[インデックス 11102] ファイルの概要
このコミットは、Goプロジェクトのビルドシステム(gobuilder)における環境変数の取り扱いを調整するものです。具体的には、一時ディレクトリを示すTMPDIR
環境変数をサブプロセスに引き継ぐように変更し、同時にDISABLE_NET_TESTS
とMAKEFLAGS
という2つの環境変数の引き継ぎを停止しています。これにより、ビルドプロセスの安定性と効率性が向上することが期待されます。
コミット
commit 5cf803f438e1afd6ddd46c7536d45fd7a68731f1
Author: Andrew Gerrand <adg@golang.org>
Date: Wed Jan 11 15:44:20 2012 +1100
builder: pass through TMPDIR env var, drop DISABLE_NET_TESTS
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5530076
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/5cf803f438e1afd6ddd46c7536d45fd7a68731f1
元コミット内容
builder: pass through TMPDIR env var, drop DISABLE_NET_TESTS
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5530076
変更の背景
このコミットの背景には、Goプロジェクトの継続的インテグレーション(CI)システムであるgobuilderの運用における最適化と、ビルド・テストプロセスの安定性向上が挙げられます。
-
TMPDIR
環境変数の引き継ぎ: ビルドやテストの実行中に、コンパイラ、リンカ、テストスイートなどのツールは一時ファイルを生成することがよくあります。これらのツールが一時ファイルを保存する場所を適切に指定できない場合、エラーが発生したり、予期せぬ動作を引き起こしたりする可能性があります。TMPDIR
環境変数をサブプロセスに引き継ぐことで、これらのツールが親プロセスと同じ一時ディレクトリのパスを利用できるようになり、一時ファイルの管理がより堅牢になります。これは、特に異なる環境や設定でビルドが実行されるCIシステムにおいて重要です。 -
DISABLE_NET_TESTS
の削除:DISABLE_NET_TESTS
という環境変数は、おそらくネットワーク関連のテストを無効にするために使用されていたと考えられます。CI環境では、ネットワークアクセスが制限されていたり、外部ネットワークへの依存がテストの不安定性を引き起こす可能性があるため、このようなフラグが設けられることがあります。この変数が削除されたということは、Goのテストフレームワークやgobuilderのテスト実行戦略において、ネットワークテストの扱いが変更されたか、この変数がもはや不要になったことを示唆しています。例えば、ネットワークテストがより堅牢になり、常に実行しても問題ないようになった、あるいは別のより洗練された方法でテストの実行を制御するようになった、などが考えられます。 -
MAKEFLAGS
の削除:MAKEFLAGS
はmake
コマンドに渡されるフラグを定義する環境変数です。これが削除されたということは、gobuilderのビルドプロセスにおいてmake
コマンドの利用方法が変更されたか、MAKEFLAGS
をサブプロセスに引き継ぐ必要がなくなったことを示唆しています。Goプロジェクトでは、Go自身のビルドシステム(go build
など)が主要であり、make
の依存が減った可能性も考えられます。
これらの変更は、gobuilderの環境設定をより効率的かつ堅牢にし、ビルドおよびテストプロセスの信頼性を高めることを目的としています。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下の概念について基本的な知識があると役立ちます。
-
Go Builder (gobuilder): Go言語プロジェクトの公式な継続的インテグレーション(CI)システムの一部です。世界中の様々なアーキテクチャ、オペレーティングシステム、GoのバージョンでGoのコードを自動的にビルドし、テストを実行します。これにより、Goのコードベースの品質と互換性が維持されます。gobuilderは、Goのコミットがプッシュされるたびに自動的に動作し、問題がないことを確認します。
-
環境変数 (Environment Variables): オペレーティングシステムが提供する動的な名前付き値のセットで、実行中のプロセスがアクセスできます。これらは、プログラムの動作を構成したり、システムに関する情報を提供したりするために使用されます。例えば、
PATH
環境変数は実行可能ファイルを探すディレクトリのリストを定義し、HOME
はユーザーのホームディレクトリを示します。 -
TMPDIR
環境変数: 一時ファイルを格納するためのディレクトリのパスを指定する標準的な環境変数です。多くのアプリケーションやシステムツールは、一時的なデータやキャッシュを保存するためにこの変数で指定されたディレクトリを使用します。この変数が設定されていない場合、システムはデフォルトの一時ディレクトリ(例:/tmp
やC:\Windows\Temp
)を使用します。 -
go build
とgo test
: Go言語の標準ツールチェーンに含まれるコマンドです。go build
: Goのソースコードをコンパイルして実行可能ファイルを生成します。go test
: Goのテストコードを実行します。テストの実行中には、一時ファイルが生成されることがあります。
-
継続的インテグレーション (CI): ソフトウェア開発のプラクティスの一つで、開発者がコードの変更を共有リポジトリに頻繁にマージし、そのたびに自動化されたビルドとテストを実行します。これにより、統合の問題を早期に発見し、解決することができます。
-
Go Change List (CL): Goプロジェクトでは、コードの変更はGitHubのプルリクエストではなく、Gerritというコードレビューシステムを通じて管理されます。各変更は「Change List (CL)」として提出され、レビューと承認を経てメインのコードベースにマージされます。コミットメッセージにある
https://golang.org/cl/5530076
は、この変更に対応するGerritのCLへのリンクです。
技術的詳細
このコミットは、misc/dashboard/builder/main.go
ファイル内のextraEnv
というGoの文字列スライスを変更しています。このextraEnv
スライスは、gobuilderがその子プロセス(Goのビルドやテストを実行するプロセスなど)に引き継ぐ環境変数のリストを定義しています。
変更の技術的な詳細は以下の通りです。
-
TMPDIR
の追加:extraEnv
スライスに"TMPDIR"
が追加されました。- これにより、gobuilderが起動するすべてのサブプロセスは、親プロセス(gobuilder自身)の
TMPDIR
環境変数の値を継承するようになります。 - この変更の主な目的は、サブプロセスが一時ファイルを生成する際に、適切な一時ディレクトリのパスを確実に利用できるようにすることです。例えば、Goコンパイラやテストランナーが一時的なオブジェクトファイルやテスト結果を保存する際に、この
TMPDIR
のパスを使用します。これにより、一時ファイルの作成に関するエラーが減少し、ビルドおよびテストプロセスの信頼性が向上します。
-
DISABLE_NET_TESTS
の削除:extraEnv
スライスから"DISABLE_NET_TESTS"
が削除されました。- これは、この環境変数がもはやgobuilderのサブプロセスに引き継がれる必要がないことを意味します。
- 考えられる理由としては、Goのテストスイートにおけるネットワークテストの実行方法が変更された、またはネットワークテストの安定性が向上し、特定の環境変数で無効化する必要がなくなった、などが挙げられます。これにより、gobuilderのテスト実行ロジックが簡素化された可能性があります。
-
MAKEFLAGS
の削除:extraEnv
スライスから"MAKEFLAGS"
が削除されました。- これは、
make
コマンドに渡されるフラグを定義するこの環境変数が、gobuilderのサブプロセスにとって不要になったことを示唆しています。 - Goプロジェクトのビルドは主に
go build
コマンドによって行われるため、make
の利用は限定的です。この変更は、gobuilderのビルドプロセスにおけるmake
への依存が減少したか、MAKEFLAGS
が別の方法で管理されるようになったことを示している可能性があります。
-
GOHOSTOS
とGOARM
の順序変更:GOHOSTOS
とGOARM
の環境変数のエントリは、extraEnv
スライス内で順序が入れ替わっています。- これは機能的な変更ではなく、リストの整理や、他の追加・削除に伴う副次的な変更であると考えられます。Goのビルドプロセスにおいて、これらの環境変数の順序が動作に影響を与えることは通常ありません。
これらの変更は、gobuilderの環境設定をより洗練させ、不要な環境変数の引き継ぎを停止し、必要なTMPDIR
の引き継ぎを確実に行うことで、ビルドシステムの堅牢性と効率性を高めることを目的としています。
コアとなるコードの変更箇所
変更は、misc/dashboard/builder/main.go
ファイル内の extraEnv
スライス定義にあります。
--- a/misc/dashboard/builder/main.go
+++ b/misc/dashboard/builder/main.go
@@ -33,12 +33,11 @@ const (
// These variables are copied from the gobuilder's environment
// to the envv of its subprocesses.
var extraEnv = []string{
- "GOHOSTOS",
+ "GOARM",
"GOHOSTARCH",
+ "GOHOSTOS",
"PATH",
- "DISABLE_NET_TESTS",
- "MAKEFLAGS",
- "GOARM",
+ "TMPDIR",
}
コアとなるコードの解説
extraEnv
スライスは、Go ビルダーがその子プロセスに引き継ぐ環境変数のリストを定義しています。このコミットでは、このリストに対して以下の変更が行われました。
TMPDIR
の追加:extraEnv
リストに"TMPDIR"
が追加されました。これにより、Go ビルダーが起動するサブプロセスは、親プロセスからTMPDIR
の値を継承するようになります。これは、一時ファイルの作成や管理が適切に行われることを保証し、ビルドやテストの安定性向上に寄与します。DISABLE_NET_TESTS
の削除:DISABLE_NET_TESTS
環境変数がextraEnv
リストから削除されました。これは、この変数がもはやサブプロセスに引き継がれる必要がないことを示唆しています。おそらく、ネットワークテストの制御方法が変更されたか、この変数が不要になったためと考えられます。MAKEFLAGS
の削除:MAKEFLAGS
環境変数がextraEnv
リストから削除されました。同様に、サブプロセスには渡されなくなります。これは、Makefile
の利用方法の変更、またはMAKEFLAGS
がサブプロセスに引き継がれる必要がなくなったことを示唆しています。GOHOSTOS
とGOARM
の順序変更:GOHOSTOS
とGOARM
のエントリはリスト内で順序が入れ替わっていますが、これは機能的な変更ではなく、リストの整理または他の変更に伴う副次的なものです。
これらの変更は、Go ビルダーの環境設定を最適化し、ビルドプロセスの一時ファイル管理を改善し、不要になった環境変数の引き継ぎを停止することを目的としています。
関連リンク
- Go Change List (CL): このコミットに対応するGerritのコードレビューページ。 https://golang.org/cl/5530076
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント(gobuilder、環境変数、
go build
、go test
に関する一般的な情報) - 一般的なオペレーティングシステムにおける環境変数(特に
TMPDIR
)の概念 - 継続的インテグレーション(CI)システムの一般的なプラクティス