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[インデックス 120] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラにおけるメソッドの前方宣言に関するバグ修正を扱っています。具体的には、メソッドのシグネチャが前方宣言され、その後にメソッド本体が定義される場合に発生するコンパイルエラーを修正するためのテストケースの追加と、それに関連するコンパイラの挙動の調整が行われています。

コミット

commit d9178fceb6c7c04fc9d3d3596538d19b60b7db34
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date:   Fri Jun 6 17:50:46 2008 -0700

    - method forward decl. bug
    
    SVN=121563

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/d9178fceb6c7c04fc9d3d3596538d19b60b7db34

元コミット内容

    - method forward decl. bug
    
    SVN=121563

変更の背景

このコミットは、Go言語の初期開発段階におけるコンパイラのバグ修正の一環として行われました。当時のGo言語はまだオープンソース化されておらず、Google社内で開発が進められていました。SVN=121563という記述は、当時のバージョン管理システムがSubversion(SVN)であったことを示しており、このコミットがSVNリポジトリの121563番目のリビジョンに対応することを示唆しています。

具体的なバグの内容は、「メソッドの前方宣言(forward declaration)に関する問題」とされています。Go言語では、通常、関数やメソッドは使用する前に定義されている必要がありますが、一部のケース(特に相互再帰的な呼び出しなど)では前方宣言が必要となる場合があります。このコミット以前のコンパイラには、メソッドが前方宣言された後にその本体が定義される際に、型チェックやシグネチャの整合性に関する問題が発生していたと考えられます。

このバグは、コンパイラがメソッドのシグネチャを正しく解決できない、または前方宣言と実際の定義の間で不整合を検出できないことに起因していた可能性があります。結果として、正当なコードがコンパイルエラーになるという問題が発生していました。このコミットは、このようなコンパイルエラーを修正し、Go言語のコンパイラの堅牢性を向上させることを目的としています。

前提知識の解説

前方宣言 (Forward Declaration)

前方宣言とは、プログラム中で関数、変数、クラス、またはメソッドなどの識別子を、その完全な定義よりも前に宣言することです。これにより、コンパイラは識別子の存在と型情報を事前に知ることができ、その識別子を使用するコードをコンパイルできるようになります。完全な定義は後で提供されます。

CやC++のような言語では、ヘッダーファイルに関数のプロトタイプ(前方宣言)を記述し、実装ファイルでその関数の本体を定義するのが一般的です。これにより、相互に依存する関数や、定義が物理的に離れた場所にある関数をコンパイル時に解決できます。

Go言語においては、通常、前方宣言は明示的に行う必要はありません。Goコンパイラは、ソースファイル内の宣言の順序に依存せず、パッケージ内のすべての宣言を解析して依存関係を解決します。しかし、このコミットが示唆するように、初期のGoコンパイラには、特定の状況下でのメソッドの前方宣言の扱いに関するバグが存在していたと考えられます。

Go言語のメソッドと型システム

Go言語のメソッドは、特定の型に関連付けられた関数です。レシーバ引数(func (p *S) M1a()p *S の部分)を通じて、その型の値に対して操作を行います。Goの型システムは静的型付けであり、コンパイル時に厳密な型チェックが行われます。

このコミットで言及されている「error in shape across assignment」というエラーメッセージは、Goコンパイラが型の一貫性、特にメソッドのシグネチャ(引数の型と戻り値の型)が、宣言と使用箇所で一致しない場合に発生する可能性があります。このバグは、前方宣言されたメソッドの「shape」(Goコンパイラ内部で型やシグネチャを表す概念)が、実際の定義と異なる、または正しく解決されないために発生していたと推測されます。

コンパイラのフェーズ

コンパイラは通常、複数のフェーズを経てソースコードを実行可能な形式に変換します。

  1. 字句解析 (Lexical Analysis): ソースコードをトークンに分解します。
  2. 構文解析 (Syntax Analysis): トークン列が文法的に正しいかチェックし、抽象構文木 (AST) を構築します。
  3. 意味解析 (Semantic Analysis): 型チェック、名前解決、スコープの確認など、プログラムの意味的な正しさを検証します。このフェフェーズで、メソッドの前方宣言と実際の定義の整合性がチェックされます。
  4. 中間コード生成 (Intermediate Code Generation): 抽象構文木から中間表現を生成します。
  5. コード最適化 (Code Optimization): 中間コードを最適化します。
  6. コード生成 (Code Generation): ターゲットマシンコードを生成します。

このバグは、主に意味解析フェーズで発生していたと考えられます。コンパイラがメソッドのシグネチャを解決する際に、前方宣言された情報と実際の定義の間に不整合を見つけていた、あるいは正しく関連付けられていなかった可能性があります。

技術的詳細

このコミットは、test/bugs/bug044.go という新しいテストファイルを追加することで、バグの存在を明確にし、その修正を検証しています。

bug044.go の内容は以下の通りです。

// Copyright 2009 The Go Authors.  All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.

// $G $D/$F.go || echo BUG: compilation should succeed

package main

type S struct {
};

func (p *S) M1a() ; // メソッドM1aの前方宣言 (戻り値なし)

func (p *S) M2a() {
  p.M1a(); // M1aを呼び出し
}

func (p *S) M1a() {}  // M1aの実際の定義 (このケースは動作する)


func (p *S) M1b() int; // メソッドM1bの前方宣言 (戻り値int)

func (p *S) M2b() {
  p.M1b(); // M1bを呼び出し
}

func (p *S) M1b() int {}  // BUG this doesn't (このケースはバグにより動作しない)

このテストファイルは、2つの異なるシナリオを提示しています。

  1. M1aM2a のケース:

    • func (p *S) M1a() ;M1a が前方宣言されています。戻り値はありません。
    • M2a の中で p.M1a() が呼び出されています。
    • func (p *S) M1a() {}M1a の実際の定義が提供されています。
    • コメント // this works が示すように、このケースはバグの影響を受けず、正しくコンパイルされていました。
  2. M1bM2b のケース:

    • func (p *S) M1b() int;M1b が前方宣言されています。戻り値は int です。
    • M2b の中で p.M1b() が呼び出されています。
    • func (p *S) M1b() int {}M1b の実際の定義が提供されています。
    • コメント // BUG this doesn't が示すように、このケースがバグの影響を受けていました。つまり、M1b の前方宣言と実際の定義の間に戻り値の型 int が存在することで、コンパイラが正しく処理できなかったことを示唆しています。

test/golden.out の変更は、この新しいテストケース bug044.go がコンパイルエラーを発生させ、そのエラーメッセージが bugs/bug044.go:23: error in shape across assignment であることを記録しています。そして、このエラーが修正されることで、最終的には BUG: compilation should succeed となるべきであることを示しています。

このバグは、メソッドが戻り値を持つ場合に、前方宣言されたシグネチャと実際の定義のシグネチャをコンパイラが正しく「結合」または「解決」できないことに起因していたと考えられます。特に、error in shape across assignment というメッセージは、コンパイラが内部的に管理する型の「形状」または「構造」が、代入(この場合はメソッド呼び出しにおけるシグネチャの整合性チェック)の際に一致しないと判断したことを意味します。

コアとなるコードの変更箇所

このコミット自体は、Go言語のコンパイラ本体のコード変更を直接示していません。代わりに、バグを再現し、その修正を検証するためのテストファイル (test/bugs/bug044.go) と、そのテストの期待される出力 (test/golden.out) の変更のみが含まれています。

これは、Go言語の開発プロセスにおいて、まずバグを再現するテストケースを作成し、そのテストが失敗することを確認した上で、コンパイラ本体のコードを修正し、テストが成功することを確認するという、テスト駆動開発(TDD)に似たアプローチが取られていたことを示唆しています。

したがって、このコミットの「コアとなるコードの変更箇所」は、バグを露呈させるための新しいテストケースの追加と、そのテストの期待される出力の更新です。コンパイラ本体の具体的な修正は、このコミットの後に続く別のコミットで行われたか、あるいはこのコミットと同じリビジョン内で、テストファイルとは別のファイルで修正が行われた可能性があります(ただし、このコミットのdiffには含まれていません)。

コアとなるコードの解説

前述の通り、このコミットで直接変更された「コアとなるコード」は、Goコンパイラ本体ではなく、バグを再現するためのテストコードです。

test/bugs/bug044.go の目的は、以下のシナリオを検証することです。

  1. 戻り値のないメソッドの前方宣言と定義:

    func (p *S) M1a() ; // 宣言
    // ...
    func (p *S) M1a() {} // 定義
    

    このケースは、バグの影響を受けずにコンパイルが成功することを確認します。

  2. 戻り値のあるメソッドの前方宣言と定義:

    func (p *S) M1b() int; // 宣言
    // ...
    func (p *S) M1b() int {} // 定義
    

    このケースは、バグによってコンパイルエラーが発生することを確認し、修正後はコンパイルが成功することを確認します。

このテストコードは、Goコンパイラがメソッドの前方宣言をどのように処理し、特に戻り値の型が存在する場合に、宣言と定義の間の整合性をどのようにチェックするかという、コンパイラのセマンティック解析の側面を深く掘り下げています。

test/golden.out は、Go言語のテストフレームワークの一部であり、テストの期待される出力を記録するために使用されます。bugs/bug044.go:23: error in shape across assignment という行は、bug044.go の23行目(func (p *S) M1b() int {} の行)で error in shape across assignment というコンパイルエラーが発生していたことを示しています。これは、コンパイラが M1b の前方宣言と実際の定義の間で、型の「形状」に関する不整合を検出していたことを明確に示しています。

このテストケースの追加により、Goコンパイラの開発者は、この特定のバグを特定し、修正し、将来の回帰を防ぐための自動化されたメカニズムを手に入れたことになります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語のコミット履歴 (GitHub): https://github.com/golang/go/commits/master
  • Go言語の初期のバグトラッカーやメーリングリストのアーカイブ (もし公開されていれば、より詳細な議論が見つかる可能性がありますが、このコミットの時期は非常に初期のため、公開情報が少ない可能性があります。)
  • コンパイラの設計に関する一般的な情報源 (例: Dragon Book - Compilers: Principles, Techniques, and Tools)
  • Go言語の型システムに関する解説記事やドキュメント。
  • Go言語のテストフレームワークに関する情報。
  • error in shape across assignment のようなコンパイラエラーメッセージに関するGo言語コミュニティの議論(もしあれば)。
# [インデックス 120] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラにおけるメソッドの前方宣言に関するバグ修正を扱っています。具体的には、メソッドのシグネチャが前方宣言され、その後にメソッド本体が定義される場合に発生するコンパイルエラーを修正するためのテストケースの追加と、それに関連するコンパイラの挙動の調整が行われています。

## コミット

commit d9178fceb6c7c04fc9d3d3596538d19b60b7db34 Author: Robert Griesemer gri@golang.org Date: Fri Jun 6 17:50:46 2008 -0700

- method forward decl. bug

SVN=121563

## GitHub上でのコミットページへのリンク

[https://github.com/golang/go/commit/d9178fceb6c7c04fc9d3d3596538d19b60b7db34](https://github.com/golang/go/commit/d9178fceb6c7c04fc9d3d3596538d19b60b7db34)

## 元コミット内容

- method forward decl. bug

SVN=121563

## 変更の背景

このコミットは、Go言語の初期開発段階におけるコンパイラのバグ修正の一環として行われました。当時のGo言語はまだオープンソース化されておらず、Google社内で開発が進められていました。`SVN=121563`という記述は、当時のバージョン管理システムがSubversion(SVN)であったことを示しており、このコミットがSVNリポジトリの121563番目のリビジョンに対応することを示唆しています。

具体的なバグの内容は、「メソッドの前方宣言(forward declaration)に関する問題」とされています。Go言語では、通常、関数やメソッドは使用する前に定義されている必要がありますが、一部のケース(特に相互再帰的な呼び出しなど)では前方宣言が必要となる場合があります。このコミット以前のコンパイラには、メソッドが前方宣言された後にその本体が定義される際に、型チェックやシグネチャの整合性に関する問題が発生していたと考えられます。

このバグは、コンパイラがメソッドのシグネチャを正しく解決できない、または前方宣言と実際の定義の間で不整合を検出できないことに起因していた可能性があります。結果として、正当なコードがコンパイルエラーになるという問題が発生していました。このコミットは、このようなコンパイルエラーを修正し、Go言語のコンパイラの堅牢性を向上させることを目的としています。

## 前提知識の解説

### 前方宣言 (Forward Declaration)

前方宣言とは、プログラム中で関数、変数、クラス、またはメソッドなどの識別子を、その完全な定義よりも前に宣言することです。これにより、コンパイラは識別子の存在と型情報を事前に知ることができ、その識別子を使用するコードをコンパイルできるようになります。完全な定義は後で提供されます。

CやC++のような言語では、ヘッダーファイルに関数のプロトタイプ(前方宣言)を記述し、実装ファイルでその関数の本体を定義するのが一般的です。これにより、相互に依存する関数や、定義が物理的に離れた場所にある関数をコンパイル時に解決できます。

Go言語においては、通常、前方宣言は明示的に行う必要はありません。Goコンパイラは、ソースファイル内の宣言の順序に依存せず、パッケージ内のすべての宣言を解析して依存関係を解決します。しかし、このコミットが示唆するように、初期のGoコンパイラには、特定の状況下でのメソッドの前方宣言の扱いに関するバグが存在していたと考えられます。

### Go言語のメソッドと型システム

Go言語のメソッドは、特定の型に関連付けられた関数です。レシーバ引数(`func (p *S) M1a()` の `p *S` の部分)を通じて、その型の値に対して操作を行います。Goの型システムは静的型付けであり、コンパイル時に厳密な型チェックが行われます。

このコミットで言及されている「error in shape across assignment」というエラーメッセージは、Goコンパイラが型の一貫性、特にメソッドのシグネチャ(引数の型と戻り値の型)が、宣言と使用箇所で一致しない場合に発生する可能性があります。このバグは、前方宣言されたメソッドの「shape」(Goコンパイラ内部で型やシグネチャを表す概念)が、実際の定義と異なる、または正しく解決されないために発生していたと推測されます。

### コンパイラのフェーズ

コンパイラは通常、複数のフェーズを経てソースコードを実行可能な形式に変換します。
1.  **字句解析 (Lexical Analysis)**: ソースコードをトークンに分解します。
2.  **構文解析 (Syntax Analysis)**: トークン列が文法的に正しいかチェックし、抽象構文木 (AST) を構築します。
3.  **意味解析 (Semantic Analysis)**: 型チェック、名前解決、スコープの確認など、プログラムの意味的な正しさを検証します。このフェフェーズで、メソッドの前方宣言と実際の定義の整合性がチェックされます。
4.  **中間コード生成 (Intermediate Code Generation)**: 抽象構文木から中間表現を生成します。
5.  **コード最適化 (Code Optimization)**: 中間コードを最適化します。
6.  **コード生成 (Code Generation)**: ターゲットマシンコードを生成します。

このバグは、主に意味解析フェーズで発生していたと考えられます。コンパイラがメソッドのシグネチャを解決する際に、前方宣言された情報と実際の定義の間に不整合を見つけていた、あるいは正しく関連付けられていなかった可能性があります。

## 技術的詳細

このコミットは、`test/bugs/bug044.go` という新しいテストファイルを追加することで、バグの存在を明確にし、その修正を検証しています。

`bug044.go` の内容は以下の通りです。

```go
// Copyright 2009 The Go Authors.  All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.

// $G $D/$F.go || echo BUG: compilation should succeed

package main

type S struct {
};

func (p *S) M1a() ; // メソッドM1aの前方宣言 (戻り値なし)

func (p *S) M2a() {
  p.M1a(); // M1aを呼び出し
}

func (p *S) M1a() {}  // M1aの実際の定義 (このケースは動作する)


func (p *S) M1b() int; // メソッドM1bの前方宣言 (戻り値int)

func (p *S) M2b() {
  p.M1b(); // M1bを呼び出し
}

func (p *S) M1b() int {}  // BUG this doesn't (このケースはバグにより動作しない)

このテストファイルは、2つの異なるシナリオを提示しています。

  1. M1aM2a のケース:

    • func (p *S) M1a() ;M1a が前方宣言されています。戻り値はありません。
    • M2a の中で p.M1a() が呼び出されています。
    • func (p *S) M1a() {}M1a の実際の定義が提供されています。
    • コメント // this works が示すように、このケースはバグの影響を受けず、正しくコンパイルされていました。
  2. M1bM2b のケース:

    • func (p *S) M1b() int;M1b が前方宣言されています。戻り値は int です。
    • M2b の中で p.M1b() が呼び出されています。
    • func (p *S) M1b() int {}M1b の実際の定義が提供されています。
    • コメント // BUG this doesn't が示すように、このケースがバグの影響を受けていました。つまり、M1b の前方宣言と実際の定義の間に戻り値の型 int が存在することで、コンパイラが正しく処理できなかったことを示唆しています。

test/golden.out の変更は、この新しいテストケース bug044.go がコンパイルエラーを発生させ、そのエラーメッセージが bugs/bug044.go:23: error in shape across assignment であることを記録しています。そして、このエラーが修正されることで、最終的には BUG: compilation should succeed となるべきであることを示しています。

このバグは、メソッドが戻り値を持つ場合に、前方宣言されたシグネチャと実際の定義のシグネチャをコンパイラが正しく「結合」または「解決」できないことに起因していたと考えられます。特に、error in shape across assignment というメッセージは、コンパイラが内部的に管理する型の「形状」または「構造」が、代入(この場合はメソッド呼び出しにおけるシグネチャの整合性チェック)の際に一致しないと判断したことを意味します。

コアとなるコードの変更箇所

このコミット自体は、Go言語のコンパイラ本体のコード変更を直接示していません。代わりに、バグを再現し、その修正を検証するためのテストファイル (test/bugs/bug044.go) と、そのテストの期待される出力 (test/golden.out) の変更のみが含まれています。

これは、Go言語の開発プロセスにおいて、まずバグを再現するテストケースを作成し、そのテストが失敗することを確認した上で、コンパイラ本体のコードを修正し、テストが成功することを確認するという、テスト駆動開発(TDD)に似たアプローチが取られていたことを示唆しています。

したがって、このコミットの「コアとなるコードの変更箇所」は、バグを露呈させるための新しいテストケースの追加と、そのテストの期待される出力の更新です。コンパイラ本体の具体的な修正は、このコミットの後に続く別のコミットで行われたか、あるいはこのコミットと同じリビジョン内で、テストファイルとは別のファイルで修正が行われた可能性があります(ただし、このコミットのdiffには含まれていません)。

コアとなるコードの解説

前述の通り、このコミットで直接変更された「コアとなるコード」は、Goコンパイラ本体ではなく、バグを再現するためのテストコードです。

test/bugs/bug044.go の目的は、以下のシナリオを検証することです。

  1. 戻り値のないメソッドの前方宣言と定義:

    func (p *S) M1a() ; // 宣言
    // ...
    func (p *S) M1a() {} // 定義
    

    このケースは、バグの影響を受けずにコンパイルが成功することを確認します。

  2. 戻り値のあるメソッドの前方宣言と定義:

    func (p *S) M1b() int; // 宣言
    // ...
    func (p *S) M1b() int {} // 定義
    

    このケースは、バグによってコンパイルエラーが発生することを確認し、修正後はコンパイルが成功することを確認します。

このテストコードは、Goコンパイラがメソッドの前方宣言をどのように処理し、特に戻り値の型が存在する場合に、宣言と定義の間の整合性をどのようにチェックするかという、コンパイラのセマンティック解析の側面を深く掘り下げています。

test/golden.out は、Go言語のテストフレームワークの一部であり、テストの期待される出力を記録するために使用されます。bugs/bug044.go:23: error in shape across assignment という行は、bug044.go の23行目(func (p *S) M1b() int {} の行)で error in shape across assignment というコンパイルエラーが発生していたことを示しています。これは、コンパイラが M1b の前方宣言と実際の定義の間で、型の「形状」に関する不整合を検出していたことを明確に示しています。

このテストケースの追加により、Goコンパイラの開発者は、この特定のバグを特定し、修正し、将来の回帰を防ぐための自動化されたメカニズムを手に入れたことになります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語のコミット履歴 (GitHub): https://github.com/golang/go/commits/master
  • Go言語の初期のバグトラッカーやメーリングリストのアーカイブ (もし公開されていれば、より詳細な議論が見つかる可能性がありますが、このコミットの時期は非常に初期のため、公開情報が少ない可能性があります。)
  • コンパイラの設計に関する一般的な情報源 (例: Dragon Book - Compilers: Principles, Techniques, and Tools)
  • Go言語の型システムに関する解説記事やドキュメント。
  • Go言語のテストフレームワークに関する情報。
  • error in shape across assignment のようなコンパイラエラーメッセージに関するGo言語コミュニティの議論(もしあれば)。