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[インデックス 11756] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリ net/http/fcgi パッケージ内の child.go ファイルに対する変更です。net/http/fcgi パッケージは、GoのHTTPサーバーがFastCGIプロトコルを介してリクエストを処理するための機能を提供します。child.go は、FastCGIの子プロセスとしての動作に関連するロジック、特にリクエストの受け入れと処理に関する部分を実装しています。

コミット

このコミットは、net/http/fcgi パッケージのドキュメントから「スレッド (threads)」という言及を削除し、代わりにGoの並行処理の単位である「ゴルーチン (goroutines)」に修正することを目的としています。また、Serve 関数のドキュメントにおける stdin の参照を os.Stdin に修正しています。これは、Goの並行処理モデルの正確な表現と、より具体的なAPI参照への改善です。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/0a398c4057afeb13cd0c2bf61571dcf9c7ec2b1b

元コミット内容

net/http/fcgi: don't mention threads in docs

Fixes #2942

R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5650049

変更の背景

この変更の背景には、Go言語の並行処理モデルに関する正確なドキュメントの維持があります。GoはOSのスレッドを直接操作するのではなく、軽量な並行処理の単位である「ゴルーチン」を使用します。ゴルーチンはGoランタイムによって管理され、OSのスレッドに多重化されます。初期のドキュメントでは、一般的なプログラミング言語の慣習に従って「スレッド」という言葉が使われることがありましたが、これはGoの実際の動作と概念を正確に反映していませんでした。

Issue #2942("net/http/fcgi: docs mention threads")は、このドキュメントの不正確さを指摘しています。Goの設計思想では、開発者はOSスレッドの管理について直接意識する必要がなく、ゴルーチンという抽象化された概念に集中すべきです。したがって、ドキュメントが「スレッド」に言及していると、Goの並行処理モデルについて誤解を招く可能性がありました。

また、Serve 関数のドキュメントで stdin とだけ書かれていた部分を os.Stdin に修正することで、Goの標準入力ストリームを指すより具体的なAPI参照を提供し、コードの可読性と正確性を向上させています。

前提知識の解説

FastCGI (Fast Common Gateway Interface)

FastCGIは、Webサーバーとアプリケーションプログラムの間で情報をやり取りするためのプロトコルです。CGI(Common Gateway Interface)の進化版であり、CGIがリクエストごとに新しいプロセスを起動するのに対し、FastCGIは永続的なプロセスを維持することで、リクエスト処理のオーバーヘッドを削減し、パフォーマンスを向上させます。Webサーバー(例: Nginx, Apache)はFastCGIプロトコルを使用して、アプリケーションサーバー(例: GoのFastCGIアプリケーション)にリクエストを転送し、その応答を受け取ります。

Goの並行処理モデル(ゴルーチンとスレッド)

Go言語の大きな特徴の一つは、その強力な並行処理サポートです。

  • ゴルーチン (Goroutines): Goにおける並行処理の基本的な単位です。ゴルーチンはOSのスレッドよりもはるかに軽量で、数千、数万のゴルーチンを同時に実行してもオーバーヘッドが小さいのが特徴です。GoランタイムがゴルーチンをOSスレッドに効率的にマッピングし、スケジューリングを行います。開発者はゴルーチンを go キーワードを使って簡単に起動でき、OSスレッドの管理について直接心配する必要がありません。
  • スレッド (Threads): 一般的なオペレーティングシステムが提供する並行処理の単位です。スレッドはプロセス内で実行され、プロセスのアドレス空間を共有します。スレッドの生成や切り替えにはゴルーチンよりも大きなコストがかかります。Goのゴルーチンは内部的にOSスレッド上で実行されますが、Goのプログラマーが直接スレッドを操作することは稀です。

このコミットは、GoのドキュメントがGoの並行処理モデルを正確に反映し、「スレッド」ではなく「ゴルーチン」というGo固有の用語を使用することの重要性を示しています。

net/http パッケージ

net/http はGo言語の標準ライブラリで、HTTPクライアントとサーバーの実装を提供します。Webアプリケーションを構築する上で中心的な役割を果たし、HTTPリクエストのルーティング、ハンドリング、レスポンスの生成など、Web開発に必要な多くの機能を提供します。net/http/fcgi パッケージは、この net/http パッケージの上に構築され、HTTPハンドラーをFastCGIプロトコル経由で公開するためのアダプターとして機能します。

技術的詳細

このコミットの技術的な詳細は、主にドキュメントの修正にあります。

  1. 「service thread」から「goroutine」への変更: Serve 関数のドキュメントにおいて、FastCGI接続を受け入れる際に「新しいサービススレッド (new service thread)」を作成するという記述が、「新しいゴルーチン (new goroutine)」を作成するという記述に修正されました。これは、Goの並行処理の単位がゴルーチンであることを明確にし、Goのランタイムがどのように並行処理を管理しているかを正確に表現するためです。この変更により、Goの並行処理モデルに関する誤解を防ぎ、Goのイディオムに沿った記述になります。

  2. 「stdin」から「os.Stdin」への変更: Serve 関数のドキュメントで、「lがnilの場合、Serveはstdinで接続を受け入れる」という記述が、「lがnilの場合、Serveはos.Stdinから接続を受け入れる」に修正されました。os.Stdin はGoの os パッケージで定義されている標準入力の *File 型の変数であり、より具体的で正確なAPI参照です。これにより、開発者がコードを読んだ際に、どの stdin を指しているのかが明確になります。

これらの変更は、コードの動作自体には影響を与えませんが、Goのドキュメントの品質と正確性を向上させ、Goの設計思想をより適切に伝える上で重要です。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/net/http/fcgi/child.go
+++ b/src/pkg/net/http/fcgi/child.go
@@ -243,9 +243,9 @@ func (c *child) serveRequest(req *request, body io.ReadCloser) {
 }
 
 // Serve accepts incoming FastCGI connections on the listener l, creating a new
-// service thread for each. The service threads read requests and then call handler
+// goroutine for each. The goroutine reads requests and then calls handler
 // to reply to them.
-// If l is nil, Serve accepts connections on stdin.
+// If l is nil, Serve accepts connections from os.Stdin.
 // If handler is nil, http.DefaultServeMux is used.
 func Serve(l net.Listener, handler http.Handler) error {
 	if l == nil {

コアとなるコードの解説

変更されたのは、src/pkg/net/http/fcgi/child.go ファイル内の Serve 関数のドキュメントコメントです。

  • - service thread から + goroutine: 元のコメントでは「creating a new service thread for each」と記述されていましたが、Goの並行処理の単位はゴルーチンであるため、これを「creating a new goroutine for each」に修正しています。これにより、Goのランタイムが各FastCGI接続に対して軽量なゴルーチンを起動して処理を行うという、実際の動作が正確に表現されます。

  • - stdin から + os.Stdin: 元のコメントでは「Serve accepts connections on stdin」と記述されていましたが、Goの標準入力ストリームを指す場合は os パッケージの Stdin 変数を使用するのが一般的かつ明確です。そのため、「Serve accepts connections from os.Stdin」に修正し、より具体的なAPI参照を提供しています。

これらの変更は、Goのドキュメントの正確性と一貫性を高めるためのものであり、Go言語のイディオムと設計原則を反映しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク