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このコミットは、Go言語の標準ライブラリnetパッケージ内のコメントおよび文字列リテラルから、冗長な"net"プレフィックスを削除することを目的としています。これにより、コードの可読性と簡潔性が向上し、パッケージ内部での記述がより自然になります。

コミット

commit 3d400db5de91ede0fb36c2c045a0572f731a1dc4
Author: Mikio Hara <mikioh.mikioh@gmail.com>
Date:   Sun Jan 29 19:11:05 2012 +0900

    net: update comments to remove redundant "net" prefix
    
    R=rsc, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5569087

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/3d400db5de91ede0fb36c2c045a0572f731a1dc4

元コミット内容

net: update comments to remove redundant "net" prefix

R=rsc, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5569087

Go言語のnetパッケージは、ネットワークI/Oのプリミティブを提供する非常に重要な標準ライブラリです。このパッケージ内で定義されている型やメソッドを参照する際、例えばnet.Connのようにパッケージ名をプレフィックスとして付けるのが一般的です。しかし、パッケージ内部のコードやコメントにおいては、そのコンテキストが既にnetパッケージ内であることが自明であるため、net.というプレフィックスは冗長になります。

このコミットの背景には、コードの「簡潔性」と「可読性」を追求するというGo言語の設計哲学があります。冗長な記述を排除することで、開発者がコードをより迅速に理解し、メンテナンスしやすくなるというメリットがあります。特にコメントにおいては、コードの意図を明確に伝えることが重要であり、不要な繰り返しは情報の伝達を妨げる可能性があります。

具体的には、net.Dialやnet.Connといった記述が、netパッケージ内のファイルでは単にDialやConnと記述されても意味が通じるため、これらを修正することが目的とされました。

前提知識の解説

Go言語の`net`パッケージ

netパッケージは、Go言語におけるネットワークプログラミングの基盤を提供します。TCP/IP、UDP、Unixドメインソケットなど、様々なネットワークプロトコルを扱うためのインターフェースや関数が含まれています。

net.Connインターフェース: ネットワーク接続の汎用的なインターフェースです。Read、Write、Close、LocalAddr、RemoteAddr、SetDeadline、SetReadDeadline、SetWriteDeadlineといったメソッドを定義しており、TCP接続 (net.TCPConn) やUDP接続 (net.UDPConn) など、具体的なネットワーク接続がこのインターフェースを実装します。
net.Errorインターフェース: ネットワーク操作中に発生するエラーを表すインターフェースです。Timeout()メソッドやTemporary()メソッドを持ち、エラーが一時的なものか、タイムアウトによるものかを判断できます。
net.Dial関数: 指定されたネットワークアドレスへの接続を確立するための関数です。例えば、net.Dial("tcp", "localhost:8080")のように使用します。

冗長なプレフィックスの削除

プログラミングにおいて、特に大規模なプロジェクトやライブラリ開発では、コードの命名規則やスタイルガイドが重要になります。Go言語では、パッケージ名がそのパッケージ内で定義されたエクスポートされた識別子（関数、変数、型など）のプレフィックスとして機能します。

例えば、fmtパッケージのPrintln関数はfmt.Printlnとして呼び出されます。しかし、fmtパッケージのソースコード内部でPrintlnを呼び出す場合、fmt.Printlnと書くのは冗長です。単にPrintlnと書けば、コンパイラはそれがfmtパッケージ内のPrintlnを指していることを理解します。

この原則は、コメントやエラーメッセージ内の文字列リテラルにも適用されます。パッケージ内部でそのパッケージ自身の要素を参照する場合、パッケージ名を省略することで、より自然で簡潔な表現になります。

技術的詳細

このコミットは、Go言語のnetパッケージ内の複数のファイルにわたって、コメントと文字列リテラルを修正しています。変更の性質は純粋に「リファクタリング」であり、プログラムの振る舞いを変更するものではありません。

具体的には、以下のパターンで修正が行われています。

コメント内のnet.XxxからXxxへの変更:
- 例: // This is intended to support name resolution during net.Dial. ↓ // This is intended to support name resolution during Dial.
- これは、netパッケージ内のdnsmsg.goファイルに見られる変更です。Dial関数がnetパッケージの一部であることは自明であるため、net.プレフィックスは不要と判断されました。
エラーメッセージ文字列内の"invalid net.Conn"から"invalid Conn"への変更:
- 例: func (e *InvalidConnError) Error() string { return "invalid net.Conn" } ↓ func (e *InvalidConnError) Error() string { return "invalid Conn" }
- これは、netパッケージ内のfd.goやfd_windows.goに見られる変更です。InvalidConnErrorはnetパッケージ内で定義されており、このエラーがnet.Connに関連するものであることはコンテキストから明らかであるため、エラーメッセージ内のnet.も削除されました。
メソッドのドキュメンテーションコメント内のnet.ConnからConnへの変更:
- 例: // SetDeadline implements the net.Conn SetDeadline method. ↓ // SetDeadline implements the Conn SetDeadline method.
- これは、iprawsock_plan9.go、ipsock_plan9.go、tcpsock_plan9.go、tcpsock_posix.go、udpsock_plan9.go、udpsock_posix.go、unixsock_plan9.go、unixsock_posix.goなど、Connインターフェースを実装する様々なソケットタイプに関連するファイルで広範に行われています。これらのメソッドはnet.Connインターフェースのメソッドを実装していることを示していますが、netパッケージ内では単にConnと記述する方が自然です。
net.PacketConnからPacketConnへの変更:
- 例: // ReadFrom implements the net.PacketConn ReadFrom method. ↓ // ReadFrom implements the PacketConn ReadFrom method.
- これはudpsock_plan9.go、udpsock_posix.go、unixsock_plan9.go、unixsock_posix.goに見られる変更で、net.PacketConnインターフェースに関連するコメントの修正です。

これらの変更は、コードのセマンティクスには一切影響を与えません。コンパイラはこれらの変更後も同じバイナリを生成し、プログラムの実行時動作も変わりません。しかし、開発者がソースコードを読んだ際の認知負荷を軽減し、よりクリーンなコードベースを維持する上で重要な役割を果たします。これは、Go言語が重視する「シンプルさ」と「明瞭さ」を追求する典型的な例と言えます。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットは、src/pkg/net/ディレクトリ以下の多数のファイルにわたって変更を加えていますが、その性質は非常に均一です。以下に代表的な変更箇所をいくつか示します。

src/pkg/net/dnsmsg.go

--- a/src/pkg/net/dnsmsg.go
+++ b/src/pkg/net/dnsmsg.go
@@ -4,7 +4,7 @@
 
 // DNS packet assembly.  See RFC 1035.
 //
-// This is intended to support name resolution during net.Dial.
+// This is intended to support name resolution during Dial.
 // It doesn't have to be blazing fast.
 //
 // Rather than write the usual handful of routines to pack and

src/pkg/net/fd.go

--- a/src/pkg/net/fd.go
+++ b/src/pkg/net/fd.go
@@ -45,7 +45,7 @@ type netFD struct {
 
 type InvalidConnError struct{}
 
-func (e *InvalidConnError) Error() string   { return "invalid net.Conn" }
+func (e *InvalidConnError) Error() string   { return "invalid Conn" }
 func (e *InvalidConnError) Temporary() bool { return false }
 func (e *InvalidConnError) Timeout() bool   { return false }

src/pkg/net/ipsock_plan9.go

--- a/src/pkg/net/ipsock_plan9.go
+++ b/src/pkg/net/ipsock_plan9.go
@@ -91,7 +91,7 @@ func (c *plan9Conn) ok() bool { return c != nil && c.ctl != nil }\n 
 // Implementation of the Conn interface - see Conn for documentation.
 
-// Read implements the net.Conn Read method.
+// Read implements the Conn Read method.
 func (c *plan9Conn) Read(b []byte) (n int, err error) {
 	if !c.ok() {
 		return 0, os.EINVAL
@@ -110,7 +110,7 @@ func (c *plan9Conn) Read(b []byte) (n int, err error) {
 	return
 }
 
-// Write implements the net.Conn Write method.
+// Write implements the Conn Write method.
 func (c *plan9Conn) Write(b []byte) (n int, err error) {
 	if !c.ok() {
 		return 0, os.EINVAL
@@ -157,17 +157,17 @@ func (c *plan9Conn) RemoteAddr() Addr {
 	return c.raddr
 }
 
-// SetDeadline implements the net.Conn SetDeadline method.
+// SetDeadline implements the Conn SetDeadline method.
 func (c *plan9Conn) SetDeadline(t time.Time) error {
 	return os.EPLAN9
 }
 
-// SetReadDeadline implements the net.Conn SetReadDeadline method.
+// SetReadDeadline implements the Conn SetReadDeadline method.
 func (c *plan9Conn) SetReadDeadline(t time.Time) error {
 	return os.EPLAN9
 }
 
-// SetWriteDeadline implements the net.Conn SetWriteDeadline method.
+// SetWriteDeadline implements the Conn SetWriteDeadline method.
 func (c *plan9Conn) SetWriteDeadline(t time.Time) error {
 	return os.EPLAN9
 }

コアとなるコードの解説

上記の変更箇所は、それぞれ異なる種類の修正を示していますが、根底にある原則は共通しています。

src/pkg/net/dnsmsg.go の変更:
- 変更前: // This is intended to support name resolution during net.Dial.
- 変更後: // This is intended to support name resolution during Dial.
- 解説: dnsmsg.goはnetパッケージの一部であり、このファイル内でDialと記述すれば、それがnet.Dialを指すことは文脈上明らかです。コメントはコードの意図を説明するためのものであり、冗長なパッケージプレフィックスは不要と判断されました。これにより、コメントがより簡潔になり、読みやすさが向上します。
src/pkg/net/fd.go の変更:
- 変更前: func (e *InvalidConnError) Error() string { return "invalid net.Conn" }
- 変更後: func (e *InvalidConnError) Error() string { return "invalid Conn" }
- 解説: InvalidConnErrorはnetパッケージ内で定義されているエラー型です。このエラーがnet.Connに関連するものであることは、エラー型自体の名前や、このコードがnetパッケージ内にあることから明確です。エラーメッセージはユーザーや開発者に状況を伝えるためのものですが、ここでも冗長なnet.プレフィックスを削除することで、メッセージがより直接的で分かりやすくなります。
src/pkg/net/ipsock_plan9.go の変更 (および他の多くのファイル):
- 変更前: // Read implements the net.Conn Read method.
- 変更後: // Read implements the Conn Read method.
- 解説: これは、net.Connインターフェースのメソッドを実装していることを示すコメントの典型的な修正です。netパッケージ内でConnと記述すれば、それがnet.Connインターフェースを指すことは明白です。この変更は、Go言語の標準ライブラリ全体で推奨されるスタイルガイドラインに沿ったものであり、コードベース全体の一貫性を保つ上で重要です。同様に、net.PacketConnについても同じ理由でPacketConnに修正されています。

これらの変更は、Go言語のコードベース全体で一貫したスタイルを維持し、開発者がコードをより効率的に読み書きできるようにするための、細部にわたる配慮を示しています。

参考にした情報源リンク

Go言語の公式リポジトリ (GitHub): https://github.com/golang/go
Go言語のコードレビューシステム (Gerrit): https://go-review.googlesource.com/ (コミットメッセージに記載されている https://golang.org/cl/5569087 はGerritの変更リストへのリンクです)
Go言語の設計哲学に関する議論やドキュメント (例: Effective Go): https://go.dev/doc/effective_go (特に「命名」に関するセクションが関連します)

comemo