[インデックス 11275] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリである os/exec
パッケージ内の LookPath
関数における、些細なメモリ割り当て(アロケーション)を削減するための変更です。具体的には、文字列の結合処理を最適化し、一時的な文字列生成を減らすことで、わずかながらパフォーマンスの向上とメモリ使用量の削減を図っています。
コミット
commit 01a0d39a7fb23cc45773fadce09603c41f3e82da
Author: Gustavo Niemeyer <gustavo@niemeyer.net>
Date: Thu Jan 19 20:17:46 2012 -0200
os/exec: trivial allocation removal in LookPath
R=golang-dev, bsiegert, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5549043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/01a0d39a7fb23cc45773fadce09603c41f3e82da
元コミット内容
os/exec: trivial allocation removal in LookPath
変更の背景
この変更の背景には、Go言語の標準ライブラリの効率性を追求する継続的な取り組みがあります。特に、os/exec
パッケージの LookPath
関数は、実行可能ファイルのパスを環境変数 PATH
から検索するという、システムコールを伴う可能性のある頻繁に呼び出される関数です。このような低レベルで頻繁に利用される関数においては、たとえ「些細な(trivial)」ものであっても、不要なメモリ割り当てを削減することが全体のパフォーマンス向上に寄与します。
Go言語では、文字列の結合(+
演算子など)は新しい文字列を生成し、そのためのメモリを割り当てます。同じ文字列結合が複数回行われる場合、その都度メモリ割り当てが発生し、ガベージコレクションの負荷が増加する可能性があります。このコミットは、このような重複するメモリ割り当てを特定し、一度の割り当てで済むようにコードを修正することで、リソースの効率的な利用を目指しています。
前提知識の解説
1. Go言語の os/exec
パッケージ
os/exec
パッケージは、外部コマンドを実行するための機能を提供します。このパッケージは、新しいプロセスを生成し、その入出力を制御するためのインターフェースを提供します。
exec.Command
: 実行するコマンドと引数を指定してCmd
構造体を作成します。Cmd.Run()
/Cmd.Start()
: コマンドを実行します。exec.LookPath
: 環境変数PATH
に従って、指定された実行可能ファイルのフルパスを検索します。このコミットの対象となっている関数です。
2. LookPath
関数の役割
LookPath
関数は、Unix系システムにおけるシェルがコマンドを探すのと同様のロジックで、指定されたファイル名に対応する実行可能ファイルを PATH
環境変数で指定されたディレクトリ群から探し出します。例えば、ls
コマンドを実行する際に、システムは /bin/ls
や /usr/bin/ls
といったパスを PATH
から検索し、最初に見つかったものを利用します。
3. Go言語における文字列結合とメモリ割り当て
Go言語において、+
演算子を用いた文字列結合は、新しい文字列オブジェクトを生成します。例えば、s1 + s2
という操作は、s1
と s2
の内容を結合した新しい文字列を格納するためのメモリをヒープ上に割り当てます。この操作がループ内で頻繁に行われたり、同じ結合が複数回繰り返されたりすると、不要なメモリ割り当てが累積し、ガベージコレクタの負担が増大する可能性があります。これは、特にパフォーマンスが重視される低レベルのコードや、頻繁に呼び出される関数において問題となることがあります。
4. ガベージコレクション (GC)
ガベージコレクションは、プログラムが動的に割り当てたメモリのうち、もはや使用されていない(参照されていない)領域を自動的に解放するプロセスです。Go言語には効率的なガベージコレクタが組み込まれていますが、不要なメモリ割り当てが多すぎると、GCが頻繁に実行され、プログラムの実行が一時的に停止する(ストップ・ザ・ワールド)時間が長くなるなど、パフォーマンスに悪影響を与える可能性があります。このため、可能な限りメモリ割り当てを減らすことは、Goプログラムのパフォーマンス最適化の一般的な手法の一つです。
技術的詳細
このコミットは、src/pkg/os/exec/lp_unix.go
ファイル内の LookPath
関数に対する変更です。変更前は、dir + "/" + file
という文字列結合が2回行われていました。
findExecutable(dir + "/" + file)
の引数として。return dir + "/" + file, nil
の戻り値として。
Go言語では、文字列結合のたびに新しい文字列が生成され、そのためのメモリが割り当てられます。したがって、変更前のコードでは、LookPath
が成功した場合、dir + "/" + file
という同じ文字列が2回生成され、2回メモリが割り当てられる可能性がありました。
このコミットでは、この重複する文字列生成とメモリ割り当てを避けるために、dir + "/" + file
の結果を一度 path
という変数に格納し、その path
変数を findExecutable
の呼び出しと return
ステートメントの両方で再利用するように修正しています。
これにより、LookPath
が成功した場合でも、dir + "/" + file
という文字列は一度だけ生成され、一度だけメモリが割り当てられるようになります。これは、非常に小さな最適化ですが、LookPath
のような頻繁に呼び出される可能性のある関数においては、累積的なパフォーマンス向上に寄与します。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/os/exec/lp_unix.go
ファイルの以下の部分です。
--- a/src/pkg/os/exec/lp_unix.go
+++ b/src/pkg/os/exec/lp_unix.go
@@ -47,8 +47,9 @@ func LookPath(file string) (string, error) {
// Unix shell semantics: path element "" means "."
dir = "."
}
- if err := findExecutable(dir + "/" + file); err == nil {
- return dir + "/" + file, nil
+ path := dir + "/" + file
+ if err := findExecutable(path); err == nil {
+ return path, nil
}
}
return "", &Error{file, ErrNotFound}
コアとなるコードの解説
変更前のコードでは、if err := findExecutable(dir + "/" + file); err == nil { ... }
の行で dir + "/" + file
という文字列が生成され、findExecutable
関数に渡されます。もし findExecutable
がエラーを返さず(つまり実行可能ファイルが見つかり)、条件が真になった場合、次の行 return dir + "/" + file, nil
で再び dir + "/" + file
という同じ文字列が生成され、返されます。
変更後のコードでは、まず path := dir + "/" + file
という行で、dir
と file
を結合した結果を path
という新しい変数に一度だけ代入します。その後、findExecutable(path)
の呼び出しと return path, nil
の両方で、この path
変数を再利用しています。
この修正により、dir + "/" + file
という文字列結合は一度しか行われなくなり、それに伴うメモリ割り当ても一度で済みます。これにより、LookPath
関数が呼び出されるたびに発生する可能性のある、わずかながらも重複したメモリ割り当てが削減されます。これは、特に LookPath
が頻繁に呼び出されるようなシナリオにおいて、ガベージコレクションの負荷を軽減し、全体的なパフォーマンスを向上させる効果が期待できます。
関連リンク
- Go言語
os/exec
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/os/exec - Go言語のコードレビューシステム (Gerrit) の変更リスト: https://golang.org/cl/5549043
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Go言語のソースコード
- Go言語における文字列操作とパフォーマンスに関する一般的な知識