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[インデックス 1166] ファイルの概要

このコミットは、Go言語プロジェクトのビルドプロセスにおける、src/cmd/gotest/Makefile 内のinstallターゲットのシェルスクリプトのロジックを修正するものです。具体的には、既存のターゲットファイルに対するパーミッション変更の処理をより堅牢にすることで、新規ユーザー("newbies")がビルドを行う際に発生しうる問題を解決することを目的としています。

コミット

commit 866c08ff20f64147367723c256b1d1e14f75ced5
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Tue Nov 18 17:22:31 2008 -0800

    fix build for newbies
    
    R=r
    OCL=19526
    CL=19528

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/866c08ff20f64147367723c256b1d1e14f75ced5

元コミット内容

このコミットは、src/cmd/gotest/Makefile ファイルのinstallターゲットにおけるシェルコマンドの記述を修正しています。

変更前:

install: $(TARG)
	test -f $(BIN)/$(TARG) && chmod u+w $(BIN)/$(TARG)
	cp $(TARG) $(BIN)/$(TARG)

変更後:

install: $(TARG)
	! test -f $(BIN)/$(TARG) || chmod u+w $(BIN)/$(TARG)
	cp $(TARG) $(BIN)/$(TARG)

この変更は、test -fコマンドと論理演算子&&の組み合わせを、!(否定)と||(論理OR)の組み合わせに置き換えることで、ファイルが存在する場合にchmod u+wコマンドが確実に実行されるようにしています。

変更の背景

コミットメッセージ「fix build for newbies」が示すように、この変更はGo言語のビルドプロセスにおいて、特に新規ユーザーが直面する可能性のある問題を解決するために行われました。

Go言語の初期段階では、ビルドシステムや環境設定がまだ成熟しておらず、ユーザーがビルドを実行する際に様々な問題に遭遇することがありました。この特定のケースでは、make installコマンドが実行される際に、ターゲットディレクトリに既に同名のファイルが存在し、かつそのファイルが書き込み可能でない場合に、cpコマンドが失敗するという問題が発生していたと考えられます。

元のMakefileの記述test -f $(BIN)/$(TARG) && chmod u+w $(BIN)/$(TARG)は、「もしファイルが存在するならば、そのファイルを書き込み可能にする」という意図でした。しかし、特定のシェル環境や、test -fコマンドが予期せぬ終了ステータスを返すようなエッジケースにおいて、この論理が正しく機能しない可能性がありました。例えば、ファイルが存在するにもかかわらずtest -fが非ゼロの終了ステータスを返した場合、&&の後のchmodコマンドは実行されず、結果としてcpコマンドがパーミッションエラーで失敗する、といった状況が考えられます。

このようなビルドの失敗は、特にGo言語のビルドシステムに不慣れな新規ユーザーにとって、大きな障壁となり得ます。そのため、より堅牢なシェルスクリプトのイディオムを採用することで、この問題を解決し、ビルドの信頼性を向上させることが変更の背景にあります。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の前提知識が必要です。

  1. Makefile: Makefileは、プログラムのコンパイルやインストールなどのタスクを自動化するためのルールを記述するファイルです。makeコマンドによって解釈・実行されます。

    • ターゲット (Target): installのように、実行したいタスクの名前です。
    • レシピ (Recipe): ターゲットを実行するために必要なシェルコマンドのリストです。各行はタブで始まる必要があります。
    • 変数: $(TARG)$(BIN)のように、値を保持するプレースホルダーです。
  2. シェルスクリプトの論理演算子: Unix/Linuxシェル(Bashなど)では、コマンドの実行を制御するために論理演算子が使用されます。

    • && (論理AND): 左側のコマンドが成功(終了ステータスが0)した場合にのみ、右側のコマンドを実行します。
    • || (論理OR): 左側のコマンドが失敗(終了ステータスが非0)した場合にのみ、右側のコマンドを実行します。
    • ! (否定): コマンドの終了ステータスを反転させます。成功を失敗に、失敗を成功に変換します。
  3. testコマンド: ファイルや文字列の条件を評価するためのシェルコマンドです。

    • test -f <ファイル>: <ファイル>が存在し、かつ通常のファイルである場合に成功(終了ステータス0)を返します。存在しないか、通常のファイルでない場合は失敗(終了ステータス非0)を返します。
  4. chmodコマンド: ファイルのパーミッション(読み取り、書き込み、実行権限)を変更するためのコマンドです。

    • chmod u+w <ファイル>: <ファイル>の所有者(user)に書き込み(write)権限を追加します。
  5. cpコマンド: ファイルやディレクトリをコピーするためのコマンドです。

    • cp <元ファイル> <先ファイル>: <元ファイル><先ファイル>にコピーします。<先ファイル>が既に存在する場合、通常は上書きされますが、書き込み権限がない場合はエラーになります。

技術的詳細

このコミットの核心は、シェルスクリプトにおける条件付き実行のイディオムの変更にあります。

元のロジック (test -f A && chmod A):

  1. test -f $(BIN)/$(TARG): ターゲットファイル$(BIN)/$(TARG)が存在するかどうかをチェックします。
  2. &&: test -fが成功(ファイルが存在する)した場合にのみ、次のchmod u+w $(BIN)/$(TARG)が実行されます。
    • もしファイルが存在しない場合、test -fは失敗し、chmodは実行されません。これは正しい動作です(存在しないファイルのパーミッションを変更する必要はないため)。
    • もしファイルが存在する場合、test -fは成功し、chmodが実行されます。これにより、cpコマンドがファイルを上書きできるようになります。

新しいロジック (! test -f A || chmod A):

  1. test -f $(BIN)/$(TARG): ターゲットファイルが存在するかどうかをチェックします。
  2. !: test -fの終了ステータスを反転させます。
    • もしファイルが存在しない場合、test -fは失敗(非0)します。!によってそのステータスは成功(0)に反転します。
    • もしファイルが存在する場合、test -fは成功(0)します。!によってそのステータスは失敗(非0)に反転します。
  3. ||: !で反転されたtest -fの結果が失敗(非0)した場合にのみ、次のchmod u+w $(BIN)/$(TARG)が実行されます。
    • ファイルが存在しない場合(! test -fが成功)、chmodは実行されません。
    • ファイルが存在する場合(! test -fが失敗)、chmodが実行されます。

このように、両方のロジックは最終的に「ファイルが存在する場合にのみchmod u+wを実行する」という同じ結果をもたらします。しかし、! command1 || command2というパターンは、command1が失敗した場合にcommand2を実行するという、シェルスクリプトでよく使われるイディオムです。この文脈では、command1test -fの否定であるため、「test -fが失敗した場合(つまりファイルが存在しない場合)にはchmodを実行しない」という意図をより明確に、かつ堅牢に表現していると考えられます。

なぜこの変更が必要だったのかという点については、test -fコマンドが特定の条件下で予期せぬ終了ステータスを返したり、あるいは&&の挙動が特定のシェルバージョンで問題を引き起こしたりする可能性が考えられます。! A || Bの形式は、一部のシェルスクリプト開発者にとって、より予測可能で堅牢な条件付き実行の方法と見なされることがあります。特に、ビルドシステムのような多様な環境で実行されるスクリプトにおいては、このような堅牢性の向上が重要です。

この修正により、gotestコマンドのインストール時に、既存のファイルに対するパーミッションの問題でビルドが中断されるリスクが低減され、Go言語のビルドプロセスがより安定し、新規ユーザーにとっても使いやすくなりました。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/cmd/gotest/Makefileファイルの一箇所のみです。

--- a/src/cmd/gotest/Makefile
+++ b/src/cmd/gotest/Makefile
@@ -10,5 +10,5 @@ clean:
 	@true
 
 install: $(TARG)
-	test -f $(BIN)/$(TARG) && chmod u+w $(BIN)/$(TARG)
+	! test -f $(BIN)/$(TARG) || chmod u+w $(BIN)/$(TARG)
 	cp $(TARG) $(BIN)/$(TARG)

コアとなるコードの解説

変更された行は、installターゲットのレシピの一部です。

  • install:: make installコマンドが実行されたときに実行されるターゲットです。
  • $(TARG): gotestバイナリの最終的な名前(例: gotest)を表す変数です。
  • $(BIN): バイナリがインストールされるディレクトリ(例: /usr/local/bin)を表す変数です。

変更前の行: test -f $(BIN)/$(TARG) && chmod u+w $(BIN)/$(TARG) これは、「もし$(BIN)/$(TARG)というファイルが存在するならば、そのファイルの所有者に書き込み権限を追加する」という意味です。これは、その後のcpコマンドが既存のファイルを上書きできるようにするための準備です。

変更後の行: ! test -f $(BIN)/$(TARG) || chmod u+w $(BIN)/$(TARG) これは、「もし$(BIN)/$(TARG)というファイルが存在しない(test -fが失敗し、!で成功に反転する)ならば、chmodコマンドは実行しない。そうでなければ(ファイルが存在するならば、test -fが成功し、!で失敗に反転するため)、chmod u+w $(BIN)/$(TARG)を実行する」という意味になります。

結果として、両方の記述は「ファイルが存在する場合にのみchmod u+wを実行する」という同じ論理的な目的を達成します。しかし、新しい記述は、シェルスクリプトの文脈において、より堅牢で意図が明確なイディオムと見なされることがあります。これにより、ビルド環境の差異や予期せぬtestコマンドの終了ステータスによって発生する可能性のあるビルドエラーが回避されます。

この変更は、Go言語のビルドプロセスにおける小さな、しかし重要な改善であり、特に異なる環境でGoをビルドしようとする新規ユーザーにとって、よりスムーズな体験を提供することに貢献しました。

関連リンク

  • Go言語の公式リポジトリ: https://github.com/golang/go
  • makeコマンドに関するドキュメント: GNU Make Manual (オンラインで検索可能)
  • シェルスクリプトの条件式と論理演算子に関するドキュメント (Bash Reference Manualなど)

参考にした情報源リンク

  • Gitコミット情報 (./commit_data/1166.txt)
  • GitHub上のコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/866c08ff20f64147367723c256b1d1e14f75ced5
  • 一般的なシェルスクリプトのイディオムとtestコマンドの動作に関する知識
  • Makefileの構文と機能に関する知識
  • chmodおよびcpコマンドの基本的な動作に関する知識
  • Go言語の初期のビルドプロセスに関する一般的な理解(Goの歴史的背景)