Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 12182] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストスイート内の複数のテストファイル(test/[n-z]*.go)にドキュメンテーションを追加することを目的としています。具体的には、各テストファイルの冒頭に、そのテストの目的、期待される動作(コンパイルされるか、実行されるか、エラーを発生させるかなど)、および関連するGoのIssue番号などの説明コメントが追加されています。これにより、テストコードの可読性と理解度が向上し、将来的なメンテナンスやデバッグが容易になります。また、一部の不要なテストファイル(test/switch1.gotest/test0.go)が削除されています。

コミット

commit 80a9783f842ff5d14fd5e2e5d5a129635a081031
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date:   Fri Feb 24 11:48:19 2012 +1100

    test/[n-z]*.go: add documentation
    
    R=golang-dev, bradfitz, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5700056

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/80a9783f842ff5d14fd5e2e5d5a129635a081031

元コミット内容

test/[n-z]*.go: add documentation

R=golang-dev, bradfitz, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5700056

変更の背景

Go言語のテストスイートは、言語の進化とともに拡大し、多くのテストファイルが含まれています。これらのテストファイルは、言語仕様の特定の側面、コンパイラの挙動、ランタイムの機能などを検証するために作成されます。しかし、時間の経過とともに、個々のテストファイルの目的や意図が不明瞭になることがあります。特に、コンパイルエラーを意図的に引き起こすテストや、特定の条件下でのみ実行されるテストなど、通常のテストとは異なる挙動を示すものについては、その意図を明確にするドキュメンテーションが不可欠です。

このコミットの背景には、Goのテストコードの可読性と保守性を向上させるという目的があります。テストコードは、単に機能が正しく動作するかを確認するだけでなく、言語の「仕様書」としての役割も果たします。そのため、テストが何を検証しているのか、なぜそのように書かれているのかを明確にすることは、開発者コミュニティ全体にとって非常に重要です。

また、test/switch1.gotest/test0.go のようなファイルが削除されていることから、これらのファイルがもはや必要ないか、あるいはより適切な形で他のテストに統合された可能性が考えられます。これは、テストスイート全体の整理と効率化の一環とも言えます。

前提知識の解説

Go言語のテストスイート (test ディレクトリ)

Go言語のソースコードリポジトリには、test という特別なディレクトリが存在します。このディレクトリには、Goコンパイラ、ランタイム、および標準ライブラリの様々な側面を検証するための多数のテストファイルが含まれています。これらのテストは、Go言語の仕様が正しく実装されていることを保証し、将来の変更が既存の機能に悪影響を与えないことを確認するために非常に重要です。

test ディレクトリ内のファイルは、通常のGoプログラムとは異なり、特定の命名規則や実行方法を持つことがあります。例えば、ファイル名が _test.go で終わらないテストファイルは、go test コマンドでは直接実行されず、Goのビルドシステムやテストインフラによって特殊な方法で扱われることがあります。また、コンパイルエラーを期待するテストや、特定の環境でのみ実行されるテストなど、様々な種類のテストが存在します。

テストコードにおけるドキュメンテーションの重要性

ソフトウェア開発において、テストコードは単にプログラムの正しさを検証するだけでなく、そのプログラムの「使い方」や「期待される挙動」を示すドキュメンテーションとしての役割も果たします。特に、Go言語のようなオープンソースプロジェクトでは、多くの開発者がコードベースに貢献し、理解する必要があります。

テストコードに適切なドキュメンテーション(コメント)を追加することは、以下の点で重要です。

  • 意図の明確化: テストが何を検証しようとしているのか、なぜそのテストケースが必要なのかを明確にします。
  • デバッグの容易化: テストが失敗した場合、コメントがあれば問題の原因を特定しやすくなります。
  • 保守性の向上: 将来的にテストコードを修正したり、新しい機能を追加したりする際に、既存のテストの意図を理解するのに役立ちます。
  • 学習リソース: 新しい開発者がプロジェクトに参加した際に、テストコードとそのコメントがGo言語の特定の機能や挙動を理解するための貴重な学習リソースとなります。
  • 特殊なテストの識別: 「コンパイルしない」「実行しない」といった特殊なテストの性質を明示することで、誤解を防ぎ、テストインフラが適切に処理できるようにします。

GoのIssueトラッカーとGerrit

Goプロジェクトでは、バグ報告や機能提案、設計に関する議論のためにIssueトラッカー(golang.org/issue)が使用されます。各Issueには一意の番号が割り当てられ、関連するコミットメッセージで参照されることがあります。

また、GoプロジェクトはコードレビューにGerritを使用しています。Gerritは、Gitリポジトリに対する変更(チェンジリスト、CL)をレビューするためのウェブベースのツールです。コミットメッセージに含まれる https://golang.org/cl/XXXXXXX のようなリンクは、Gerrit上の特定のチェンジリストを指します。これにより、コミットに至るまでの議論やレビューの履歴を追跡することができます。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、主にGo言語のテストファイルのコメント規約と、特定のテストの挙動を明示する方法に焦点を当てています。

テストファイルのコメント規約

Goのテストファイルには、通常、ファイルの冒頭にライセンス情報と著作権表示が含まれます。このコミットでは、その直後にテストの目的を説明するコメントが追加されています。

例: test/named1.go の変更

--- a/test/named1.go
+++ b/test/named1.go
@@ -6,6 +6,7 @@
 
 // Test that basic operations on named types are valid
 // and preserve the type.
+// Does not compile.
 
 package main

ここで注目すべきは、// Does not compile. というコメントです。これは、このテストファイルが意図的にコンパイルエラーを引き起こすように設計されていることを示しています。Goのテストスイートには、コンパイラが特定の不正なコードを正しく検出するかどうかを検証するためのテストが多数存在します。このようなテストは、通常のビルドプロセスではエラーとなるため、特別なフラグや処理によって扱われます。このコメントは、そのテストの性質を明確にし、誤って「バグ」と判断されることを防ぎます。

特定の挙動を示すコメント

いくつかのファイルでは、テストの実行に関する特別な指示がコメントとして追加されています。

  • test/sieve.go:

    --- a/test/sieve.go
    +++ b/test/sieve.go
    @@ -1,11 +1,12 @@
     // build
     
    -// don't run it - goes forever
    -
     // Copyright 2009 The Go Authors. All rights reserved.
     // Use of this source code is governed by a BSD-style
     // license that can be found in the LICENSE file.\n
    +// Test basic concurrency: the classic prime sieve.
    +// Do not run - loops forever.
    +
     package main
    

    // Do not run - loops forever. というコメントは、このテストが無限ループに陥ることを示しています。これは、並行処理の基本的な概念をテストするためのものであり、実際の実行には適さないことを明示しています。

  • test/solitaire.go:

    --- a/test/solitaire.go
    +++ b/test/solitaire.go
    @@ -1,11 +1,13 @@
     // build
     
    -// don't run it - produces too much output
    -
     // Copyright 2010 The Go Authors. All rights reserved.
     // Use of this source code is governed by a BSD-style
     // license that can be found in the LICENSE file.\n
    +// Test general operation by solving a peg solitaire game.
    +// A version of this is in the Go playground.
    +// Don't run it - produces too much output.
    +
     // This program solves the (English) peg solitaire board game.
     // See also: http://en.wikipedia.org/wiki/Peg_solitaire
    

    // Don't run it - produces too much output. というコメントは、このテストが実行時に大量の出力を生成するため、通常のテスト実行には適さないことを示しています。これは、特定のアルゴリズムの動作検証を目的としたもので、出力の検証が主ではない場合に用いられます。

関連Issueの参照

いくつかのテストファイルでは、関連するGoのIssue番号がコメントで参照されています。

  • test/shift1.gotest/shift2.go: // Issue 1708, illegal cases. および // Issue 1708, legal cases.
  • test/struct0.go: // Issue 2232.
  • test/typeswitch3.go: // Issue 2700, among other things.

これらのコメントは、特定のテストがGoのIssueトラッカーで報告されたバグや議論に関連していることを示しています。これにより、テストの背景にある問題や設計上の決定を追跡しやすくなります。

ファイルの削除

test/switch1.gotest/test0.go が削除されています。これは、これらのテストが冗長になったか、あるいはより包括的なテストに置き換えられたことを示唆しています。テストスイートの健全性を維持するためには、不要なテストを削除することも重要です。特に test/test0.go は92行ものコードが削除されており、かなり大規模なテストファイルであったことがわかります。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、主に test/ ディレクトリ内の複数のGoソースファイルにコメントが追加されています。以下に、変更されたファイルの例とその変更内容をいくつか示します。

  • test/named1.go:

    // Test that basic operations on named types are valid
    // and preserve the type.
    // Does not compile.
    

    名前付き型に関する基本的な操作のテストであり、意図的にコンパイルエラーとなることを明記。

  • test/shift1.go:

    // Test illegal shifts.
    // Issue 1708, illegal cases.
    // Does not compile.
    

    不正なシフト操作のテストで、Issue 1708に関連し、コンパイルエラーとなることを明記。

  • test/shift2.go:

    // Test legal shifts.
    // Issue 1708, legal cases.
    // Compiles but does not run.
    

    正当なシフト操作のテストで、Issue 1708に関連し、コンパイルはするが実行はしないことを明記。

  • test/sieve.go:

    // Test basic concurrency: the classic prime sieve.
    // Do not run - loops forever.
    

    基本的な並行処理(素数篩)のテストで、無限ループするため実行しないことを明記。

  • test/sigchld.go:

    // Test that a program can survive SIGCHLD.
    

    プログラムがSIGCHLDシグナルに耐えられるかのテストであることを明記。

  • test/simassign.go:

    // Test simultaneous assignment.
    

    多重代入のテストであることを明記。

  • test/sinit.go:

    // Test that many initializations can be done at link time and
    // generate no executable init functions.
    

    多数の初期化がリンク時に行われ、実行可能なinit関数を生成しないことのテストであることを明記。

  • test/sizeof.go:

    // Test unsafe.Sizeof, unsafe.Alignof, and unsafe.Offsetof all return uintptr.
    

    unsafe パッケージの関数が uintptr を返すことのテストであることを明記。

  • test/solitaire.go:

    // Test general operation by solving a peg solitaire game.
    // A version of this is in the Go playground.
    // Don't run it - produces too much output.
    

    ペグソリティアゲームを解くことで一般的な操作をテストするもので、Go Playgroundにもあるが、出力が多すぎるため実行しないことを明記。

  • test/stack.go:

    // Test stack splitting code.
    

    スタックスプリッティングコードのテストであることを明記。

  • test/string_lit.go:

    // Test string literal syntax.
    

    文字列リテラルの構文テストであることを明記。

  • test/stringrange.go:

    // Test range over strings.
    

    文字列に対する range 操作のテストであることを明記。

  • test/struct0.go:

    // Test zero length structs.
    // Used to not be evaluated.
    // Issue 2232.
    

    ゼロ長構造体のテストで、かつて評価されなかった問題(Issue 2232)に関連することを明記。

  • test/switch.go: test/switch1.go の内容が test/switch.go に統合され、test/switch.goimport "os" が追加され、main 関数内に switch ステートメントのテストケースが追加されています。

  • test/switch1.go: 削除。

  • test/switch3.go:

    // Verify that erroneous switch statements are detected by the compiler.
    // Does not compile.
    

    誤った switch ステートメントがコンパイラによって検出されることを検証するテストで、コンパイルエラーとなることを明記。

  • test/test0.go: 削除。

  • test/turing.go:

    // Test simulating a Turing machine, sort of.
    

    チューリングマシンをシミュレートするテストであることを明記。

  • test/typeswitch.go:

    // Test simple type switches, including chans, maps etc.
    

    チャネルやマップなどを含む単純な型スイッチのテストであることを明記。

  • test/typeswitch1.go:

    // Test simple type switches on basic types.
    

    基本型に対する単純な型スイッチのテストであることを明記。

  • test/typeswitch2.go:

    // Verify that various erroneous type switches are caught be the compiler.
    // Does not compile.
    

    様々な誤った型スイッチがコンパイラによって捕捉されることを検証するテストで、コンパイルエラーとなることを明記。

  • test/typeswitch3.go:

    // Verify that erroneous type switches are caught be the compiler.
    // Issue 2700, among other things.
    // Does not compile.
    

    誤った型スイッチがコンパイラによって捕捉されることを検証するテストで、Issue 2700に関連し、コンパイルエラーとなることを明記。

  • test/undef.go:

    // Test line numbers in error messages.
    // Does not compile.
    

    エラーメッセージの行番号のテストで、コンパイルエラーとなることを明記。

  • test/utf.go:

    // Test UTF-8 in strings and character constants.
    

    文字列と文字定数におけるUTF-8のテストであることを明記。

  • test/varerr.go:

    // Verify that a couple of illegal variable declarations are caught by the compiler.
    // Does not compile.
    

    いくつかの不正な変数宣言がコンパイラによって捕捉されることを検証するテストで、コンパイルエラーとなることを明記。

  • test/varinit.go:

    // Test var x = x + 1 works.
    

    var x = x + 1 が動作することのテストであることを明記。

コアとなるコードの解説

このコミットの「コアとなるコードの変更箇所」は、Goのテストファイルに直接追加されたコメントそのものです。これらのコメントは、単なる説明文以上の意味を持ちます。

テストの意図の明確化

最も重要な点は、各テストファイルの冒頭にそのテストの「意図」が明確に記述されたことです。例えば、// Does not compile.// Do not run - loops forever. といったコメントは、そのテストが通常の「成功するテスト」とは異なる目的を持っていることを一目で理解できるようにします。

  • コンパイルエラーを期待するテスト: Goコンパイラは、不正な構文や型エラーを正しく検出する必要があります。これらのテストは、コンパイラが期待通りにエラーを報告するかどうかを検証するために存在します。コメントによって、これらのテストが意図的にエラーを発生させるものであることが明確になり、開発者が誤ってバグと判断したり、テストインフラが不適切に処理したりするのを防ぎます。
  • 実行しないテスト: 無限ループに陥るテストや、大量の出力を生成するテストは、通常の自動テストスイートには含めるべきではありません。これらのテストは、特定のアルゴリズムの動作検証や、Go言語の特定の機能の挙動をデモンストレーションするために存在することがあります。コメントによって、これらのテストが手動での実行や特定のデバッグシナリオでのみ有用であることが示されます。

Issueトラッカーとの連携

// Issue XXXX のようなコメントは、テストコードとGoプロジェクトのIssueトラッカーとの間に直接的なリンクを確立します。これにより、開発者はテストが修正しようとしている特定のバグや、関連する設計上の議論を容易に参照できます。これは、テストの背景にある文脈を理解し、将来的に同様の問題が発生した場合に役立ちます。

テストスイートの保守性向上

これらのコメントは、Goのテストスイート全体の保守性を大幅に向上させます。

  • 新規開発者のオンボーディング: 新しい開発者がGoのコードベースに貢献する際、テストコードは言語の挙動を理解するための重要なリソースです。コメントがあれば、テストの目的を素早く把握し、コードの意図を理解するのに役立ちます。
  • リファクタリングとデバッグ: 既存のテストをリファクタリングしたり、バグをデバッグしたりする際に、コメントはテストの本来の目的を思い出させ、意図しない副作用を防ぐのに役立ちます。
  • テストの整理: テストの意図が明確になることで、テストスイートの整理や、冗長なテストの特定が容易になります。実際に、このコミットでは test/switch1.gotest/test0.go という2つのテストファイルが削除されており、これはテストスイートの整理の一環と考えられます。

要するに、このコミットはGoのテストコードの「自己ドキュメンテーション」能力を高め、開発者がテストスイートをより効果的に理解し、利用できるようにするための重要な改善です。

関連リンク

参考にした情報源リンク