[インデックス 11974] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリであるpathパッケージとpath/filepathパッケージのドキュメンテーションを改善し、明確化することを目的としています。具体的には、既存の関数の挙動に関する説明をより正確にし、特にエラーハンドリングやパス操作に関する記述を洗練しています。
コミット
commit 3e7d804749f02fc4c4eac2194252a665c9aa30c8
Author: Rémy Oudompheng <oudomphe@phare.normalesup.org>
Date: Thu Feb 16 20:05:39 2012 +0100
path, path/filepath: polish documentation.
Fixes #2950.
Fixes #2951.
R=golang-dev, r
CC=golang-dev, remy
https://golang.org/cl/5672044
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/3e7d804749f02fc4c4eac2194252a665c9aa30c8
元コミット内容
path, path/filepath: polish documentation.
このコミットは、pathおよびpath/filepathパッケージのドキュメンテーションを洗練することを目的としています。具体的には、以下のIssueを修正します。
- Fixes #2950:
path/filepath: document behavior of EvalSymlinks with absolute symlinks - Fixes #2951:
path/filepath: document behavior of ToSlash/FromSlash with multiple separators
変更の背景
Go言語の標準ライブラリは、その堅牢性と明確なAPI設計で知られています。しかし、初期の段階では、一部の関数のドキュメンテーションが、エッジケースや特定の挙動について十分に詳細でない場合がありました。このコミットは、特にファイルパスの操作に関連するpathおよびpath/filepathパッケージにおいて、ユーザーが混乱する可能性のある部分や、より詳細な説明が必要な部分を特定し、そのドキュメンテーションを改善するために行われました。
具体的には、Issue #2950ではfilepath.EvalSymlinks関数が絶対パスのシンボリックリンクを評価する際の挙動が不明確であるという問題が提起され、Issue #2951ではfilepath.ToSlashおよびfilepath.FromSlash関数が複数のパスセパレータをどのように扱うかについての説明が不足しているという問題が指摘されました。これらの問題に対処することで、ライブラリの使いやすさと理解度が向上し、開発者がこれらの関数をより正確かつ自信を持って使用できるようになります。
前提知識の解説
このコミットの変更内容を理解するためには、以下のGo言語の標準ライブラリと関連する概念についての知識が必要です。
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pathパッケージ:- Go言語でスラッシュ区切りのパス(Unix-likeシステムでのパス表現)を操作するためのユーティリティを提供します。ウェブURLや内部的なパス表現など、OSに依存しないパス処理に適しています。
- 主な関数には
Clean,Split,Join,Dir,Base,Ext,IsAbsなどがあります。
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path/filepathパッケージ:- Go言語でOS固有のファイルパス(Windowsのバックスラッシュなど)を操作するためのユーティリティを提供します。ファイルシステムとのやり取りに適しています。
pathパッケージと同様の機能(Clean,Split,Join,Dir,Base,Ext,IsAbsなど)を提供しますが、OSのパスセパレータ(filepath.Separator)やリストセパレータ(filepath.ListSeparator)を考慮します。MatchおよびGlob関数は、シェルスタイルのファイル名パターンマッチング(ワイルドカードなど)を提供します。EvalSymlinks関数は、シンボリックリンクを評価し、最終的な物理パスを返します。
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シンボリックリンク (Symbolic Link):
- ファイルシステム上の別のファイルやディレクトリへの参照(ポインタ)です。シンボリックリンクをたどると、参照先のファイルやディレクトリにアクセスできます。
filepath.EvalSymlinksは、与えられたパスに含まれるシンボリックリンクを解決し、最終的な実体パスを返します。
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シェルファイル名パターン (Shell File Name Pattern / Globbing):
*(任意の文字列)、?(任意の一文字)、[](文字の範囲またはセット)などのワイルドカード文字を使用してファイル名をマッチングさせるパターンです。filepath.Matchは単一のファイル名がパターンにマッチするかを判定し、filepath.Globはパターンにマッチするファイルパスを検索します。
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Go言語のドキュメンテーション:
- Go言語では、コードのコメントとして記述されたドキュメンテーションが
go docコマンドやpkg.go.devなどのツールによって自動生成されます。そのため、コメントの品質は非常に重要です。
- Go言語では、コードのコメントとして記述されたドキュメンテーションが
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、主にGo言語のドキュメンテーションコメントの修正にあります。これらの修正は、関数の挙動をより正確に、かつ網羅的に説明することを目的としています。
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path/filepath/match.goおよびpath/match.goの変更:ErrBadPattern変数のコメントに// ErrBadPattern indicates a globbing pattern was malformed.という説明が追加されました。これにより、このエラーがどのような状況で発生するかが明確になります。Match関数のドキュメンテーションにおいて、エラーリターンに関する記述がThe only possible error return occurs when the pattern is malformed.からThe only possible returned error is ErrBadPattern, when pattern is malformed.に変更されました。これにより、返される可能性のあるエラーが具体的にErrBadPatternであることが明示されます。Glob関数のドキュメンテーションから、エラーリターンに関する冗長な記述が削除されました。これは、Match関数と同様にErrBadPatternが返されることが暗黙的に理解されるため、またはより一般的なエラーハンドリングの原則に従うためと考えられます。
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path/filepath/path.goの変更:Clean関数のドキュメンテーションで、Rob Pikeの論文「Lexical File Names in Plan 9 or Getting Dot-Dot right」の引用が「Getting Dot-Dot right」から「Getting Dot-Dot Right」に修正されました。これは軽微なタイポ修正です。ToSlash関数のドキュメンテーションに、Multiple separators are replaced by multiple slashes.という記述が追加されました。これにより、複数のOS固有のセパレータが連続している場合に、それらが複数のスラッシュに変換されることが明確になります。FromSlash関数のドキュメンテーションに、Multiple slashes are replaced by multiple separators.という記述が追加されました。これにより、複数のスラッシュが連続している場合に、それらが複数のOS固有のセパレータに変換されることが明確になります。SplitList関数のドキュメンテーションに、usually found in PATH or GOPATH environment variables.という記述が追加されました。これにより、この関数がどのようなコンテキストで使われることが多いかが示唆されます。Join関数のドキュメンテーションに、The result is Cleaned, in particular all empty strings are ignored.という記述が追加されました。これにより、Joinの結果がClean関数によって正規化されること、および空文字列が無視されることが明示されます。EvalSymlinks関数のドキュメンテーションに、If path is relative the result will be relative to the current directory, unless one of the components is an absolute symbolic link.という重要な記述が追加されました。これは、相対パスが与えられた場合のEvalSymlinksの挙動、特に途中に絶対パスのシンボリックリンクが含まれる場合の挙動を明確にします。Dir関数のドキュメンテーションで、all but the last element of pathからall but the last element of pathに修正され、より自然な英語表現になりました。
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path/filepath/path_test.goの変更:EvalSymlinksTestDirsとEvalSymlinksTestsに、絶対パスのシンボリックリンクをテストするための新しいエントリ{"test/linkabs", "/tmp"}が追加されました。TestEvalSymlinks関数内で、filepath.IsAbs(d.dest)をチェックし、もしd.destが絶対パスであればtmpDirとの結合を行わないように修正が加えられました。これにより、絶対パスのシンボリックリンクのテストが正しく機能するようになります。
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path/path.goの変更:- パッケージコメントが
Package path implements utility routines for manipulating slash-separated filename paths.からPackage path implements utility routines for manipulating slash-separated paths.に変更され、「filename」が削除されました。これは、pathパッケージがファイル名だけでなく、一般的なスラッシュ区切りのパス(URLなど)にも適用されることを示唆しています。 Clean関数のドキュメンテーションで、Rob Pikeの論文の引用がfilepathパッケージと同様に修正されました。Split関数のドキュメンテーションで、「path separator」が「slash」に、「file set to path」が「file set to path」に修正され、より正確な表現になりました。また、The returned values have the property that path = dir+file.という数学的なプロパティが追加され、関数の挙動がより厳密に定義されました。Join関数のドキュメンテーションに、The result is Cleaned; in particular, all empty strings are ignored.という記述が追加され、filepathパッケージのJoinと同様にCleanが適用されることが明示されました。Dir関数のドキュメンテーションが大幅に修正され、The path is Cleaned and trailing slashes are removed before processing.、If the path consists entirely of slashes followed by non-slash bytes, Dir returns a single slash. In any other case, the returned path does not end in a slash.といった詳細な挙動が追加されました。これにより、Dir関数のエッジケース(例:/a/b/や/のようなパス)における挙動が非常に明確になりました。
- パッケージコメントが
これらの変更は、Go言語のドキュメンテーションの品質向上に対する継続的な取り組みの一環であり、ライブラリの正確性と使いやすさを高める上で非常に重要です。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットのコアとなる変更は、Go言語の標準ライブラリのsrc/pkg/path/とsrc/pkg/path/filepath/ディレクトリ内のGoソースファイルのドキュメンテーションコメントです。
具体的には以下のファイルが変更されています。
src/pkg/path/filepath/match.go:ErrBadPattern変数とMatch関数のコメント修正。src/pkg/path/filepath/path.go:Clean,ToSlash,FromSlash,SplitList,Join,EvalSymlinks,Dir関数のコメント修正。src/pkg/path/filepath/path_test.go:EvalSymlinksのテストケース追加とテストロジックの修正。src/pkg/path/match.go:ErrBadPattern変数とMatch関数のコメント修正。src/pkg/path/path.go: パッケージコメント、Clean,Split,Join,Dir関数のコメント修正。
これらの変更は、主に既存のコードの挙動を変更するものではなく、その挙動を説明するコメントをより正確で詳細なものに「磨き上げる (polish)」ものです。
コアとなるコードの解説
変更された各ファイルの主要なドキュメンテーション修正点を以下に詳述します。
src/pkg/path/filepath/match.go および src/pkg/path/match.go
これらのファイルは、シェルスタイルのパターンマッチング機能を提供します。
変更の核心は、Match関数が返す可能性のあるエラーについて、より具体的な説明を追加した点です。
// ErrBadPattern indicates a globbing pattern was malformed.
var ErrBadPattern = errors.New("syntax error in pattern")
// Match returns true if name matches the shell file name pattern.
// ... (中略) ...
// The only possible returned error is ErrBadPattern, when pattern
// is malformed.
func Match(pattern, name string) (matched bool, err error) {
// ...
}
以前は「The only possible error return occurs when the pattern is malformed.」という一般的な記述でしたが、ErrBadPatternという具体的なエラー型を明記することで、開発者がエラーハンドリングを行う際にどのエラーを期待すべきかが明確になりました。
src/pkg/path/filepath/path.go
このファイルはOS固有のファイルパス操作を提供します。多くの関数のドキュメンテーションが改善されています。
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ToSlash/FromSlash:// ToSlash returns the result of replacing each separator character // in path with a slash ('/') character. Multiple separators are // replaced by multiple slashes. func ToSlash(path string) string { /* ... */ } // FromSlash returns the result of replacing each slash ('/') character // in path with a separator character. Multiple slashes are replaced // by multiple separators. func FromSlash(path string) string { /* ... */ }「Multiple separators are replaced by multiple slashes/separators.」という記述が追加され、連続するセパレータの変換挙動が明確になりました。
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Join:// Join joins any number of path elements into a single path, adding // a Separator if necessary. The result is Cleaned, in particular // all empty strings are ignored. func Join(elem ...string) string { /* ... */ }Joinの結果がCleanedされること、および空文字列が無視されることが明示されました。これは、filepath.Joinが内部的にfilepath.Cleanを呼び出すため、その結果が正規化されることを示しています。 -
EvalSymlinks:// EvalSymlinks returns the path name after the evaluation of any symbolic // links. // If path is relative the result will be relative to the current directory, // unless one of the components is an absolute symbolic link. func EvalSymlinks(path string) (string, error) { /* ... */ }相対パスが与えられた場合の
EvalSymlinksの挙動、特にパスの途中に絶対パスのシンボリックリンクが含まれる場合の挙動が詳細に説明されました。これはIssue #2950で指摘された不明確な点に対する直接的な修正です。
src/pkg/path/filepath/path_test.go
EvalSymlinksのドキュメンテーション修正に伴い、その挙動を検証するためのテストケースが追加されました。
var EvalSymlinksTestDirs = []EvalSymlinksTest{
// ...
{"test/linkabs", "/tmp"}, // 新しいテストケース
}
// ...
func TestEvalSymlinks(t *testing.T) {
// ...
for _, d := range tests {
path := simpleJoin(tmpDir, d.path)
dest := simpleJoin(tmpDir, d.dest)
if filepath.IsAbs(d.dest) { // 追加されたロジック
dest = d.dest
}
// ...
}
}
test/linkabsという絶対パスのシンボリックリンクをテストするケースが追加され、テストロジックもfilepath.IsAbsを使って絶対パスのテストが正しく行われるように修正されました。
src/pkg/path/path.go
このファイルはスラッシュ区切りの一般的なパス操作を提供します。
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パッケージコメント:
// Package path implements utility routines for manipulating slash-separated // paths.「filename」が削除され、
pathパッケージがファイル名だけでなく、より広範なスラッシュ区切りのパス(例: URLパス)にも適用されることが示唆されました。 -
Split:// Split splits path immediately following the final slash. // separating it into a directory and file name component. // If there is no slash path, Split returns an empty dir and // file set to path. // The returned values have the property that path = dir+file. func Split(path string) (dir, file string) { /* ... */ }「slash」という用語で統一され、
path = dir+fileという数学的なプロパティが追加され、関数の厳密な定義が提供されました。 -
Dir:// Dir returns all but the last element of path, typically the path's directory. // The path is Cleaned and trailing slashes are removed before processing. // If the path is empty, Dir returns ".". // If the path consists entirely of slashes followed by non-slash bytes, Dir // returns a single slash. In any other case, the returned path does not end in a // slash. func Dir(path string) string { /* ... */ }Dir関数の挙動に関する最も詳細な変更です。Cleanが適用されること、末尾のスラッシュが削除されること、そして特に「/a/b/」のようなパスや「/」のようなルートパスの場合の挙動が明確に記述されました。これにより、Dir関数のエッジケースにおける挙動の曖昧さが解消されました。
これらのドキュメンテーションの「磨き上げ」は、Go言語のAPIの明確性と堅牢性を高める上で非常に重要な役割を果たしています。
関連リンク
- Go言語の
pathパッケージ公式ドキュメンテーション: https://pkg.go.dev/path - Go言語の
path/filepathパッケージ公式ドキュメンテーション: https://pkg.go.dev/path/filepath - Go Issue #2950:
path/filepath: document behavior of EvalSymlinks with absolute symlinks(このコミットによって修正されたIssue) - Go Issue #2951:
path/filepath: document behavior of ToSlash/FromSlash with multiple separators(このコミットによって修正されたIssue)
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメンテーション
- GitHubのGoリポジトリのIssueトラッカー
- Rob Pike, ``Lexical File Names in Plan 9 or Getting Dot-Dot Right,'' http://plan9.bell-labs.com/sys/doc/lexnames.html (Clean関数のドキュメンテーションで参照されている論文)
- コミットメッセージに記載されているGoのコードレビューリンク:
https://golang.org/cl/5672044(現在はhttps://go.dev/cl/5672044にリダイレクトされます)