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[インデックス 11380] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のドキュメンテーションツールである go/doc における、特定の「コーナーケース」を扱うためのテストケースを追加するものです。具体的には、Goの組み込み型(predeclared type)と同じ名前の型がユーザーによって再定義(オーバーライド)された場合に、go/doc がその情報を正しく処理し、ドキュメントに反映できることを確認するための変更です。

コミット

commit 57af5429e690e093ca41b0def2338f0b422f6984
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date:   Wed Jan 25 09:54:10 2012 -0800

    go/doc: test case for corner case (override of predecl. type)

    R=rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5575055

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/57af5429e690e093ca41b0def2338f0b422f6984

元コミット内容

go/doc: test case for corner case (override of predecl. type)

R=rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5575055

変更の背景

Go言語には int, string, uint のような、言語仕様によってあらかじめ定義されている「組み込み型(predeclared types)」が存在します。しかし、Goのパッケージ内でこれらの組み込み型と同じ名前の新しい型を定義することも可能です。これは「型の上書き(type shadowing/override)」と呼ばれます。

go/doc ツールは、Goのソースコードからドキュメントを生成する役割を担っています。このツールが、組み込み型が上書きされたような特殊なケースにおいて、その上書きされた型やそれに関連する関数を正しく認識し、適切なドキュメントを生成できるかどうかが課題となっていました。

このコミットは、このような「組み込み型の上書き」というコーナーケースに対する go/doc の挙動を検証するためのテストケースを追加することで、ツールの堅牢性を高めることを目的としています。特に、go/doc がドキュメント生成時に AllDecls のようなオプション(全ての宣言を表示するオプション)を考慮した場合に、上書きされた型がどのように扱われるべきかを明確にする意図があります。

前提知識の解説

go/doc ツール

go/doc は、Go言語の標準ライブラリの一部であり、Goのソースコードからパッケージのドキュメントを生成するためのツールです。godoc コマンドのバックエンドとしても利用されており、Goのコードベースを解析し、関数、型、変数、定数、メソッドなどの宣言とそのコメントを抽出し、構造化されたドキュメントを生成します。これにより、開発者はコードの意図や使い方を簡単に理解できます。

Goの組み込み型(Predeclared Types)

Go言語には、言語仕様によってあらかじめ定義されている基本的な型が多数存在します。これらは「組み込み型(predeclared types)」と呼ばれ、例えば以下のようなものがあります。

  • 数値型: int, int8, int16, int32, int64, uint, uint8, uint16, uint32, uint64, uintptr, float32, float64, complex64, complex128, byte, rune
  • 真偽値型: bool
  • 文字列型: string
  • エラー型: error

これらの型は、特別なインポートなしにGoのプログラム内で直接使用できます。

型の上書き(Type Shadowing/Override)

Go言語では、スコープのルールに従って、より内側のスコープで宣言された識別子が、より外側のスコープで宣言された同じ名前の識別子を「シャドウ(shadow)」することができます。これは型にも適用され、パッケージ内で組み込み型と同じ名前の新しい型を定義することが可能です。

例えば、組み込みの uint 型があるにもかかわらず、以下のように独自の uint 型を定義できます。

package mypackage

type uint struct {
    value int
}

この場合、mypackage 内では、組み込みの uint ではなく、新しく定義された uint struct{} が優先されます。go/doc は、このような状況で、どちらの uint がドキュメントされるべきか、あるいは両方がドキュメントされるべきかを適切に判断する必要があります。

go/docAllDecls オプション

go/doc がドキュメントを生成する際、通常はエクスポートされた(大文字で始まる)識別子のみを対象とします。しかし、内部的な宣言や、通常は表示されない詳細な情報を含めるためのオプションが存在することがあります。このコミットのテストケースのコメントに登場する AllDecls は、おそらく go/doc が全ての宣言(エクスポートされていないものも含む)をドキュメントに含めるようにする内部的なフラグまたは設定を指していると考えられます。このオプションが有効な場合、上書きされた組み込み型のような特殊な宣言もドキュメントに現れることが期待されます。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、go/doc がGoのソースコードを解析し、ドキュメントを生成する際の「名前解決」と「宣言の関連付け」のロジックにあります。

go/doc は、Goの抽象構文木(AST)を走査し、各宣言(型、関数、変数など)を識別します。この際、識別子の名前が組み込み型と衝突する場合、go/doc は以下の点を考慮する必要があります。

  1. デフォルトの挙動: 通常のドキュメント生成では、組み込み型を上書きするようなローカルな宣言は、そのパッケージの外部から見ると「隠蔽」されているため、ドキュメントに明示的に表示されないことが期待されます。b.0.golden ファイルはこのデフォルトの挙動をテストしています。
  2. AllDecls オプションの挙動: AllDecls のようなオプションが有効な場合、go/doc は全ての宣言を詳細に表示する必要があります。このとき、上書きされた組み込み型も、そのパッケージの内部的な詳細としてドキュメントに含めるべきです。b.1.golden ファイルはこの挙動をテストしており、type uint struct{} のような宣言がドキュメントに現れることを期待しています。
  3. 関連する関数の関連付け: 上書きされた型(例: type uint struct{}) に関連する関数(例: func UintFactory() uintfunc uintFactory() uint)がある場合、go/doc はこれらの関数が、組み込みの uint ではなく、ユーザー定義の uint に関連付けられていることを正しく認識し、ドキュメント内でその関連性を示す必要があります。特に、b.1.golden のコメント // Associated with uint type if AllDecls is set. は、この関連付けが AllDecls オプションに依存することを示唆しています。

このテストケースは、go/doc がこれらの複雑なシナリオを正確に処理し、一貫性のある正しいドキュメントを生成できることを保証するためのものです。特に、go/doc の内部的な型システムやシンボルテーブルが、組み込み型とユーザー定義型を区別し、適切なスコープで名前解決を行っているかを確認する重要な役割を果たします。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、go/doc のテストデータディレクトリに3つのファイルが追加・変更されています。

  1. src/pkg/go/doc/testdata/b.go:

    • 新しい関数 NotAFactory() intUintFactory() uintuintFactory() uint が追加されました。
    • 特に重要なのは、組み込みの uint 型を上書きする type uint struct{} の宣言が追加された点です。この型宣言には // overrides a predeclared type uint というコメントが付与されています。
    • 既存の func (x *T) M() メソッドも追加されています。
  2. src/pkg/go/doc/testdata/b.0.golden:

    • b.go の内容を go/doc がデフォルト設定で処理した場合の期待される出力が記述されています。
    • FUNCTIONS セクションに NotAFactory が追加されています。
    • TYPES セクションに func (x *T) M() が追加されています。
    • UintFactoryuintFactory、そして type uint struct{} はこのファイルには含まれていません。これは、デフォルトの go/doc の挙動では、これらの宣言が特定の条件(例えば、エクスポートされていない、または組み込み型を上書きしているため)で表示されないことを示唆しています。
  3. src/pkg/go/doc/testdata/b.1.golden:

    • b.go の内容を go/docAllDecls オプションを有効にして処理した場合の期待される出力が記述されています。
    • FUNCTIONS セクションに NotAFactory が追加されています。
    • TYPES セクションに func (x *T) M() が追加されています。
    • 重要な変更点: TYPES セクションに type uint struct{} が追加され、その下に UintFactory()uintFactory() が関連付けられて表示されています。これは、AllDecls が有効な場合に、上書きされた uint 型とその関連関数がドキュメントに現れるべきであることを示しています。

コアとなるコードの解説

このコミットの「コード」は、主にテストケースとして機能する b.go ファイルとその期待される出力である .golden ファイル群です。

src/pkg/go/doc/testdata/b.go の追加内容

// Corner cases: association with (presumed) predeclared types

// Always under the package functions list.
func NotAFactory() int {}

// Associated with uint type if AllDecls is set.
func UintFactory() uint {}

// Associated with uint type if AllDecls is set.
func uintFactory() uint {}

// Should only appear if AllDecls is set.
type uint struct{} // overrides a predeclared type uint
  • func NotAFactory() int {}: この関数は、特定の型に関連付けられていない通常のパッケージレベル関数として扱われることを意図しています。b.0.goldenb.1.golden の両方で FUNCTIONS リストの下に表示されることから、この挙動が確認できます。
  • func UintFactory() uint {}func uintFactory() uint {}: これらの関数は、戻り値の型として uint を持っています。この uint が組み込みの uint なのか、それとも後述するユーザー定義の uint なのかが go/doc にとっての課題となります。
  • type uint struct{} // overrides a predeclared type uint: これがこのテストケースの核心です。組み込みの uint 型と同じ名前の新しい構造体型 uint を定義しています。この宣言は、go/docAllDecls オプションなしで実行された場合には表示されず(b.0.golden)、AllDecls オプションが有効な場合にのみ表示される(b.1.golden)ことを期待しています。

.golden ファイルでの期待される挙動

  • b.0.golden:
    • NotAFactoryFUNCTIONS セクションに表示されます。
    • UintFactoryuintFactorytype uint struct{} は表示されません。これは、デフォルトの go/doc の挙動では、これらの宣言が(おそらくエクスポートされていない、または組み込み型を上書きしているため)ドキュメントに含められないことを示しています。
  • b.1.golden:
    • NotAFactoryFUNCTIONS セクションに表示されます。
    • TYPES セクションに type uint struct{} が表示されます。これは、AllDecls オプションが有効な場合に、上書きされた組み込み型もドキュメントに含めるべきであることを示しています。
    • さらに重要なのは、type uint struct{} の下に func UintFactory() uintfunc uintFactory() uint が表示されている点です。これは、go/doc がこれらの関数を、組み込みの uint ではなく、ユーザー定義の uint 型に関連付けられたファクトリ関数として正しく認識していることを意味します。AllDecls が有効な場合、go/doc はより詳細な情報を提供し、型とそれに関連する関数を適切にグループ化する能力を持っていることを示しています。

このテストケースは、go/doc がGoの言語仕様の微妙な側面(特に型の上書き)を正確に解釈し、異なるドキュメント生成オプション(AllDecls など)に応じて適切な出力を生成できることを保証するための重要な追加です。

関連リンク

参考にした情報源リンク