[インデックス 11192] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の実験的なexp/terminalパッケージにおけるMakefileのビルド問題を修正するものです。具体的には、Linux以外のオペレーティングシステムでのビルドが正しく行われるように、Makefile内の条件分岐を変更しています。この変更は、Makefileが将来的に廃止される予定であることを示唆しています。
コミット
commit 3735cf7b09e029bb04995d082eeee12ff5834a80
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Mon Jan 16 17:49:58 2012 -0500
exp/terminal: fix build on non-Linux using Makefiles
The Makefiles will go away soon.
R=agl
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5544081
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/3735cf7b09e029bb04995d082eeee12ff5834a80
元コミット内容
exp/terminal: fix build on non-Linux using Makefiles
The Makefiles will go away soon.
R=agl
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5544081
変更の背景
このコミットの主な背景は、exp/terminalパッケージがLinux以外の環境でビルドされる際に発生していた問題を解決することにあります。当時のGoプロジェクトでは、一部のパッケージのビルドにMakefileが使用されていましたが、プラットフォーム間の互換性において課題を抱えていました。
特に、exp/terminalパッケージ内のutil.goファイルは、特定のOS(この場合はLinux)に依存するコードを含んでいました。元のMakefileでは、Windows以外のOSであればutil.goを含めるという条件になっていましたが、これはLinuxに特化したコードが他の非Windows環境(例: macOS, FreeBSDなど)でビルドされる際に問題を引き起こす可能性がありました。
この修正は、util.goがLinux環境でのみビルドに含まれるように条件を厳密化することで、非Linux環境でのビルドエラーを防ぐことを目的としています。また、コミットメッセージにある「The Makefiles will go away soon.」という記述は、Goプロジェクトが将来的にMakefileに依存しない、よりポータブルなビルドシステム(後のGo ModulesやGoコマンドによるビルド)へと移行する過渡期であったことを示唆しています。
前提知識の解説
Go言語のビルドシステムとMakefile
Go言語は、その設計思想としてシンプルなビルドプロセスを重視しており、通常はgo buildコマンドを使用します。しかし、プロジェクトの初期段階や特定の複雑なビルド要件を持つパッケージでは、Makefileが利用されることがありました。Makefileは、プログラムのコンパイルやリンクなどのビルドプロセスを自動化するためのツールであり、makeコマンドによって実行されます。
exp/terminalパッケージ
exp/terminalは、Go言語の標準ライブラリの一部としてではなく、実験的な(expは"experimental"の略)パッケージとして提供されていたものです。このパッケージは、ターミナル(コマンドラインインターフェース)との対話に関連する機能を提供することを目的としていました。例えば、ターミナルの設定変更(エコーの無効化、rawモードへの切り替えなど)や、キー入力の読み取りなどが含まれます。このような低レベルのターミナル操作は、OSに依存する部分が多く、プラットフォームごとの実装が必要となる場合があります。
GOOS環境変数
GOOSはGo言語のビルドシステムで使用される環境変数で、ターゲットとなるオペレーティングシステムを示します。例えば、linux、windows、darwin(macOS)、freebsdなどがあります。Goのクロスコンパイル機能において非常に重要であり、GOOSとGOARCH(ターゲットアーキテクチャ)を設定することで、異なるOSやCPUアーキテクチャ向けのバイナリを生成できます。
Makefileにおける条件分岐 (ifeq, ifneq)
Makefileでは、ifeq(if equal)とifneq(if not equal)というディレクティブを使って条件分岐を記述できます。これらは、指定された2つの引数が等しいか否かによって、その後の行をビルドプロセスに含めるかどうかを制御します。
ifeq (ARG1, ARG2):ARG1とARG2が等しい場合に真。ifneq (ARG1, ARG2):ARG1とARG2が等しくない場合に真。
このコミットでは、$(GOOS)という変数(GoのターゲットOS)と特定の文字列(windowsやlinux)を比較することで、OSに応じたファイルのインクルードを制御しています。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、src/pkg/exp/terminal/MakefileにおけるGOFILES変数へのutil.goの追加条件の変更です。
元のMakefileの記述は以下の通りでした。
ifneq ($(GOOS),windows)
GOFILES+=\
util.go
endif
これは、「GOOSがwindowsではない場合、GOFILESにutil.goを追加する」という意味です。つまり、Linux、macOS、FreeBSDなど、Windows以外のすべてのOSでutil.goがビルド対象に含まれることになります。しかし、util.goがLinux固有のシステムコールやAPIを使用している場合、Windows以外のOSであってもLinuxではない環境ではビルドエラーが発生する可能性がありました。
このコミットによる変更後の記述は以下の通りです。
ifeq ($(GOOS),linux)
GOFILES+=\
util.go
endif
これは、「GOOSがlinuxである場合のみ、GOFILESにutil.goを追加する」という意味になります。この変更により、util.goはLinux環境でのみビルド対象となり、macOSやFreeBSDなどの非Linux環境では含まれなくなります。これにより、util.goがLinuxに依存するコードを含んでいたとしても、他のOSでのビルドが妨げられることがなくなりました。
この修正は、Goのクロスプラットフォーム対応における重要な側面を示しています。特定のOSに依存するコードは、そのOSでのみビルドされるように明示的に制御する必要があるという原則です。Makefileのようなビルドスクリプトにおいて、GOOSのような環境変数を利用した条件分岐は、このようなプラットフォーム固有の要件を管理するための一般的な手法です。
また、コミットメッセージにある「The Makefiles will go away soon.」という一文は、Goプロジェクトがより洗練された、Goコマンド自体が提供するビルドメカニズムへと移行していく方針を示唆しています。これは、Goのビルドプロセスが外部ツールへの依存を減らし、よりGoらしいシンプルな方法で完結することを目指していたことを意味します。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/exp/terminal/Makefile
+++ b/src/pkg/exp/terminal/Makefile
@@ -8,7 +8,7 @@ TARG=exp/terminal
GOFILES=\
terminal.go\
\
-ifneq ($(GOOS),windows)\
+ifeq ($(GOOS),linux)\
GOFILES+=\
util.go
endif
コアとなるコードの解説
この差分は、src/pkg/exp/terminal/Makefileファイル内のわずか2行の変更を示しています。
-ifneq ($(GOOS),windows)\: この行は削除されました。これは、GoのターゲットOS ($(GOOS)) がwindowsではない場合に、util.goをビルド対象のファイルリスト (GOFILES) に追加するという条件でした。+ifeq ($(GOOS),linux)\: この行が追加されました。これは、GoのターゲットOS ($(GOOS)) がlinuxである場合にのみ、util.goをGOFILESに追加するという条件です。
この変更により、util.goファイルは、以前はWindows以外のすべてのOSでビルド対象となっていたものが、今後はLinux環境でのみビルド対象となるように厳密化されました。これにより、util.goがLinux固有の機能に依存している場合でも、macOSやFreeBSDなどの他の非Linux環境でビルドエラーが発生するのを防ぐことができます。これは、Goのクロスプラットフォームビルドの堅牢性を高めるための重要な修正です。
関連リンク
- Go CL (Code Review) 5544081: https://golang.org/cl/5544081
参考にした情報源リンク
- 特になし (提供された情報と一般的なGoおよびMakefileの知識に基づいています)