[インデックス 11393] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のドキュメンテーションツールである go/doc
パッケージにおける宣言(定数、変数、関数、型)のソート順序に関するテストケースを追加するものです。これにより、go/doc
が生成するドキュメントにおいて、これらの要素が期待通りにソートされることを保証します。
コミット
- コミットハッシュ:
dbce368ef9c190e5faaa80a1ccce92b04ccd614f
- 作者: Robert Griesemer gri@golang.org
- 日付: Wed Jan 25 13:56:12 2012 -0800
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/dbce368ef9c190e5faaa80a1ccce92b04ccd614f
元コミット内容
go/doc: test cases for sort order
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5569059
変更の背景
Go言語の go/doc
ツールは、Goのソースコードからドキュメントを自動生成する際に、パッケージ内の定数、変数、関数、型などの宣言を特定の順序で表示します。この順序は、生成されるドキュメントの可読性と一貫性にとって非常に重要です。しかし、宣言の記述順序やグループ化の方法(例:const (...)
ブロック内での宣言)によっては、go/doc
が意図しないソート順でドキュメントを生成する可能性があります。
このコミットの背景には、go/doc
が様々な宣言パターンに対して正しいソート順を維持していることを検証する必要性があったと考えられます。特に、iota
を使用した定数宣言や、複数の宣言がグループ化されている場合、あるいは単一の宣言が括弧で囲まれている場合など、複雑なケースでのソート動作を網羅的にテストすることが目的です。これにより、将来的な go/doc
の変更があった際にも、ドキュメントのソート順が意図せず崩れることを防ぎ、安定したドキュメント生成を保証します。
前提知識の解説
go/doc
パッケージ
go/doc
パッケージは、Go言語の標準ライブラリの一部であり、Goのソースコードからドキュメンテーションを抽出・生成するための機能を提供します。go doc
コマンドや godoc
ツール(現在は go doc
に統合)の基盤となっています。このパッケージは、Goのソースファイルからパッケージ、定数、変数、関数、型、メソッドなどの情報を解析し、それらに付随するコメントを抽出して、構造化されたドキュメントデータとして提供します。
ドキュメントのソート順序の重要性
プログラミング言語のドキュメントにおいて、要素の表示順序は非常に重要です。一貫したソート順は、ユーザーがドキュメントを読み進める際に、目的の情報を素早く見つけ、パッケージの構造を理解するのに役立ちます。例えば、アルファベット順や宣言の種類ごとのグループ化など、明確なルールに基づいてソキュメントが整理されていることで、ドキュメントの品質とユーザビリティが向上します。
Goにおける宣言と iota
Go言語では、定数、変数、関数、型はそれぞれ const
, var
, func
, type
キーワードを用いて宣言されます。
-
定数 (Constants):
const
キーワードで宣言されます。複数の定数をまとめて宣言する「定数ブロック」も可能です。const ( Pi = 3.14 E = 2.71 )
-
iota
:iota
は、Goの定数宣言で使用される、連続した値を持つ定数を生成するための特別な識別子です。const
ブロック内で使用され、最初のiota
は0
、それ以降は行ごとに1
ずつ増加します。const ( A = iota // A = 0 B // B = 1 C // C = 2 )
iota
を使用することで、関連する定数に自動的に連番を割り当てることができ、コードの簡潔さと保守性を高めます。 -
変数 (Variables):
var
キーワードで宣言されます。var name string var ( x int y float64 )
-
関数 (Functions):
func
キーワードで宣言されます。func add(a, b int) int { return a + b }
-
型 (Types):
type
キーワードで宣言されます。構造体、インターフェース、エイリアスなどが含まれます。type Person struct { Name string Age int }
これらの宣言が go/doc
によってどのようにソートされ、表示されるかは、ドキュメントの品質に直結するため、厳密なテストが必要です。
技術的詳細
このコミットでは、go/doc
パッケージのテストデータディレクトリ (src/pkg/go/doc/testdata/
) に新しいテストファイルが追加されています。これらのテストは、go/doc
が様々な種類の宣言(定数、変数、関数、型)をどのようにソートするかを検証することを目的としています。
具体的には、以下のファイルが追加されています。
src/pkg/go/doc/testdata/d.0.golden
src/pkg/go/doc/testdata/d.1.golden
src/pkg/go/doc/testdata/d1.go
src/pkg/go/doc/testdata/d2.go
d1.go
と d2.go
は、ソート順をテストするためのGoのソースコードファイルです。これらには、異なる方法で宣言された定数、変数、関数、型が含まれています。例えば、iota
を使用した定数ブロック、通常の定数宣言、複数の宣言を括弧で囲んだグループ化された宣言、単一の宣言を括弧で囲んだ「un-grouped」と見なされる宣言などが含まれます。
.golden
ファイルは、これらのGoソースファイルから go/doc
が生成すると期待されるドキュメントの「ゴールデンマスター」または「期待される出力」です。テスト実行時に、go/doc
が d1.go
と d2.go
から生成した実際の出力が、対応する .golden
ファイルの内容と一致するかどうかを比較することで、ソート順が正しいことを検証します。
テストケースは、以下のようなソートのシナリオをカバーしています。
- 定数、変数、関数、型の種類ごとのソート: 各カテゴリ内でどのようにソートされるか。
- グループ化された宣言と単一宣言のソート:
const (...)
やvar (...)
のようにグループ化された宣言と、単一で宣言された要素がどのように混在してソートされるか。特に、単一の宣言が括弧で囲まれている場合 (const (Cungrouped = 0)
) は、グループ化されていないものとしてソートされるという挙動がテストされています。 - 特定の順序のテスト: コメントで「should be first」「should be second」などと明示的に指定することで、期待されるソート順を明確にしています。例えば、
CBx
定数がCAx
定数より前に来るべき、といった具体的な順序がテストされています。 iota
を使用した定数のソート:iota
を用いて宣言された定数が、その値の順序ではなく、宣言された順序(またはgo/doc
の内部的なソートロジック)に従ってどのように表示されるか。
これらのテストケースは、go/doc
がGoのコードベースの多様な宣言パターンに対して堅牢なドキュメント生成を行うことを保証するための重要な追加です。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットで追加されたファイルは以下の通りです。
src/pkg/go/doc/testdata/d.0.golden
(104行追加)src/pkg/go/doc/testdata/d.1.golden
(104行追加)src/pkg/go/doc/testdata/d1.go
(57行追加)src/pkg/go/doc/testdata/d2.go
(45行追加)
これらのファイルはすべて新規追加であり、既存のコードの変更はありません。
コアとなるコードの解説
src/pkg/go/doc/testdata/d1.go
および d2.go
これらのファイルは、go/doc
のソートロジックをテストするためのGoのソースコードです。
d1.go
の抜粋と解説:
// Test cases for sort order of declarations.
package d
// C2 should be third.
const C2 = 2
// V2 should be third.
var V2 int
// CBx constants should appear before CAx constants.
const (
CB2 = iota // before CB1
CB1 // before CB0
CB0 // at end
)
// VBx variables should appear before VAx variables.
var (
VB2 int // before VB1
VB1 int // before VB0
VB0 int // at end
)
const (
// Single const declarations inside ()'s are considered ungrouped
// and show up in sorted order.
Cungrouped = 0
)
var (
// Single var declarations inside ()'s are considered ungrouped
// and show up in sorted order.
Vungrouped = 0
)
// T2 should be third.
type T2 struct{}
// Grouped types are sorted nevertheless.
type (
// TG2 should be third.
TG2 struct{}
// TG1 should be second.
TG1 struct{}
// TG0 should be first.
TG0 struct{}
)
// F2 should be third.
func F2() {}
- このファイルでは、
C2
,V2
,T2
,F2
といった特定の順序を期待する宣言が含まれています。 CBx
とVBx
の定数/変数ブロックは、iota
を使用しており、そのコメントで「before CB1」「before CB0」などと、ブロック内での相対的な順序が示されています。これは、go/doc
がブロック内の要素をどのようにソートするかをテストしています。Cungrouped
とVungrouped
は、単一の宣言が括弧で囲まれているケースをテストしており、これらが「ungrouped」として扱われ、ソート順に影響を与えることを示唆しています。- 型宣言のブロック (
type (...)
) も含まれており、TG0
,TG1
,TG2
の順序がテストされています。コメントで「Grouped types are sorted nevertheless.」とあるように、グループ化されていてもソートされることが期待されています。
d2.go
の抜粋と解説:
// Test cases for sort order of declarations.
package d
// C1 should be second.
const C1 = 1
// C0 should be first.
const C0 = 0
// V1 should be second.
var V1 uint
// V0 should be first.
var V0 uintptr
// CAx constants should appear after CBx constants.
const (
CA2 = iota // before CA1
CA1 // before CA0
CA0 // at end
)
// VAx variables should appear after VBx variables.
var (
VA2 int // before VA1
VA1 int // before VA0
VA0 int // at end
)
// T1 should be second.
type T1 struct{}
// T0 should be first.
type T0 struct{}
// F1 should be second.
func F1() {}
// F0 should be first.
func F0() {}
d2.go
はd1.go
と組み合わせて、より広範なソートシナリオをカバーします。C0
,C1
,V0
,V1
,T0
,T1
,F0
,F1
といった宣言が含まれており、これらがd1.go
の宣言と組み合わされたときに、全体として正しいソート順になるかをテストします。CAx
とVAx
の定数/変数ブロックは、d1.go
のCBx
/VBx
と対になっており、これらがCBx
/VBx
の後にソートされることを期待しています。
src/pkg/go/doc/testdata/d.0.golden
および d.1.golden
これらの .golden
ファイルは、d1.go
と d2.go
を go/doc
で処理した際に期待される出力のテキスト表現です。テストフレームワークは、go/doc
の実際の出力とこれらの .golden
ファイルを比較し、一致すればテストが成功と判断します。
d.0.golden
の抜粋と解説:
//
PACKAGE d
IMPORTPATH
testdata/d
FILENAMES
testdata/d1.go
testdata/d2.go
CONSTANTS
// CBx constants should appear before CAx constants.
const (
CB2 = iota // before CB1
CB1 // before CB0
CB0 // at end
)
// CAx constants should appear after CBx constants.
const (
CA2 = iota // before CA1
CA1 // before CA0
CA0 // at end
)
// C0 should be first.
const C0 = 0
// C1 should be second.
const C1 = 1
// C2 should be third.
const C2 = 2
//
const (
// Single const declarations inside ()'s are considered ungrouped
// and show up in sorted order.
Cungrouped = 0
)
...
- このファイルは、
go/doc
が生成するドキュメントの構造を模倣しています。 PACKAGE
,IMPORTPATH
,FILENAMES
といったヘッダー情報が含まれています。CONSTANTS
,VARIABLES
,FUNCTIONS
,TYPES
といったセクションに分かれており、それぞれのセクション内で宣言が期待されるソート順でリストされています。- 各宣言には、元のGoソースコードからのコメントが引き継がれており、これがソート順の意図を明確にしています。例えば、「CBx constants should appear before CAx constants.」というコメントは、
go/doc
がこの順序を尊重してドキュメントを生成することを期待していることを示しています。 Cungrouped
のように、単一の宣言が括弧で囲まれていても、それが「ungrouped」として扱われ、他の単一宣言と同様にソートされることがこのゴールデンファイルで確認できます。
これらのテストファイルとゴールデンファイルは、go/doc
のソートロジックが正しく機能していることを検証するための包括的なスイートを構成しています。
関連リンク
- Go言語のドキュメンテーション: https://go.dev/doc/
go/doc
パッケージのドキュメンテーション: https://pkg.go.dev/go/doc- Goの定数と
iota
について: https://go.dev/blog/constants
参考にした情報源リンク
- https://github.com/golang/go/commit/dbce368ef9c190e5faaa80a1ccce92b04ccd614f
- Go言語の公式ドキュメント (go.dev)
- Go言語の
iota
に関する解説記事