[インデックス 11238] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のgo/doc
パッケージにおけるWindowsビルドの問題を修正するものです。具体的には、テスト出力に含まれるファイル名がWindows環境で生成される際にバックスラッシュ(\
)を含むパスになってしまい、ゴールデンファイル(期待される出力)との比較が失敗する問題を解決します。filepath.ToSlash
関数を使用して、ファイル名を常にスラッシュ(/
)区切りに正規化することで、このクロスプラットフォーム互換性の問題を解消しています。
コミット
- コミットハッシュ:
eaf8295f3d587fcd615dbaa310954e9e6e5cdad5
- Author: Robert Griesemer gri@golang.org
- Date: Wed Jan 18 14:59:58 2012 -0800
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/eaf8295f3d587fcd615dbaa310954e9e6e5cdad5
元コミット内容
fix windows build: always use / in filenames of go/doc test output
R=r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5554055
変更の背景
Go言語のgo/doc
パッケージは、Goのソースコードからドキュメントを生成するためのツールです。このパッケージには、生成されたドキュメントの出力が正しいことを検証するためのテスト(doc_test.go
)が含まれています。
問題は、Windows環境でこれらのテストを実行した際に発生しました。Windowsのファイルシステムではパスの区切り文字としてバックスラッシュ(\
)が使用されますが、Unix系システム(Linux, macOSなど)ではスラッシュ(/
)が使用されます。go/doc
パッケージのテストでは、生成されたドキュメントのファイル名リストを、事前に用意された「ゴールデンファイル」と呼ばれる期待される出力と比較します。
Windowsでテストを実行すると、doc.Filenames
に含まれるパスがバックスラッシュ区切りになり、ゴールデンファイルのスラッシュ区切りパスと一致しないため、テストが失敗していました。このコミットは、このクロスプラットフォームでのパス区切り文字の違いに起因するビルドエラー(テスト失敗)を修正することを目的としています。
前提知識の解説
go/doc
パッケージ
go/doc
パッケージは、Goのソースコードからパッケージ、関数、型、変数などのドキュメントを抽出・整形するための標準ライブラリです。go doc
コマンドやGoの公式ドキュメントサイト(pkg.go.dev)などで利用されています。このパッケージは、GoのAST(抽象構文木)を解析し、コメントや宣言からドキュメント情報を構築します。
path/filepath
パッケージとパス区切り文字
Go言語の標準ライブラリには、ファイルパスを操作するためのpath/filepath
パッケージがあります。このパッケージは、オペレーティングシステム(OS)に依存しないパス操作を提供することを目的としています。
- OS固有のパス区切り文字:
- Windows:
\
(バックスラッシュ) - Unix系 (Linux, macOS):
/
(スラッシュ)
- Windows:
filepath.ToSlash
関数:filepath.ToSlash
関数は、OS固有のパス区切り文字をスラッシュ(/
)に変換します。例えば、Windows環境でC:\Users\user\file.txt
というパスがあった場合、filepath.ToSlash
を適用するとC:/Users/user/file.txt
に変換されます。これは、パスをOSに依存しない形式で表現したい場合や、URLのようにスラッシュ区切りが期待されるコンテキストでパスを使用する場合に非常に有用です。filepath.FromSlash
関数: 逆に、filepath.FromSlash
関数は、スラッシュ区切りのパスをOS固有のパス区切り文字に変換します。
ゴールデンファイルテスト
ソフトウェア開発において、特に出力がテキスト形式である場合によく用いられるテスト手法です。
- 期待される出力の保存: テスト対象のコードが生成する「正しい」とされる出力をファイル(ゴールデンファイルまたはスナップショット)として保存します。
- テスト実行時の比較: テスト実行時に、テスト対象のコードが生成した実際の出力を、保存しておいたゴールデンファイルの内容と比較します。
- 一致の確認: 両者が完全に一致すればテストは成功、一致しなければテストは失敗と判断されます。
この手法は、出力の正確性を保証するだけでなく、意図しない変更(リグレッション)を検出するのにも役立ちます。今回のケースでは、
go/doc
のテスト出力に含まれるファイル名リストがゴールデンファイルと比較されていました。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細の核心は、クロスプラットフォームでのパス表現の一貫性を確保することにあります。
go/doc
パッケージは、ドキュメントを生成する際に、対象となるGoソースファイルのパス情報をdoc.Filenames
というスライスに格納します。Windows環境でこのテストを実行すると、doc.Filenames
にはsrc\pkg\go\doc\doc.go
のようなバックスラッシュ区切りのパスが格納されます。しかし、テストのゴールデンファイルは、通常、Unix系環境で生成されるため、src/pkg/go/doc/doc.go
のようなスラッシュ区切りのパスを期待しています。
この不一致がテスト失敗の原因でした。解決策は、doc.Filenames
に格納されたパスを、ゴールデンファイルが期待するスラッシュ区切り形式に正規化することです。
filepath.ToSlash
関数は、この正規化を効率的に行います。この関数は、入力されたパス文字列内のすべてのOS固有のパス区切り文字(Windowsでは\
)をスラッシュ(/
)に置換します。これにより、Windowsで生成されたパスも、Unix系環境で生成されたパスと同じ形式になり、ゴールデンファイルとの比較が常に成功するようになります。
この修正は、go/doc
パッケージのテストが、どのOS環境で実行されても一貫した結果を生成し、Windows環境でのビルドが安定して成功するようにするために不可欠でした。
コアとなるコードの変更箇所
src/pkg/go/doc/doc_test.go
ファイルに以下の変更が加えられました。
--- a/src/pkg/go/doc/doc_test.go
+++ b/src/pkg/go/doc/doc_test.go
@@ -77,6 +77,11 @@ func Test(t *testing.T) {
importpath := dataDir + "/" + pkg.Name
doc := New(pkg, importpath, 0)
+ // golden files always use / in filenames - canonicalize them
+ for i, filename := range doc.Filenames {
+ doc.Filenames[i] = filepath.ToSlash(filename)
+ }
+
// print documentation
var buf bytes.Buffer
if err := templateTxt.Execute(&buf, bundle{doc, fset}); err != nil {
コアとなるコードの解説
追加されたコードは、Test
関数内でgo/doc
パッケージのドキュメントオブジェクト(doc
)が生成された直後に実行されます。
// golden files always use / in filenames - canonicalize them
for i, filename := range doc.Filenames {
doc.Filenames[i] = filepath.ToSlash(filename)
}
- コメント:
// golden files always use / in filenames - canonicalize them
このコメントは、このコードブロックの目的を明確に説明しています。「ゴールデンファイルは常にファイル名にスラッシュを使用するため、それらを正規化する」という意味です。 - ループ:
for i, filename := range doc.Filenames
doc.Filenames
は、go/doc
パッケージが解析したソースファイルのパスを文字列のスライスとして保持しています。このループは、そのスライス内の各ファイル名(filename
)とそのインデックス(i
)を順番に処理します。 - 正規化:
doc.Filenames[i] = filepath.ToSlash(filename)
ループの各イテレーションで、現在のfilename
に対してfilepath.ToSlash
関数が呼び出されます。この関数は、OS固有のパス区切り文字(Windowsでは\
)をスラッシュ(/
)に変換します。変換された結果のパス文字列は、元のdoc.Filenames
スライスの同じインデックスに上書きされます。
この変更により、doc.Filenames
内のすべてのパスがスラッシュ区切りに統一され、その後のゴールデンファイルとの比較がOSに依存せず正しく行われるようになります。結果として、Windows環境でのテスト失敗が解消され、ビルドプロセスが安定します。
関連リンク
- Go Change List: https://golang.org/cl/5554055
参考にした情報源リンク
- Web search results for "go filepath.ToSlash windows build go/doc package"
- phillipsj.net (https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQEsgsGqZUQywicVz5Pd2J-GTPMtMtsN6_jVgQaWNiE5u3QMYBuqMQDOEEaOC6Gt5ABIAGG2VUfDD5aFHobdR0uz2PY51mcT8SZ-Pui_seY_aLRx2HbCadmgX9h1imexlvzQ3eEdkgWs4X7E5FDNsmUj9q55c-2mpx8=)
- googlesource.com (https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQFk8XB6dVtpby6bjCfEwcWsEVRyfbS9318-zlEwTPHprQO0Fq1Ovn8bT0_Xr71T5IuplxQ2PmCNqX357lCvzxUfHdUNQlY2YrhWRXOo2VAb1dzT_fqLg5tyU5wMWQP2thwcUSDEbU7TSBXwUIXtiL7YwRUEljGSC0MCuuPA441T9aM=)