します。このコミットの
func (v *Vector) Set(...)
という記述は、Vector
型のポインタ*v
をレシーバとするメソッドであることを示しています。ポインタレシーバを使用することで、メソッド内でレシーバのインスタンスの状態を変更することができます。 - Goの配列アクセスと境界チェック: Go言語では、配列やスライスへのアクセス(例:
v.elem[i]
)を行う際、ランタイムが自動的にインデックスの範囲チェックを行います。指定されたインデックスが有効な範囲外である場合、プログラムはパニック(ランタイムエラー)を起こします。このため、開発者はC言語のように手動でインデックスの範囲チェックコードを記述する必要がありません。コミット内のコメント// range check unnecessary - done by runtime
は、このGo言語の特性を明確に示しています。
技術的詳細
このコミットは、src/lib/container/vector.go
ファイル内のVector
型にSet
メソッドを追加することで、その機能性を拡張しています。
追加されたSet
メソッドのシグネチャは以下の通りです。
func (v *Vector) Set(i int, e Element)
v *Vector
:Vector
型のポインタレシーバです。これにより、メソッド内でVector
インスタンスの内部状態(v.elem
)を変更することが可能になります。i int
: 要素を設定する対象のインデックス(整数型)です。e Element
: 指定されたインデックスに設定する新しい要素の値です。Element
型は、container/vector
パッケージ内で定義されたインターフェースまたは型エイリアスであり、Vector
が格納できる要素の型を示します。
メソッドの内部実装は非常にシンプルです。
v.elem[i] = e;
これは、Vector
構造体の内部で要素を保持しているであろうelem
という名前のスライスまたは配列の、i
番目の位置にe
の値を代入する操作です。
特筆すべきは、この行の上のコメント// range check unnecessary - done by runtime
です。これは、Go言語のランタイムが配列やスライスへのアクセス時に自動的にインデックスの境界チェックを行うため、開発者が明示的にif i < 0 || i >= len(v.elem)
のようなチェックコードを記述する必要がないことを示しています。これにより、コードが簡潔になり、同時に実行時の安全性が保証されます。もしi
が有効な範囲外であれば、Goランタイムがパニックを発生させ、不正なメモリアクセスを防ぎます。
コアとなるコードの変更箇所
src/lib/container/vector.go
追加されたコードスニペット:
func (v *Vector) Set(i int, e Element) {
// range check unnecessary - done by runtime
v.elem[i] = e;
}
コアとなるコードの解説
このコミットの核心は、src/lib/container/vector.go
ファイル内のVector
型にSet
メソッドを追加した点にあります。
Vector
型は、その内部にelem
という名前のフィールド(おそらくスライスまたは配列)を持っており、これが実際の要素を格納しています。既存のAt
メソッドが特定のインデックスの要素を「読み取る」機能を提供していたのに対し、今回追加されたSet
メソッドは、指定されたインデックスi
に新しい要素e
を「書き込む」機能を提供します。
具体的には、v.elem[i] = e;
という行が、Vector
インスタンスv
の内部要素配列elem
のi
番目の位置に、引数として渡されたe
の値を代入しています。これにより、Vector
は要素の取得だけでなく、その内容を動的に変更する能力を獲得し、より完全な可変データ構造としての役割を果たすことができるようになりました。
また、コードに付随するコメント// range check unnecessary - done by runtime
は、Go言語の重要な設計原則を強調しています。Goでは、配列やスライスへのインデックスアクセスは、コンパイラやランタイムによって自動的に境界チェックが行われます。これにより、無効なインデックスへのアクセスによるセグメンテーション違反などの一般的なプログラミングエラーを防ぎ、コードの堅牢性を高めています。開発者は手動で冗長な境界チェックを記述する必要がなく、コードの可読性と保守性が向上します。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント(スライスに関するセクション): https://go.dev/blog/slices-intro (スライスの概念は
container/vector
の進化形として理解できます) - Go言語のメソッドに関する公式ドキュメント: https://go.dev/tour/methods/1
- Go言語の歴史に関する情報: https://go.dev/doc/history
参考にした情報源リンク
- Go言語の初期開発に関するWeb検索結果
- Go言語のスライス、配列、メソッドに関する一般的な知識