[インデックス 12207] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の公式ドキュメントの一部である doc/go1.html
および doc/go1.tmpl
ファイルの導入部分を更新するものです。具体的には、Go 1リリースノートの導入部分を、Go 1の動機付けと安定性に関する議論をより明確に、かつ包括的に記述するように変更しています。
コミット
commit b36d25f1972b9e4d5a8626ed32e3f72d9a58e1b0
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Sat Feb 25 08:02:35 2012 +1100
doc/go1: new introduction
This distills the motivational discussion and makes it the introduction to the release notes.
After this lands, I'll expand the discussion of the major changes to include more background.
Updates #3086.
R=golang-dev, gri, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5698057
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/b36d25f1972b9e4d5a8626ed32e3f72d9a58e1b0
元コミット内容
このコミットの目的は、「doc/go1: new introduction」とされており、Go 1のリリースノートの導入部分を刷新することです。これは、Go 1の動機付けに関する議論を要約し、リリースノートの導入として位置づけることを意図しています。コミットメッセージには、この変更が適用された後、主要な変更点に関する議論をさらに背景情報を含めて拡張する予定であることも記されています。また、Issue #3086を更新するものであり、コードレビュー担当者(R=golang-dev, gri, rsc)とCC(golang-dev)が指定されています。GoのコードレビューシステムであるGerritのチェンジリストリンク(https://golang.org/cl/5698057)も含まれています。
変更の背景
Go言語は、Googleによって開発されたオープンソースのプログラミング言語であり、その設計思想にはシンプルさ、効率性、信頼性が含まれています。Go 1は、Go言語にとって非常に重要なマイルストーンとなるリリースでした。それまでのGoは活発に開発が進められており、言語仕様や標準ライブラリに後方互換性のない変更が頻繁に導入されていました。これは、言語の進化を促進する一方で、既存のGoプログラムのメンテナンスや長期的な利用を困難にしていました。
Go 1のリリースは、この状況を根本的に変えることを目的としていました。その最大の目標は「安定性」であり、Go 1で書かれたプログラムが将来にわたってコンパイルされ、実行され続けることを保証することでした。これは、企業や開発者がGoを長期的なプロジェクトに安心して採用できるようにするために不可欠な要素でした。
このコミットは、Go 1のリリースノートの導入部分を改訂することで、この「安定性」というGo 1の最も重要な動機付けを明確に伝えることを意図しています。初期の導入部分が抽象的であったり、Go 1の核心的な価値を十分に表現していなかったため、より具体的で説得力のある説明が必要とされました。特に、Go 1が「信頼性の高い製品、プロジェクト、出版物を作成するための安定した基盤を提供する」という点を強調し、Google App Engineのような本番環境での長期的な互換性を保証する意図を明確にすることが求められました。
前提知識の解説
- Go言語 (Golang): Googleによって開発された静的型付けのコンパイル型プログラミング言語。並行処理、ガベージコレクション、高速なコンパイルが特徴。
- Go 1: Go言語の最初のメジャーリリース。2012年3月28日にリリースされた。このリリースの最大の目的は、言語と標準ライブラリの安定化であり、後方互換性を保証することに重点が置かれた。Go 1以降、Go言語のバージョン管理はセマンティックバージョニングに近い形で行われ、Go 1.xの範囲内では後方互換性が維持されることが原則となった。
- リリースノート: ソフトウェアの新しいバージョンがリリースされる際に、そのバージョンでの変更点、新機能、バグ修正、既知の問題などをまとめた文書。ユーザーが新しいバージョンに移行する際に参照する重要な情報源となる。
- 後方互換性 (Backward Compatibility): 新しいバージョンのソフトウェアが、古いバージョン用に作成されたデータやコードを問題なく処理できる能力。Go 1では、この後方互換性が非常に重視された。
go fix
ツール: Go言語のツールチェーンに含まれるコマンドラインツール。Go言語の古いバージョンで書かれたコードを、新しいGoバージョンのAPIや言語仕様に合わせて自動的に修正する機能を持つ。Go 1への移行時に、後方互換性のない変更に対応するために非常に役立った。- Gerrit: Googleが開発したWebベースのコードレビューシステム。Goプロジェクトでは、コミットがGitHubにプッシュされる前にGerritでレビューされる。コミットメッセージに含まれる
https://golang.org/cl/5698057
は、Gerritのチェンジリストへのリンクを示している。 - r60 (r60.3): Go 1リリース以前のGo言語のバージョン。Go 1は、このr60(特にr60.3)を基準として、言語とライブラリの変更点を説明している。
技術的詳細
このコミットは、主にHTMLドキュメント (doc/go1.html
) とそのテンプレートファイル (doc/go1.tmpl
) のテキストコンテンツを変更しています。技術的な変更は、コードの機能やロジックではなく、ドキュメントの記述内容に焦点を当てています。
変更の核心は、Go 1の「Introduction」セクションのメッセージングの変更です。
変更前:
- Go 1の動機と設計に関する「完全な説明はXXXを参照」というプレースホルダー的な記述。
- Go 1が「安定した言語とコアライブラリのセット」であり、「Go 1仕様に書かれたコードは動作し続ける」という一般的な説明。
- Google App Engineでのサポートに言及。
- このドキュメントがr60からの変更点を説明し、コードの更新方法、新しい
go
コマンド、新しいバイナリリリースプロセスについて触れるという構成。
変更後:
- Go 1が「信頼性の高い製品、プロジェクト、出版物を作成するための安定した基盤を提供する」という、より具体的で力強い声明から始まる。
- Go 1の「駆動する動機はユーザーのための安定性である」と明確に述べる。これにより、Goプログラムが「何年もの時間スケールで、変更なしにコンパイルおよび実行され続ける」という期待を強調。Google App Engineのような本番環境での長期的な互換性を具体例として挙げる。
- Go 1.1、1.2などの将来のアップデートでも、既存のGo 1プログラムを壊さないという互換性保証の原則を明記。
go1compat.html
へのリンクを追加し、互換性ガイドラインの詳細を参照させる。これは、Go 1の安定性戦略の重要な要素である。- Go 1が「言語の全面的な再考ではなく、今日使われているGoの表現である」と説明。新機能の設計を避け、問題点や不整合の解消、移植性の向上に焦点を当てたことを強調。
- 後方互換性のない変更が導入されたこと、そして
go fix
ツールが古いプログラムをGo 1標準に適合させるための作業を自動化できることを説明。これは、Go 1への移行を円滑にするための重要な情報である。 - このドキュメントが、r60(r60.3)を基準としたGo 1の主要な変更点と、r60からGo 1へのコード更新方法を説明するという構成を再確認。
これらの変更は、Go 1のリリースが単なるバージョンアップではなく、Goエコシステム全体の安定性と長期的な成長を保証するための戦略的なステップであることを、ユーザーに対してより明確に伝えることを目的としています。特に、go1compat.html
への参照は、Go 1の互換性保証が単なる約束ではなく、具体的なドキュメントと原則に基づいていることを示唆しています。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットでは、以下の2つのファイルが変更されています。
doc/go1.html
doc/go1.tmpl
両ファイルともに、Introduction to Go 1
セクションの <p>
タグ内のコンテンツが大幅に書き換えられています。具体的には、Go 1の安定性、後方互換性、そして go fix
ツールの役割に関する説明が追加・修正されています。
doc/go1.html
の変更点 (抜粋):
--- a/doc/go1.html
+++ b/doc/go1.html
@@ -10,29 +10,46 @@
<h2 id="introduction">Introduction to Go 1</h2>
<p>
-For a full explanation of the motivation and design of Go 1, see XXX.
-Here follows a summary.
+Go version 1, Go 1 for short, defines a language and a set of core libraries
+that provide a stable foundation for creating reliable products, projects, and
+publications.
</p>
<p>
-Go 1 is intended to be a stable language and core library set that
-will form a reliable foundation for people and organizations that
-want to make a long-term commitment to developing in the Go programming
-language. Go will continue to develop, but in a way that guarantees
-code written to the Go 1 specification will continue to work. For
-instance, Go 1 will be a supported platform on Google App Engine
-for the next few years. Incompatible changes to the environment,
-should they arise, will be done in a distinct version.
+The driving motivation for Go 1 is stability for its users. People should be able to
+write Go programs and expect that they will continue to compile and run without
+change, on a time scale of years, including in production environments such as
+Google App Engine. Similarly, people should be able to write books about Go, be
+able to say which version of Go the book is describing, and have that version
+number still be meaningful much later.
</p>
<p>
-This document describes the changes in the language and libraries
-in Go 1, relative to the previous release, r60 (at the time of
-writing, tagged as r60.3). It also explains how to update code at
-r60 to compile and run under Go 1. Finally, it outlines the new
-<code>go</code> command for building Go programs and the new binary
-release process being introduced. Most of these topics have more
-thorough presentations elsewhere; such documents are linked below.
+Code that compiles in Go 1 should, with few exceptions, continue to compile and
+run throughout the lifetime of that version, even as we issue updates and bug
+fixes such as Go version 1.1, 1.2, and so on. Other than critical fixes, changes
+made to the language and library for subsequent releases of Go 1 may
+add functionality but will not break existing Go 1 programs.
+<a href="go1compat.html">The Go 1 compatibility document</a>
+explains the compatibility guidelines in more detail.
+</p>
+
+<p>
+Go 1 is a representation of Go as it used today, not a wholesale rethinking of
+the language. We avoided designing new features and instead focused on cleaning
+up problems and inconsistencies and improving portability. There are a number
+changes to the Go language and packages that we had considered for some time and
+prototyped but not released primarily because they are significant and
+backwards-incompatible. Go 1 was an opportunity to get them out, which is
+helpful for the long term, but also means that Go 1 introduces incompatibilities
+for old programs. Fortunately, the <code>go</code> <code>fix</code> tool can
+automate much of the work needed to bring programs up to the Go 1 standard.
+</p>
+
+<p>
+This document outlines the major changes in Go 1 that will affect programmers
+updating existing code; its reference point is the prior release, r60 (tagged as
+r60.3). It also explains how to update code from r60 to run under Go 1.
</p>
<h2 id="language">Changes to the language</h2>
doc/go1.tmpl
も同様の変更が加えられており、これはHTMLドキュメントの生成元となるテンプレートファイルであるため、両方のファイルが同期して更新されるのは自然なことです。
コアとなるコードの解説
このコミットの「コアとなるコード」は、Go 1のリリースノートの導入部分を構成するHTMLとテンプレートのテキストコンテンツです。これらの変更は、Go 1のリリース戦略と哲学をユーザーに伝える上で極めて重要です。
変更されたテキストは、以下の主要なメッセージを伝えています。
- Go 1の目的: Go 1は、信頼性の高いソフトウェア開発のための「安定した基盤」を提供すること。これは、単なる言語の進化ではなく、長期的なコミットメントを可能にするためのものです。
- 安定性の強調: Go 1の最大の動機は「ユーザーのための安定性」であり、Go 1で書かれたコードは「何年もの間、変更なしにコンパイルおよび実行され続ける」ことが期待される。これは、Go言語がエンタープライズ環境や長期プロジェクトで採用されるための信頼性を構築する上で不可欠なメッセージです。
- 後方互換性の保証: Go 1.1、1.2といった将来のGo 1.xリリースでも、既存のGo 1プログラムを壊さないという明確な互換性保証が示されています。これは、開発者が安心してGo 1に移行し、将来のアップデートにも対応できるという安心感を与えます。
go1compat.html
への参照: 互換性ガイドラインの詳細が別のドキュメント (go1compat.html
) で説明されていることを明示することで、Go 1の互換性戦略が体系的かつ文書化されていることを示します。- Go 1の性質: Go 1は「言語の全面的な再考」ではなく、「今日使われているGoの表現」であると説明されています。これは、Go 1が既存のGoの強みを維持しつつ、問題点や不整合を解消し、移植性を向上させることに焦点を当てたことを示唆しています。
- 後方非互換な変更と
go fix
: Go 1には後方互換性のない変更が含まれていることを正直に認めつつ、go fix
ツールがこれらの変更に対応するための自動化された手段を提供することを強調しています。これにより、移行の障壁を低減し、開発者がGo 1へのアップグレードを容易に行えるように配慮されています。
これらのテキスト変更は、Go 1が単なる技術的なアップデートではなく、Go言語の成熟とエコシステムの安定化に向けた戦略的な一歩であることを、ユーザーに深く理解させるためのコミュニケーション戦略の一部です。
関連リンク
- Go 1 Release Notes (公式): https://go.dev/doc/go1 (このコミットが変更したドキュメントの最終形)
- Go 1 Compatibility Guarantee: https://go.dev/doc/go1compat (コミット内で参照されている互換性ドキュメント)
- Go Blog: Go 1 and the Future of Go Programs: https://go.dev/blog/go1 (Go 1のリリースに関する公式ブログ記事)
- Go Blog: The Go Programming Language: https://go.dev/blog/ (Go言語に関する公式ブログ)
参考にした情報源リンク
- コミットメッセージと差分情報:
/home/orange/Project/comemo/commit_data/12207.txt
- Go言語公式ドキュメント: https://go.dev/doc/
- Go言語公式ブログ: https://go.dev/blog/
- GitHub: golang/go リポジトリ: https://github.com/golang/go
- Gerrit Code Review: https://go-review.googlesource.com/
- Go 1 Release Notes (Web Archive): https://web.archive.org/web/20120330000000*/https://go.dev/doc/go1 (Go 1リリース時のドキュメントの変遷を追うために参照)
- Go issue tracker: https://go.dev/issue/3086 (コミットメッセージで参照されているIssue)