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[インデックス 11958] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のdebug/gosymパッケージ内のテストバイナリのビルド方法をより堅牢にするための変更です。具体的には、pclntab_test.goファイルにおいて、テスト用のバイナリを生成する際のコマンド実行方法を改善し、ファイル名のサフィックスチェックを修正しています。これにより、テストの信頼性と移植性が向上します。

コミット

commit 7ec5499d36348925cc294faaf96c64d63b2b0628
Author: David Symonds <dsymonds@golang.org>
Date:   Thu Feb 16 15:06:12 2012 +1100

    debug/gosym: more carefully build the test binary.
    
    TBR=r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5676062

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/7ec5499d36348925cc294faaf96c64d63b2b0628

元コミット内容

debug/gosym: more carefully build the test binary.

TBR=r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5676062

変更の背景

このコミットの背景には、debug/gosymパッケージのテスト環境における、テストバイナリのビルドプロセスの不安定性があったと考えられます。pclntab_test.goは、Goバイナリ内のPC-Lineテーブル(Program Counter-Line Table)の解析をテストするためのものです。このテストでは、アセンブリコードから特定のテストバイナリを生成し、そのバイナリに対してdebug/gosymの機能が正しく動作するかを検証します。

元のコードでは、テストバイナリのビルドコマンドがシェルスクリプトとして直接文字列結合で構築されており、これはパスの扱いやコマンドの複雑化に伴い、エラーが発生しやすい構造でした。特に、os.TempDir()で取得した一時ディレクトリのパスがコマンド文字列に直接埋め込まれるため、特殊文字の扱いなどで問題が生じる可能性がありました。

また、テストバイナリのソースファイル名に関するアサーションがpclinetest.sとなっていましたが、実際にはpclinetest.asmという拡張子を使用しているため、テストが誤って失敗する可能性がありました。

これらの問題を解決し、テストバイナリのビルドプロセスをより堅牢で、かつ正確なものにするために、このコミットが導入されました。これにより、テストの信頼性が向上し、異なる環境での実行時にも安定した結果が得られるようになります。

前提知識の解説

debug/gosymパッケージ

debug/gosymパッケージは、GoプログラムのシンボルテーブルとPC-Lineテーブル(Program Counter-Line Table)を解析するためのGo標準ライブラリの一部です。これらのテーブルは、Goバイナリ内に埋め込まれており、実行時のスタックトレース、デバッグ情報、プロファイリングなどに利用されます。

  • シンボルテーブル: 関数名、変数名などのシンボルと、それらがメモリ上のどこに配置されているかの情報を含みます。
  • PC-Lineテーブル (Program Counter-Line Table): プログラムカウンタ(PC、現在実行中の命令のアドレス)と、対応するソースコードのファイル名および行番号をマッピングする情報です。これにより、実行中のコードがソースコードのどの部分に対応するかを特定できます。

このパッケージは、デバッガやプロファイラ、あるいはGoバイナリの内部構造を解析するツールを開発する際に非常に重要です。

pclntab (PC-Line Table)

pclntabは、Goバイナリ内のPC-Lineテーブルの略称です。Goのランタイムは、このテーブルを使用して、実行中のプログラムカウンタ値から対応するソースファイルと行番号を効率的に検索します。これにより、パニック発生時のスタックトレース表示や、デバッガでのステップ実行などが可能になります。

go tool 6a および go tool 6l

これらは、Goの初期のツールチェーンにおけるアセンブラとリンカのコマンドです。

  • go tool 6a: Goのアセンブラです。6は当時のGoのターゲットアーキテクチャ(amd64、つまりx86-64)を示し、aはアセンブラを意味します。アセンブリ言語で書かれたソースファイル(例: .sまたは.asm)をオブジェクトファイル(例: .6)にコンパイルするために使用されます。
  • go tool 6l: Goのリンカです。6は同様にターゲットアーキテクチャを示し、lはリンカを意味します。オブジェクトファイル(.6)を結合し、実行可能なバイナリファイルを生成するために使用されます。-E mainオプションは、エントリポイントがmain関数であることを指定します。

現在のGoツールチェーンでは、これらのコマンドは通常、go buildgo runといった高レベルなコマンドの内部で自動的に呼び出されるため、開発者が直接使用することは稀です。しかし、低レベルなテストや特定の最適化を行う際には、これらのツールを直接操作することがありました。

os/execパッケージ

os/execパッケージは、外部コマンドを実行するためのGo標準ライブラリです。exec.Command関数を使用してコマンドと引数を指定し、Run()メソッドでコマンドを実行します。StdoutStderrフィールドにos.Stdoutos.Stderrを割り当てることで、実行中のコマンドの標準出力や標準エラー出力を親プロセスのそれらにリダイレクトできます。

fmt.Sprintf関数

fmtパッケージは、Goにおけるフォーマット済みI/Oを実装します。fmt.Sprintf関数は、指定されたフォーマット文字列と引数を使用して、フォーマットされた文字列を生成して返します。C言語のsprintfに似ています。この関数を使用することで、複雑な文字列を安全かつ読みやすく構築できます。

os.TempDir()関数

osパッケージは、オペレーティングシステムとの相互作用のための機能を提供します。os.TempDir()関数は、一時ファイルを作成するためのデフォルトのディレクトリのパスを返します。これはシステムによって異なり、通常は/tmp(Linux/macOS)やC:\Users\<User>\AppData\Local\Temp(Windows)のような場所になります。

strings.HasSuffix関数

stringsパッケージは、文字列操作のためのユーティリティ関数を提供します。strings.HasSuffix関数は、ある文字列が特定のサフィックス(末尾の文字列)で終わるかどうかをチェックします。このコミットでは、テストバイナリのソースファイル名が期待される拡張子で終わっているかを確認するために使用されています。

技術的詳細

このコミットの技術的な変更点は大きく2つあります。

  1. テストバイナリビルドコマンドの構築方法の改善:

    • 変更前は、exec.Command("sh", "-c", "...")の中で、シェルコマンド文字列が直接文字列結合によって構築されていました。特に、pclinetestBinary(一時ディレクトリのパスを含む)が文字列リテラルと結合されており、パスにスペースや特殊文字が含まれる場合にシェルが正しく解釈できないリスクがありました。
    • 変更後は、fmt.Sprintfを使用してコマンド文字列を構築するように修正されました。これにより、変数の値が安全にエスケープされ、シェルコマンドとして正しく解釈されることが保証されます。fmt.Sprintfは、プレースホルダー(%s)を使用して変数を埋め込むため、文字列結合よりも堅牢で読みやすいコードになります。
    • 具体的には、go tool 6aでアセンブリファイルをオブジェクトファイルにコンパイルし、そのオブジェクトファイルをgo tool 6lで最終的な実行可能バイナリにリンクするという2段階のプロセスを、単一のシェルコマンド文字列としてfmt.Sprintfで構築しています。
  2. ソースファイル名サフィックスチェックの修正:

    • TestPCLine関数内のエラーチェックにおいて、PC-Lineテーブルから取得したファイル名が期待されるソースファイル名で終わっているかを確認する部分がありました。
    • 変更前は、!strings.HasSuffix(file, "pclinetest.s")とチェックしていましたが、テストバイナリのソースファイルは実際にはpclinetest.asmという拡張子を持っていました。この不一致により、テストが誤って失敗する可能性がありました。
    • 変更後は、!strings.HasSuffix(file, "pclinetest.asm")と修正され、実際のファイル拡張子と一致するように変更されました。これにより、テストの正確性が向上しました。

これらの変更は、Goのテストインフラストラクチャの堅牢性を高め、将来的な環境変化やパスの複雑化に対する耐性を向上させるものです。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/debug/gosym/pclntab_test.go
+++ b/src/pkg/debug/gosym/pclntab_test.go
@@ -6,6 +6,7 @@ package gosym
 
  import (
  	"debug/elf"
+"	"fmt"\n \t"os"\n \t"os/exec"\n \t"runtime"\n@@ -27,7 +28,9 @@ func dotest() bool {\n  \t// the resulting binary looks like it was built from pclinetest.s,\n  \t// but we have renamed it to keep it away from the go tool.\n  \tpclinetestBinary = os.TempDir() + "/pclinetest"\n-\tcmd := exec.Command("sh", "-c", "go tool 6a pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o "+pclinetestBinary+" pclinetest.6")\n+\tcommand := fmt.Sprintf("go tool 6a -o %s.6 pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o %s %s.6",\n+\t\tpclinetestBinary, pclinetestBinary, pclinetestBinary)\n+\tcmd := exec.Command("sh", "-c", command)\n  \tcmd.Stdout = os.Stdout\n  \tcmd.Stderr = os.Stderr\n  \tif err := cmd.Run(); err != nil {\n@@ -185,8 +188,8 @@ func TestPCLine(t *testing.T) {\n  \t\tt.Logf("off is %d", off)\n  \t\tif fn == nil {\n  \t\t\tt.Errorf("failed to get line of PC %#x", pc)\n-\t\t} else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.s") {\n-\t\t\tt.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.s", sym.Name, pc, file, fn.Name)\n+\t\t} else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.asm") {\n+\t\t\tt.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.asm", sym.Name, pc, file, fn.Name)\n  \t\t} else if line != wantLine || fn != sym {\n  \t\t\tt.Errorf("expected :%d (%s) at PC %#x, got :%d (%s)", wantLine, sym.Name, pc, line, fn.Name)\n  \t\t}\n```

## コアとなるコードの解説

### 1. `fmt`パッケージのインポート追加

```diff
@@ -6,6 +6,7 @@ package gosym
 
  import (
  	"debug/elf"
+"	"fmt"\n \t"os"\n \t"os/exec"\n \t"runtime"\n```
`fmt`パッケージが新しくインポートされています。これは、後述する`fmt.Sprintf`関数を使用するために必要です。

### 2. テストバイナリビルドコマンドの構築方法の変更

```diff
@@ -27,7 +28,9 @@ func dotest() bool {\n  \t// the resulting binary looks like it was built from pclinetest.s,\n  \t// but we have renamed it to keep it away from the go tool.\n  \tpclinetestBinary = os.TempDir() + "/pclinetest"\n-\tcmd := exec.Command("sh", "-c", "go tool 6a pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o "+pclinetestBinary+" pclinetest.6")\n+\tcommand := fmt.Sprintf("go tool 6a -o %s.6 pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o %s %s.6",\n+\t\tpclinetestBinary, pclinetestBinary, pclinetestBinary)\n+\tcmd := exec.Command("sh", "-c", command)\n  \tcmd.Stdout = os.Stdout\n  \tcmd.Stderr = os.Stderr\n  \tif err := cmd.Run(); err != nil {\n```
*   **変更前**:
    ```go
    cmd := exec.Command("sh", "-c", "go tool 6a pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o "+pclinetestBinary+" pclinetest.6")
    ```
    ここでは、シェルコマンド文字列が直接文字列結合(`+`演算子)で構築されています。`pclinetestBinary`変数の値がそのままシェルコマンド文字列に埋め込まれるため、パスにスペースなどの特殊文字が含まれる場合に問題が発生する可能性がありました。

*   **変更後**:
    ```go
    command := fmt.Sprintf("go tool 6a -o %s.6 pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o %s %s.6",
    	pclinetestBinary, pclinetestBinary, pclinetestBinary)
    cmd := exec.Command("sh", "-c", command)
    ```
    まず、`fmt.Sprintf`を使用して、シェルコマンド文字列を安全に構築しています。`%s`プレースホルダーが`pclinetestBinary`の値に置き換えられます。`fmt.Sprintf`は、変数の値を適切にエスケープするため、パスに特殊文字が含まれていてもシェルが正しく解釈できるようになります。
    構築された`command`文字列が`exec.Command`に渡され、`sh -c`を通じて実行されます。これにより、コマンドの構築がより堅牢になりました。

### 3. ソースファイル名サフィックスチェックの修正

```diff
@@ -185,8 +188,8 @@ func TestPCLine(t *testing.T) {\n  \t\tt.Logf("off is %d", off)\n  \t\tif fn == nil {\n  \t\t\tt.Errorf("failed to get line of PC %#x", pc)\n-\t\t} else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.s") {\n-\t\t\tt.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.s", sym.Name, pc, file, fn.Name)\n+\t\t} else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.asm") {\n+\t\t\tt.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.asm", sym.Name, pc, file, fn.Name)\n  \t\t} else if line != wantLine || fn != sym {\n  \t\t\tt.Errorf("expected :%d (%s) at PC %#x, got :%d (%s)", wantLine, sym.Name, pc, line, fn.Name)\n  \t\t}\n```
*   **変更前**:
    ```go
    } else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.s") {
    	t.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.s", sym.Name, pc, file, fn.Name)
    ```
    ここでは、PC-Lineテーブルから取得したファイル名`file`が`pclinetest.s`で終わることを期待していました。

*   **変更後**:
    ```go
    } else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.asm") {
    	t.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.asm", sym.Name, pc, file, fn.Name)
    ```
    実際のテストバイナリのソースファイルが`pclinetest.asm`という拡張子を持っていたため、チェックするサフィックスを`pclinetest.asm`に修正しました。これにより、テストが正しい条件で評価されるようになり、誤った失敗を防ぎます。

これらの変更は、Goのテストコードの品質と信頼性を向上させるための、細かではあるが重要な改善です。

## 関連リンク

*   Go CL 5676062: [https://golang.org/cl/5676062](https://golang.org/cl/5676062)

## 参考にした情報源リンク

*   Go言語の公式ドキュメント(`debug/gosym`, `os/exec`, `fmt`, `strings`パッケージ)
*   Go言語の初期のツールチェーンに関する情報(`go tool 6a`, `go tool 6l`)
*   Goのテストに関する一般的なプラクティス
# [インデックス 11958] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の`debug/gosym`パッケージ内のテストバイナリのビルド方法をより堅牢にするための変更です。具体的には、`pclntab_test.go`ファイルにおいて、テスト用のバイナリを生成する際のコマンド実行方法を改善し、ファイル名のサフィックスチェックを修正しています。これにより、テストの信頼性と移植性が向上します。

## コミット

commit 7ec5499d36348925cc294faaf96c64d63b2b0628 Author: David Symonds dsymonds@golang.org Date: Thu Feb 16 15:06:12 2012 +1100

debug/gosym: more carefully build the test binary.

TBR=r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5676062

## GitHub上でのコミットページへのリンク

[https://github.com/golang/go/commit/7ec5499d36348925cc294faaf96c64d63b2b0628](https://github.com/golang/go/commit/7ec5499d36348925cc294faaf96c64d63b2b0628)

## 元コミット内容

debug/gosym: more carefully build the test binary.

TBR=r CC=golang-dev https://golang.org/cl/5676062


## 変更の背景

このコミットの背景には、`debug/gosym`パッケージのテスト環境における、テストバイナリのビルドプロセスの不安定性があったと考えられます。`pclntab_test.go`は、Goバイナリ内のPC-Lineテーブル(Program Counter-Line Table)の解析をテストするためのものです。このテストでは、アセンブリコードから特定のテストバイナリを生成し、そのバイナリに対して`debug/gosym`の機能が正しく動作するかを検証します。

元のコードでは、テストバイナリのビルドコマンドがシェルスクリプトとして直接文字列結合で構築されており、これはパスの扱いやコマンドの複雑化に伴い、エラーが発生しやすい構造でした。特に、`os.TempDir()`で取得した一時ディレクトリのパスがコマンド文字列に直接埋め込まれるため、特殊文字の扱いなどで問題が生じる可能性がありました。

また、テストバイナリのソースファイル名に関するアサーションが`pclinetest.s`となっていましたが、実際には`pclinetest.asm`という拡張子を使用しているため、テストが誤って失敗する可能性がありました。

これらの問題を解決し、テストバイナリのビルドプロセスをより堅牢で、かつ正確なものにするために、このコミットが導入されました。これにより、テストの信頼性が向上し、異なる環境での実行時にも安定した結果が得られるようになります。

## 前提知識の解説

### `debug/gosym`パッケージ

`debug/gosym`パッケージは、GoプログラムのシンボルテーブルとPC-Lineテーブル(Program Counter-Line Table)を解析するためのGo標準ライブラリの一部です。これらのテーブルは、Goバイナリ内に埋め込まれており、実行時のスタックトレース、デバッグ情報、プロファイリングなどに利用されます。

*   **シンボルテーブル**: 関数名、変数名などのシンボルと、それらがメモリ上のどこに配置されているかの情報を含みます。
*   **PC-Lineテーブル (Program Counter-Line Table)**: プログラムカウンタ(PC、現在実行中の命令のアドレス)と、対応するソースコードのファイル名および行番号をマッピングする情報です。これにより、実行中のコードがソースコードのどの部分に対応するかを特定できます。

このパッケージは、デバッガやプロファイラ、あるいはGoバイナリの内部構造を解析するツールを開発する際に非常に重要です。

### `pclntab` (PC-Line Table)

`pclntab`は、Goバイナリ内のPC-Lineテーブルの略称です。Goのランタイムは、このテーブルを使用して、実行中のプログラムカウンタ値から対応するソースファイルと行番号を効率的に検索します。これにより、パニック発生時のスタックトレース表示や、デバッガでのステップ実行などが可能になります。

`pclntab`は、Goバイナリ内に埋め込まれた重要な内部データ構造であり、デバッグとシンボル回復において極めて重要な役割を果たします。その主な目的は、プログラムカウンタ(PC)の値(命令のメモリアドレス)を、対応するソースコードのファイル名と行番号にマッピングすることです。このマッピングは、以下の点で不可欠です。

*   **スタックトレース**: Goプログラムがパニックを起こしたり、デバッグ中に、`pclntab`はランタイムが関数名、ファイルパス、行番号を含む人間が読めるスタックトレースを生成することを可能にし、問題の原因を特定しやすくします。
*   **ランタイムリフレクション**: ロギングフレームワークやその他のイントロスペクションツールで使用されるGoの`runtime.Callers`および`runtime.CallersFrames`関数は、正確なコールスタック情報を提供するために`pclntab`に依存しています。
*   **デバッグ**: Delveのようなデバッガは、`pclntab`を利用してブレークポイントを設定し、ストリップされたバイナリであっても実行フローを理解します。

`pclntab`は通常、コンパイルされたGo実行可能ファイルの特定のセクションに存在します。ELF(Linux)およびMach-O(macOS)では、それぞれ`.gopclntab`および`__gopclntab`という名前のセクションに存在します。PE(Windows)では、その場所の特定はより複雑で、しばしば`.symtab`と`runtime.pclntab`シンボルの分析が必要です。

従来のシンボルテーブルとは異なり、`pclntab`はGo実行可能ファイルからストリップ操作後もそのまま残ることが多いため、リバースエンジニアリングやGoReSymのようなツールにとって貴重なリソースとなります。

### `go tool 6a` および `go tool 6l`

これらは、Goの初期のツールチェーンにおけるアセンブラとリンカのコマンドです。

*   **`go tool 6a`**: Goのアセンブラです。`6`は当時のGoのターゲットアーキテクチャ(amd64、つまりx86-64)を示し、`a`はアセンブラを意味します。アセンブリ言語で書かれたソースファイル(例: `.s`または`.asm`)をオブジェクトファイル(例: `.6`)にコンパイルするために使用されます。
*   **`go tool 6l`**: Goのリンカです。`6`は同様にターゲットアーキテクチャを示し、`l`はリンカを意味します。オブジェクトファイル(`.6`)を結合し、実行可能なバイナリファイルを生成するために使用されます。`-E main`オプションは、エントリポイントが`main`関数であることを指定します。

現在のGoツールチェーンでは、これらのコマンドは通常、`go build`や`go run`といった高レベルなコマンドの内部で自動的に呼び出されるため、開発者が直接使用することは稀です。しかし、低レベルなテストや特定の最適化を行う際には、これらのツールを直接操作することがありました。

### `os/exec`パッケージ

`os/exec`パッケージは、外部コマンドを実行するためのGo標準ライブラリです。`exec.Command`関数を使用してコマンドと引数を指定し、`Run()`メソッドでコマンドを実行します。`Stdout`や`Stderr`フィールドに`os.Stdout`や`os.Stderr`を割り当てることで、実行中のコマンドの標準出力や標準エラー出力を親プロセスのそれらにリダイレクトできます。

### `fmt.Sprintf`関数

`fmt`パッケージは、Goにおけるフォーマット済みI/Oを実装します。`fmt.Sprintf`関数は、指定されたフォーマット文字列と引数を使用して、フォーマットされた文字列を生成して返します。C言語の`sprintf`に似ています。この関数を使用することで、複雑な文字列を安全かつ読みやすく構築できます。

### `os.TempDir()`関数

`os`パッケージは、オペレーティングシステムとの相互作用のための機能を提供します。`os.TempDir()`関数は、一時ファイルを作成するためのデフォルトのディレクトリのパスを返します。これはシステムによって異なり、通常は`/tmp`(Linux/macOS)や`C:\Users\<User>\AppData\Local\Temp`(Windows)のような場所を指します。

### `strings.HasSuffix`関数

`strings`パッケージは、文字列操作のためのユーティリティ関数を提供します。`strings.HasSuffix`関数は、ある文字列が特定のサフィックス(末尾の文字列)で終わるかどうかをチェックします。このコミットでは、テストバイナリのソースファイル名が期待される拡張子で終わっているかを確認するために使用されています。

## 技術的詳細

このコミットの技術的な変更点は大きく2つあります。

1.  **テストバイナリビルドコマンドの構築方法の改善**:
    *   変更前は、`exec.Command("sh", "-c", "...")`の中で、シェルコマンド文字列が直接文字列結合によって構築されていました。特に、`pclinetestBinary`(一時ディレクトリのパスを含む)が文字列リテラルと結合されており、パスにスペースや特殊文字が含まれる場合にシェルが正しく解釈できないリスクがありました。
    *   変更後は、`fmt.Sprintf`を使用してコマンド文字列を構築するように修正されました。これにより、変数の値が安全にエスケープされ、シェルコマンドとして正しく解釈されることが保証されます。`fmt.Sprintf`は、プレースホルダー(`%s`)を使用して変数を埋め込むため、文字列結合よりも堅牢で読みやすいコードになります。
    *   具体的には、`go tool 6a`でアセンブリファイルをオブジェクトファイルにコンパイルし、そのオブジェクトファイルを`go tool 6l`で最終的な実行可能バイナリにリンクするという2段階のプロセスを、単一のシェルコマンド文字列として`fmt.Sprintf`で構築しています。

2.  **ソースファイル名サフィックスチェックの修正**:
    *   `TestPCLine`関数内のエラーチェックにおいて、PC-Lineテーブルから取得したファイル名が期待されるソースファイル名で終わっているかを確認する部分がありました。
    *   変更前は、`!strings.HasSuffix(file, "pclinetest.s")`とチェックしていましたが、テストバイナリのソースファイルは実際には`pclinetest.asm`という拡張子を持っていました。この不一致により、テストが誤って失敗する可能性がありました。
    *   変更後は、`!strings.HasSuffix(file, "pclinetest.asm")`と修正され、実際のファイル拡張子と一致するように変更されました。これにより、テストの正確性が向上しました。

これらの変更は、Goのテストインフラストラクチャの堅牢性を高め、将来的な環境変化やパスの複雑化に対する耐性を向上させるものです。

## コアとなるコードの変更箇所

```diff
--- a/src/pkg/debug/gosym/pclntab_test.go
+++ b/src/pkg/debug/gosym/pclntab_test.go
@@ -6,6 +6,7 @@ package gosym
 
  import (
  	"debug/elf"
+"	"fmt"\n \t"os"\n \t"os/exec"\n \t"runtime"\n@@ -27,7 +28,9 @@ func dotest() bool {\n  \t// the resulting binary looks like it was built from pclinetest.s,\n  \t// but we have renamed it to keep it away from the go tool.\n  \tpclinetestBinary = os.TempDir() + "/pclinetest"\n-\tcmd := exec.Command("sh", "-c", "go tool 6a pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o "+pclinetestBinary+" pclinetest.6")\n+\tcommand := fmt.Sprintf("go tool 6a -o %s.6 pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o %s %s.6",\n+\t\tpclinetestBinary, pclinetestBinary, pclinetestBinary)\n+\tcmd := exec.Command("sh", "-c", command)\n  \tcmd.Stdout = os.Stdout\n  \tcmd.Stderr = os.Stderr\n  \tif err := cmd.Run(); err != nil {\n@@ -185,8 +188,8 @@ func TestPCLine(t *testing.T) {\n  \t\tt.Logf("off is %d", off)\n  \t\tif fn == nil {\n  \t\t\tt.Errorf("failed to get line of PC %#x", pc)\n-\t\t} else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.s") {\n-\t\t\tt.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.s", sym.Name, pc, file, fn.Name)\n+\t\t} else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.asm") {\n+\t\t\tt.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.asm", sym.Name, pc, file, fn.Name)\n  \t\t} else if line != wantLine || fn != sym {\n  \t\t\tt.Errorf("expected :%d (%s) at PC %#x, got :%d (%s)", wantLine, sym.Name, pc, line, fn.Name)\n  \t\t}\n```

## コアとなるコードの解説

### 1. `fmt`パッケージのインポート追加

```diff
@@ -6,6 +6,7 @@ package gosym
 
  import (
  	"debug/elf"
+"	"fmt"\n \t"os"\n \t"os/exec"\n \t"runtime"\n```
`fmt`パッケージが新しくインポートされています。これは、後述する`fmt.Sprintf`関数を使用するために必要です。

### 2. テストバイナリビルドコマンドの構築方法の変更

```diff
@@ -27,7 +28,9 @@ func dotest() bool {\n  \t// the resulting binary looks like it was built from pclinetest.s,\n  \t// but we have renamed it to keep it away from the go tool.\n  \tpclinetestBinary = os.TempDir() + "/pclinetest"\n-\tcmd := exec.Command("sh", "-c", "go tool 6a pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o "+pclinetestBinary+" pclinetest.6")\n+\tcommand := fmt.Sprintf("go tool 6a -o %s.6 pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o %s %s.6",\n+\t\tpclinetestBinary, pclinetestBinary, pclinetestBinary)\n+\tcmd := exec.Command("sh", "-c", command)\n  \tcmd.Stdout = os.Stdout\n  \tcmd.Stderr = os.Stderr\n  \tif err := cmd.Run(); err != nil {\n```
*   **変更前**:
    ```go
    cmd := exec.Command("sh", "-c", "go tool 6a pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o "+pclinetestBinary+" pclinetest.6")
    ```
    ここでは、シェルコマンド文字列が直接文字列結合(`+`演算子)で構築されています。`pclinetestBinary`変数の値がそのままシェルコマンド文字列に埋め込まれるため、パスにスペースなどの特殊文字が含まれる場合に問題が発生する可能性がありました。

*   **変更後**:
    ```go
    command := fmt.Sprintf("go tool 6a -o %s.6 pclinetest.asm && go tool 6l -E main -o %s %s.6",
    	pclinetestBinary, pclinetestBinary, pclinetestBinary)
    cmd := exec.Command("sh", "-c", command)
    ```
    まず、`fmt.Sprintf`を使用して、シェルコマンド文字列を安全に構築しています。`%s`プレースホルダーが`pclinetestBinary`の値に置き換えられます。`fmt.Sprintf`は、変数の値を適切にエスケープするため、パスに特殊文字が含まれていてもシェルが正しく解釈できるようになります。
    構築された`command`文字列が`exec.Command`に渡され、`sh -c`を通じて実行されます。これにより、コマンドの構築がより堅牢になりました。

### 3. ソースファイル名サフィックスチェックの修正

```diff
@@ -185,8 +188,8 @@ func TestPCLine(t *testing.T) {\n  \t\tt.Logf("off is %d", off)\n  \t\tif fn == nil {\n  \t\t\tt.Errorf("failed to get line of PC %#x", pc)\n-\t\t} else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.s") {\n-\t\t\tt.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.s", sym.Name, pc, file, fn.Name)\n+\t\t} else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.asm") {\n+\t\t\tt.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.asm", sym.Name, pc, file, fn.Name)\n  \t\t} else if line != wantLine || fn != sym {\n  \t\t\tt.Errorf("expected :%d (%s) at PC %#x, got :%d (%s)", wantLine, sym.Name, pc, line, fn.Name)\n  \t\t}\n```
*   **変更前**:
    ```go
    } else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.s") {
    	t.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.s", sym.Name, pc, file, fn.Name)
    ```
    ここでは、PC-Lineテーブルから取得したファイル名`file`が`pclinetest.s`で終わることを期待していました。

*   **変更後**:
    ```go
    } else if !strings.HasSuffix(file, "pclinetest.asm") {
    	t.Errorf("expected %s (%s) at PC %#x, got %s (%s)", "pclinetest.asm", sym.Name, pc, file, fn.Name)
    ```
    実際のテストバイナリのソースファイルが`pclinetest.asm`という拡張子を持っていたため、チェックするサフィックスを`pclinetest.asm`に修正しました。これにより、テストが正しい条件で評価されるようになり、誤った失敗を防ぎます。

これらの変更は、Goのテストコードの品質と信頼性を向上させるための、細かではあるが重要な改善です。

## 関連リンク

*   Go CL 5676062: [https://golang.org/cl/5676062](https://golang.org/cl/5676062)

## 参考にした情報源リンク

*   Go言語の公式ドキュメント(`debug/gosym`, `os/exec`, `fmt`, `strings`パッケージ)
*   Go言語の初期のツールチェーンに関する情報(`go tool 6a`, `go tool 6l`)
*   Goのテストに関する一般的なプラクティス
*   `pclntab`に関するWeb検索結果 (例: [https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQGqQzcOqawZPfP_LTG5pkYZRMVgXyI7whwjQXgKWzNyPco8yuM_gqumaFecPsz04pieN_BeU715SDcth0rpXOkIb9ErzrubS_17PkzLkmP8yA0pqk_CI-ehUUWFPxVBpU7v_H7CG9E6_SC94dzybcVnWHlpTOZgkUWeXzhcnm_oci-FSsUBcgQ2i1uurIbWh6CKp3Y7](https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQGqQzcOqawZPfP_LTG5pkYZRMVgXyI7whwjQXgKWzNyPco8yuM_gqumaFecPsz04pieN_BeU715SDcth0rpXOkIb9ErzrubS_17PkzLkmP8yA0pqk_CI-ehUUWFPnVBpU7v_H7CG9E6_SC94dzybcVnWHlpTOZgkUWeXzhcnm_oci-FSsUBcgQ2i1uurIbWh6CKp3Y7))