[インデックス 10974] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリである src/pkg/testing/testing.go
ファイルに対する変更です。具体的には、テストパッケージ内のコメントの文言修正が行われています。
コミット
testing: fix wording in explanation of potential bug
TBR=rsc
R=rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5504075
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/34139ee155e303e13b8a648965840dd9ed907b4e
元コミット内容
commit 34139ee155e303e13b8a648965840dd9ed907b4e
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Thu Dec 22 11:08:51 2011 -0800
testing: fix wording in explanation of potential bug
TBR=rsc
R=rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5504075
---
src/pkg/testing/testing.go | 6 +++---
1 file changed, 3 insertions(+), 3 deletions(-)
diff --git a/src/pkg/testing/testing.go b/src/pkg/testing/testing.go
index b1fb8dd3de..0411a5f480 100644
--- a/src/pkg/testing/testing.go
+++ b/src/pkg/testing/testing.go
@@ -240,9 +240,9 @@ func RunTests(matchString func(pat, str string) (bool, error), tests []InternalT
runtime.GOMAXPROCS(procs)
// We build a new channel tree for each run of the loop.
// collector merges in one channel all the upstream signals from parallel tests.
- // If all tests pump to the same channel, a bug can occur where a goroutine
- // kicks off a test, fails, and still delivers a completion signal, which skews the
- // counting.
+ // If all tests pump to the same channel, a bug can occur where a test
+ // kicks off a gouroutine that Fails, yet the test still delivers a completion signal,
+ // which skews the counting.
var collector = make(chan interface{})\
変更の背景
このコミットは、Go言語の testing
パッケージ内のコメントの文言を修正することを目的としています。元のコメントは、並行テスト実行における潜在的なバグシナリオについて説明していましたが、その表現が不明瞭であったため、より正確で理解しやすいように修正されました。
具体的には、並行テストが同じチャネルに結果を送信する場合に発生しうる「ゴルーチンがテストを開始し、失敗したにもかかわらず完了シグナルを送信し、カウントが歪む」というバグの説明において、「goroutine」という単語が誤解を招く可能性がありました。この修正は、このバグが「テスト」自体によって引き起こされる可能性があり、そのテストが内部で起動した「ゴルーチン」が失敗した場合でも、テスト自体は完了シグナルを送ってしまう、というニュアンスを明確にするために行われました。
これは機能的な変更ではなく、コードの可読性とドキュメントの正確性を向上させるための、純粋なコメントの修正です。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の概念とGoプロジェクトにおける開発慣習に関する知識が必要です。
- Go言語の
testing
パッケージ: Go言語に組み込まれているテストフレームワークです。go test
コマンドを通じて実行され、ユニットテスト、ベンチマークテスト、サンプルテストなどを記述するために使用されます。testing.T
やtesting.B
などの型を提供し、テストの実行、エラー報告、並行テストの制御などを行います。 RunTests
関数:src/pkg/testing/testing.go
内に存在する、テストの実行ロジックを管理する内部関数です。テストの並行実行や結果の収集など、テストフレームワークの核心部分を担っています。- Goroutine (ゴルーチン): Go言語における軽量な並行実行単位です。OSのスレッドよりもはるかに軽量で、数千、数万のゴルーチンを同時に実行することが可能です。
go
キーワードを使って関数呼び出しの前に記述することで、新しいゴルーチンとしてその関数を実行します。 - Channel (チャネル): ゴルーチン間で値を安全に送受信するための通信メカニズムです。チャネルを使用することで、共有メモリを直接操作することなく、ゴルーチン間の同期と通信を行うことができます。並行処理におけるデータ競合を防ぐために非常に重要です。
- 並行テスト (Parallel Tests):
testing
パッケージでは、t.Parallel()
を呼び出すことでテストを並行して実行できます。これにより、テストスイート全体の実行時間を短縮できますが、並行処理特有の注意点(データ競合、デッドロックなど)が発生する可能性があります。 - Goプロジェクトのコミット慣習:
TBR=
(To Be Reviewed by): レビューを依頼するレビュアーを示す古い慣習です。現在は主にGerritのレビューシステムで管理されます。R=
(Reviewed by): レビューが完了し、承認したレビュアーを示す古い慣習です。CC=
(Carbon Copy): コミットに関する通知を送るべきメーリングリストや個人を示す古い慣習です。golang-dev
はGo開発者向けのメーリングリストです。https://golang.org/cl/XXXXXXX
: Goプロジェクトでは、Gerritというコードレビューシステムを使用しており、各変更は「Change-ID (CL)」として管理されます。このURLは、その変更のGerrit上のページへのリンクを示しています。
技術的詳細
このコミットは、src/pkg/testing/testing.go
ファイルの RunTests
関数内のコメントを修正しています。このコメントは、並行テストの実行中に発生しうる特定のバグシナリオについて説明しています。
元のコメントは以下の通りでした。
// If all tests pump to the same channel, a bug can occur where a goroutine
// kicks off a test, fails, and still delivers a completion signal, which skews the
// counting.
このコメントは、「ゴルーチンがテストを開始し、失敗したにもかかわらず完了シグナルを送信し、カウントが歪む」という状況を説明していました。しかし、この文脈での「goroutine」という言葉は、テストフレームワークの内部的な動作と、ユーザーが記述するテストコードの間の関係において、やや曖昧さを生じさせていました。
修正後のコメントは以下の通りです。
// If all tests pump to the same channel, a bug can occur where a test
// kicks off a gouroutine that Fails, yet the test still delivers a completion signal,
// which skews the counting.
変更点としては、以下の2点があります。
where a goroutine
がwhere a test
に変更されました。kicks off a test, fails, and still delivers
がkicks off a gouroutine that Fails, yet the test still delivers
に変更されました。
この修正により、バグの発生源が「テスト」自体にあることが明確にされました。つまり、ユーザーが記述したテストが内部で別のゴルーチンを起動し、そのゴルーチンが失敗(t.Fail()
など)したとしても、親となるテスト自体は完了シグナルを送信してしまう可能性がある、というシナリオがより正確に表現されています。これにより、テスト結果のカウントが正しく行われない(失敗したテストが成功としてカウントされるなど)という問題が起こりうることを示唆しています。
この変更は、コードの動作には影響を与えませんが、Goの testing
パッケージの内部動作を理解しようとする開発者にとって、より正確で誤解の少ない情報を提供します。特に、並行テストのデバッグや、テストフレームワークの設計思想を理解する上で、このようなコメントの正確性は重要です。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/testing/testing.go
+++ b/src/pkg/testing/testing.go
@@ -240,9 +240,9 @@ func RunTests(matchString func(pat, str string) (bool, error), tests []InternalT
runtime.GOMAXPROCS(procs)
// We build a new channel tree for each run of the loop.
// collector merges in one channel all the upstream signals from parallel tests.
- // If all tests pump to the same channel, a bug can occur where a goroutine
- // kicks off a test, fails, and still delivers a completion signal, which skews the
- // counting.
+ // If all tests pump to the same channel, a bug can occur where a test
+ // kicks off a gouroutine that Fails, yet the test still delivers a completion signal,
+ // which skews the counting.
var collector = make(chan interface{})\
コアとなるコードの解説
変更されたコメントは、RunTests
関数内で collector
チャネルがどのように機能するかを説明する部分にあります。collector
チャネルは、並行して実行されるテストからの完了シグナルを収集するために使用されます。
元のコメントでは、「ゴルーチンがテストを開始し、失敗したにもかかわらず完了シグナルを送信する」という表現が使われていました。これは、テストフレームワークの内部的なゴルーチンが関与しているかのような印象を与える可能性がありました。しかし、このバグシナリオの核心は、ユーザーが記述した「テスト」が、その内部で起動したゴルーチンが失敗した場合でも、テスト自体が完了シグナルを送信してしまうという点にあります。
修正後のコメントでは、この点を明確にするために、「テストがゴルーチンを起動し、そのゴルーチンが失敗したにもかかわらず、テスト自体は完了シグナルを送信する」という表現に変わりました。これにより、テストの失敗が正しくカウントされないという問題が、テストコードの記述方法や、テストフレームワークのシグナル処理の仕組みに起因するものであることがより明確に示されています。
この修正は、Goの testing
パッケージの設計における重要な考慮事項、すなわち並行テストの正確な結果報告の難しさを示唆しています。テストフレームワークは、すべての並行実行パスからの結果を正確に集計し、テストの成功/失敗を正しく判断する必要があります。このコメントは、その集計プロセスにおける潜在的な落とし穴を開発者に警告する役割を果たしています。
関連リンク
- Go言語の
testing
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/testing - Gerrit Change-ID 5504075: https://golang.org/cl/5504075 (このコミットの元のレビューページ)
参考にした情報源リンク
- Go言語公式ドキュメント
- Go言語のソースコード
- Gerrit Code Review (Goプロジェクトのレビューシステム)
- Go言語のコミットメッセージに関する一般的な慣習に関する情報