[インデックス 11045] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリtime
パッケージ内のAfter
関数とNewTicker
関数のgodoc(Goのドキュメンテーションコメント)を修正するものです。具体的には、これらの関数が引数としてDuration
型を受け取るにもかかわらず、ドキュメント内で誤って「ns nanoseconds」という表現を使用していた点を、「duration d」や単に「time」といったより正確な表現に修正しています。
コミット
- コミットハッシュ:
1379d90651e80f0e47c296523d7902ee024536e9
- 作者: Sameer Ajmani sameer@golang.org
- 日付: Sat Jan 7 20:53:53 2012 -0500
time: fix godoc for After and NewTicker.
R=golang-dev, gri, bradfitz, iant
CC=golang-dev, rsc
https://golang.org/cl/5523049
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/1379d90651e80f0e47c296523d7902ee024536e9
元コミット内容
time: fix godoc for After and NewTicker.
R=golang-dev, gri, bradfitz, iant
CC=golang-dev, rsc
https://golang.org/cl/5523049
変更の背景
Go言語では、コードの可読性と保守性を高めるために、godocと呼ばれるドキュメンテーションシステムが採用されています。これは、ソースコード内の特定のコメント形式(関数、型、変数などの宣言の直前にあるコメント)を解析し、自動的にドキュメントを生成するものです。開発者はこのgodocを参照して、各APIの機能や使い方を理解します。
time
パッケージのAfter
関数とNewTicker
関数は、時間に関連する操作を行う上で非常に重要なAPIです。しかし、このコミット以前のgodocでは、これらの関数が引数としてtime.Duration
型を受け取るにもかかわらず、その説明が「ns nanoseconds」という具体的な単位に限定された表現になっていました。これは、Duration
型がナノ秒だけでなく、より抽象的な時間の長さを表現するものであるため、ドキュメントと実際のAPIの振る舞いの間に不一致を生じさせていました。
この不一致は、開発者がドキュメントを読んだ際に誤解を招く可能性があり、APIの正しい使用方法を妨げる恐れがありました。そのため、ドキュメントの正確性を向上させ、開発者がより直感的にAPIを理解できるようにするために、この修正が行われました。
前提知識の解説
Go言語のtime
パッケージ
time
パッケージは、Go言語で時間に関する操作(時刻の表現、時間の計測、タイマー、ティックなど)を行うための機能を提供します。
time.Duration
: Go言語における時間の長さを表す型です。これはint64
のエイリアスであり、ナノ秒単位で時間を内部的に保持しますが、開発者はtime.Second
やtime.Minute
といった定数を使って、より人間が理解しやすい形で時間を指定できます(例:5 * time.Second
)。time.After
関数: 指定されたDuration
が経過した後に、現在の時刻をチャネルに送信する関数です。非同期処理やタイムアウト処理によく利用されます。time.NewTicker
関数: 指定されたDuration
間隔で定期的に時刻をチャネルに送信するTicker
オブジェクトを生成する関数です。一定間隔での処理実行などに使用されます。time.NewTimer
関数: 指定されたDuration
が経過した後に一度だけ時刻をチャネルに送信するTimer
オブジェクトを生成する関数です。
godoc
godocは、Go言語のソースコードからドキュメンテーションを生成するためのツールおよびシステムです。関数、型、変数、定数などの宣言の直前に記述されたコメントが、その要素のドキュメントとして認識されます。godocの目的は、コードとドキュメントを密接に連携させ、常に最新の状態に保つことです。開発者はgo doc
コマンドや、Goの公式ドキュメントサイト(pkg.go.devなど)を通じてgodocを参照します。
技術的詳細
このコミットの技術的なポイントは、ドキュメンテーションの正確性と一貫性を向上させることにあります。
time.Duration
型は、内部的にはナノ秒で表現されますが、そのAPIはナノ秒という具体的な単位に縛られることなく、より抽象的な「時間の長さ」として扱われるべきです。例えば、time.Second
やtime.Minute
といった定数を使用することで、開発者はナノ秒を意識することなく、直感的に時間の長さを指定できます。
修正前のgodocでは、NewTimer
関数の説明で「after at least ns nanoseconds」と記述されており、After
関数では「It is equivalent to NewTimer(ns).C.」と記述されていました。また、NewTicker
関数では「time, in nanoseconds, with a period specified by the duration argument.」と記述されていました。これらの表現は、引数がDuration
型であるにもかかわらず、ナノ秒という具体的な単位に言及しており、Duration
型の抽象性を損なっていました。
このコミットでは、以下の修正が行われました。
NewTimer
関数のgodoc: 「the current time on its channel after at least ns nanoseconds.」から「the current time on its channel after at least duration d.」に変更されました。これにより、引数d
がDuration
型であることを明確にし、ナノ秒という具体的な単位への言及を避けました。After
関数のgodoc: 「It is equivalent to NewTimer(ns).C.」から「It is equivalent to NewTimer(d).C.」に変更されました。これも同様に、引数d
がDuration
型であることを明確にしています。NewTicker
関数のgodoc: 「the time, in nanoseconds, with a period specified by the duration argument.」から「the time with a period specified by the duration argument.」に変更されました。ここでも「in nanoseconds」という具体的な単位への言及が削除され、より汎用的な「time」という表現が用いられています。
これらの変更により、godocはtime.Duration
型の本来の意図とより一致するようになり、開発者がAPIをより正確に理解し、適切に使用できるようになりました。これは、Go言語のドキュメンテーションの品質を維持し、開発者体験を向上させる上で重要な修正です。
コアとなるコードの変更箇所
diff --git a/src/pkg/time/sleep.go b/src/pkg/time/sleep.go
index b4680db238..27820b0eaa 100644
--- a/src/pkg/time/sleep.go
+++ b/src/pkg/time/sleep.go
@@ -41,7 +41,7 @@ func (t *Timer) Stop() (ok bool) {
}
// NewTimer creates a new Timer that will send
-// the current time on its channel after at least ns nanoseconds.
+// the current time on its channel after at least duration d.
func NewTimer(d Duration) *Timer {
c := make(chan Time, 1)
t := &Timer{
@@ -70,7 +70,7 @@ func sendTime(now int64, c interface{}) {
// After waits for the duration to elapse and then sends the current time
// on the returned channel.
-// It is equivalent to NewTimer(ns).C.
+// It is equivalent to NewTimer(d).C.
func After(d Duration) <-chan Time {
return NewTimer(d).C
}
diff --git a/src/pkg/time/tick.go b/src/pkg/time/tick.go
index 4440c2207b..8c6b9bc3b2 100644
--- a/src/pkg/time/tick.go
+++ b/src/pkg/time/tick.go
@@ -14,7 +14,7 @@ type Ticker struct {
}
// NewTicker returns a new Ticker containing a channel that will send the
-// time, in nanoseconds, with a period specified by the duration argument.
+// time with a period specified by the duration argument.
// It adjusts the intervals or drops ticks to make up for slow receivers.
// The duration d must be greater than zero; if not, NewTicker will panic.
func NewTicker(d Duration) *Ticker {
コアとなるコードの解説
src/pkg/time/sleep.go
の変更
-
NewTimer
関数のgodoc修正:- 変更前:
// the current time on its channel after at least ns nanoseconds.
- 変更後:
// the current time on its channel after at least duration d.
- 解説:
NewTimer
関数はDuration
型の引数d
を受け取ります。変更前は「ns nanoseconds」という具体的な単位で説明されていましたが、これはDuration
型がナノ秒だけでなく、より抽象的な時間の長さを表現するものであるため、誤解を招く可能性がありました。変更後は、引数名d
と型Duration
に合わせた「duration d」という表現に修正され、より正確で汎用的な説明になりました。
- 変更前:
-
After
関数のgodoc修正:- 変更前:
// It is equivalent to NewTimer(ns).C.
- 変更後:
// It is equivalent to NewTimer(d).C.
- 解説:
After
関数は内部的にNewTimer
関数を利用しており、その引数もDuration
型です。変更前は「NewTimer(ns).C」と記述されていましたが、これもNewTimer
の引数名に合わせて「NewTimer(d).C」に修正されました。これにより、After
関数がDuration
型の引数d
を受け取ることをより明確に示しています。
- 変更前:
src/pkg/time/tick.go
の変更
NewTicker
関数のgodoc修正:- 変更前:
// time, in nanoseconds, with a period specified by the duration argument.
- 変更後:
// time with a period specified by the duration argument.
- 解説:
NewTicker
関数もDuration
型の引数を受け取ります。変更前は「in nanoseconds」という表現が含まれていましたが、Duration
型はナノ秒以外の単位(秒、分など)でも指定できるため、この表現は不適切でした。変更後は「in nanoseconds」が削除され、単に「time」とすることで、より抽象的で正確な説明になっています。
- 変更前:
これらの変更は、コードの機能自体には影響を与えませんが、Goのドキュメンテーションの品質と正確性を向上させる上で非常に重要です。開発者がAPIを理解し、適切に使用するための手助けとなります。
関連リンク
- Go CL 5523049: https://golang.org/cl/5523049
参考にした情報源リンク
- Go言語公式ドキュメント:
time
パッケージ (https://pkg.go.dev/time) - Go言語のgodocに関する情報 (一般的な知識)