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[インデックス 11686] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリである net/http パッケージのテストコード (transport_test.go) におけるエラーハンドリングの改善を目的としています。具体的には、gzip.NewWriter および gzip.NewReader の呼び出しで発生する可能性のあるエラーが以前は無視されていた箇所を修正し、エラーが発生した場合にはテストが失敗するように変更しています。これにより、Issue 2651 とされる問題のデバッグを支援します。

コミット

commit c02db82b83da2f820531bebeba5604ac7aa4846a
Author: Brad Fitzpatrick <bradfitz@golang.org>
Date:   Tue Feb 7 19:15:25 2012 -0800

    net/http: don't ignore some errors in tests
    
    to help debug Issue 2651
    
    R=golang-dev, dsymonds
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5644049

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/c02db82b83da2f820531bebeba5604ac7aa4846a

元コミット内容

net/http: don't ignore some errors in tests to help debug Issue 2651

このコミットは、net/http パッケージのテストにおいて、特定のエラーを無視しないように変更するものです。これは Issue 2651 のデバッグを支援するために行われました。

変更の背景

このコミットの主な背景は、Issue 2651 とされる問題のデバッグを支援することにあります。ソフトウェア開発において、テストコードは機能の正しさを検証するだけでなく、潜在的なバグや予期せぬ挙動を早期に発見するための重要なツールです。しかし、テストコード内でエラーが適切にハンドリングされていない場合、実際にはエラーが発生していてもテストが成功と判断されてしまい、問題が見過ごされる可能性があります。

このコミットでは、net/http パッケージの transport_test.go 内で、gzip.NewWriter および gzip.NewReader の呼び出し結果として返されるエラーが、Go言語のブランク識別子 (_) を使用して意図的に無視されていました。これは、通常であればエラーが発生しないと想定される状況や、エラーハンドリングが本質的ではないと判断された場合に用いられる手法です。しかし、Issue 2651 のような特定のデバッグシナリオにおいては、これらの「無視されたエラー」が問題の根本原因を隠蔽している可能性がありました。

したがって、このコミットは、テストの堅牢性を高め、デバッグプロセスを効率化するために、エラーを明示的にチェックし、エラーが発生した場合にはテストを失敗させるように変更することで、潜在的な問題を表面化させることを目的としています。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語および関連技術の基本的な知識が必要です。

  1. Go言語のエラーハンドリング: Go言語では、関数がエラーを返す場合、通常は戻り値の最後の要素として error 型の値を返します。呼び出し元は、この error 値が nil でないかどうかをチェックすることで、エラーが発生したかどうかを判断します。

    value, err := someFunction()
    if err != nil {
        // エラーハンドリング
    }
    

    _ (ブランク識別子) は、変数を宣言するものの、その値を明示的に使用しない場合に用いられます。エラーハンドリングの文脈では、err_ で受け取ることで、エラー値を無視することができます。

    value, _ := someFunction() // エラーを無視
    

    このコミットは、テストコードにおいて、これまで _ で無視されていたエラーを明示的にチェックするように変更しています。

  2. net/http パッケージ: Go言語の標準ライブラリであり、HTTPクライアントおよびサーバーの実装を提供します。ウェブアプリケーションやAPIの構築に不可欠なパッケージです。

    • http.Transport: HTTPリクエストの送信とレスポンスの受信を担当する構造体です。ネットワーク接続の管理、プロキシ設定、TLS設定など、低レベルのHTTP通信の詳細を扱います。
    • http.RoundTripper インターフェース: RoundTrip(req *Request) (*Response, error) メソッドを持つインターフェースです。http.Transport はこのインターフェースを実装しており、HTTPリクエストを送信し、レスポンスを受け取るための主要なメカニズムを提供します。
  3. compress/gzip パッケージ: Go言語の標準ライブラリであり、GZIP形式の圧縮および解凍機能を提供します。

    • gzip.NewWriter(w io.Writer) (*Writer, error): 指定された io.Writer にGZIP圧縮データを書き込むための gzip.Writer を作成します。エラーを返す可能性があります。
    • gzip.NewReader(r io.Reader) (*Reader, error): 指定された io.Reader からGZIP圧縮データを読み込むための gzip.Reader を作成します。エラーを返す可能性があります。
  4. Go言語のテスト (testing パッケージ): Go言語には、組み込みのテストフレームワークが用意されており、testing パッケージを使用してテストを記述します。

    • func TestXxx(t *testing.T): テスト関数は Test で始まり、*testing.T 型の引数を取ります。
    • t.Errorf(format string, args ...interface{}): テスト中にエラーが発生したことを報告し、テストを失敗としてマークしますが、テスト関数の実行は継続します。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、テストコードにおけるエラーハンドリングの厳格化です。Go言語では、エラーを明示的に処理することが推奨されていますが、テストコードや特定のユーティリティ関数では、エラーが「発生しないはず」という前提のもとで、エラー値をブランク識別子 (_) で無視することがあります。これはコードを簡潔にする一方で、予期せぬエラーが発生した場合にその兆候を見逃すリスクを伴います。

Issue 2651 のデバッグという文脈において、net/http パッケージの transport_test.go 内で gzip.NewWritergzip.NewReader の呼び出し時にエラーが無視されていたことが問題視されました。これらの関数は、内部的にファイルシステムへのアクセスやメモリ割り当てなど、失敗する可能性のある操作を行うため、エラーを返す可能性があります。

具体的には、以下の変更が行われました。

  1. gzip.NewWriter のエラーチェック: 変更前: tgz, _ := gzip.NewWriter(rw) 変更後:

    tgz, err := gzip.NewWriter(rw)
    if err != nil {
        t.Errorf("gzip NewWriter: %v", err)
        return
    }
    

    これにより、gzip.NewWriter の初期化に失敗した場合、テストは即座にエラーを報告し、return でテスト関数の実行を中断します。これは、gzip.Writer が正しく初期化されないまま後続の操作(tgz.Writetgz.Close)が実行されることによる、さらなるパニックや予期せぬ挙動を防ぎます。

  2. gzip.NewReader のエラーチェック: 変更前: gzip, _ := gzip.NewReader(res.Body) 変更後:

    gzip, err := gzip.NewReader(res.Body)
    if err != nil {
        t.Errorf("%d. gzip NewReader: %v", i, err)
        continue
    }
    

    同様に、gzip.NewReader の初期化に失敗した場合、テストはエラーを報告します。ここでは continue が使用されており、これはループ内のテストケースであるため、現在のテストケースをスキップして次のテストケースの実行を継続することを意味します。これにより、一つのテストケースでのエラーが、他の独立したテストケースの実行を妨げないようにしています。

これらの変更は、テストの信頼性を向上させ、特に複雑なデバッグシナリオにおいて、エラーの根本原因を特定するための重要な手がかりを提供します。エラーが無視されることで隠蔽されていた問題が、これらの変更によって顕在化し、より迅速な解決に繋がる可能性があります。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/net/http/transport_test.go ファイルに集中しています。

--- a/src/pkg/net/http/transport_test.go
+++ b/src/pkg/net/http/transport_test.go
@@ -441,7 +441,11 @@ func TestRoundTripGzip(t *testing.T) {
 		}
 		if accept == "gzip" {
 			rw.Header().Set("Content-Encoding", "gzip")
-\t\t\tgz, _ := gzip.NewWriter(rw)
+\t\t\tgz, err := gzip.NewWriter(rw)
+\t\t\tif err != nil {\n+\t\t\t\tt.Errorf("gzip NewWriter: %v", err)\n+\t\t\t\treturn\n+\t\t\t}\n \t\t\tgz.Write([]byte(responseBody))\
 \t\t\tgz.Close()\
 \t\t} else {\
@@ -460,7 +464,11 @@ func TestRoundTripGzip(t *testing.T) {
 \t\tres, err := DefaultTransport.RoundTrip(req)\
 \t\tvar body []byte\
 \t\tif test.compressed {\
-\t\t\tgzip, _ := gzip.NewReader(res.Body)\
+\t\t\tgzip, err := gzip.NewReader(res.Body)\
+\t\t\tif err != nil {\n+\t\t\t\tt.Errorf("%d. gzip NewReader: %v", i, err)\n+\t\t\t\tcontinue\n+\t\t\t}\n \t\t\tbody, err = ioutil.ReadAll(gzip)\
 \t\t\tres.Body.Close()\
 \t\t} else {\

コアとなるコードの解説

このコミットでは、TestRoundTripGzip というテスト関数内で、gzip.NewWritergzip.NewReader の呼び出しにおけるエラーハンドリングが変更されています。

  1. gzip.NewWriter の変更:

    • 元のコード: tgz, _ := gzip.NewWriter(rw)
      • gzip.NewWriter*gzip.Writererror の2つの値を返しますが、エラー値はブランク識別子 _ によって無視されていました。
    • 変更後のコード:
      tgz, err := gzip.NewWriter(rw)
      if err != nil {
          t.Errorf("gzip NewWriter: %v", err)
          return
      }
      
      • エラー値が err 変数に明示的に代入されるようになりました。
      • if err != nil でエラーの有無がチェックされます。
      • エラーが存在する場合 (errnil でない場合) は、t.Errorf を使用してテストエラーが報告されます。エラーメッセージには、発生したエラーの詳細が含まれます。
      • return ステートメントにより、エラーが発生した時点でテスト関数の残りの部分の実行が中断されます。これは、gzip.Writer の初期化が失敗した場合に、その後の tgz.Writetgz.Close の呼び出しがパニックを引き起こす可能性を防ぐためです。
  2. gzip.NewReader の変更:

    • 元のコード: gzip, _ := gzip.NewReader(res.Body)
      • gzip.NewReader も同様に *gzip.Readererror の2つの値を返しますが、エラー値はブランク識別子 _ によって無視されていました。
    • 変更後のコード:
      gzip, err := gzip.NewReader(res.Body)
      if err != nil {
          t.Errorf("%d. gzip NewReader: %v", i, err)
          continue
      }
      
      • エラー値が err 変数に明示的に代入されるようになりました。
      • if err != nil でエラーの有無がチェックされます。
      • エラーが存在する場合 (errnil でない場合) は、t.Errorf を使用してテストエラーが報告されます。エラーメッセージには、テストケースのインデックス (%d.) と発生したエラーの詳細が含まれます。
      • continue ステートメントにより、現在のループイテレーション(テストケース)の残りの部分の実行がスキップされ、次のテストケースの実行が継続されます。これは、TestRoundTripGzip が複数のテストケースをループで実行しているため、一つのテストケースでの gzip.NewReader の失敗が、他のテストケースの検証を妨げないようにするためです。

これらの変更により、gzip.NewWritergzip.NewReader の呼び出しで発生する可能性のあるエラーがテスト中に捕捉され、Issue 2651 のような問題のデバッグにおいて、より正確な情報が提供されるようになりました。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語公式ドキュメント: net/http パッケージ (https://pkg.go.dev/net/http)
  • Go言語公式ドキュメント: compress/gzip パッケージ (https://pkg.go.dev/compress/gzip)
  • Go言語公式ドキュメント: testing パッケージ (https://pkg.go.dev/testing)
  • Go言語のエラーハンドリングに関する一般的な情報源
  • Issue 2651 についての直接的な公開情報は見つかりませんでしたが、コミットメッセージから、net/http パッケージに関連するデバッグ作業の一環であったと推測されます。