[インデックス 10994] ファイルの概要
このコミットは、Goランタイムのビルドプロセスにおいて、古いasm_*.h
ファイルが残存することによって発生する問題を修正するものです。具体的には、src/pkg/runtime/Makefile
のclean-local
ターゲットにasm_*.h
ファイルの削除を追加し、クリーンアッププロセスを強化しています。
コミット
- コミットハッシュ:
3800b14071643951643f0b681b329b4ed30c0b98
- 作者: Russ Cox rsc@golang.org
- コミット日時: 2011年12月22日 木曜日 22:24:34 -0500
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/3800b14071643951643f0b681b329b4ed30c0b98
元コミット内容
runtime: delete old asm_*.h if still around
Fixes bug Robert ran into.
R=golang-dev, dsymonds
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5501070
変更の背景
このコミットは、「Robertが遭遇したバグを修正する」ことを目的としています。Goのビルドプロセスでは、アセンブリ言語で書かれたコードがGoのデータ構造や型と正しく連携するために、asm_*.h
という形式のヘッダーファイルが自動生成されます。これらのヘッダーファイルには、Goの構造体のフィールドオフセットや型のサイズ、定数値などが#define
ディレクティブとして含まれており、アセンブリコードがGoの内部構造を安全に参照できるようにします。
しかし、何らかの理由でこれらの生成されたasm_*.h
ファイルがビルドディレクトリに残存し、次回のビルド時に古い情報を持ったまま再利用されてしまうと、ビルドエラーや予期せぬランタイムの動作不良を引き起こす可能性がありました。特に、Goのソースコードやビルド環境が変更された際に、古いasm_*.h
ファイルが新しいコードと不整合を起こすことが考えられます。
このコミットは、このような残存する古いasm_*.h
ファイルが問題を引き起こすという具体的なバグ報告に対応し、ビルドのクリーンアッププロセスでこれらのファイルを確実に削除することで、ビルドの信頼性と安定性を向上させることを目的としています。
前提知識の解説
- Goランタイム (Go Runtime): Go言語で書かれたプログラムを実行するために必要な基盤となるソフトウェアです。ガベージコレクション、スケジューラ、メモリ管理、システムコールインターフェースなど、低レベルな機能を提供します。一部の重要な部分は、パフォーマンスやOSとの直接的な連携のためにアセンブリ言語で書かれています。
- アセンブリ言語 (Assembly Language): コンピュータのプロセッサが直接理解できる機械語に非常に近い低レベルなプログラミング言語です。Goランタイムでは、特定のアーキテクチャに依存する最適化や、Go言語では直接アクセスできないハードウェア機能へのアクセスが必要な場合にアセンブリ言語が使用されます。
asm_*.h
ファイル: Goのビルドプロセス中に自動生成されるヘッダーファイルです。例えば、go_asm.h
のようなファイルがこれに該当します。これらのファイルは、GoのアセンブリコードがGoのデータ構造(構造体、型、定数など)の内部レイアウトを正確に知るために使用されます。具体的には、go tool compile
コマンドが-asmhdr
フラグと共に実行される際に生成され、Goの構造体のフィールドオフセットや型のサイズが#define
として定義されます。これにより、アセンブリコードはGoのデータにシンボリックにアクセスでき、ハードコードされたオフセットに依存することなく、異なるGoのバージョンやアーキテクチャ間での互換性を保つことができます。- Makefile: ビルドプロセスを自動化するためのツールである
make
が使用する設定ファイルです。Makefile
には、ソースコードのコンパイル、リンク、クリーンアップなどのタスクを実行するためのルールが記述されています。 clean
ターゲット:Makefile
において、ビルドによって生成された中間ファイルや最終的な実行可能ファイルなどを削除するためのルールです。通常、make clean
コマンドを実行することで、プロジェクトをクリーンな状態に戻すことができます。clean-local
は、特定のモジュールやディレクトリに特化したクリーンアップ処理を行うための内部的なターゲットであることが多いです。
技術的詳細
Goのビルドシステムは、アセンブリコードとGoコード間の連携を円滑にするために、go tool asm
やgo tool compile
といった内部ツールを使用します。特に、go tool compile
は-asmhdr
オプションを使用して、Goの型情報からアセンブリコードが利用するためのヘッダーファイル(例: go_asm.h
)を生成します。これらのファイルは、Goのソースコードが変更された場合や、異なるビルド環境でビルドが行われる場合に、その内容が更新される必要があります。
このコミット以前は、Makefile
のclean-local
ターゲットが、これらの生成されたasm_*.h
ファイルを削除する対象に含まれていませんでした。そのため、make clean
を実行しても、古いasm_*.h
ファイルがビルドディレクトリに残存する可能性がありました。これが問題となるのは、例えばGoの構造体のレイアウトが変更されたにもかかわらず、古いasm_*.h
ファイルが残っていると、アセンブリコードが誤ったオフセットやサイズを参照してしまい、ランタイムのクラッシュや不正な動作を引き起こす可能性があるためです。
この変更は、clean-local
ターゲットにasm_*.h
を追加することで、ビルドのクリーンアップ時にこれらの生成ファイルを確実に削除するようにします。これにより、次回のビルド時には常に最新のGoソースコードに基づいてasm_*.h
ファイルが再生成されることが保証され、古いファイルによる不整合の問題が解消されます。これは、ビルドの再現性と信頼性を高める上で重要な修正です。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/pkg/runtime/Makefile
ファイルの一箇所のみです。
--- a/src/pkg/runtime/Makefile
+++ b/src/pkg/runtime/Makefile
@@ -137,7 +137,7 @@ $(pkgdir)/%.h: %.h
clean: clean-local
clean-local:
- rm -f $(AUTOHFILES) runtime_defs.go version*.go
+ rm -f $(AUTOHFILES) runtime_defs.go version*.go asm_*.h
arch_GOARCH.h: arch_$(GOARCH).h
\tcp $^ $@
コアとなるコードの解説
変更された行はclean-local:
ターゲットの下にあります。
-
変更前:
clean-local: rm -f $(AUTOHFILES) runtime_defs.go version*.go
この行は、
make clean-local
が実行されたときに、自動生成されたヘッダーファイル($(AUTOHFILES)
)、runtime_defs.go
、およびversion*.go
ファイルを削除していました。 -
変更後:
clean-local: rm -f $(AUTOHFILES) runtime_defs.go version*.go asm_*.h
変更後では、既存の削除対象に加えて、
asm_*.h
というパターンに一致するすべてのファイルも削除対象に追加されています。rm -f
コマンドは、ファイルが存在しない場合でもエラーを出さずに削除を試みるため、安全にクリーンアップを実行できます。
この修正により、Goランタイムのビルドプロセスにおいて、アセンブリコードとGoコード間のインターフェースを定義する重要な生成ファイルであるasm_*.h
が、クリーンアップ時に確実に削除されるようになりました。これにより、古いまたは不整合なasm_*.h
ファイルが原因で発生する可能性のあるビルドエラーやランタイムの問題が防止されます。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://golang.org/doc/
- Goのソースコードリポジトリ: https://github.com/golang/go
- Goのビルドプロセスに関する詳細(
go tool asm
やgo tool compile
について)は、Goのソースコード内のツール関連ドキュメントや、Goのコンパイラに関する技術記事でさらに深く学ぶことができます。
参考にした情報源リンク
- Goの
asm_*.h
ファイルとビルドプロセスに関するWeb検索結果- https://go.dev/
- https://maori.geek.nz/ (具体的な記事へのリンクは検索結果から辿る必要があります)
- Goのコミットメッセージと関連するコードレビュー(Gerrit)のリンク: https://golang.org/cl/5501070
- Gitのdiff形式に関する一般的な情報。
- Makefileの基本的な構文と
clean
ターゲットの慣習。