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[インデックス 12175] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリ encoding/binary パッケージにおける、不要なダミー型 (unused byte) の削除と、それに伴う littleEndian および bigEndian 型の定義変更に関するものです。具体的には、これらのバイトオーダー実装型が、以前は byte を基底とするダミー型を介して定義されていたものを、よりGo言語のイディオムに沿ったゼロサイズ型である struct{} を直接使用するように変更しています。

コミット

commit 83b5f067e88589b4eb5794df5f3ba28b72bce6f1
Author: Stefan Nilsson <snilsson@nada.kth.se>
Date:   Thu Feb 23 15:29:17 2012 -0500

    binary: remove unnecessary dummy type.
    
    R=rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5698052

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/83b5f067e88589b4eb5794df5f3ba28b72bce6f1

元コミット内容

binary: remove unnecessary dummy type.

R=rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5698052

変更の背景

この変更の背景には、Go言語における型の設計とメモリ効率に関する考慮があります。encoding/binary パッケージでは、バイトオーダー(リトルエンディアン、ビッグエンディアン)を表現するために ByteOrder インターフェースが定義されており、その具体的な実装として littleEndianbigEndian という型が存在します。

コミット前のコードでは、これらの型は unused byte というダミー型を基底としていました。コメントには「This is byte instead of struct{} so that it can be compared, allowing, e.g., order == binary.LittleEndian.」とあり、これは struct{} が比較可能ではなかった、あるいは比較可能性を保証するために byte を使用していたことを示唆しています。しかし、Go言語の進化と共に、struct{} 型は比較可能であり、かつメモリを消費しないゼロサイズ型であることが明確になりました。

したがって、byte を基底とするダミー型は不要となり、よりメモリ効率が良く、Goのイディオムに沿った struct{} を直接使用する形に修正されました。これにより、コードの簡潔性と効率性が向上します。

前提知識の解説

  1. encoding/binary パッケージ: Go言語の標準ライブラリの一つで、数値データをバイト列に変換したり、バイト列から数値データに変換したりするための機能を提供します。ネットワーク通信やファイルI/Oなどで、異なるシステム間でデータをやり取りする際に、バイトオーダー(エンディアン)の違いを吸収するために使用されます。

  2. バイトオーダー (Byte Order / Endianness): マルチバイトのデータをメモリに格納する際のバイトの並び順を指します。

    • リトルエンディアン (Little-Endian): 最下位バイト(Least Significant Byte, LSB)が最も小さいアドレスに格納されます。Intel x86アーキテクチャなどで採用されています。
    • ビッグエンディアン (Big-Endian): 最上位バイト(Most Significant Byte, MSB)が最も小さいアドレスに格納されます。ネットワークバイトオーダーとして広く使われています。 encoding/binary パッケージでは、ByteOrder インターフェースを介してこれらのバイトオーダーを抽象化し、LittleEndianBigEndian というグローバル変数でそれぞれの実装を提供しています。
  3. ゼロサイズ型 (struct{}): Go言語における struct{} は、フィールドを一切持たない構造体です。この型のインスタンスは、メモリを一切消費しません(サイズが0バイト)。これは、Goのコンパイラが最適化を行い、このような型のインスタンスにメモリを割り当てないためです。主に、以下のような用途で利用されます。

    • セット (Set) の実装: map[T]struct{} のように、値が不要なマップのキーとして使用し、メモリ効率の良いセットを実現します。
    • シグナルやイベント: チャネルを通じてシグナルを送る際に、chan struct{} を使用して、データの送信ではなくイベントの発生のみを通知します。
    • ダミー型: 今回のケースのように、型の識別子としてのみ機能し、データを持たない場合に利用されます。
  4. 型の比較可能性: Go言語では、特定の型の値は比較可能です。プリミティブ型(整数、浮動小数点数、文字列、ブール値)は比較可能です。構造体は、そのすべてのフィールドが比較可能であれば比較可能です。struct{} はフィールドを持たないため、常に比較可能です。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Go言語の型システムとメモリ管理の理解に基づいています。

コミット前のコードでは、littleEndianbigEndian という型が、type littleEndian unused のように unused byte を基底として定義されていました。ここで unusedtype unused byte と定義されており、実質的には byte 型のエイリアスのようなものです。この設計の意図は、ByteOrder インターフェースの実装である LittleEndianBigEndian といった変数を、例えば order == binary.LittleEndian のように比較可能にするためでした。

Go言語の初期のバージョンでは、struct{} 型のインスタンスが比較可能であるという保証が明確でなかったか、あるいは特定のコンテキストで比較が期待通りに機能しない可能性があったのかもしれません。そのため、比較可能性を確実に保証するために、比較可能なプリミティブ型である byte をダミーとして使用するというアプローチが取られていたと考えられます。

しかし、Go言語のコンパイラとランタイムの成熟に伴い、struct{} 型が常に比較可能であり、かつそのインスタンスがメモリを消費しない(ゼロサイズである)という特性が確立されました。この特性は、データを持たないが型として存在する必要がある場合に非常に効率的です。

この変更により、unused byte という中間的なダミー型が完全に削除され、littleEndianbigEndian は直接 struct{} を基底とするようになりました。 type littleEndian struct{} type bigEndian struct{} これにより、以下の利点が得られます。

  • メモリ効率の向上: struct{} はメモリを消費しないため、LittleEndianBigEndian といった変数がメモリ上に存在しても、実質的なオーバーヘッドはゼロになります。byte を使用していた場合は、1バイトのメモリを消費していました。
  • コードの簡潔性: 不要な unused 型の定義が削除され、コードベースがよりシンプルになりました。
  • Goのイディオムへの準拠: データを持たない型を表現する際に struct{} を使用することは、Go言語における一般的なイディオムであり、コードの意図がより明確になります。

この変更は、Go言語の設計思想である「シンプルさ」と「効率性」を追求した結果と言えます。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/encoding/binary/binary.go ファイルに集中しています。

--- a/src/pkg/encoding/binary/binary.go
+++ b/src/pkg/encoding/binary/binary.go
@@ -29,17 +29,13 @@ type ByteOrder interface {
 	String() string
 }
 
-// This is byte instead of struct{} so that it can be compared,
-// allowing, e.g., order == binary.LittleEndian.
-type unused byte
-
 // LittleEndian is the little-endian implementation of ByteOrder.
 var LittleEndian littleEndian
 
 // BigEndian is the big-endian implementation of ByteOrder.
 var BigEndian bigEndian
 
-type littleEndian unused
+type littleEndian struct{}
 
 func (littleEndian) Uint16(b []byte) uint16 { return uint16(b[0]) | uint16(b[1])<<8 }
 
@@ -79,7 +75,7 @@ func (littleEndian) String() string { return "LittleEndian" }
 
 func (littleEndian) GoString() string { return "binary.LittleEndian" }
 
-type bigEndian unused
+type bigEndian struct{}
 
 func (bigEndian) Uint16(b []byte) uint16 { return uint16(b[1]) | uint16(b[0])<<8 }
 

コアとなるコードの解説

このdiffは以下の3つの主要な変更点を示しています。

  1. type unused byte の削除:

    -// This is byte instead of struct{} so that it can be compared,
    -// allowing, e.g., order == binary.LittleEndian.
    -type unused byte
    

    以前は littleEndianbigEndian の基底型として使用されていた unused byte 型が完全に削除されました。これに伴い、その型定義と、なぜ byte が使われていたのかを説明するコメントも削除されています。これは、struct{} が比較可能になったため、このダミー型が不要になったことを意味します。

  2. type littleEndian unused から type littleEndian struct{} への変更:

    -type littleEndian unused
    +type littleEndian struct{}
    

    littleEndian 型の定義が変更されました。以前は unused 型(実質的には byte 型)を基底としていましたが、この変更により、直接 struct{} を基底とするようになりました。これにより、littleEndian 型のインスタンスはメモリを消費しないゼロサイズ型となります。

  3. type bigEndian unused から type bigEndian struct{} への変更:

    -type bigEndian unused
    +type bigEndian struct{}
    

    bigEndian 型についても同様の変更が適用されました。これも struct{} を基底とすることで、メモリ効率が向上し、Goのイディオムに沿った形になります。

これらの変更は、encoding/binary パッケージの外部インターフェースや動作には影響を与えません。LittleEndianBigEndian というグローバル変数は引き続き ByteOrder インターフェースを満たし、これまで通り機能します。変更は内部的な実装の詳細に過ぎず、より効率的でクリーンなコードベースを実現するためのものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の struct{} とゼロサイズ型に関する議論やドキュメント(一般的なGoのイディオムとして)
  • Go言語の型システムと比較可能性に関する公式ドキュメントや仕様
  • Go言語のコミット履歴と関連するコードレビューのコメント