[インデックス 10965] ファイルの概要
src/cmd/go/build.go ファイルは、Go言語のコマンドラインツールである go コマンドの一部であり、主にGoプログラムのビルドプロセスを管理する役割を担っています。このファイルには、ソースコードのコンパイル、リンク、およびCgo(GoとC言語の相互運用機能)のビルドに関するロジックが含まれています。具体的には、Goのビルドシステムがどのように外部のC/C++コンパイラ(GCCなど)を呼び出し、特定のプラットフォーム(Windows、Linuxなど)向けに適切なコンパイラフラグを渡すかを定義しています。
コミット
このコミットは、Goコマンドラインツール(cmd/go)におけるWindowsビルドの不具合を修正するものです。具体的には、Cgoが有効な場合にWindows環境でGCCコンパイラに渡されるスレッド関連のフラグが誤っていたのを修正しています。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/98fe44bdfcd6197cd19cfe3bab000b26d521c01e
元コミット内容
commit 98fe44bdfcd6197cd19cfe3bab000b26d521c01e
Author: Mikio Hara <mikioh.mikioh@gmail.com>
Date: Fri Dec 23 00:14:59 2011 +0900
cmd/go: fix windows build
R=golang-dev, alex.brainman, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5502066
---
src/cmd/go/build.go | 2 +--
1 file changed, 1 insertion(+), 1 deletion(-)
diff --git a/src/cmd/go/build.go b/src/cmd/go/build.go
index 62c8d90d30..7e87956e7d 100644
--- a/src/cmd/go/build.go
+++ b/cmd/go/build.go
@@ -917,7 +917,7 @@ func (b *builder) gccCmd(objdir string, flags []string, args ...string) []string
if build.DefaultContext.CgoEnabled {
switch b.goos {
case "windows":
- a = append(a, "-mthread")
+ a = append(a, "-mthreads")
default:
a = append(a, "-pthread")
}
変更の背景
この変更は、Go言語のCgo機能を使用してWindows環境でプログラムをビルドする際に発生していた問題を解決するために行われました。CgoはGoプログラムからC言語のコードを呼び出すためのメカニズムであり、そのビルドプロセスでは外部のCコンパイラ(通常はGCC)が使用されます。
以前のコードでは、Windows環境でCgoが有効な場合、GCCに-mthreadというコンパイラフラグが渡されていました。しかし、Windows上のGCC(特にMinGW-w64のような環境)でスレッドサポートを適切に有効にするための正しいフラグは-mthreadsでした。-mthreadは誤ったフラグであるか、あるいは古い、または非標準のフラグであったため、Cgoを利用するGoプログラムがWindowsで正しくビルドできない、または実行時に問題が発生する可能性がありました。
このコミットは、この誤ったフラグを正しい-mthreadsに修正することで、Windows環境でのCgoビルドの安定性と互換性を確保することを目的としています。
前提知識の解説
cmd/go
cmd/goは、Go言語の公式ツールチェーンの中核をなすコマンドラインツールです。Goプログラムのコンパイル、テスト、依存関係の管理、パッケージのインストールなど、Go開発における様々なタスクを実行します。Goのビルドシステムは、このgoコマンドを通じて抽象化されており、開発者は複雑なビルド設定を意識することなくGoプログラムを構築できます。
build.go
build.goファイルは、cmd/goツール内でGoプログラムのビルドロジックを実装している部分です。このファイルには、ソースファイルの解析、依存関係の解決、コンパイラの呼び出し、リンカの実行など、ビルドプロセスの詳細な手順が記述されています。特に、Cgoが有効な場合のC/C++コードのコンパイル方法や、プラットフォーム固有のコンパイラフラグの適用に関するロジックが含まれています。
Cgo
Cgoは、GoプログラムからC言語の関数を呼び出したり、C言語のコードをGoプログラムに組み込んだりするためのGo言語の機能です。これにより、既存のCライブラリをGoから利用したり、パフォーマンスが重要な部分をCで記述したりすることが可能になります。Cgoを使用する場合、GoコンパイラはCコードをコンパイルするために外部のCコンパイラ(通常はGCC)を呼び出します。
build.DefaultContext.CgoEnabled
これはGoのビルドコンテキストにおける設定の一つで、Cgo機能が有効になっているかどうかを示すブール値です。この値がtrueの場合、GoのビルドシステムはCgoのビルドプロセスを実行し、Cコードのコンパイルのために外部Cコンパイラを呼び出します。
GCCコンパイラフラグ: -mthread と -mthreads
GCC(GNU Compiler Collection)は、C、C++、Goなど様々なプログラミング言語をサポートするコンパイラ群です。Windows環境でGCCを使用する場合、特にMinGW-w64のような環境では、スレッドサポートに関連する特定のフラグが必要です。
-mthread: このフラグは、Windows上のGCCにおいて、スレッドサポートを有効にするための誤った、または非標準のフラグでした。このフラグを使用すると、ビルドエラーが発生したり、生成された実行ファイルが正しく動作しなかったりする可能性がありました。-mthreads: このフラグは、Windows上のGCCにおいて、スレッドサポートを適切に有効にするための正しいフラグです。特にMinGW-w64環境では、POSIXスレッド(pthreads)モデルをwinpthreadsライブラリを通じて利用するためにこのフラグが使用されます。これにより、マルチスレッドアプリケーションがWindows上で正しく動作するようになります。
クロスコンパイル
クロスコンパイルとは、あるプラットフォーム(例: Linux)で動作するコンパイラを使用して、別のプラットフォーム(例: Windows)で動作する実行ファイルを生成することです。Go言語はクロスコンパイルを強力にサポートしており、GOOS(ターゲットOS)やGOARCH(ターゲットアーキテクチャ)といった環境変数を設定することで、簡単に異なるプラットフォーム向けのバイナリを生成できます。このコミットの文脈では、GoのビルドシステムがWindows向けのCgoコードをコンパイルする際に、適切なコンパイラフラグを渡す必要があることを示しています。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、Windows環境におけるGCCコンパイラのスレッドライブラリリンクに関する正確なフラグの適用です。
Goのビルドシステムは、builder構造体のgccCmdメソッド内で、Cgoが有効な場合にGCCに渡すコマンドライン引数を構築しています。このメソッドは、Goが動作しているOS(b.goos)に基づいて異なるフラグを選択します。
変更前のコードでは、b.goosが"windows"の場合に-mthreadというフラグがa(GCCコマンドの引数リスト)に追加されていました。しかし、これはWindows環境でGCCがスレッドライブラリを正しくリンクするために必要なフラグではありませんでした。
変更後のコードでは、このフラグが-mthreadsに修正されています。-mthreadsは、MinGW-w64などのWindows向けGCCディストリビューションにおいて、POSIXスレッド(pthreads)互換のAPIを提供するwinpthreadsライブラリをリンクするために使用される標準的なフラグです。この修正により、Cgoを利用するGoプログラムがWindows上でマルチスレッド機能を正しく利用できるようになり、ビルドエラーや実行時エラーが解消されます。
他のOS(defaultケース)では、引き続き-pthreadが使用されています。これは、LinuxやmacOSなどのPOSIX準拠システムで標準的なPOSIXスレッドライブラリをリンクするためのフラグです。このコミットは、各プラットフォームの特性に合わせた適切なコンパイラフラグの選択の重要性を示しています。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/cmd/go/build.go
+++ b/src/cmd/go/build.go
@@ -917,7 +917,7 @@ func (b *builder) gccCmd(objdir string, flags []string, args ...string) []string
if build.DefaultContext.CgoEnabled {
switch b.goos {
case "windows":
- a = append(a, "-mthread")
+ a = append(a, "-mthreads")
default:
a = append(a, "-pthread")
}
コアとなるコードの解説
このコードスニペットは、builder構造体のgccCmdメソッドの一部です。このメソッドは、Cgoのビルドプロセス中にGCCコンパイラを呼び出す際に使用されるコマンドライン引数を生成します。
-
if build.DefaultContext.CgoEnabled { ... }: この条件文は、Cgo機能が有効になっている場合にのみ、内部のロジックが実行されることを保証します。Cgoが有効でない場合、C/C++コードのコンパイルは行われないため、スレッド関連のGCCフラグを追加する必要はありません。 -
switch b.goos { ... }: このswitch文は、ターゲットとなるオペレーティングシステム(b.goos)に基づいて、異なるコンパイラフラグを選択します。Goのビルドシステムは、クロスコンパイルをサポートしているため、現在のOSとは異なるOS向けのバイナリをビルドする際に、ターゲットOSに応じた適切なフラグを選択する必要があります。 -
case "windows":: ターゲットOSがWindowsの場合の処理です。- 変更前:
a = append(a, "-mthread")誤ったフラグである-mthreadがGCCの引数リストaに追加されていました。 - 変更後:
a = append(a, "-mthreads")正しいフラグである-mthreadsが追加されるようになりました。これにより、Windows環境でCgoが利用するC/C++コードが、適切なスレッドライブラリとリンクされるようになります。
- 変更前:
-
default:: Windows以外のOS(例: Linux, macOS)の場合の処理です。a = append(a, "-pthread")これらのシステムでは、POSIXスレッドライブラリをリンクするための標準的なフラグである-pthreadが引き続き使用されます。
この変更は、Goのビルドシステムが、異なるプラットフォームの特性(特にスレッドモデル)を考慮し、それに応じた適切なコンパイラフラグを動的に適用することの重要性を示しています。
関連リンク
- Go言語公式ウェブサイト: https://golang.org/
- Go言語のCgoに関するドキュメント: https://go.dev/cmd/cgo/ (現在のドキュメント)
- MinGW-w64プロジェクト: https://mingw-w64.org/
参考にした情報源リンク
- GCCのドキュメント(スレッド関連のフラグについて)
- MinGW-w64に関する情報源
- Stack Overflowやフォーラムでの
-mthreadと-mthreadsに関する議論 - Go言語のソースコード(
src/cmd/go/build.go) - Google検索: "gcc -mthread vs -mthreads windows"
- Google検索: "MinGW-w64 -mthreads"
- Google検索: "Go Cgo Windows build issues"