[インデックス 11820] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のドキュメンテーションツールであるgodoc
において、生成されるHTMLの静的ID(アンカー)が、既存のGoの識別子(例えばIndex
)と衝突する可能性を排除するために、それらのIDを小文字に統一する変更を加えています。これにより、ドキュメント内のリンクが正しく機能し、予期せぬ動作を防ぎます。
コミット
commit 80e2472f87a00c0278da3a94c610ed284a16f7bb
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Mon Feb 13 14:34:30 2012 +1100
godoc: static ids should be #lowercase
so they don't collide with names like #Index.
Fixes #2970.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5655066
---
lib/godoc/package.html | 16 ++++++++--------
1 file changed, 8 insertions(+), 8 deletions(-)
diff --git a/lib/godoc/package.html b/lib/godoc/package.html
index e0df513d6a..afb0d4ae1f 100644
--- a/lib/godoc/package.html
+++ b/lib/godoc/package.html
@@ -10,18 +10,18 @@
<dd><code>import "{{html .ImportPath}}"</code></dd>
</dl>
<dl>
- <dd><a href="#Overview">Overview</a></dd>
- <dd><a href="#Index">Index</a></dd>
+ <dd><a href="#overview">Overview</a></dd>
+ <dd><a href="#index">Index</a></dd>
{{if $.Dirs}}
<dd><a href="#Subdirectories">Subdirectories</a></dd>
{{end}}
</dl>
</div>
- <h2 id="Overview">Overview</h2>
+ <h2 id="overview">Overview</h2>
<!-- The package's Name is printed as title by the top-level template -->
{{comment_html .Doc}}
- <h2 id="Index">Index</h2>
+ <h2 id="index">Index</h2>
<!-- Table of contents for API; must be named manual-nav to turn off auto nav. -->
<div id="manual-nav">\n \t\t\t<dl>\n@@ -65,14 +65,14 @@\n </dl>\n
{{with .Consts}}\n- <h2 id="Constants">Constants</h2>\n+ <h2 id="constants">Constants</h2>\n {{range .}}\n {{comment_html .Doc}}\n <pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>\n {{end}}\n {{end}}\n {{with .Vars}}\n- <h2 id="Variables">Variables</h2>\n+ <h2 id="variables">Variables</h2>\n {{range .}}\n {{comment_html .Doc}}\n <pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>\n@@ -122,7 +122,7 @@\n {{end}}\n \n {{with .Bugs}}\n- <h2 id="Bugs">Bugs</h2>\n+ <h2 id="bugs">Bugs</h2>\n {{range .}}\n {{comment_html .}}\n {{end}}\n@@ -145,7 +145,7 @@\n \n {{with .Dirs}}\n {{/* DirList entries are numbers and strings - no need for FSet */}}\n- <h2 id="Subdirectories">Subdirectories</h2>\n+ <h2 id="subdirectories">Subdirectories</h2>\n <p>\n <table class="layout">\n <tr>\n```
## GitHub上でのコミットページへのリンク
[https://github.com/golang/go/commit/80e2472f87a00c0278da3a94c610ed284a16f7bb](https://github.com/golang/go/commit/80e2472f87a00c0278da3a94c610ed284a16f7bb)
## 元コミット内容
godoc: static ids should be #lowercase so they don't collide with names like #Index. Fixes #2970.
## 変更の背景
このコミットの背景には、`godoc`が生成するHTMLドキュメント内のアンカーIDと、Go言語のパッケージや型、関数などの識別子との間で発生する可能性のある名前の衝突問題があります。
`godoc`はGo言語のソースコードからドキュメントを自動生成するツールであり、生成されるHTMLには、各セクション(例: Overview, Index, Constants, Variablesなど)への内部リンクを可能にするために、`id`属性を持つHTML要素が埋め込まれます。これらの`id`は、通常、セクションのタイトルから派生して生成されます。
問題は、Go言語の識別子(変数名、関数名、型名など)は大文字で始まることが多く、特にエクスポートされる識別子はその慣習に従います。例えば、`Index`という名前の関数や型が存在する場合、`godoc`が生成するHTMLドキュメント内で「Index」セクションのIDが`#Index`となることがあります。
このとき、もしGoのコード内に`Index`という名前の公開された識別子(例えば`func Index() {}`)が存在すると、`godoc`は自動的にその識別子に対応するアンカーIDも生成します。この自動生成されるIDと、静的に定義されたセクションIDが同じ`#Index`となってしまい、HTMLの仕様上、同じIDが複数存在することになり、リンクの挙動が不安定になったり、予期せぬセクションにジャンプしたりするなどの問題が発生する可能性がありました。
このコミットは、この衝突を避けるために、静的に定義されるセクションのIDをすべて小文字に統一するという方針を採用しました。これにより、Goの識別子(通常は大文字で始まる)との衝突を根本的に回避し、ドキュメントの安定性と正確性を向上させています。コミットメッセージにある`Fixes #2970`は、この問題がGoのIssueトラッカーで報告されていたことを示しています。
## 前提知識の解説
### 1. `godoc`とは
`godoc`は、Go言語に標準で付属するドキュメンテーションツールです。Goのソースコードに記述されたコメント(特にエクスポートされた識別子に付随するコメント)を解析し、自動的にHTML形式のドキュメントを生成します。これにより、開発者はコードとドキュメントを密接に連携させることができ、常に最新のドキュメントを維持しやすくなります。`godoc`は、ローカルでドキュメントサーバーを起動することもでき、Goの標準ライブラリのドキュメントもこのツールで閲覧できます。
### 2. HTMLの`id`属性とアンカーリンク
HTMLにおいて、`id`属性は要素に一意の識別子を付与するために使用されます。この`id`は、CSSで特定の要素をスタイル付けしたり、JavaScriptで要素を操作したりするために利用されます。
特に重要なのが、アンカーリンク(またはフラグメント識別子)としての利用です。URLの末尾に`#`と`id`属性の値を付加することで、そのIDを持つ要素がページ内のどこにあっても、直接その位置にジャンプすることができます。例えば、`<h2 id="section1">Section 1</h2>`というHTML要素がある場合、`yourpage.html#section1`というURLで直接この見出しに移動できます。
HTMLの仕様では、`id`属性の値はドキュメント内で一意である必要があります。同じ`id`を持つ要素が複数存在すると、ブラウザの挙動が不定になったり、期待通りのリンク先にジャンプしないなどの問題が発生する可能性があります。
### 3. Go言語の識別子の命名規則
Go言語では、識別子(変数名、関数名、型名など)の命名に関して特定の慣習があります。
* **エクスポートされる識別子**: パッケージ外からアクセス可能にする(エクスポートする)識別子は、**大文字**で始める必要があります。例えば、`Index`、`Error`、`HTTPClient`などです。
* **エクスポートされない識別子**: パッケージ内でのみ使用される(エクスポートしない)識別子は、**小文字**で始める必要があります。例えば、`index`、`err`、`httpClient`などです。
この慣習は、Goの可視性ルール(Visibility Rules)に基づいており、Goのコードを読みやすく、理解しやすくするために非常に重要です。
### 4. 大文字・小文字の区別
HTMLの`id`属性は、一般的に**大文字・小文字を区別します**。つまり、`#Overview`と`#overview`は異なるIDとして扱われます。これは、Go言語の識別子が大文字・小文字を区別するのと同様です。この特性が、今回の問題の根源となっています。
## 技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、`godoc`が生成するHTMLドキュメント内の静的なセクションアンカーIDの命名規則を変更することにあります。具体的には、これまで`#Overview`や`#Index`のように大文字で始まっていたIDを、`#overview`や`#index`のようにすべて小文字に統一しています。
この変更は、前述の「変更の背景」で述べたIDの衝突問題を解決するためのものです。`godoc`は、Goのソースコードを解析し、エクスポートされた関数や型、変数などに対しても自動的にHTMLアンカーIDを生成します。例えば、`func Index() {}`という関数があれば、そのドキュメントセクションへのリンクとして`#Index`のようなIDが生成される可能性があります。
もし、`godoc`のテンプレート内で静的に定義されたセクションID(例: `Overview`、`Index`)が、Goのコードから自動生成される識別子由来のIDと大文字・小文字を含めて完全に一致した場合、HTMLドキュメント内に重複するIDが存在することになります。HTMLの仕様では`id`属性は一意であるべきとされており、重複は予期せぬ動作(例: リンクが意図しない場所に飛ぶ、JavaScriptでの要素操作が不安定になる)を引き起こす可能性があります。
Go言語のエクスポートされる識別子は大文字で始まるという慣習があるため、静的なセクションIDをすべて小文字にすることで、Goの識別子と衝突する可能性を極めて低くすることができます。例えば、`#overview`というIDは、Goのコードで`overview`というエクスポートされた識別子が存在しない限り(Goの慣習では小文字で始まる識別子はエクスポートされないため、通常は存在しない)、衝突することはありません。これにより、`godoc`が生成するドキュメントの堅牢性と信頼性が向上します。
この変更は、`lib/godoc/package.html`というテンプレートファイルに対して行われています。このファイルは、Goのパッケージのドキュメントページを生成する際に使用されるHTMLテンプレートです。テンプレート内の`<a>`タグの`href`属性と、対応する`<h2 id="...">`タグの`id`属性の両方が変更されています。これにより、リンクとターゲットが正しく一致し、かつIDの衝突が回避されます。
## コアとなるコードの変更箇所
変更は`lib/godoc/package.html`ファイルに対して行われています。
```diff
--- a/lib/godoc/package.html
+++ b/lib/godoc/package.html
@@ -10,18 +10,18 @@
<dd><code>import "{{html .ImportPath}}"</code></dd>
</dl>
<dl>
- <dd><a href="#Overview">Overview</a></dd>
- <dd><a href="#Index">Index</a></dd>
+ <dd><a href="#overview">Overview</a></dd>
+ <dd><a href="#index">Index</a></dd>
{{if $.Dirs}}
<dd><a href="#Subdirectories">Subdirectories</a></dd>
{{end}}
</dl>
</div>
- <h2 id="Overview">Overview</h2>
+ <h2 id="overview">Overview</h2>
<!-- The package's Name is printed as title by the top-level template -->
{{comment_html .Doc}}
- <h2 id="Index">Index</h2>
+ <h2 id="index">Index</h2>
<!-- Table of contents for API; must be named manual-nav to turn off auto nav. -->
<div id="manual-nav">\n \t\t\t<dl>\n@@ -65,14 +65,14 @@
</dl>\n
{{with .Consts}}\n- <h2 id="Constants">Constants</h2>\n+ <h2 id="constants">Constants</h2>\n {{range .}}\n {{comment_html .Doc}}\n <pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>\n {{end}}\n {{end}}\n {{with .Vars}}\n- <h2 id="Variables">Variables</h2>\n+ <h2 id="variables">Variables</h2>\n {{range .}}\n {{comment_html .Doc}}\n <pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>\n@@ -122,7 +122,7 @@
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## コアとなるコードの解説
この変更は、`lib/godoc/package.html`というGoのテンプレートファイル内のHTMLアンカーIDとそれに対応するリンクを修正しています。
具体的には、以下の静的なセクションの見出しと、それらへの内部リンクの`href`属性および`id`属性が変更されています。
1. **Overview (概要)**:
* リンク: `<dd><a href="#Overview">Overview</a></dd>` から `<dd><a href="#overview">Overview</a></dd>` へ変更。
* 見出しID: `<h2 id="Overview">Overview</h2>` から `<h2 id="overview">Overview</h2>` へ変更。
2. **Index (インデックス)**:
* リンク: `<dd><a href="#Index">Index</a></dd>` から `<dd><a href="#index">Index</a></dd>` へ変更。
* 見出しID: `<h2 id="Index">Index</h2>` から `<h2 id="index">Index</h2>` へ変更。
3. **Constants (定数)**:
* 見出しID: `<h2 id="Constants">Constants</h2>` から `<h2 id="constants">Constants</h2>` へ変更。
4. **Variables (変数)**:
* 見出しID: `<h2 id="Variables">Variables</h2>` から `<h2 id="variables">Variables</h2>` へ変更。
5. **Bugs (バグ)**:
* 見出しID: `<h2 id="Bugs">Bugs</h2>` から `<h2 id="bugs">Bugs</h2>` へ変更。
6. **Subdirectories (サブディレクトリ)**:
* リンク: `<dd><a href="#Subdirectories">Subdirectories</a></dd>` から `<dd><a href="#subdirectories">Subdirectories</a></dd>` へ変更。
* 見出しID: `<h2 id="Subdirectories">Subdirectories</h2>` から `<h2 id="subdirectories">Subdirectories</h2>` へ変更。
これらの変更の目的は、HTMLの`id`属性の値をすべて小文字に統一することです。これにより、Go言語の識別子(通常は大文字で始まる)と`godoc`が自動生成するアンカーIDとの間で発生する可能性のある名前の衝突を回避します。
例えば、Goのコードに`func Index() {}`という関数があった場合、`godoc`は自動的にその関数のドキュメントセクションに`id="Index"`のようなアンカーを生成する可能性があります。もし静的な「Index」セクションのIDも`id="Index"`であった場合、HTMLドキュメント内に同じIDが複数存在することになり、リンクの挙動が不安定になる問題が発生します。
IDを小文字(例: `id="index"`)に統一することで、Goの慣習(エクスポートされる識別子は大文字で始まる)と異なる命名規則を採用し、衝突の可能性を排除しています。これは、`godoc`が生成するドキュメントの堅牢性と正確性を高めるための重要な修正です。
## 関連リンク
* GitHubコミットページ: [https://github.com/golang/go/commit/80e2472f87a00c0278da3a94c610ed284a16f7bb](https://github.com/golang/go/commit/80e2472f87a00c0278da3a94c610ed284a16f7bb)
* Go CL (Change List): [https://golang.org/cl/5655066](https://golang.org/cl/5655066)
* Go Issue #2970: [https://github.com/golang/go/issues/2970](https://github.com/golang/go/issues/2970)
## 参考にした情報源リンク
* HTML `id` 属性: [https://developer.mozilla.org/ja/docs/Web/HTML/Global_attributes/id](https://developer.mozilla.org/ja/docs/Web/HTML/Global_attributes/id)
* Go言語の命名規則: [https://go.dev/doc/effective_go#names](https://go.dev/doc/effective_go#names)
* Go言語の可視性ルール: [https://go.dev/ref/spec#Exported_identifiers](https://go.dev/ref/spec#Exported_identifiers)
* `godoc`コマンド: [https://pkg.go.dev/cmd/godoc](https://pkg.go.dev/cmd/godoc)
* Go issue 2970: godoc: static ids should be #lowercase: [https://github.com/golang/go/issues/2970](https://github.com/golang/go/issues/2970)