[インデックス 11649] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のビルドツールであるcmd/go
がcgo
ツールを呼び出す際に、環境変数CGO_CFLAGS
の値を適切にcgo
に渡すように修正するものです。これにより、cgo
プロジェクトをビルドする際に、代替のインクルードディレクトリが正しく機能するようになります。
コミット
commit eac86fd3f0edb3a82d51c3ced90a73fd17e22d81
Author: Jeff Hodges <jeff@somethingsimilar.com>
Date: Mon Feb 6 11:26:15 2012 -0500
cmd/go: pass env CGO_CFLAGS to cgo
Passing the CGO_CFLAGS to cgo is required to make alternative include
directories work when building a cgo project.
R=rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5635048
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/eac86fd3f0edb3a82d51c3ced90a73fd17e22d81
元コミット内容
cmd/go: pass env CGO_CFLAGS to cgo
Passing the CGO_CFLAGS to cgo is required to make alternative include
directories work when building a cgo project.
変更の背景
Go言語は、C言語のコードをGoプログラムに組み込むためのcgo
というメカニズムを提供しています。cgo
を使用すると、GoコードからC関数を呼び出したり、CコードからGo関数を呼び出したりすることができます。Cコードをコンパイルする際には、通常、コンパイラにインクルードパス(ヘッダーファイルがどこにあるかを指定するパス)を渡す必要があります。これはCFLAGS
などのコンパイラフラグを通じて行われます。
cgo
を使用するプロジェクトでは、Goのビルドシステムが内部的にCコンパイラを呼び出す前に、cgo
ツールを介してCコードを処理します。この際、ユーザーが環境変数CGO_CFLAGS
を通じて指定した追加のコンパイラフラグ(例えば、-I/path/to/custom/include
のようなインクルードディレクトリの指定)が、cgo
ツールに正しく渡されないという問題がありました。
この問題により、cgo
プロジェクトが、標準以外の場所に存在するヘッダーファイルに依存している場合、ビルドが失敗していました。このコミットは、この問題を解決し、CGO_CFLAGS
で指定されたインクルードディレクトリがcgo
ツールによって適切に処理されるようにすることを目的としています。
前提知識の解説
cgo
cgo
は、GoプログラムがC言語のコードと相互運用するためのGoツールチェーンの一部です。Goのソースファイル内にimport "C"
という行があると、Goコンパイラはcgo
ツールを呼び出します。cgo
は、GoとCの間のブリッジコードを生成し、Cコンパイラ(通常はGCCやClang)を呼び出してCコードをコンパイルします。
CGO_CFLAGS
CGO_CFLAGS
は、cgo
がCコンパイラを呼び出す際に使用する追加のCコンパイラフラグを指定するための環境変数です。これには、インクルードパス(-I
)、マクロ定義(-D
)、警告オプション(-Wall
)などが含まれます。例えば、CGO_CFLAGS="-I/usr/local/include"
と設定すると、/usr/local/include
がCコンパイラのインクルードパスに追加されます。
Goのビルドプロセスとcgoの役割
Goのビルドプロセスにおいて、cgo
が関与する場合の一般的な流れは以下のようになります。
- Goのビルドコマンド(
go build
など)が実行されます。 - Goのソースコードに
import "C"
が含まれている場合、ビルドツールはcgo
ツールを起動します。 cgo
ツールは、GoとCの間の相互運用に必要なGoとCのソースファイルを生成します。cgo
は、生成されたCソースファイルと元のCソースファイル(もしあれば)を、CGO_CFLAGS
などの環境変数で指定されたフラグを使用してCコンパイラでコンパイルします。- コンパイルされたCオブジェクトファイルは、Goのビルドプロセスに渡され、最終的なGo実行可能ファイルにリンクされます。
このコミット以前は、ステップ4でCGO_CFLAGS
がcgo
ツールに適切に渡されていなかったため、Cコンパイラが正しいインクルードパスを知ることができませんでした。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、Goのビルドシステム(src/cmd/go/build.go
内のbuilder
構造体とcgo
メソッド)が、cgo
ツールを呼び出す際に、CGO_CFLAGS
環境変数の値を明示的に引数として渡すように変更された点です。
以前のコードでは、cgo
ツールを呼び出すb.run
関数に渡される引数リストに、CGO_CFLAGS
に相当するものが含まれていませんでした。cgo
ツール自体は、CGO_CFLAGS
環境変数を読み取る能力を持っていますが、Goのビルドシステムがcgo
を子プロセスとして起動する際に、この環境変数が子プロセスに継承されない、あるいはcgo
が期待する形式でフラグが渡されないという問題があったと考えられます。
この修正により、cgo
ツールが実行される際に、CGO_CFLAGS
で指定されたフラグがコマンドライン引数として明示的に渡されるようになりました。これにより、cgo
ツールはこれらのフラグをCコンパイラに正しく渡し、結果としてCコンパイラは代替のインクルードディレクトリを認識できるようになります。
具体的には、cgo
ツールは、コマンドライン引数として渡された-CFLAGS
や-LDFLAGS
などのフラグを、環境変数から読み取ったものと同様に処理します。この変更は、Goのビルドシステムがcgo
ツールとの連携をより堅牢にし、ユーザーが指定したビルドオプションが確実に適用されるようにするためのものです。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/cmd/go/build.go
ファイル内のcgo
関数にあります。
--- a/src/cmd/go/build.go
+++ b/src/cmd/go/build.go
@@ -1183,7 +1183,7 @@ func (b *builder) cgo(p *Package, cgoExe, obj string, gccfiles []string) (outGo,
if _, ok := buildToolchain.(gccgoToolchain); ok {
cgoflags = append(cgoflags, "-gccgo")
}
- if err := b.run(p.Dir, p.ImportPath, cgoExe, "-objdir", obj, cgoflags, "--", p.CgoFiles); err != nil {
+ if err := b.run(p.Dir, p.ImportPath, cgoExe, "-objdir", obj, cgoflags, "--", cgoCFLAGS, p.CgoFiles); err != nil {
return nil, nil, err
}
outGo = append(outGo, gofiles...)
コアとなるコードの解説
変更された行は、b.run
関数を呼び出している部分です。b.run
関数は、指定された実行可能ファイル(この場合はcgoExe
、つまりcgo
ツール)を、与えられた引数で実行するためのヘルパー関数です。
-
変更前:
if err := b.run(p.Dir, p.ImportPath, cgoExe, "-objdir", obj, cgoflags, "--", p.CgoFiles); err != nil {
この行では、
cgoExe
(cgo
ツール)が、-objdir
、obj
、cgoflags
、--
、p.CgoFiles
といった引数で実行されていました。ここでcgoflags
はGoのビルドシステムが内部的に生成するcgo
関連のフラグですが、ユーザーが環境変数CGO_CFLAGS
で指定した内容は含まれていませんでした。 -
変更後:
if err := b.run(p.Dir, p.ImportPath, cgoExe, "-objdir", obj, cgoflags, "--", cgoCFLAGS, p.CgoFiles); err != nil {
変更後では、引数リストに新たに
cgoCFLAGS
が追加されています。このcgoCFLAGS
は、Goのビルドシステムが環境変数CGO_CFLAGS
から取得した値を保持する変数です。これにより、ユーザーがCGO_CFLAGS
に設定した値が、cgo
ツールへのコマンドライン引数として明示的に渡されるようになりました。
この修正により、cgo
ツールは、ユーザーが指定した追加のCコンパイラフラグ(特にインクルードディレクトリの指定)を正しく受け取り、それを内部的に呼び出すCコンパイラに渡すことができるようになります。結果として、代替のインクルードディレクトリにあるヘッダーファイルも正しく見つけられるようになり、cgo
プロジェクトのビルドが成功するようになります。
関連リンク
- Go言語の
cgo
に関する公式ドキュメント: https://pkg.go.dev/cmd/cgo - Go言語の環境変数に関するドキュメント(
CGO_CFLAGS
についても言及されています): https://pkg.go.dev/cmd/go#hdr-Environment_variables - このコミットが属するGoの変更リスト(CL): https://golang.org/cl/5635048
参考にした情報源リンク
- Go言語のソースコード (
src/cmd/go/build.go
) - Go言語の公式ドキュメント
- Go言語のコミット履歴と変更リスト (CL)
cgo
の動作に関する一般的な知識