[インデックス 11563] ファイルの概要
このコミットは、Goプロジェクトで使用されているコードレビューツール(Rietveldベース)のcodereview.py
スクリプトにおける、デフォルトパスの検証ロジックの修正に関するものです。具体的には、コードレビュー機能が無効になっている場合に、不必要なデフォルトパスのURL形式チェックを行わないように変更されています。これにより、コードレビューが無効な状態でのスクリプトの異常終了(Abort)を防ぎ、より堅牢な動作を実現しています。
コミット
codereview: don't check default paths when codereview disabled
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5622043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/e10150f96d9d7dd8f3ab45a04288a75dc1f3c218
元コミット内容
commit e10150f96d9d7dd8f3ab45a04288a75dc1f3c218
Author: Andrew Gerrand <adg@golang.org>
Date: Thu Feb 2 14:25:13 2012 -0500
codereview: don't check default paths when codereview disabled
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5622043
---
lib/codereview/codereview.py | 10 +++++-----\n 1 file changed, 5 insertions(+), 5 deletions(-)\n
変更の背景
Goプロジェクトでは、RietveldというWebベースのコードレビューシステムをカスタマイズして使用していました。このシステムは、Mercurial (hg) リポジトリと連携し、変更セット(チェンジリスト)をレビューするためのツール群を提供しています。
lib/codereview/codereview.py
スクリプトは、Mercurialのリポジトリフックやコマンドとして機能し、コードレビュープロセスを自動化する役割を担っています。このスクリプトのreposetup
関数は、リポジトリの初期設定やコードレビュー関連のオプションの読み込みを行います。
以前の実装では、reposetup
関数内でコードレビュー機能が初期化される前に、ui.config("paths", "default", "")
で取得したデフォルトパスがURL形式であるかどうかのチェックが行われていました。しかし、何らかの理由でコードレビュー機能自体が無効化されている場合(例えば、リポジトリにルートがない場合など)、このURLチェックは不要であり、かつ、無効なパスが設定されているとhg_util.Abort
例外が発生し、スクリプトが異常終了してしまう問題がありました。
このコミットは、コードレビュー機能が無効化されている場合には、この不要なURL形式チェックをスキップすることで、スクリプトの堅牢性を高め、予期せぬエラーによる中断を防ぐことを目的としています。
前提知識の解説
- Rietveld: Googleが開発したWebベースのコードレビューシステムです。PerforceのMondrianをベースにしており、主にSubversionやGit、Mercurialなどのバージョン管理システムと連携して動作します。Goプロジェクトでは、このRietveldをベースにしたカスタムツールが使用されていました。
- Mercurial (hg): 分散型バージョン管理システムの一つで、Gitと同様に広く使われています。Goプロジェクトは初期にはMercurialを使用していましたが、後にGitに移行しました。このコミットが作成された2012年時点では、Mercurialが主要なバージョン管理システムでした。
codereview.py
: Goプロジェクトのコードレビュープロセスをサポートするために書かれたPythonスクリプトです。Mercurialのリポジトリフックやコマンドとして実行され、チェンジリストの作成、Rietveldへのアップロード、レビューコメントの取得などを行います。hg_util.Abort
: MercurialのPython APIの一部で、Mercurialコマンドの実行を中断し、エラーメッセージを表示するために使用される例外です。この例外がスローされると、Mercurialの操作は失敗します。ui.config("paths", "default", "")
: Mercurialのui
(ユーザーインターフェース)オブジェクトのメソッドで、Mercurialの設定ファイル(例:.hg/hgrc
)から設定値を読み込むために使用されます。"paths"
: 設定のセクション名。"default"
:paths
セクション内のキー名。通常、リモートリポジトリのデフォルトパスを指します。""
: 指定されたキーが見つからなかった場合のデフォルト値。- この設定は、Mercurialがリモートリポジトリと通信する際に使用するURLを定義します。
remote.find("://") < 0
: Pythonの文字列メソッドfind()
を使用しています。文字列内に"://"
(URLスキームの区切り文字)が含まれているかどうかをチェックしています。find()
は部分文字列が見つからない場合に-1
を返すため、< 0
は"://"
が見つからなかった、つまりURL形式ではないことを意味します。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、lib/codereview/codereview.py
内のreposetup
関数におけるコードの移動です。
reposetup
関数は、Mercurialリポジトリが初期化される際に呼び出されるフック関数です。この関数は、コードレビュー関連の設定を読み込み、Rietveldとの連携をセットアップします。
変更前のコードでは、codereview_init
フラグがTrue
でない場合に、まずremote
パスのURL形式チェックが行われていました。このチェックは、ui.config("paths", "default", "")
で取得したパスが://
を含まない場合にhg_util.Abort
例外を発生させるものでした。
しかし、このURLチェックの直後に、リポジトリのルートが存在しない場合など、コードレビュー機能自体が無効化される可能性のあるロジックが続いていました。
# 変更前
def reposetup(ui, repo):
if codereview_init:
return
codereview_init = True
remote = ui.config("paths", "default", "")
if remote.find("://") < 0:
raise hg_util.Abort("codereview: default path '%s' is not a URL" % (remote,))
# Read repository-specific options from lib/codereview/codereview.cfg or codereview.cfg.
root = ''
try:
root = repo.root
except hg_util.Abort:
# Yes, repo might not have root; see issue 959.
codereview_disabled = 'codereview disabled: repository has no root'
return # ここでreturnされると、上記のURLチェックが無駄になる
この問題は、コードレビュー機能が無効化される条件(例: repo.root
が存在しない場合)が満たされたとしても、その前にURLチェックが実行されてしまう点にありました。もしremote
パスがURL形式でなかった場合、コードレビュー機能が無効化される前にhg_util.Abort
がスローされ、不必要なエラーが発生していました。
このコミットでは、このURL形式チェックのコードブロックを、コードレビュー機能が無効化される可能性のあるロジックの後に移動しています。
# 変更後
def reposetup(ui, repo):
if codereview_init:
return
codereview_init = True
# Read repository-specific options from lib/codereview/codereview.cfg or codereview.cfg.
root = ''
try:
root = repo.root
except hg_util.Abort:
# Yes, repo might not have root; see issue 959.
codereview_disabled = 'codereview disabled: repository has no root'
return # ここでreturnされるため、URLチェックは実行されない
# ... その他の設定読み込みロジック ...
remote = ui.config("paths", "default", "")
if remote.find("://") < 0:
raise hg_util.Abort("codereview: default path '%s' is not a URL" % (remote,))
InstallMatch(ui, repo)
RietveldSetup(ui, repo)
この変更により、reposetup
関数が実行され、codereview_init
がTrue
でない場合でも、まずリポジトリのルートの有無など、コードレビュー機能の有効/無効を判断するロジックが先に実行されます。もしコードレビュー機能が無効化されると判断された場合、関数はそこでreturn
するため、remote
パスのURL形式チェックは完全にスキップされます。これにより、コードレビューが無効な状態での不必要なエラー発生が回避され、スクリプトの安定性が向上します。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/lib/codereview/codereview.py
+++ b/lib/codereview/codereview.py
@@ -2187,10 +2187,6 @@ def reposetup(ui, repo):\n if codereview_init:\n return\n codereview_init = True\n-\t\n-\tremote = ui.config("paths", "default", "")\n-\tif remote.find("://") < 0:\n-\t\traise hg_util.Abort("codereview: default path '%s' is not a URL" % (remote,))\n \n # Read repository-specific options from lib/codereview/codereview.cfg or codereview.cfg.\n root = ''\n@@ -2200,7 +2196,7 @@ def reposetup(ui, repo):\n # Yes, repo might not have root; see issue 959.\n codereview_disabled = 'codereview disabled: repository has no root'\n return\n-\n+\t\n repo_config_path = ''\n p1 = root + '/lib/codereview/coderereview.cfg'\n p2 = root + '/codereview.cfg'\n@@ -2220,6 +2216,10 @@ def reposetup(ui, repo):\n codereview_disabled = 'codereview disabled: cannot open ' + repo_config_path\n return\n \n+\tremote = ui.config("paths", "default", "")\n+\tif remote.find("://") < 0:\n+\t\traise hg_util.Abort("codereview: default path '%s' is not a URL" % (remote,))\n+\n InstallMatch(ui, repo)\n RietveldSetup(ui, repo)\n
コアとなるコードの解説
このdiffは、lib/codereview/codereview.py
ファイルのreposetup
関数内の変更を示しています。
-
削除された行 (
-
で始まる行):- remote = ui.config("paths", "default", "") - if remote.find("://") < 0: - raise hg_util.Abort("codereview: default path '%s' is not a URL" % (remote,))
これらの行は、
reposetup
関数の冒頭、codereview_init = True
の直後に存在していました。ここで、Mercurialの設定からデフォルトパスを取得し、それがURL形式であるかをチェックしていました。URL形式でない場合はhg_util.Abort
例外を発生させていました。 -
追加された行 (
+
で始まる行):+ remote = ui.config("paths", "default", "") + if remote.find("://") < 0: + raise hg_util.Abort("codereview: default path '%s' is not a URL" % (remote,))
全く同じコードブロックが、
reposetup
関数の後半、repo_config_path
の処理とcodereview_disabled
の設定が完了した後に移動されています。
この変更の意図は、reposetup
関数内でコードレビュー機能が有効であると最終的に判断された場合にのみ、このURL形式チェックを実行するようにすることです。もし、リポジトリにルートがないなどの理由でコードレビュー機能が早期に無効化され、関数がreturn
する場合、このURLチェックは実行されなくなります。これにより、コードレビューが不要な状況で、無効なデフォルトパス設定による不必要なエラー発生を防ぎ、スクリプトのロバスト性が向上します。
関連リンク
- https://golang.org/cl/5622043 - このコミットに対応するGoのコードレビューシステム(Gerrit/Rietveld)上のチェンジリスト。
参考にした情報源リンク
- Mercurial Documentation: https://www.mercurial-scm.org/
- Rietveld (Wikipedia): https://en.wikipedia.org/wiki/Rietveld
- Go Project Code Review Process (当時の情報に基づく): https://go.dev/doc/contribute#code_review (現在のドキュメントはGerritベースですが、当時のRietveldの文脈を理解するのに役立ちます)
- Python
str.find()
documentation: https://docs.python.org/3/library/stdtypes.html#str.find hg_util.Abort
(Mercurial source code context): https://fossies.org/linux/mercurial/mercurial/util.py (Mercurialのバージョンによってパスや内容が異なる可能性がありますが、概念は共通です)