[インデックス 11002] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリである net/rpc パッケージのテストコードにおける些細なクリーンアップを目的としています。具体的には、server_test.go ファイル内のベンチマークテスト関数 benchmarkEndToEnd および benchmarkEndToEndAsync において、ダイヤルエラー発生時のエラーハンドリングを fmt.Println から b.Fatal または b.Fatalf へと変更しています。これにより、テストの失敗がより明確に報告され、テストフレームワークとの連携が改善されます。
コミット
commit 335c5db76a3cefb98fdd30068440497ed119a8eb
Author: Robert Hencke <robert.hencke@gmail.com>
Date: Fri Dec 23 22:01:46 2011 +0900
net/rpc: trivial test cleanup
R=golang-dev, mikioh.mikioh
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5498066
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/335c5db76a3cefb98fdd30068440497ed119a8eb
元コミット内容
net/rpc: trivial test cleanup
R=golang-dev, mikioh.mikioh
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5498066
変更の背景
この変更は、net/rpc パッケージのテストコードの品質と堅牢性を向上させるためのものです。以前のコードでは、RPCクライアントのダイヤル(接続確立)に失敗した場合、fmt.Println を使用してエラーメッセージを標準出力に表示し、その後 return で関数を終了していました。しかし、これはGoのテストフレームワーク testing パッケージの慣習に沿ったものではありませんでした。
testing パッケージの *testing.B (ベンチマーク) や *testing.T (テスト) オブジェクトには、テストの失敗を適切に報告するためのメソッドが用意されています。b.Fatal や b.Fatalf を使用することで、テストが失敗したことをテストランナーに明確に伝え、テストの実行を即座に停止させることができます。これにより、テスト結果の解釈が容易になり、CI/CDパイプラインなどでの自動テストの信頼性が向上します。
この「些細なクリーンアップ」は、コードの機能自体を変更するものではなく、テストコードの品質とGoのテストフレームワークのベストプラクティスへの準拠を目的としています。
前提知識の解説
Go言語の net/rpc パッケージ
net/rpc パッケージは、Go言語でRPC (Remote Procedure Call) を実装するための標準ライブラリです。これにより、異なるプロセスやネットワーク上のマシン間で関数を呼び出すことができます。クライアントはリモートの関数をローカルの関数であるかのように呼び出し、サーバーはその呼び出しを受け付けて処理し、結果をクライアントに返します。
Go言語の testing パッケージ
testing パッケージは、Go言語でユニットテストやベンチマークテストを作成するためのフレームワークです。
*testing.B: ベンチマークテスト関数に渡される型で、ベンチマークの実行を制御し、結果を報告するためのメソッドを提供します。b.Fatal(args ...interface{}): テストまたはベンチマークを失敗としてマークし、現在のゴルーチンをruntime.Goexitで終了させます。これにより、テストランナーは即座にテストの失敗を認識し、そのテストの実行を停止します。引数はfmt.Printと同様にフォーマットされます。b.Fatalf(format string, args ...interface{}):b.Fatalと同様ですが、引数はfmt.Printfと同様にフォーマットされます。
fmt.Println
fmt パッケージは、Go言語におけるフォーマットされたI/Oを実装するための標準ライブラリです。
fmt.Println(a ...interface{}) (n int, err error): 引数をデフォルトのフォーマットでフォーマットし、改行を追加して標準出力に書き込みます。エラーが発生しても、プログラムの実行は継続されます。テストコード内でこれを使用すると、エラーメッセージは表示されますが、テスト自体は失敗としてマークされず、後続のコードが実行されてしまう可能性があります。
技術的詳細
このコミットは、src/pkg/net/rpc/server_test.go ファイル内の2つのベンチマークテスト関数 benchmarkEndToEnd と benchmarkEndToEndAsync におけるエラーハンドリングロジックを変更しています。
変更前は、RPCクライアントのダイヤルに失敗した場合、以下のように処理されていました。
// benchmarkEndToEnd (変更前)
if err != nil {
fmt.Println("error dialing", err)
return
}
// benchmarkEndToEndAsync (変更前)
if err != nil {
b.Fatalf("error dialing:", err) // こちらは元々Fatalfだったが、メッセージが変更される
}
benchmarkEndToEnd では fmt.Println を使用していたため、エラーメッセージは出力されますが、テストランナーに対して明示的にテストが失敗したことを伝えることができませんでした。また、return によって関数は終了しますが、テストフレームワークがその失敗を捕捉するメカニズムがありませんでした。
benchmarkEndToEndAsync では既に b.Fatalf が使用されていましたが、このコミットではエラーメッセージのフォーマットが統一され、より簡潔になっています。
変更後は、両方の関数で b.Fatal または b.Fatalf を使用するように統一されました。
// benchmarkEndToEnd (変更後)
if err != nil {
b.Fatal("error dialing:", err)
}
// benchmarkEndToEndAsync (変更後)
if err != nil {
b.Fatal("error dialing:", err) // メッセージが統一され、FatalfからFatalへ変更
}
この変更により、ダイヤルエラーが発生した場合、b.Fatal が呼び出され、テストランナーは即座にそのベンチマークテストが失敗したと認識し、テストの実行を停止します。これは、テストの信頼性とデバッグの容易さを向上させる上で重要な改善です。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/net/rpc/server_test.go
+++ b/src/pkg/net/rpc/server_test.go
@@ -498,8 +498,7 @@ func benchmarkEndToEnd(dial func() (*Client, error), b *testing.B) {
once.Do(startServer)
client, err := dial()
if err != nil {
-\t\tfmt.Println("error dialing", err)
-\t\treturn
+\t\tb.Fatal("error dialing:", err)
}
// Synchronous calls
@@ -534,7 +533,7 @@ func benchmarkEndToEndAsync(dial func() (*Client, error), b *testing.B) {\
once.Do(startServer)
client, err := dial()
if err != nil {
-\t\tb.Fatalf("error dialing:", err)
+\t\tb.Fatal("error dialing:", err)
}
// Asynchronous calls
コアとなるコードの解説
上記のdiffは、src/pkg/net/rpc/server_test.go ファイルにおける2つの変更点を示しています。
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benchmarkEndToEnd関数内の変更:- fmt.Println("error dialing", err): 以前は、ダイヤルエラーが発生した場合にエラーメッセージを標準出力に表示していました。- return: その後、関数を終了していました。+ b.Fatal("error dialing:", err): 新しいコードでは、testing.BオブジェクトのFatalメソッドを使用しています。これにより、エラーメッセージが表示されるだけでなく、テストランナーに対してこのベンチマークテストが失敗したことを明示的に伝え、テストの実行を即座に停止させます。エラーメッセージのフォーマットもfmt.Printlnのデフォルトフォーマットから、より一般的なfmt.Printスタイルの引数リストに変更されています。
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benchmarkEndToEndAsync関数内の変更:- b.Fatalf("error dialing:", err): 以前はFatalfを使用していましたが、メッセージのフォーマットがfmt.Printfスタイルでした。+ b.Fatal("error dialing:", err): 新しいコードでは、Fatalメソッドを使用し、エラーメッセージのフォーマットをbenchmarkEndToEndと同様のfmt.Printスタイルに統一しています。機能的にはFatalfとFatalは似ていますが、引数の解釈方法が異なります。この変更は、コードの一貫性を高めることを目的としています。
これらの変更は、Goのテストフレームワークの慣習に沿って、テストの失敗をより効果的に報告するためのものです。
関連リンク
- Go CL 5498066: https://golang.org/cl/5498066
参考にした情報源リンク
- Go Documentation:
testingpackage: https://pkg.go.dev/testing - Go Documentation:
fmtpackage: https://pkg.go.dev/fmt - Go Documentation:
net/rpcpackage: https://pkg.go.dev/net/rpc