[インデックス 12178] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の公式ドキュメント生成ツールであるgodoc
の出力テンプレートファイルであるlib/godoc/package.html
に対する変更です。具体的には、生成されるHTMLドキュメントにおける定数、変数、関数、型、メソッドの宣言とそのドキュメントコメントの表示順序とフォーマットを調整し、一貫性を持たせることを目的としています。
コミット
commit c1139549bc51ebb429f5322699c267f440b3f82b
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date: Thu Feb 23 12:44:11 2012 -0800
godoc: consistent placement of documentation sections
Fixes #1226.
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5694052
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/c1139549bc51ebb429f5322699c267f440b3f82b
元コミット内容
このコミットは、godoc
ツールが生成するHTMLドキュメントの表示に関するものです。主な変更点は以下の通りです。
-
ドキュメントコメントの配置変更:
- 定数 (
.Consts
) と変数 (.Vars
) のセクションにおいて、宣言 (<pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
) の前に配置されていたドキュメントコメント ({{comment_html .Doc}}
) を、宣言の後に移動しました。 - 型 (
.Types
) のセクションにおいても、型の宣言 (<pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
) の前に配置されていたドキュメントコメント ({{comment_html .Doc}}
) を、宣言の後に移動しました。また、型に紐づく定数や変数のドキュメントコメントも同様に宣言の後に移動されました。
- 定数 (
-
関数・メソッド宣言のフォーマット変更:
- パッケージレベルの関数 (
.Funcs
) および型に紐づくメソッド (.Methods
) の宣言の表示において、これまでは<p><code>{{node_html .Decl $.FSet}}</code></p>
という形式で表示されていましたが、これを<pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
に変更しました。これにより、宣言が整形済みテキストとして表示されるようになります。
- パッケージレベルの関数 (
これらの変更により、godoc
が生成するドキュメントの視覚的な一貫性が向上し、コードの宣言とそれに対応するドキュメントコメントの関連性がより明確になります。
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語のドキュメンテーションツールgodoc
の出力における表示の一貫性の問題がありました。具体的には、Issue #1226で報告されたように、定数、変数、関数、型、メソッドといった異なる要素のドキュメントコメントとコード宣言の表示順序が統一されておらず、ユーザーがドキュメントを読む際に混乱を招く可能性がありました。
godoc
は、Goのソースコードから直接ドキュメントを生成するツールであり、その出力はGo言語の公式ドキュメントサイト(pkg.go.devなど)でも利用されています。そのため、生成されるドキュメントの品質と一貫性は非常に重要です。
このコミットは、以下の点を改善することを目的としています。
- 視覚的な一貫性: ドキュメントコメントとコード宣言の表示順序を統一することで、ユーザーがどの要素のドキュメントを読んでいるのかを直感的に理解しやすくします。
- 可読性の向上: 宣言の直後にその説明が続くことで、情報の流れが自然になり、ドキュメント全体の可読性が向上します。
- フォーマットの統一: 関数やメソッドの宣言を
<pre>
タグで囲むことで、コードスニペットとしての整形が保証され、他のコードブロックとの視覚的な統一感が生まれます。
これらの改善は、Go言語のドキュメントの品質を高め、開発者がより効率的に情報を参照できるようにするために不可欠でした。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下の技術的な概念について知っておく必要があります。
-
Go言語の
godoc
ツール:godoc
は、Go言語のソースコードからドキュメントを生成するためのツールです。Goのソースコードに記述されたコメント(特に、宣言の直前に記述されたコメント)を解析し、HTML形式などで整形されたドキュメントを生成します。- Go言語では、エクスポートされた(大文字で始まる)パッケージ、関数、変数、定数、型の宣言の直前に記述されたコメントが、その要素のドキュメントとして扱われます。
godoc
は、これらのコメントとコードの構造を組み合わせて、開発者が読みやすい形式でAPIドキュメントを提供します。
-
Go言語の
text/template
パッケージ:godoc
は、HTMLドキュメントの生成にGoの標準ライブラリであるtext/template
パッケージ(またはそのHTML版であるhtml/template
)を使用しています。- テンプレートファイル(例:
package.html
)は、プレースホルダー({{...}}
)と制御構造({{if ...}}
,{{range ...}}
,{{with ...}}
)を含むテキストファイルです。 - データがテンプレートに渡されると、プレースホルダーが実際の値に置き換えられ、制御構造に基づいてコンテンツが生成されます。
- このコミットで登場する
{{with .Consts}}
、{{range .}}
、{{comment_html .Doc}}
、{{node_html .Decl $.FSet}}
などは、テンプレート構文の一部です。.Consts
,.Vars
,.Funcs
,.Types
,.Methods
: これらは、Goのパッケージ構造を表現するデータ構造(おそらくgodoc
内部のPackage
型など)のフィールドであり、それぞれパッケージ内の定数、変数、関数、型、メソッドのリストを表します。{{range .}}
: リストの各要素を反復処理します。{{comment_html .Doc}}
: 現在の要素のドキュメントコメントをHTMLとして整形して出力するテンプレート関数です。.Doc
はドキュメントコメントのテキストデータです。{{node_html .Decl $.FSet}}
: 現在の要素の宣言(例:const Foo = 1
,func Bar() {}
,type MyType struct{}
)をHTMLとして整形して出力するテンプレート関数です。.Decl
はGoのAST(抽象構文木)における宣言ノード、$.FSet
はファイルセット(ソースコードの位置情報)を表します。
-
HTMLの
<p>
タグと<pre>
タグ:<p>
(Paragraph) タグ: 段落を表すために使用されます。通常、ブラウザは段落の前後に追加のスペース(マージン)を挿入します。テキストは通常、ブラウザのデフォルトのフォントとサイズで表示され、改行は無視され、スペースは結合されます(ホワイトスペースの折りたたみ)。<pre>
(Preformatted Text) タグ: 整形済みテキストを表すために使用されます。このタグ内のテキストは、通常、等幅フォントで表示され、ソースコード内で記述された改行やスペースがそのまま保持されます。つまり、ホワイトスペースの折りたたみが適用されません。コードスニペットやアスキーアートなど、テキストのレイアウトが重要な場合によく使用されます。
これらの知識を前提として、コミットの変更内容がgodoc
の出力にどのような影響を与えるかを理解することができます。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、godoc
がGoのソースコードからドキュメントを生成する際のHTMLテンプレートの構造と、その中で使用されるGoテンプレートの機能に集約されます。
変更が行われたファイルはlib/godoc/package.html
です。これは、godoc
が個々のGoパッケージのドキュメントページを生成する際に使用するHTMLテンプレートです。
変更の具体的な内容と影響
-
ドキュメントコメントの配置変更:
- 変更前:
{{with .Consts}} <h2 id="constants">Constants</h2> {{range .}} {{comment_html .Doc}} <-- ドキュメントコメントが宣言の前にあった <pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre> {{end}} {{end}}
- 変更後:
{{with .Consts}} <h2 id="constants">Constants</h2> {{range .}} <pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre> {{comment_html .Doc}} <-- ドキュメントコメントが宣言の後に移動 {{end}} {{end}}
- この変更は、定数、変数、および型に紐づく定数・変数に対して適用されました。
- 影響: 生成されるHTMLドキュメントでは、まずコードの宣言(例:
const MyConst = 10
)が表示され、その直後にその宣言に対応するドキュメントコメント(例:// MyConst は...
)が表示されるようになります。これにより、読者はまずコードの構造を把握し、その後に詳細な説明を読むという自然な流れで情報を得ることができます。これは、Goのソースコードにおけるコメントの慣習(宣言の直前にコメントを記述する)とは逆の表示順序になりますが、HTMLドキュメントとしての可読性を優先した変更と言えます。
- 変更前:
-
関数・メソッド宣言のフォーマット変更:
- 変更前:
<p><code>{{node_html .Decl $.FSet}}</code></p>
- 変更後:
<pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
- この変更は、パッケージレベルの関数と型に紐づくメソッドの宣言に対して適用されました。
- 影響: 以前は
<p>
タグ内に<code>
タグで囲まれて表示されていた関数やメソッドの宣言が、直接<pre>
タグで囲まれて表示されるようになりました。<p>
タグは段落を意味し、ブラウザは通常、その内容を通常のテキストフローとして扱います。<code>
タグはコードスニペットであることを示しますが、<p>
タグの特性上、改行や複数のスペースが保持されない可能性があります。<pre>
タグは整形済みテキストを意味し、その内部のホワイトスペース(スペース、タブ、改行)がそのまま保持されます。これにより、関数やメソッドのシグネチャが、ソースコードで記述された通りの整形された形で表示されることが保証されます。例えば、引数が複数行にわたる場合や、特定のインデントが重要な場合に、そのレイアウトが崩れることなく表示されます。- この変更は、特に複雑な関数シグネチャや、Goのフォーマットツール
gofmt
によって整形されたコードの見た目を、ドキュメント上でも忠実に再現するために重要です。
- 変更前:
Goテンプレートのコンテキスト
Goテンプレートでは、.
(ドット)は現在のコンテキスト(データ)を指します。
{{with .Consts}}
や{{with .Vars}}
は、もしPackage
構造体にConsts
やVars
フィールドが存在し、かつそれが空でなければ、そのフィールドの値を新しいコンテキストとしてブロックを実行します。{{range .}}
は、現在のコンテキストがスライスや配列の場合、その各要素を反復処理し、各要素を新しいコンテキストとしてブロックを実行します。{{comment_html .Doc}}
や{{node_html .Decl $.FSet}}
は、godoc
が提供するカスタムテンプレート関数です。これらは、GoのAST(抽象構文木)から抽出されたドキュメントコメントや宣言の情報を、HTMLとして適切にエスケープし、整形して出力する役割を担っています。$.FSet
の$
は、テンプレートのルートコンテキスト(この場合はPackage
構造体全体)を指し、FSet
はその中のファイルセット情報へのアクセスを提供します。
このコミットは、Goのドキュメンテーションの品質とユーザーエクスペリエンスを向上させるための、細かではあるが重要な改善です。
コアとなるコードの変更箇所
変更はlib/godoc/package.html
ファイルに集中しています。
--- a/lib/godoc/package.html
+++ b/lib/godoc/package.html
@@ -76,22 +76,22 @@
{{with .Consts}}
<h2 id="constants">Constants</h2>
{{range .}}
- {{comment_html .Doc}}
<pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
+ {{comment_html .Doc}}
{{end}}
{{end}}
{{with .Vars}}
<h2 id="variables">Variables</h2>
{{range .}}
- {{comment_html .Doc}}
<pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
+ {{comment_html .Doc}}
{{end}}
{{end}}
{{range .Funcs}}
{{/* Name is a string - no need for FSet */}}
{{$name_html := html .Name}}
<h2 id="{{$name_html}}">func <a href="/{{posLink_url .Decl $.FSet}}">{{$name_html}}</a></h2>
- <p><code>{{node_html .Decl $.FSet}}</code></p>
+ <pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
{{comment_html .Doc}}
{{example_html .Name $.Examples $.FSet}}
{{end}}
@@ -99,28 +99,33 @@
{{with .Types}}
{{$tname := .Name}}
{{$tname_html := html .Name}}
<h2 id="{{$tname_html}}">type <a href="/{{posLink_url .Decl $.FSet}}">{{$tname_html}}</a></h2>
- {{comment_html .Doc}}
<pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
+ {{comment_html .Doc}}
+
{{range .Consts}}
- {{comment_html .Doc}}
<pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
+ {{comment_html .Doc}}
{{end}}
+
{{range .Vars}}
- {{comment_html .Doc}}
<pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
+ {{comment_html .Doc}}
{{end}}
+
{{example_html $tname $.Examples $.FSet}}\
+
{{range .Funcs}}
{{$name_html := html .Name}}
<h3 id="{{$name_html}}">func <a href="/{{posLink_url .Decl $.FSet}}">{{$name_html}}</a></h3>
- <p><code>{{node_html .Decl $.FSet}}</code></p>
+ <pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
{{comment_html .Doc}}
{{example_html .Name $.Examples $.FSet}}
{{end}}
+
{{range .Methods}}
{{$name_html := html .Name}}
<h3 id="{{$tname_html}}.{{$name_html}}">func ({{html .Recv}}) <a href="/{{posLink_url .Decl $.FSet}}">{{$name_html}}</a></h3>
- <p><code>{{node_html .Decl $.FSet}}</code></p>
+ <pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
{{comment_html .Doc}}
{{$name := printf "%s_%s" $tname .Name}}
{{example_html $name $.Examples $.FSet}}
コアとなるコードの解説
このコミットのコアとなる変更は、lib/godoc/package.html
テンプレート内のGoテンプレート構文の修正です。
-
ドキュメントコメントの移動:
{{with .Consts}}
(定数セクション) と{{with .Vars}}
(変数セクション) の内部で、{{comment_html .Doc}}
の行が{{node_html .Decl $.FSet}}
の行の下に移動されました。- 同様に、
{{with .Types}}
(型セクション) の内部、および型に紐づく定数 ({{range .Consts}}
) と変数 ({{range .Vars}}
) の内部でも、{{comment_html .Doc}}
が{{node_html .Decl $.FSet}}
の行の下に移動されました。 - これにより、生成されるHTMLでは、まずコードの宣言(例:
const MyConstant = 42
)が表示され、その直後にその宣言に対するドキュメントコメントが表示されるようになります。これは、ドキュメントの読者がコードの構造を先に把握し、その後に詳細な説明を読むという流れを促進します。
-
関数・メソッド宣言のフォーマット変更:
{{range .Funcs}}
(パッケージレベル関数セクション) と{{range .Methods}}
(メソッドセクション) の内部で、関数/メソッドの宣言を表示していた行が変更されました。- 変更前:
<p><code>{{node_html .Decl $.FSet}}</code></p>
- 変更後:
<pre>{{node_html .Decl $.FSet}}</pre>
- この変更により、関数やメソッドのシグネチャがHTMLの
<pre>
タグで囲まれて出力されるようになります。<pre>
タグは整形済みテキストを表示するためのものであり、内部のホワイトスペース(スペース、タブ、改行)がそのまま保持されます。これにより、Goのgofmt
ツールによって整形されたコードのレイアウトが、ドキュメント上でも忠実に再現され、可読性が向上します。特に、引数が複数行にわたるような長いシグネチャの場合に、その整形が崩れることなく表示されることが保証されます。
これらの変更は、godoc
が生成するドキュメントの視覚的な一貫性と可読性を高めるための重要な改善であり、Go言語のドキュメンテーションの品質向上に貢献しています。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://go.dev/doc/
godoc
コマンドのドキュメント: https://pkg.go.dev/cmd/godoc- Go言語の
text/template
パッケージ: https://pkg.go.dev/text/template - Go言語の
html/template
パッケージ: https://pkg.go.dev/html/template - GitHub Issue #1226: godoc: consistent placement of documentation sections (このコミットが修正したIssue) - https://github.com/golang/go/issues/1226
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式リポジトリ (GitHub): https://github.com/golang/go
- Go Code Review Comments: https://go.dev/doc/effective_go#commentary (Goにおけるコメントの慣習について)
- HTML
<pre>
タグと<p>
タグの違いに関する一般的なWebドキュメント (例: MDN Web Docs) - Go言語のテンプレートに関するチュートリアルやブログ記事 (一般的なGoテンプレートの利用方法について)
- Go言語のAST (Abstract Syntax Tree) に関する情報 (Goのコードがどのように解析され、
node_html
のような関数で利用されるかについて)