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[インデックス 11746] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリである compress/gzip パッケージ内の gunzip.go ファイルから、到達不能な(デッド)コードを削除するものです。具体的には、NewReader 関数内でエラーが発生した際に、そのエラーを Decompressor 構造体の err フィールドに代入する処理が削除されました。この代入は、直後に nil, err が返されるため、代入された値が利用されることがなく、無意味な処理となっていました。

コミット

  • コミットハッシュ: 309863aec4802bba22a3e9e5fa75cd5d1a0e1d93
  • 作者: Alex Brainman alex.brainman@gmail.com
  • コミット日時: 2012年2月10日 金曜日 09:33:51 +1100

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/309863aec4802bba22a3e9e5fa75cd5d1a0e1d93

元コミット内容

compress/gzip: remove dead code

R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5645074

変更の背景

この変更の背景には、コードの品質向上と保守性の維持があります。デッドコード(Dead Code)とは、プログラムの実行フローにおいて決して実行されることのないコードブロックを指します。このようなコードは、プログラムの動作に影響を与えない一方で、コードベースを不必要に肥大化させ、読解を困難にし、将来的な変更やデバッグの際に混乱を招く可能性があります。

compress/gzip パッケージの NewReader 関数において、エラー発生時に z.err = err という代入が行われていましたが、その直後に return nil, err という形で関数が終了していました。Go言語の関数は複数の戻り値を返すことができ、このケースでは (*Decompressor, error) のペアを返します。エラーが発生した場合、Decompressor のポインタは nil となり、エラー値が返されます。このとき、zDecompressor のインスタンス)は呼び出し元に返されないため、z.err に値を代入しても、その値が外部から参照されることはありません。したがって、この代入処理は完全に無意味であり、デッドコードと判断され削除されました。

このようなデッドコードの削除は、コードベースをクリーンに保ち、開発者がより重要なロジックに集中できるようにするために重要です。

前提知識の解説

Go言語のエラーハンドリング

Go言語では、エラーは通常、関数の最後の戻り値として error 型で返されます。慣習として、関数が正常に完了した場合は nil を返し、エラーが発生した場合は非nilerror 値を返します。呼び出し元は、返された error 値が nil かどうかをチェックすることで、処理が成功したか失敗したかを判断します。

result, err := someFunction()
if err != nil {
    // エラー処理
    return nil, err // または他のエラーハンドリング
}
// 正常処理

このコミットで削除されたコードは、このGo言語のエラーハンドリングの慣習と密接に関連しています。

compress/gzip パッケージ

compress/gzip パッケージは、Go言語の標準ライブラリの一部であり、RFC 1952 で定義されている gzip 形式の圧縮データストリームを読み書きするための機能を提供します。このパッケージは、ファイルの圧縮・解凍、ネットワーク経由での圧縮データの送受信など、様々な場面で利用されます。

  • NewReader(r io.Reader): io.Reader から gzip 圧縮データを読み込むための新しい Reader を作成します。この関数は、gzip ヘッダーを読み込み、その後のデータストリームを解凍するための準備を行います。
  • Decompressor 構造体: compress/gzip パッケージ内部で使用される構造体で、gzip データの解凍状態を管理します。これには、入力ストリーム、CRC32 チェックサム計算のためのダイジェスト、および内部エラー状態などが含まれます。
  • readHeader(): gzip ストリームのヘッダーを読み込み、検証する内部関数です。ヘッダーには、圧縮方法、ファイル名、タイムスタンプなどのメタデータが含まれます。
  • crc32.NewIEEE(): hash/crc32 パッケージから提供される関数で、IEEE 802.3 規格で定義されている CRC-32 チェックサムを計算するための新しい hash.Hash32 インターフェースを返します。gzip 形式では、データの整合性を確認するために CRC-32 チェックサムが使用されます。

デッドコード(Dead Code)

デッドコードとは、プログラムの実行パスにおいて決して実行されることのないコードのことです。これは、以下のような状況で発生する可能性があります。

  • 到達不能なコード: return 文や panic の後に続くコード、あるいは常に偽となる条件分岐のブロックなど。
  • 未使用の変数や関数: 定義されているが、プログラムのどこからも呼び出されたり参照されたりしない変数や関数。

デッドコードは、コンパイラによって最適化の段階で削除されることがありますが、ソースコード上には残ることがあります。これを手動で削除することで、コードの可読性と保守性が向上します。

技術的詳細

このコミットは、src/pkg/compress/gzip/gunzip.go ファイルの NewReader 関数内の特定の行を削除しています。

元のコードは以下のようになっていました。

func NewReader(r io.Reader) (*Decompressor, error) {
	z := new(Decompressor)
	z.r = makeReader(r)
	z.digest = crc32.NewIEEE()
	if err := z.readHeader(true); err != nil {
		z.err = err // この行が削除された
		return nil, err
	}
	return z, nil
}

if err := z.readHeader(true); err != nil の条件ブロック内で、z.readHeader(true) がエラーを返した場合、まず z.err = err という代入が行われ、その直後に return nil, err が実行されます。

Go言語では、関数が return 文に到達すると、その関数の実行は終了し、指定された戻り値が呼び出し元に返されます。この場合、NewReader 関数は (*Decompressor, error) を返しますが、エラーが発生した際には nil とエラー値が返されます。つまり、z のインスタンス自体は呼び出し元に返されません。

したがって、z.err = err という代入は、z のインスタンスが呼び出し元に渡される前に、そのインスタンスが破棄されることを意味します。この代入の結果は、プログラムのどの部分からも観測されることがなく、完全に無意味な操作となります。このようなコードは「デッドコード」と呼ばれ、削除してもプログラムの動作には何ら影響を与えません。

この変更は、コードの冗長性を排除し、よりクリーンで効率的なコードベースを維持するためのものです。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/compress/gzip/gunzip.go
+++ b/src/pkg/compress/gzip/gunzip.go
@@ -83,7 +83,6 @@ func NewReader(r io.Reader) (*Decompressor, error) {
 	z.r = makeReader(r)
 	z.digest = crc32.NewIEEE()
 	if err := z.readHeader(true); err != nil {
-		z.err = err
 		return nil, err
 	}
 	return z, nil

コアとなるコードの解説

削除された行は z.err = err です。

この行は NewReader 関数内で、gzip ヘッダーの読み込み (z.readHeader(true)) に失敗し、errnil でない場合に実行されていました。

NewReader 関数のシグネチャは func NewReader(r io.Reader) (*Decompressor, error) であり、*Decompressorerror の2つの値を返します。エラーが発生した場合 (err != nil)、関数は return nil, err を実行し、Decompressor のポインタとしては nil を返します。

つまり、z という Decompressor のインスタンスは、エラーが発生した場合には呼び出し元に返されず、その場で破棄されます。そのため、z.err = err という代入を行っても、その err の値が外部から利用されることはありませんでした。この代入は、プログラムの実行フローにおいて何の影響も与えないため、デッドコードとして削除されました。

この変更により、コードはより簡潔になり、無駄な処理がなくなりました。機能的な変更は一切なく、コードの品質と保守性が向上しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク