[インデックス 11472] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のビルドシステムにおける重要な変更、具体的にはgopack
ツールの名称変更と配置変更に関するものです。gopack
はpack
にリネームされ、go-tool
ディレクトリに移動されました。これにより、Goのツールチェインの構造が整理され、将来的な拡張性や管理のしやすさが向上しています。
コミット
commit ff8133d42e19d22fc0f1a4dc05f587e135f51ce7
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Mon Jan 30 10:30:46 2012 -0800
gopack: rename pack, move to go-tool directory
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5598045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/ff8133d42e19d22fc0f1a4dc05f587e135f51ce7
元コミット内容
gopack: rename pack, move to go-tool directory
このコミットメッセージは非常に簡潔ですが、その内容はGo言語のビルドシステムにおける重要な変更を示しています。具体的には、gopack
というツールがpack
という名前に変更され、さらにgo-tool
という新しいディレクトリに移動されたことを意味します。
変更の背景
Go言語の初期のビルドシステムでは、様々なツールがGoのソースツリー内の異なる場所に散在していました。gopack
もその一つで、Goのパッケージアーカイブ(.a
ファイル)を作成するために使用される重要なツールでした。
このコミットが行われた2012年1月時点では、Go言語はまだ活発な開発段階にあり、ツールの命名規則や配置に関する整理が進められていました。gopack
という名前は、Goのツールであることを示唆していましたが、より汎用的な「アーカイブツール」としての役割を明確にするためにpack
という簡潔な名前に変更されたと考えられます。
また、go-tool
ディレクトリへの移動は、Goの公式ツールチェインの一部として、これらのツールを一元的に管理し、ユーザーがgo tool <command>
形式でアクセスできるようにするための初期段階の取り組みの一環です。これにより、Goのビルドシステム全体の整合性が向上し、ツールの発見可能性と利用のしやすさが改善されました。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語のビルドシステムに関する基本的な知識が必要です。
- Goのビルドプロセス: Go言語のソースコードは、コンパイラ(
gc
,6g
,8g
など、当時はアーキテクチャごとに異なる名前が使われていました)、アセンブラ(ga
,6a
,8a
など)、リンカ(gl
,6l
,8l
など)といったツールチェインによってコンパイルされ、実行可能なバイナリやライブラリが生成されます。 - パッケージアーカイブ (
.a
ファイル): Go言語では、コンパイルされたパッケージは.a
という拡張子を持つアーカイブファイルとして保存されます。これは、C/C++における静的ライブラリ(.lib
や.a
)に似ています。他のパッケージが依存するコードは、このアーカイブファイルからリンクされます。 pack
ツール (旧gopack
):pack
は、Goのパッケージアーカイブファイル(.a
)を作成・操作するためのツールです。複数のコンパイル済みオブジェクトファイル(.8
や.6
など、当時はアーキテクチャごとに異なる拡張子が使われていました)を一つのアーカイブにまとめる役割を担っていました。これは、Unix系のシステムにおけるar
コマンドに似ています。go tool
コマンド: 現代のGoでは、go tool
コマンドを通じて、Goの内部ツール(例:go tool vet
,go tool pprof
など)にアクセスします。このコミットは、pack
ツールがこのgo tool
の管理下に置かれるための準備の一環でした。GOROOT
とGOBIN
:GOROOT
: Goのインストールディレクトリのルートパスです。Goの標準ライブラリ、ツールチェインのソースコードなどが含まれます。GOBIN
: Goの実行可能バイナリがインストールされるディレクトリです。通常、$GOROOT/bin
またはユーザーの$HOME/go/bin
に設定されます。
Makefile
とビルドスクリプト: Goの初期のビルドシステムは、主にMakefile
とシェルスクリプト(buildscript/*.sh
)に依存していました。これらのスクリプトが、コンパイラ、アセンブラ、pack
ツールなどを呼び出してビルドプロセスを自動化していました。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、Goのビルドシステムがgopack
という特定の名前のツールに依存していた箇所を、新しい名前pack
と新しいパス$GOROOT/bin/go-tool/pack
に更新することです。
具体的には、以下の変更が行われています。
src/cmd/gopack
からsrc/cmd/pack
へのディレクトリ移動とリネーム:src/cmd/gopack
ディレクトリがsrc/cmd/pack
に移動されました。これにより、ツールのソースコードの場所と名前が変更されました。src/cmd/{gopack => pack}/Makefile
のように、Gitの差分表示ではディレクトリのリネームとして認識されています。
- ビルドスクリプト (
src/buildscript/*.sh
) の更新:- Goの各プラットフォーム(darwin_386, linux_amd64など)向けのビルドスクリプト内で、
gopack
コマンドを呼び出していた箇所が、新しいパス"$GOROOT"/bin/go-tool/pack
に置き換えられました。 - これは、Goの標準ライブラリ(
runtime
,errors
,sync
,io
,unicode
,bytes
,math
,sort
,container/heap
,strings
,strconv
,encoding/base64
,syscall
,time
,os
,reflect
,fmt
,unicode/utf16
,encoding/json
,flag
,bufio
,encoding/gob
,go/token
,path/filepath
,go/scanner
,go/ast
,io/ioutil
,go/parser
,log
,path
,go/build
,os/exec
,regexp/syntax
,regexp
,net/url
,text/template/parse
,text/template
など)のコンパイルとアーカイブ化のステップに影響を与えます。 - これらのスクリプトは、各パッケージのオブジェクトファイル(例:
_go_.8
,alg.8
,atomic_386.8
など)をpack
コマンドに渡し、最終的なパッケージアーカイブ(例:runtime.a
,errors.a
など)を生成していました。
- Goの各プラットフォーム(darwin_386, linux_amd64など)向けのビルドスクリプト内で、
Makefile
の更新:src/Make.cmd
,src/Make.pkg
,src/Make.tool
といった主要なMakefile
内で、gopack
への参照が"$(GOROOT)/bin/go-tool/pack"
に更新されました。これらのMakefile
は、Goのビルドシステム全体の挙動を定義しており、ツールのパス変更がシステム全体に波及することを示しています。
src/cmd/go/build.go
の変更:go
コマンド自体がpack
ツールをどのように扱うかに関する変更が含まれています。具体的には、go
コマンドが内部でpack
ツールを呼び出す際のパスが更新されました。これは、go build
やgo install
などのコマンドが正しく機能するために必要です。
src/cmd/gopack/doc.go
の変更:gopack
のドキュメントファイルがpack
にリネームされ、内容も更新されました。
この変更は、Goのビルドシステムがよりモジュール化され、go tool
という統一されたインターフェースを通じて内部ツールにアクセスする現代のGoの姿へと進化していく過程の一部です。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットにおけるコアとなるコードの変更は、主に以下のファイル群に集中しています。
-
src/cmd/{gopack => pack}/
ディレクトリのリネームと移動:src/cmd/gopack/Makefile
->src/cmd/pack/Makefile
src/cmd/gopack/ar.c
->src/cmd/pack/ar.c
src/cmd/gopack/doc.go
->src/cmd/pack/doc.go
これは、gopack
ツールのソースコード自体がpack
という新しい名前に変更され、src/cmd/pack
という新しいパスに配置されたことを示します。
-
src/Make.*
ファイル群におけるgopack
から$(GOROOT)/bin/go-tool/pack
へのパス変更:src/Make.cmd
src/Make.pkg
src/Make.tool
これらのファイルはGoのビルドプロセス全体を制御するMakefile
であり、gopack
コマンドの呼び出しが新しいパスに更新されています。
例:
--- a/src/Make.cmd +++ b/src/Make.cmd @@ -41,7 +41,7 @@ testpackage-clean: _test/main.a: _gotest_.$O @mkdir -p _test rm -f $@ - gopack grc $@ _gotest_.$O + "$(GOROOT)/bin/go-tool/pack" grc $@ _gotest_.$O _gotest_.$O: $(GOFILES) $(GOTESTFILES) $(GC) $(GCFLAGS) $(GCIMPORTS) -o $@ $(GOFILES) $(GOTESTFILES)
-
src/buildscript/*.sh
ファイル群におけるgopack
から"$GOROOT"/bin/go-tool/pack
へのパス変更:src/buildscript/darwin_386.sh
src/buildscript/darwin_amd64.sh
src/buildscript/freebsd_386.sh
src/buildscript/freebsd_amd64.sh
src/buildscript/linux_386.sh
src/buildscript/linux_amd64.sh
src/buildscript/linux_arm.sh
src/buildscript/netbsd_386.sh
src/buildscript/netbsd_amd64.sh
src/buildscript/openbsd_386.sh
src/buildscript/openbsd_amd64.sh
src/buildscript/plan9_386.sh
src/buildscript/windows_386.sh
src/buildscript/windows_amd64.sh
これらのシェルスクリプトは、Goの標準ライブラリを各OS/アーキテクチャ向けにビルドする際にpack
ツールを呼び出しており、その呼び出しパスが変更されています。
例:
--- a/src/buildscript/darwin_386.sh +++ b/src/buildscript/darwin_386.sh @@ -64,7 +64,7 @@ cp "$GOROOT"/src/pkg/runtime/zasm_darwin_386.h "$WORK"/runtime/_obj/zasm_GOOS_GO 8a -I "$WORK"/runtime/_obj/ -o "$WORK"/runtime/_obj/rt0_darwin_386.8 -DGOOS_darwin -DGOARCH_386 ./rt0_darwin_386.s 8a -I "$WORK"/runtime/_obj/ -o "$WORK"/runtime/_obj/sys_darwin_386.8 -DGOOS_darwin -DGOARCH_386 ./sys_darwin_386.s 8a -I "$WORK"/runtime/_obj/ -o "$WORK"/runtime/_obj/vlop_386.8 -DGOOS_darwin -DGOARCH_386 ./vlop_386.s -gopack grc "$WORK"/runtime.a "$WORK"/runtime/_obj/_go_.8 "$WORK"/runtime/_obj/alg.8 ... +"$GOROOT"/bin/go-tool/pack grc "$WORK"/runtime.a "$WORK"/runtime/_obj/_go_.8 "$WORK"/runtime/_obj/alg.8 ...
-
src/cmd/go/build.go
の変更:go
コマンドのビルド関連ロジック内で、pack
ツールのパスが更新されています。
コアとなるコードの解説
このコミットのコード変更は、Goのビルドシステムにおけるpack
ツールのパスと名前の統一化に尽きます。
src/cmd/{gopack => pack}/
: これは、gopack
という名前の実行可能ファイルと、その関連ソースコードが格納されていたディレクトリが、pack
という新しい名前に変更されたことを示します。このリネームは、ツールの役割をより明確にし、Goの他の内部ツールとの命名規則の整合性を高める意図があったと考えられます。Makefile
とbuildscript/*.sh
の変更: これらのファイルは、Goのビルドプロセスにおいて、コンパイルされたオブジェクトファイルをまとめてパッケージアーカイブ(.a
ファイル)を作成するためにpack
ツールを呼び出しています。変更前は単にgopack
と呼び出されていましたが、変更後は"$(GOROOT)/bin/go-tool/pack"
という絶対パスで呼び出されるようになりました。$(GOROOT)
: Goのインストールルートディレクトリへのパスを示す変数です。/bin/go-tool/
: これは、Goの内部ツールが配置される新しい標準的な場所を示しています。これにより、Goのツールチェインがより整理され、go tool
コマンドを通じてアクセスできるようになります。pack
: 新しいツール名です。grc
:pack
コマンドに渡される引数で、g
はGoのオブジェクトファイルを扱うこと、r
はアーカイブにメンバーを追加または置換すること、c
はアーカイブが存在しない場合に作成することを意味します。
この変更により、Goのビルドシステムは、pack
ツールをより明確に、そして統一された方法で参照するようになりました。これは、Goのツールチェインの進化における重要な一歩であり、後のgo tool
コマンドの導入や、より洗練されたビルドプロセスの基盤となりました。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: Go言語のビルドシステムやツールに関する最新の情報は、公式ドキュメントで確認できます。
- https://go.dev/doc/
- https://go.dev/cmd/go/ (goコマンドについて)
- Goのツールチェインに関する議論: GoのメーリングリストやIssueトラッカーには、ツールの設計や進化に関する議論が残されている可能性があります。
参考にした情報源リンク
- Go言語のGitリポジトリ:
- Goのコードレビューシステム (Gerrit):
- https://golang.org/cl/5598045 (コミットメッセージに記載されているChange-ID)
- Go言語の歴史に関する記事やドキュメント (Goのビルドシステムの進化について言及されているもの)
- Unix
ar
コマンドのドキュメント (Goのpack
ツールがar
に似た機能を持つため) - Goの
Makefile
の構造に関する情報 (Goのビルドプロセスを理解するため) - Goの
buildscript
に関する情報 (Goのクロスコンパイルやビルド環境のセットアップを理解するため)
[インデックス 11472] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のビルドシステムにおける重要な変更、具体的にはgopack
ツールの名称変更と配置変更に関するものです。gopack
はpack
にリネームされ、go-tool
ディレクトリに移動されました。これにより、Goのツールチェインの構造が整理され、将来的な拡張性や管理のしやすさが向上しています。
コミット
commit ff8133d42e19d22fc0f1a4dc05f587e135f51ce7
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Mon Jan 30 10:30:46 2012 -0800
gopack: rename pack, move to go-tool directory
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5598045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/ff8133d42e19d22fc0f1a4dc05f587e135f51ce7
元コミット内容
gopack: rename pack, move to go-tool directory
このコミットメッセージは非常に簡潔ですが、その内容はGo言語のビルドシステムにおける重要な変更を示しています。具体的には、gopack
というツールがpack
という名前に変更され、さらにgo-tool
という新しいディレクトリに移動されたことを意味します。
変更の背景
Go言語の初期のビルドシステムでは、様々なツールがGoのソースツリー内の異なる場所に散在していました。gopack
もその一つで、Goのパッケージアーカイブ(.a
ファイル)を作成するために使用される重要なツールでした。
このコミットが行われた2012年1月時点では、Go言語はまだ活発な開発段階にあり、ツールの命名規則や配置に関する整理が進められていました。gopack
という名前は、Goのツールであることを示唆していましたが、より汎用的な「アーカイブツール」としての役割を明確にするためにpack
という簡潔な名前に変更されたと考えられます。
また、go-tool
ディレクトリへの移動は、Goの公式ツールチェインの一部として、これらのツールを一元的に管理し、ユーザーがgo tool <command>
形式でアクセスできるようにするための初期段階の取り組みの一環です。これにより、Goのビルドシステム全体の整合性が向上し、ツールの発見可能性と利用のしやすさが改善されました。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語のビルドシステムに関する基本的な知識が必要です。
- Goのビルドプロセス: Go言語のソースコードは、コンパイラ(
gc
,6g
,8g
など、当時はアーキテクチャごとに異なる名前が使われていました)、アセンブラ(ga
,6a
,8a
など)、リンカ(gl
,6l
,8l
など)といったツールチェインによってコンパイルされ、実行可能なバイナリやライブラリが生成されます。 - パッケージアーカイブ (
.a
ファイル): Go言語では、コンパイルされたパッケージは.a
という拡張子を持つアーカイブファイルとして保存されます。これは、C/C++における静的ライブラリ(.lib
や.a
)に似ています。他のパッケージが依存するコードは、このアーカイブファイルからリンクされます。 pack
ツール (旧gopack
):pack
は、Goのパッケージアーカイブファイル(.a
)を作成・操作するためのツールです。複数のコンパイル済みオブジェクトファイル(.8
や.6
など、当時はアーキテクチャごとに異なる拡張子が使われていました)を一つのアーカイブにまとめる役割を担っていました。これは、Unix系のシステムにおけるar
コマンドに似ています。go tool
コマンド: 現代のGoでは、go tool
コマンドを通じて、Goの内部ツール(例:go tool vet
,go tool pprof
など)にアクセスします。このコミットは、pack
ツールがこのgo tool
の管理下に置かれるための準備の一環でした。GOROOT
とGOBIN
:GOROOT
: Goのインストールディレクトリのルートパスです。Goの標準ライブラリ、ツールチェインのソースコードなどが含まれます。GOBIN
: Goの実行可能バイナリがインストールされるディレクトリです。通常、$GOROOT/bin
またはユーザーの$HOME/go/bin
に設定されます。
Makefile
とビルドスクリプト: Goの初期のビルドシステムは、主にMakefile
とシェルスクリプト(buildscript/*.sh
)に依存していました。これらのスクリプトが、コンパイラ、アセンブラ、pack
ツールなどを呼び出してビルドプロセスを自動化していました。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、Goのビルドシステムがgopack
という特定の名前のツールに依存していた箇所を、新しい名前pack
と新しいパス$GOROOT/bin/go-tool/pack
に更新することです。
具体的には、以下の変更が行われています。
src/cmd/gopack
からsrc/cmd/pack
へのディレクトリ移動とリネーム:src/cmd/gopack
ディレクトリがsrc/cmd/pack
に移動されました。これにより、ツールのソースコードの場所と名前が変更されました。src/cmd/{gopack => pack}/Makefile
のように、Gitの差分表示ではディレクトリのリネームとして認識されています。
- ビルドスクリプト (
src/buildscript/*.sh
) の更新:- Goの各プラットフォーム(darwin_386, linux_amd64など)向けのビルドスクリプト内で、
gopack
コマンドを呼び出していた箇所が、新しいパス"$GOROOT"/bin/go-tool/pack
に置き換えられました。 - これは、Goの標準ライブラリ(
runtime
,errors
,sync
,io
,unicode
,bytes
,math
,sort
,container/heap
,strings
,strconv
,encoding/base64
,syscall
,time
,os
,reflect
,fmt
,unicode/utf16
,encoding/json
,flag
,bufio
,encoding/gob
,go/token
,path/filepath
,go/scanner
,go/ast
,io/ioutil
,go/parser
,log
,path
,go/build
,os/exec
,regexp/syntax
,regexp
,net/url
,text/template/parse
,text/template
など)のコンパイルとアーカイブ化のステップに影響を与えます。 - これらのスクリプトは、各パッケージのオブジェクトファイル(例:
_go_.8
,alg.8
,atomic_386.8
など)をpack
コマンドに渡し、最終的なパッケージアーカイブ(例:runtime.a
,errors.a
など)を生成していました。
- Goの各プラットフォーム(darwin_386, linux_amd64など)向けのビルドスクリプト内で、
Makefile
の更新:src/Make.cmd
,src/Make.pkg
,src/Make.tool
といった主要なMakefile
内で、gopack
への参照が"$(GOROOT)/bin/go-tool/pack"
に更新されました。これらのMakefile
は、Goのビルドシステム全体の挙動を定義しており、ツールのパス変更がシステム全体に波及することを示しています。
src/cmd/go/build.go
の変更:go
コマンド自体がpack
ツールをどのように扱うかに関する変更が含まれています。具体的には、go
コマンドが内部でpack
ツールを呼び出す際のパスが更新されました。これは、go build
やgo install
などのコマンドが正しく機能するために必要です。
src/cmd/gopack/doc.go
の変更:gopack
のドキュメントファイルがpack
にリネームされ、内容も更新されました。
この変更は、Goのビルドシステムがよりモジュール化され、go tool
という統一されたインターフェースを通じて内部ツールにアクセスする現代のGoの姿へと進化していく過程の一部です。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットにおけるコアとなるコードの変更は、主に以下のファイル群に集中しています。
-
src/cmd/{gopack => pack}/
ディレクトリのリネームと移動:src/cmd/gopack/Makefile
->src/cmd/pack/Makefile
src/cmd/gopack/ar.c
->src/cmd/pack/ar.c
src/cmd/gopack/doc.go
->src/cmd/pack/doc.go
これは、gopack
ツールのソースコード自体がpack
という新しい名前に変更され、src/cmd/pack
という新しいパスに配置されたことを示します。
-
src/Make.*
ファイル群におけるgopack
から$(GOROOT)/bin/go-tool/pack
へのパス変更:src/Make.cmd
src/Make.pkg
src/Make.tool
これらのファイルはGoのビルドプロセス全体を制御するMakefile
であり、gopack
コマンドの呼び出しが新しいパスに更新されています。
例:
--- a/src/Make.cmd +++ b/src/Make.cmd @@ -41,7 +41,7 @@ testpackage-clean: _test/main.a: _gotest_.$O @mkdir -p _test rm -f $@ - gopack grc $@ _gotest_.$O + "$(GOROOT)/bin/go-tool/pack" grc $@ _gotest_.$O _gotest_.$O: $(GOFILES) $(GOTESTFILES) $(GC) $(GCFLAGS) $(GCIMPORTS) -o $@ $(GOFILES) $(GOTESTFILES)
-
src/buildscript/*.sh
ファイル群におけるgopack
から"$GOROOT"/bin/go-tool/pack
へのパス変更:src/buildscript/darwin_386.sh
src/buildscript/darwin_amd64.sh
src/buildscript/freebsd_386.sh
src/buildscript/freebsd_amd64.sh
src/buildscript/linux_386.sh
src/buildscript/linux_amd64.sh
src/buildscript/linux_arm.sh
src/buildscript/netbsd_386.sh
src/buildscript/netbsd_amd64.sh
src/buildscript/openbsd_386.sh
src/buildscript/openbsd_amd64.sh
src/buildscript/plan9_386.sh
src/buildscript/windows_386.sh
src/buildscript/windows_amd64.sh
これらのシェルスクリプトは、Goの標準ライブラリを各OS/アーキテクチャ向けにビルドする際にpack
ツールを呼び出しており、その呼び出しパスが変更されています。
例:
--- a/src/buildscript/darwin_386.sh +++ b/src/buildscript/darwin_386.sh @@ -64,7 +64,7 @@ cp "$GOROOT"/src/pkg/runtime/zasm_darwin_386.h "$WORK"/runtime/_obj/zasm_GOOS_GO 8a -I "$WORK"/runtime/_obj/ -o "$WORK"/runtime/_obj/rt0_darwin_386.8 -DGOOS_darwin -DGOARCH_386 ./rt0_darwin_386.s 8a -I "$WORK"/runtime/_obj/ -o "$WORK"/runtime/_obj/sys_darwin_386.8 -DGOOS_darwin -DGOARCH_386 ./sys_darwin_386.s 8a -I "$WORK"/runtime/_obj/ -o "$WORK"/runtime/_obj/vlop_386.8 -DGOOS_darwin -DGOARCH_386 ./vlop_386.s -gopack grc "$WORK"/runtime.a "$WORK"/runtime/_obj/_go_.8 "$WORK"/runtime/_obj/alg.8 ... +"$GOROOT"/bin/go-tool/pack grc "$WORK"/runtime.a "$WORK"/runtime/_obj/_go_.8 "$WORK"/runtime/_obj/alg.8 ...
-
src/cmd/go/build.go
の変更:go
コマンドのビルド関連ロジック内で、pack
ツールのパスが更新されています。
コアとなるコードの解説
このコミットのコード変更は、Goのビルドシステムにおけるpack
ツールのパスと名前の統一化に尽きます。
src/cmd/{gopack => pack}/
: これは、gopack
という名前の実行可能ファイルと、その関連ソースコードが格納されていたディレクトリが、pack
という新しい名前に変更されたことを示します。このリネームは、ツールの役割をより明確にし、Goの他の内部ツールとの命名規則の整合性を高める意図があったと考えられます。Makefile
とbuildscript/*.sh
の変更: これらのファイルは、Goのビルドプロセスにおいて、コンパイルされたオブジェクトファイルをまとめてパッケージアーカイブ(.a
ファイル)を作成するためにpack
ツールを呼び出しています。変更前は単にgopack
と呼び出されていましたが、変更後は"$(GOROOT)/bin/go-tool/pack"
という絶対パスで呼び出されるようになりました。$(GOROOT)
: Goのインストールルートディレクトリへのパスを示す変数です。/bin/go-tool/
: これは、Goの内部ツールが配置される新しい標準的な場所を示しています。これにより、Goのツールチェインがより整理され、go tool
コマンドを通じてアクセスできるようになります。pack
: 新しいツール名です。grc
:pack
コマンドに渡される引数で、g
はGoのオブジェクトファイルを扱うこと、r
はアーカイブにメンバーを追加または置換すること、c
はアーカイブが存在しない場合に作成することを意味します。
この変更により、Goのビルドシステムは、pack
ツールをより明確に、そして統一された方法で参照するようになりました。これは、Goのツールチェインの進化における重要な一歩であり、後のgo tool
コマンドの導入や、より洗練されたビルドプロセスの基盤となりました。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: Go言語のビルドシステムやツールに関する最新の情報は、公式ドキュメントで確認できます。
- https://go.dev/doc/
- https://go.dev/cmd/go/ (goコマンドについて)
- Goのツールチェインに関する議論: GoのメーリングリストやIssueトラッカーには、ツールの設計や進化に関する議論が残されている可能性があります。
参考にした情報源リンク
- Go言語のGitリポジトリ:
- Goのコードレビューシステム (Gerrit):
- https://golang.org/cl/5598045 (コミットメッセージに記載されているChange-ID)
- Go言語の歴史に関する記事やドキュメント (Goのビルドシステムの進化について言及されているもの)
- Unix
ar
コマンドのドキュメント (Goのpack
ツールがar
に似た機能を持つため) - Goの
Makefile
の構造に関する情報 (Goのビルドプロセスを理解するため) - Goの
buildscript
に関する情報 (Goのクロスコンパイルやビルド環境のセットアップを理解するため)