Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 12069] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリである html/template パッケージのドキュメントファイル src/pkg/html/template/doc.go に関連する変更です。doc.go ファイルは、Goパッケージのドキュメントを記述するための慣習的なファイルであり、通常はパッケージの目的、主要な機能、使用方法、および設計原則について説明します。

html/template パッケージは、HTML出力の生成を安全に行うためのデータ駆動型テンプレートを実装しています。特に、クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃などのセキュリティ脆弱性を防ぐために、信頼できないデータを自動的にエスケープする機能(コンテキストアウェアエスケープ)を提供します。このパッケージのドキュメントは、そのセキュリティ特性と設計思想を説明する上で非常に重要です。

コミット

このコミットは、html/template パッケージのドキュメントにおける軽微な変更であり、HTMLのタイポグラフィ(活字表現)を改善することを目的としています。具体的には、ドキュメント内で説明されている主要な「プロパティ」のタイトルにコロンを追加することで、視覚的な区切りを明確にし、読みやすさを向上させています。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/bcb7a8533422f013c48a362e46dab89bb05878fa

元コミット内容

commit bcb7a8533422f013c48a362e46dab89bb05878fa
Author: David Symonds <dsymonds@golang.org>
Date:   Mon Feb 20 11:43:34 2012 +1100

    html/template: minor tweak to docs to improve HTML typography.
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5684046

変更の背景

この変更の背景は、html/template パッケージのドキュメントの可読性と視覚的な整理を向上させることにあります。ドキュメントは、ソフトウェアの利用者がその機能と設計を理解するための重要なリソースです。特に、html/template のようにセキュリティに深く関わるパッケージの場合、その設計原則や保証するプロパティが明確に、かつ読みやすく記述されていることが極めて重要です。

このコミットでは、ドキュメント内で言及されている「Structure Preservation Property」、「Code Effect Property」、「Least Surprise Property」といった重要な概念のタイトルにコロンを追加しています。これにより、これらのプロパティが単なる見出しではなく、その後に続く説明への導入であることを視覚的に示し、ドキュメント全体のタイポグラフィと構造を改善しています。これは機能的な変更ではなく、純粋にドキュメントの品質向上を目的としたものです。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、Go言語の html/template パッケージの基本的な役割と、ウェブアプリケーションにおけるセキュリティ、特にクロスサイトスクリプティング(XSS)の概念を理解しておく必要があります。

Go言語の html/template パッケージ

html/template パッケージは、Go言語でウェブアプリケーションを開発する際に、HTMLコンテンツを動的に生成するためのテンプレートエンジンです。このパッケージの最大の特徴は、**コンテキストアウェアエスケープ(Context-aware Escaping)**というセキュリティ機能を提供している点です。

従来のテンプレートエンジンでは、ユーザーからの入力などの信頼できないデータをHTMLに出力する際に、開発者が手動でエスケープ処理を行う必要がありました。しかし、手動でのエスケープはミスが発生しやすく、XSS脆弱性の原因となることが多々ありました。

html/template は、出力されるデータのコンテキスト(HTML要素の属性値、JavaScriptコード内、CSSスタイル内など)を自動的に判断し、そのコンテキストに最適なエスケープ処理を適用します。これにより、開発者が明示的にエスケープ処理を記述しなくても、XSS攻撃からアプリケーションを保護することができます。

クロスサイトスクリプティング(XSS)

XSSは、ウェブアプリケーションの脆弱性の一種で、攻撃者が悪意のあるスクリプト(通常はJavaScript)をウェブページに注入し、そのスクリプトが他のユーザーのブラウザで実行されることを可能にします。これにより、セッションハイジャック、データの盗難、ウェブサイトの改ざんなど、様々な攻撃が行われる可能性があります。

html/template パッケージは、このXSS攻撃を防ぐことを主な目的の一つとして設計されています。

html/template が保証する主要なプロパティ

ドキュメントで言及されている以下の3つのプロパティは、html/template パッケージが提供するセキュリティ保証の核心をなすものです。

  1. Structure Preservation Property (構造保存プロパティ): 「テンプレート作成者が安全なテンプレート言語でHTMLタグを記述した場合、信頼できないデータの値に関わらず、ブラウザは出力の対応する部分をタグとして解釈する。同様に、属性の境界やJS、CSSの文字列の境界などの他の構造についても同様である。」 これは、テンプレートの構造が、信頼できないデータによって破壊されることがないことを保証します。例えば、ユーザー入力に " が含まれていても、それがHTML属性の終了として解釈され、属性の境界を越えて悪意のあるコードが注入されることを防ぎます。

  2. Code Effect Property (コード効果プロパティ): 「テンプレート出力をページに注入した結果として、テンプレート作成者によって指定されたコードのみが実行され、テンプレート作成者によって指定されたすべてのコードが実行される。」 これは、テンプレート作成者が意図したJavaScriptやCSSコードのみが実行され、信頼できないデータによって予期せぬコードが実行されることがないことを保証します。また、テンプレート作成者が意図したコードは確実に実行されることも保証します。

  3. Least Surprise Property (最小驚きプロパティ): 「HTML、CSS、JavaScriptに精通している開発者(またはコードレビュー担当者)が、コンテキストアウェアエスケープが行われることを知っていれば、{{.}} を見て、どのようなサニタイズが行われるかを正しく推測できるはずである。」 これは、html/template のエスケープ動作が直感的であり、開発者がその挙動を容易に予測できるべきであるという設計原則を示しています。これにより、開発者はセキュリティ上の懸念を抱くことなく、テンプレートを記述できます。

これらのプロパティは、html/template がどのようにしてXSS攻撃を防ぎ、安全なウェブアプリケーション開発を支援するかを明確に示しています。

技術的詳細

html/template パッケージの技術的な詳細を掘り下げると、そのコンテキストアウェアエスケープの仕組みが重要になります。

コンテキストアウェアエスケープの仕組み

html/template は、テンプレートをパースする際に、出力される各データがHTMLドキュメント内のどの「コンテキスト」に位置するかを分析します。コンテキストには以下のようなものがあります。

  • HTML要素のテキストコンテンツ: <p>{{.}}</p>{{.}} の部分。
  • HTML属性の値: <a href="{{.}}">{{.}} の部分。
  • JavaScriptコード内: <script>var x = "{{.}}";</script>{{.}} の部分。
  • CSSスタイル内: <style>body { color: {{.}}; }</style>{{.}} の部分。
  • URLパス: <img src="/images/{{.}}">{{.}} の部分。

テンプレートエンジンは、これらのコンテキストに基づいて、信頼できないデータに対して適切なエスケープ関数を自動的に適用します。例えば、HTML属性の値として出力されるデータには &, <, >, ", ' などの文字がHTMLエンティティに変換されます。JavaScriptコード内では、文字列リテラルとして安全に埋め込まれるように、特殊文字がUnicodeエスケープシーケンスに変換されます。

この自動的なコンテキスト判断とエスケープ処理により、開発者は手動でのエスケープ漏れによるXSS脆弱性を心配する必要がなくなります。これが「Structure Preservation Property」と「Code Effect Property」を保証する基盤となります。

最小驚きプロパティの重要性

「Least Surprise Property」は、単なる利便性だけでなく、セキュリティの観点からも非常に重要です。もしエスケープの挙動が予測不可能であれば、開発者はテンプレートのセキュリティを完全に信頼することができません。開発者が {{.}} の挙動を直感的に理解できることで、セキュリティレビューが容易になり、誤った仮定に基づく脆弱性の導入を防ぐことができます。

このプロパティは、html/template が提供するセキュリティが「ブラックボックス」ではなく、開発者にとって透明性があり、理解しやすいものであることを目指していることを示しています。

doc.go ファイルの役割

src/pkg/html/template/doc.go ファイルは、Goのパッケージドキュメンテーションの慣習に従い、パッケージ全体の概要、設計思想、および重要な概念を説明するために使用されます。このファイルに記述された内容は、go doc html/template コマンドや pkg.go.dev のようなオンラインドキュメンテーションサイトで表示されます。

このコミットで行われたようなタイポグラフィの改善は、ドキュメントの品質を直接的に向上させ、結果としてパッケージの理解を深め、安全な利用を促進します。

コアとなるコードの変更箇所

diff --git a/src/pkg/html/template/doc.go b/src/pkg/html/template/doc.go
index 23611bcfc5..7f60f3b968 100644
--- a/src/pkg/html/template/doc.go
+++ b/src/pkg/html/template/doc.go
@@ -172,18 +172,18 @@ This package assumes that template authors are trusted, that Execute\'s data
 parameter is not, and seeks to preserve the properties below in the face
 of untrusted data:
 
-Structure Preservation Property
+Structure Preservation Property:
 "... when a template author writes an HTML tag in a safe templating language,
 the browser will interpret the corresponding portion of the output as a tag
 regardless of the values of untrusted data, and similarly for other structures
 such as attribute boundaries and JS and CSS string boundaries."
 
-Code Effect Property
+Code Effect Property:
 "... only code specified by the template author should run as a result of
 injecting the template output into a page and all code specified by the
 template author should run as a result of the same."
 
-Least Surprise Property
+Least Surprise Property:
 "A developer (or code reviewer) familiar with HTML, CSS, and JavaScript, who
 knows that contextual autoescaping happens should be able to look at a {{.}}\n and correctly infer what sanitization happens."

コアとなるコードの解説

このコミットにおける「コアとなるコードの変更箇所」は、src/pkg/html/template/doc.go ファイル内のドキュメンテーションコメントです。具体的な変更は以下の3行にわたります。

  1. -Structure Preservation Property+Structure Preservation Property: に変更。
  2. -Code Effect Property+Code Effect Property: に変更。
  3. -Least Surprise Property+Least Surprise Property: に変更。

これらの変更は、各プロパティのタイトル行の末尾にコロン(:)を追加するものです。これは、Goのドキュメンテーションスタイルや一般的なタイポグラフィの慣習に沿って、見出しとそれに続く説明文との間の視覚的な区切りを明確にするためのものです。

この変更は、パッケージの機能や動作に一切影響を与えません。純粋にドキュメントのフォーマットと読みやすさを改善するための、非常に軽微な修正です。しかし、このような小さな改善も、大規模なプロジェクトにおけるドキュメントの品質維持には重要であり、開発者が情報をより効率的に吸収するのに役立ちます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • コミット情報: /home/orange/Project/comemo/commit_data/12069.txt
  • GitHub: https://github.com/golang/go/commit/bcb7a8533422f013c48a362e46dab89bb05878fa
  • Go html/template パッケージの公式ドキュメント (pkg.go.dev)
  • Go言語のドキュメンテーションに関する一般的な情報 (Go Wiki)
  • クロスサイトスクリプティングに関する一般的な情報 (IPAなど)