[インデックス 11560] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコンパイラの一つであるgccgoが、特定の型エイリアスとパッケージインポートの組み合わせにおいて誤ったエラーを報告するバグを修正するために追加されたテストケースです。具体的には、one
パッケージで定義された型エイリアスT3
(T2
のエイリアスであり、T2
はT1
のスライス)をtwo
パッケージがインポートして使用する際に、gccgoがone.T2
を未定義の型として誤認識する問題が再現されています。
コミット
commit cdabb3d315691187f2f3c2ce74e8adee2c544002
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date: Thu Feb 2 11:04:09 2012 -0800
test: add import test that caused an incorrect gccgo error
R=golang-dev, gri
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5622048
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/cdabb3d315691187f2f3c2ce74e8adee2c544002
元コミット内容
test: add import test that caused an incorrect gccgo error
R=golang-dev, gri
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5622048
変更の背景
このコミットは、Go言語のコンパイラであるgccgoが、特定のGoプログラムのコンパイル時に誤ったエラーを発生させる問題を修正するためのテストケースを追加するものです。具体的には、型エイリアス(既存の型に新しい名前を付けること)が複数階層にわたって定義され、それが異なるパッケージ間でインポートされるシナリオで、gccgoが型解決に失敗し、「undefined type」エラーを報告していました。このテストは、そのバグを再現し、将来の回帰を防ぐことを目的としています。
前提知識の解説
- Go言語のパッケージとインポート: Go言語では、コードはパッケージに分割され、他のパッケージのコードを使用するには
import
キーワードでインポートする必要があります。import "./one"
のように相対パスでインポートする場合、それは通常、テストやローカル開発環境でのみ使用され、本番環境では推奨されません。 - 型エイリアス (Type Aliases): Go言語では、
type NewType OldType
という構文で既存の型に新しい名前(エイリアス)を付けることができます。これは、基底の型と同じ振る舞いを持ちますが、コードの可読性や意図を明確にするために使用されます。例えば、type T2 []T1
はT1
のスライスにT2
という新しい名前を付けています。 - gccgo: Go言語の公式コンパイラは
gc
(Go Compiler)ですが、gccgoはGCC(GNU Compiler Collection)のフロントエンドとしてGo言語をサポートするコンパイラです。異なるコンパイラ実装が存在することで、言語仕様の解釈や最適化の違いから、特定のコードで異なる振る舞いやバグが発生することがあります。 $G
、$D
、$F
:bug404.go
の冒頭にある$G $D/$F.dir/one.go && $G $D/$F.dir/two.go
は、Goのテストフレームワーク内で使用される特殊なシェルコマンドです。$G
: Goコンパイラ(通常はgc
またはgccgo
)を指します。$D
: 現在のテストディレクトリを指します。$F
: 現在のテストファイル名(この場合はbug404
)を指します。 この行は、one.go
とtwo.go
を個別にコンパイルし、その際にエラーが発生しないことを期待するテストの実行コマンドを示しています。
技術的詳細
このバグは、gccgoがGoの型システム、特に型エイリアスの解決とパッケージ間の依存関係の処理において、特定のコーナーケースを誤って扱っていたことに起因します。
問題の核心は以下の構造にあります。
one
パッケージでT1
、T2
、T3
という型が定義されています。type T1 int
type T2 []T1
(T1
のスライス)type T3 T2
(T2
のエイリアス)
two
パッケージがone
パッケージをインポートし、one.T3
型の変数V
を宣言しています。import "./one"
var V one.T3
gccgoは、two
パッケージがone.T3
を使用しようとした際に、T3
がT2
のエイリアスであることを正しく解決できませんでした。特に、T2
がT1
のスライスであるという情報が、パッケージ境界を越えて正しく伝播しなかったか、またはgccgoの内部的な型解決ロジックがこの多段階のエイリアスとインポートの組み合わせを処理できなかった可能性があります。
結果として、gccgoはtwo.go:10:13: error: use of undefined type ‘one.T2’
という誤ったエラーを出力しました。これは、one.T3
を解決しようとした際に、その基底型であるone.T2
が未定義であると誤って判断したことを示しています。本来、one.T2
はone
パッケージ内で明確に定義されており、two
パッケージからアクセス可能であるべきです。このバグは、コンパイラの型システムの実装における欠陥を示しており、Go言語の仕様に準拠していない振る舞いでした。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットでは、以下の3つの新しいファイルが追加されています。
test/fixedbugs/bug404.dir/one.go
// Copyright 2012 The Go Authors. All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.
package one
type T1 int
type T2 []T1
type T3 T2
func F1(T2) {
}
func (p *T1) M1() T3 {
return nil
}
func (p T3) M2() {
}
test/fixedbugs/bug404.dir/two.go
// Copyright 2012 The Go Authors. All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.
// The gccgo compiler would fail on the import statement.
// two.go:10:13: error: use of undefined type ‘one.T2’
package two
import "./one"
var V one.T3
test/fixedbugs/bug404.go
// $G $D/$F.dir/one.go && $G $D/$F.dir/two.go
// Copyright 2012 The Go Authors. All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.
package ignored
コアとなるコードの解説
-
one.go
: このファイルはone
パッケージを定義し、バグを再現するために必要な型エイリアスの階層構造を提供します。type T1 int
: 整数型int
のエイリアスとしてT1
を定義します。type T2 []T1
:T1
のスライス型としてT2
を定義します。type T3 T2
:T2
のエイリアスとしてT3
を定義します。 これにより、T3
はT2
を介してT1
のスライスであるという多段階の型エイリアスが構築されます。また、これらの型を使用する関数F1
とメソッドM1
,M2
も定義されており、型が正しく解決されることを確認するための追加のコンテキストを提供します。
-
two.go
: このファイルはtwo
パッケージを定義し、one
パッケージをインポートして、バグをトリガーするコードを含みます。import "./one"
:one
パッケージをインポートします。相対パスでのインポートは、テストケースで特定のディレクトリ構造をシミュレートするためによく使用されます。var V one.T3
:one
パッケージで定義された型エイリアスT3
を使用して変数V
を宣言します。この行が、gccgoがone.T2
を未定義と誤認識する原因となった箇所です。コメントで明示されているように、この行でgccgo
がエラーを発生させていました。
-
bug404.go
: このファイルは、Goのテストスイートがone.go
とtwo.go
をどのようにコンパイルしてバグをテストするかを指示するスクリプトファイルです。// $G $D/$F.dir/one.go && $G $D/$F.dir/two.go
: この行は、テストランナーが実行するコマンドを示しています。one.go
とtwo.go
を個別にコンパイルし、両方のコンパイルがエラーなく成功することを期待します。もしgccgoがバグを抱えていれば、two.go
のコンパイル時にエラーが発生し、テストは失敗します。このテストが追加されたことで、このバグが修正されたことを確認し、将来的に再発しないように監視することができます。
これらのファイルは、Goコンパイラのテストスイートの一部として、test/fixedbugs
ディレクトリに配置されています。これは、特定のバグが修正されたことを確認するための回帰テストとして機能します。
関連リンク
- Go CL 5622048: https://golang.org/cl/5622048
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (パッケージ、型エイリアスに関する情報): https://go.dev/doc/
- GCC Go Front End (gccgo) の情報: https://gcc.gnu.org/onlinedocs/gccgo/
- Go言語のテストフレームワークに関する情報 (特に
test/fixedbugs
ディレクトリの慣習): https://go.dev/src/cmd/go/testdata/test/README (Goソースコード内のテスト関連ドキュメント) - Go言語の型システムに関する議論 (一般的な情報): https://go.dev/blog/go-type-aliases (Go 1.9での型エイリアス導入に関するブログ記事など)
- Go言語のバグトラッカー (類似のバグ報告を検索): https://github.com/golang/go/issues
[インデックス 11560] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコンパイラの一つであるgccgoが、特定の型エイリアスとパッケージインポートの組み合わせにおいて誤ったエラーを報告するバグを修正するために追加されたテストケースです。具体的には、one
パッケージで定義された型エイリアスT3
(T2
のエイリアスであり、T2
はT1
のスライス)をtwo
パッケージがインポートして使用する際に、gccgoがone.T2
を未定義の型として誤認識する問題が再現されています。
コミット
commit cdabb3d315691187f2f3c2ce74e8adee2c544002
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date: Thu Feb 2 11:04:09 2012 -0800
test: add import test that caused an incorrect gccgo error
R=golang-dev, gri
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5622048
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/cdabb3d315691187f2f3c2ce74e8adee2c544002
元コミット内容
test: add import test that caused an incorrect gccgo error
R=golang-dev, gri
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5622048
変更の背景
このコミットは、Go言語のコンパイラであるgccgoが、特定のGoプログラムのコンパイル時に誤ったエラーを発生させる問題を修正するためのテストケースを追加するものです。具体的には、型エイリアス(既存の型に新しい名前を付けること)が複数階層にわたって定義され、それが異なるパッケージ間でインポートされるシナリオで、gccgoが型解決に失敗し、「undefined type」エラーを報告していました。このテストは、そのバグを再現し、将来の回帰を防ぐことを目的としています。
前提知識の解説
- Go言語のパッケージとインポート: Go言語では、コードはパッケージに分割され、他のパッケージのコードを使用するには
import
キーワードでインポートする必要があります。import "./one"
のように相対パスでインポートする場合、それは通常、テストやローカル開発環境でのみ使用され、本番環境では推奨されません。 - 型エイリアス (Type Aliases): Go言語では、
type NewType OldType
という構文で既存の型に新しい名前(エイリアス)を付けることができます。これは、基底の型と同じ振る舞いを持ちますが、コードの可読性や意図を明確にするために使用されます。例えば、type T2 []T1
はT1
のスライスにT2
という新しい名前を付けています。 - gccgo: Go言語の公式コンパイラは
gc
(Go Compiler)ですが、gccgoはGCC(GNU Compiler Collection)のフロントエンドとしてGo言語をサポートするコンパイラです。異なるコンパイラ実装が存在することで、言語仕様の解釈や最適化の違いから、特定のコードで異なる振る舞いやバグが発生することがあります。 $G
、$D
、$F
:bug404.go
の冒頭にある$G $D/$F.dir/one.go && $G $D/$F.dir/two.go
は、Goのテストフレームワーク内で使用される特殊なシェルコマンドです。$G
: Goコンパイラ(通常はgc
またはgccgo
)を指します。$D
: 現在のテストディレクトリを指します。$F
: 現在のテストファイル名(この場合はbug404
)を指します。 この行は、one.go
とtwo.go
を個別にコンパイルし、その際にエラーが発生しないことを期待するテストの実行コマンドを示しています。
技術的詳細
このバグは、gccgoがGoの型システム、特に型エイリアスの解決とパッケージ間の依存関係の処理において、特定のコーナーケースを誤って扱っていたことに起因します。
問題の核心は以下の構造にあります。
one
パッケージでT1
、T2
、T3
という型が定義されています。type T1 int
type T2 []T1
(T1
のスライス)type T3 T2
(T2
のエイリアス)
two
パッケージがone
パッケージをインポートし、one.T3
型の変数V
を宣言しています。import "./one"
var V one.T3
gccgoは、two
パッケージがone.T3
を使用しようとした際に、T3
がT2
のエイリアスであることを正しく解決できませんでした。特に、T2
がT1
のスライスであるという情報が、パッケージ境界を越えて正しく伝播しなかったか、またはgccgoの内部的な型解決ロジックがこの多段階のエイリアスとインポートの組み合わせを処理できなかった可能性があります。
結果として、gccgoはtwo.go:10:13: error: use of undefined type ‘one.T2’
という誤ったエラーを出力しました。これは、one.T3
を解決しようとした際に、その基底型であるone.T2
が未定義であると誤って判断したことを示しています。本来、one.T2
はone
パッケージ内で明確に定義されており、two
パッケージからアクセス可能であるべきです。このバグは、コンパイラの型システムの実装における欠陥を示しており、Go言語の仕様に準拠していない振る舞いでした。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットでは、以下の3つの新しいファイルが追加されています。
test/fixedbugs/bug404.dir/one.go
// Copyright 2012 The Go Authors. All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.
package one
type T1 int
type T2 []T1
type T3 T2
func F1(T2) {
}
func (p *T1) M1() T3 {
return nil
}
func (p T3) M2() {
}
test/fixedbugs/bug404.dir/two.go
// Copyright 2012 The Go Authors. All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.
// The gccgo compiler would fail on the import statement.
// two.go:10:13: error: use of undefined type ‘one.T2’
package two
import "./one"
var V one.T3
test/fixedbugs/bug404.go
// $G $D/$F.dir/one.go && $G $D/$F.dir/two.go
// Copyright 2012 The Go Authors. All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.
package ignored
コアとなるコードの解説
-
one.go
: このファイルはone
パッケージを定義し、バグを再現するために必要な型エイリアスの階層構造を提供します。type T1 int
: 整数型int
のエイリアスとしてT1
を定義します。type T2 []T1
:T1
のスライス型としてT2
を定義します。type T3 T2
:T2
のエイリアスとしてT3
を定義します。 これにより、T3
はT2
を介してT1
のスライスであるという多段階の型エイリアスが構築されます。また、これらの型を使用する関数F1
とメソッドM1
,M2
も定義されており、型が正しく解決されることを確認するための追加のコンテキストを提供します。
-
two.go
: このファイルはtwo
パッケージを定義し、one
パッケージをインポートして、バグをトリガーするコードを含みます。import "./one"
:one
パッケージをインポートします。相対パスでのインポートは、テストケースで特定のディレクトリ構造をシミュレートするためによく使用されます。var V one.T3
:one
パッケージで定義された型エイリアスT3
を使用して変数V
を宣言します。この行が、gccgoがone.T2
を未定義と誤認識する原因となった箇所です。コメントで明示されているように、この行でgccgo
がエラーを発生させていました。
-
bug404.go
: このファイルは、Goのテストスイートがone.go
とtwo.go
をどのようにコンパイルしてバグをテストするかを指示するスクリプトファイルです。// $G $D/$F.dir/one.go && $G $D/$F.dir/two.go
: この行は、テストランナーが実行するコマンドを示しています。one.go
とtwo.go
を個別にコンパイルし、両方のコンパイルがエラーなく成功することを期待します。もしgccgoがバグを抱えていれば、two.go
のコンパイル時にエラーが発生し、テストは失敗します。このテストが追加されたことで、このバグが修正されたことを確認し、将来的に再発しないように監視することができます。
これらのファイルは、Goコンパイラのテストスイートの一部として、test/fixedbugs
ディレクトリに配置されています。これは、特定のバグが修正されたことを確認するための回帰テストとして機能します。
関連リンク
- Go CL 5622048: https://golang.org/cl/5622048
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (パッケージ、型エイリアスに関する情報): https://go.dev/doc/
- GCC Go Front End (gccgo) の情報: https://gcc.gnu.org/onlinedocs/gccgo/
- Go言語のテストフレームワークに関する情報 (特に
test/fixedbugs
ディレクトリの慣習): https://go.dev/src/cmd/go/testdata/test/README (Goソースコード内のテスト関連ドキュメント) - Go言語の型システムに関する議論 (一般的な情報): https://go.dev/blog/go-type-aliases (Go 1.9での型エイリアス導入に関するブログ記事など)
- Go言語のバグトラッカー (類似のバグ報告を検索): https://github.com/golang/go/issues