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[インデックス 10952] ファイルの概要

このコミットは、src/pkg/os/user/lookup_stubs.go ファイルに変更を加えています。

コミット

  • コミットハッシュ: 5e5592cf30b3415cf76189c4343f915541596cbb
  • 作者: Russ Cox rsc@golang.org
  • 日付: 2011年12月21日 (水) 16:35:31 -0500
  • 概要: os/user パッケージのスタブ実装がWindows環境でも適用されるようにビルドタグを修正。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/5e5592cf30b3415cf76189c4343f915541596cbb

元コミット内容

os/user: not on windows

R=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5498062

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語の標準ライブラリであるos/userパッケージが、異なるオペレーティングシステム(OS)やビルド設定(特にCgoの有無)において、ユーザー情報のルックアップ機能を適切に提供する必要があるという課題があります。

os/userパッケージは、ユーザー名やユーザーIDに基づいてシステムユーザーの情報を取得する機能を提供します。Unix系OSでは、これらの機能は通常、C言語で書かれたシステムライブラリ(例: libcgetpwnamgetpwuid)に依存しています。Go言語はCgo(C言語との相互運用機能)を介してこれらのCライブラリ関数を呼び出すことができます。

しかし、Cgoが有効でない場合(例えば、CGO_ENABLED=0でビルドする場合)や、WindowsのようなOSでは、Unix系OSと同じCライブラリ関数が利用できないため、純粋なGo言語による代替実装(スタブ)が必要になります。

このコミット以前は、lookup_stubs.goファイルはnocgoビルドタグのみを持っていました。これは、Cgoが無効な場合にこのファイルがコンパイルされることを意味します。しかし、Windows環境では、Cgoの有無にかかわらず、Unix系OSとは異なるユーザー情報取得メカニズムが必要となるため、このスタブ実装がWindowsでも適用されるようにする必要がありました。この変更は、Windows環境におけるos/userパッケージの堅牢性と互換性を向上させることを目的としています。

前提知識の解説

Go言語のビルドタグ (+build)

Go言語では、ソースファイルの先頭に特別なコメント行を記述することで、そのファイルを特定の条件でのみコンパイル対象に含めることができます。これを「ビルドタグ」と呼びます。ビルドタグは// +build tag1 tag2のような形式で記述され、複数のタグはスペースで区切られます。

  • AND条件: 同じ行に複数のタグがある場合、それらのタグは論理AND条件として扱われます。つまり、すべてのタグが真である場合にのみファイルがコンパイルされます。例: // +build linux amd64 は、LinuxかつAMD64アーキテクチャの場合にコンパイルされます。
  • OR条件: 複数の+build行がある場合、それらの行は論理OR条件として扱われます。つまり、いずれかの行の条件が真であればファイルがコンパイルされます。例:
    // +build linux
    // +build darwin
    
    これは、LinuxまたはmacOSの場合にコンパイルされます。

nocgo ビルドタグ

nocgoタグは、Cgoが無効な場合にのみファイルがコンパイルされることを示します。CgoはGoプログラムからC言語のコードを呼び出すためのメカニズムであり、特定のOS機能やパフォーマンスが要求される場合に利用されます。しかし、Cgoを使用しない純粋なGoプログラムをビルドするシナリオも存在し、その際にCgoに依存しない代替実装を提供するためにnocgoタグが使用されます。

windows ビルドタグ

windowsタグは、ビルドターゲットがWindowsオペレーティングシステムである場合にのみファイルがコンパイルされることを示します。Go言語はクロスプラットフォーム開発を強力にサポートしており、GOOS環境変数を使用してターゲットOSを指定できます。このタグは、Windows固有のAPIや動作に対応するコードを記述する際に利用されます。

os/user パッケージ

Goの標準ライブラリであるos/userパッケージは、現在のユーザーや指定されたユーザー名/IDに関する情報を取得するためのプラットフォーム非依存なインターフェースを提供します。これには、ユーザー名、ユーザーID、グループID、ホームディレクトリなどの情報が含まれます。内部的には、このパッケージはOSの機能(例: Unix系OSの/etc/passwdやWindowsのユーザー管理API)を利用して情報を取得します。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、Go言語のビルドシステムにおける条件付きコンパイルのメカニズムと、os/userパッケージのクロスプラットフォーム対応に焦点を当てています。

src/pkg/os/user/lookup_stubs.goファイルは、os/userパッケージ内でユーザー情報のルックアップ機能のスタブ(代替)実装を提供するために存在します。スタブ実装は、通常、本来の機能が利用できない環境(例: Cgoが無効な場合や、特定のOSでネイティブなAPIが利用できない場合)で、最低限の機能を提供したり、エラーを返したりするためのプレースホルダーとして機能します。

元のビルドタグ// +build nocgoは、このファイルがCgoが無効な場合にのみコンパイルされることを意味していました。これは、Cgoが有効な場合は、C言語のシステムコールを利用したより完全な実装が利用されることを前提としています。

しかし、Windows環境では、Cgoの有無にかかわらず、Unix系OSとは異なるユーザー情報取得のメカニズムが必要です。Windowsのユーザー管理は、Unix系OSの/etc/passwdのようなファイルベースのシステムとは異なり、Active Directoryやローカルセキュリティアカウントマネージャー(SAM)などのAPIを通じて行われます。したがって、os/userパッケージがWindowsで正しく機能するためには、Windows固有の純粋なGo実装またはスタブが必要となります。

このコミットは、ビルドタグを// +build nocgo windowsに変更することで、lookup_stubs.goファイルが以下の両方の条件が満たされた場合にのみコンパイルされるようにします。

  1. Cgoが無効である (nocgo)
  2. ターゲットOSがWindowsである (windows)

これにより、Windows環境でCgoを無効にしてGoプログラムをビルドする際に、os/userパッケージが適切なスタブ実装を利用できるようになり、コンパイルエラーや実行時の問題を防ぎます。これは、Go言語が多様な環境で一貫した動作を提供するための重要なステップです。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/pkg/os/user/lookup_stubs.goファイルの1行のみです。

--- a/src/pkg/os/user/lookup_stubs.go
+++ b/src/pkg/os/user/lookup_stubs.go
@@ -2,7 +2,7 @@
 // Use of this source code is governed by a BSD-style
 // license that can be found in the LICENSE file.

-// +build nocgo
+// +build nocgo windows

 package user

具体的には、以下の行が変更されました。

- // +build nocgo + // +build nocgo windows

コアとなるコードの解説

変更された行は、Go言語のビルドタグです。

元の行 // +build nocgo は、このファイルがCgo(C言語との相互運用機能)が無効な場合にのみGoコンパイラによってビルド対象に含まれることを指示していました。これは、Cgoが有効な場合は、C言語のライブラリを利用したより完全なユーザー情報ルックアップの実装が使用されることを想定しています。

新しい行 // +build nocgo windows は、このファイルのビルド条件をより厳密にしています。この変更により、lookup_stubs.goファイルは以下の両方の条件が満たされた場合にのみコンパイルされます。

  1. nocgo: Cgoが無効である。
  2. windows: ビルドターゲットのオペレーティングシステムがWindowsである。

この変更の意図は、lookup_stubs.goに含まれるスタブ実装が、Windows環境でCgoが利用できない場合に特に必要とされるためです。Windowsでは、ユーザー情報の取得方法がUnix系OSとは根本的に異なるため、Cgoに依存しない純粋なGo実装が必要となります。このビルドタグの追加により、GoコンパイラはWindowsかつCgo無効のビルドにおいて、このスタブファイルが確実に含まれるようにし、os/userパッケージが正しく機能することを保証します。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のソースコード
  • Go言語のビルドタグに関する一般的な情報源 (例: ブログ記事、チュートリアル)
  • Go言語のos/userパッケージに関する議論やドキュメント
  • Go言語のCgoに関するドキュメント