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[インデックス 12039] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリであるtimeパッケージに、世界各地のタイムゾーン情報(zoneinfoファイル、またはtzdata)を追加するものです。これにより、特にUnix系システム以外の環境(Windowsなど)でGoアプリケーションがタイムゾーン情報を適切に扱えるようになります。追加されたファイルは、lib/time/zoneinfo/ディレクトリ以下に配置されたバイナリ形式のタイムゾーンデータです。

コミット

  • コミットハッシュ: 9a59aec1a1972b3b819223fe33cfd5926d72279d
  • 作者: Russ Cox rsc@golang.org
  • 日付: Sat Feb 18 20:36:51 2012 -0500

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/9a59aec1a1972b3b819223fe33cfd5926d72279d

元コミット内容

time: add zoneinfo files, mainly for non-Unix systems

Generated by lib/time/update.bash.

R=bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5676096

変更の背景

Go言語は、クロスプラットフォームでの動作を強く意識して設計されています。時間とタイムゾーンの扱いは、ソフトウェア開発において非常に複雑で、特に異なるオペレーティングシステム(OS)間での互換性を確保する上で課題となります。

従来のUnix系システムでは、タイムゾーン情報は/usr/share/zoneinfoなどの標準的なパスに配置されたファイル(tzdata)から読み込まれることが一般的でした。しかし、Windowsのような非Unix系システムでは、このような標準的なzoneinfoファイルが存在しないか、異なる形式でタイムゾーン情報が管理されています。

このコミットが行われた背景には、GoアプリケーションがUnix系システムに依存せずに、自己完結型で正確なタイムゾーン計算を行えるようにするという目的があります。Goのtimeパッケージがこれらのzoneinfoファイルを内部に持つことで、アプリケーションがデプロイされる環境に特定のタイムゾーンデータが存在するかどうかにかかわらず、一貫したタイムゾーン処理が可能になります。これにより、Goアプリケーションのポータビリティと信頼性が向上します。

また、コミットメッセージにある「Generated by lib/time/update.bash」という記述から、これらのファイルが手動で追加されたものではなく、スクリプトによって自動生成・更新されるものであることが示唆されており、タイムゾーンデータの定期的な更新に対応するための仕組みが考慮されていることがわかります。

前提知識の解説

タイムゾーンとUTC

  • UTC (Coordinated Universal Time): 協定世界時。世界の標準時であり、原子時計に基づいて決定されます。タイムゾーンの基準となる時間です。
  • タイムゾーン: 地球上の特定の地域に適用される標準時です。UTCからのオフセット(例: UTC+9は日本標準時)と、夏時間(Daylight Saving Time, DST)のルールによって定義されます。

夏時間 (Daylight Saving Time, DST)

夏時間とは、夏の間、日照時間を有効活用するために標準時を1時間進める制度です。これにより、夕方の明るい時間を長くし、エネルギー消費を抑えるなどの目的があります。夏時間の開始日と終了日は国や地域によって異なり、毎年変動することがあります。この複雑さがタイムゾーン処理を難しくする主要な要因の一つです。

Zoneinfo (tzdata)

  • Zoneinfoデータベース (tzdata): IANA (Internet Assigned Numbers Authority) が管理している、世界中のタイムゾーン情報(UTCからのオフセット、夏時間の開始・終了ルール、歴史的な変更など)をまとめた公開データベースです。このデータベースは、タイムゾーンの変更(政治的な決定、地理的な境界の変更など)に応じて定期的に更新されます。
  • zoneinfoファイル: tzdataデータベースからコンパイルされたバイナリ形式のファイルです。各ファイルは特定のタイムゾーン(例: America/New_York, Asia/Tokyo)のルールを含んでいます。これらのファイルは、システムが正確なローカル時間を計算するために使用されます。

プログラミング言語におけるタイムゾーンの扱い

多くのプログラミング言語やシステムは、タイムゾーン情報を扱うためにzoneinfoファイルを利用します。

  1. システム依存: 多くの言語は、デフォルトでOSが提供するzoneinfoファイルを参照します。これはUnix系システムでは一般的ですが、Windowsなどでは問題となることがあります。
  2. 組み込みデータ: 一部の言語やライブラリは、zoneinfoデータをアプリケーション自体に組み込むことで、システム依存性を排除します。Go言語のこのコミットは、このアプローチを採用しています。
  3. 外部ライブラリ: タイムゾーン処理に特化した外部ライブラリを使用する方法もあります。

技術的詳細

Go言語のtimeパッケージは、日付と時刻を扱うための強力な機能を提供します。このコミットによって追加されたzoneinfoファイルは、timeパッケージが内部的にタイムゾーン情報を解決するために使用されます。

Goのtimeパッケージとタイムゾーン

Goのtimeパッケージは、time.Time型を使用して時刻を表現します。time.Timeは、特定の瞬間(UTCでの絶対時刻)と、その時刻がどのタイムゾーンで解釈されるべきかという情報(Location)の両方を持っています。

  • time.LoadLocation(name string): この関数は、指定されたタイムゾーン名(例: "America/New_York")に対応する*time.Locationオブジェクトをロードするために使用されます。このロード処理の際に、Goはまずシステム上の標準的なzoneinfoパス(Unix系の場合)を探しますが、見つからない場合や、このコミットのようにGo自身にzoneinfoデータが組み込まれている場合は、内部のデータを使用します。
  • 組み込みzoneinfoの利点:
    • ポータビリティ: アプリケーションが実行されるOSにzoneinfoデータが存在しなくても、正確なタイムゾーン計算が可能です。これは、特にコンテナ環境やクロスコンパイルされたバイナリを配布する際に重要です。
    • 一貫性: 異なるシステム間で同じGoアプリケーションを実行した場合でも、同じタイムゾーンデータに基づいて時間が計算されるため、結果の一貫性が保証されます。
    • 自己完結性: 外部依存が減り、単一のバイナリでタイムゾーン処理が完結します。

lib/time/update.bashスクリプト

コミットメッセージに「Generated by lib/time/update.bash」とあるように、これらのzoneinfoファイルは手動で作成されたものではなく、スクリプトによって生成されています。このスクリプトは、IANAのtzdataデータベースの最新版を取得し、それをGoのtimeパッケージが利用できる形式(バイナリファイル)に変換する役割を担っています。これにより、tzdataの更新があった際に、Goのタイムゾーンデータも容易に最新の状態に保つことができます。

具体的には、update.bashスクリプトは以下の処理を行っていると推測されます(実際のスクリプトの内容による):

  1. IANAのtzdataリポジトリから最新のソースコード(テキスト形式のタイムゾーンルール)をダウンロード。
  2. zic(Zone Information Compiler)のようなツールを使用して、テキスト形式のルールをGoが読み込めるバイナリ形式のzoneinfoファイルにコンパイル。
  3. コンパイルされたファイルをlib/time/zoneinfo/ディレクトリに配置。

この自動化されたプロセスは、タイムゾーンルールの頻繁な変更に対応し、Goのtimeパッケージが常に正確な情報を提供できるようにするために不可欠です。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットは、主に以下のディレクトリに多数のバイナリファイルを追加しています。

  • lib/time/zoneinfo/以下に、世界各地のタイムゾーンに対応する個別のバイナリファイルが追加されています。
    • 例: lib/time/zoneinfo/Africa/Abidjan, lib/time/zoneinfo/America/New_York, lib/time/zoneinfo/Asia/Tokyoなど。
  • これらのファイルは、Gitの差分表示ではBin 0 -> XXX bytesと表示されており、これは新しいバイナリファイルが追加されたことを意味します。

このコミット自体はGoのソースコード(.goファイル)の変更を含んでいませんが、timeパッケージがこれらの新しく追加されたバイナリファイルを内部的に参照するように設計されているため、Goのタイムゾーン処理の挙動に大きな影響を与えます。

コアとなるコードの解説

このコミットで追加されたファイルは、Goのtimeパッケージがタイムゾーン情報を解決する際に使用する、コンパイル済みのタイムゾーンデータです。これらのバイナリファイルは、IANAのtzdataデータベースの各タイムゾーンエントリに対応しており、それぞれが特定のタイムゾーンの歴史的なUTCオフセットの変更、夏時間の開始・終了ルール、およびそのタイムゾーンの略称(例: EST, EDT, JSTなど)を含んでいます。

Goのtimeパッケージ内部では、time.LoadLocation関数などがこれらのファイルを読み込み、解析するロジックを持っています。具体的には、time.LoadLocation("Asia/Tokyo")が呼び出された場合、Goはまずlib/time/zoneinfo/Asia/Tokyoというファイルを検索し、その内容を解析してAsia/Tokyoタイムゾーンのルールをメモリにロードします。これにより、time.TimeオブジェクトがこのLocation情報を持つことで、特定の時刻がそのタイムゾーンでどのように表示されるべきか(例: 夏時間の影響を受けるか、UTCからのオフセットはいくつか)を正確に計算できるようになります。

これらのバイナリファイルは、Goのビルドプロセスの一部として最終的なGoバイナリに組み込まれるか、またはGoの標準ライブラリの一部として配布され、実行時に参照されることになります。これにより、Goアプリケーションは、実行環境のOSに依存することなく、正確なタイムゾーン処理を実行できる自己完結型のアプリケーションとして機能します。

関連リンク

参考にした情報源リンク