[インデックス 12213] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のyacc
ツールに関連するunits.y
ファイルのコメント更新と、$GOROOT
環境変数が設定されていない場合のより適切なエラーメッセージの提供を目的としています。また、Makefile
にクリーンアップターゲットを追加しています。
コミット
commit bdca78e1a76cd97a20d45d5f6990b52533154aee
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date: Sun Feb 26 01:36:26 2012 +0800
cmd/yacc/units.y: update comment, give better error messages when $GOROOT not set
R=r, golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5698062
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/bdca78e1a76cd97a20d45d5f6990b52533154aee
元コミット内容
cmd/yacc/units.y: update comment, give better error messages when $GOROOT not set
このコミットは、cmd/yacc/units.y
ファイル内のコメントを更新し、$GOROOT
環境変数が設定されていない場合に、より分かりやすいエラーメッセージを表示するように改善します。
変更の背景
この変更の背景には、主に以下の2点があります。
- Goツールチェインの進化への対応: 2012年当時のGo言語のビルドシステムは、現在とは異なるコマンド(例:
6g
,6l
)を使用していました。このコミットは、units.y
ファイルのコメントにある使用例を、より新しいgo build
コマンドに更新することで、ドキュメントの正確性を保ち、ユーザーが最新のGoツールチェインでyacc
プログラムをビルドする際の混乱を避けることを目的としています。 - ユーザーエクスペリエンスの向上:
units.y
で生成されるプログラムは、$GOROOT
環境変数に依存してデータファイル(units.txt
)のパスを決定していました。しかし、$GOROOT
が設定されていない場合、プログラムは無効なパスを構築し、ユーザーに不親切なエラー(または単にファイルが見つからないというエラー)を返していました。このコミットは、$GOROOT
が設定されていない場合に、より明確なエラーメッセージを標準エラー出力に表示し、プログラムを終了させることで、デバッグの労力を減らし、ユーザーエクスペリエンスを向上させます。
前提知識の解説
- Yacc (Yet Another Compiler Compiler): Yaccは、プログラミング言語の構文解析器(パーサー)を生成するためのツールです。文法規則を記述したファイル(通常は
.y
拡張子)を入力として受け取り、その文法を解析するためのC言語(またはGo言語など)のソースコードを生成します。Go言語のcmd/yacc
は、Go言語で記述されたパーサーを生成するためのYaccの実装です。 units.y
: このファイルは、Go言語のyacc
ツールの使用例として提供されている文法定義ファイルです。単位変換(例: インチからセンチメートル)を行うプログラムのパーサーを生成するために使用されます。$GOROOT
: Go言語のインストールディレクトリを示す環境変数です。Goの標準ライブラリやツールがこのディレクトリに配置されています。Goプログラムが標準ライブラリのファイルや、Goのインストールパスに依存するリソース(このケースではunits.txt
のようなデータファイル)を探す際に利用されます。go build
: Go言語のソースコードをコンパイルして実行可能ファイルを生成するためのコマンドです。以前のGoのバージョンでは、6g
(コンパイラ)や6l
(リンカ)といったアーキテクチャ固有のコマンドが使われていましたが、go build
はこれらを抽象化し、よりシンプルにビルドを行えるようにしました。os.Getenv()
: Go言語の標準ライブラリos
パッケージに含まれる関数で、指定された環境変数の値を取得します。fmt.Fprintf(os.Stderr, ...)
: Go言語の標準ライブラリfmt
パッケージに含まれる関数で、指定されたio.Writer
(この場合は標準エラー出力os.Stderr
)にフォーマットされた文字列を出力します。os.Exit(1)
: Go言語の標準ライブラリos
パッケージに含まれる関数で、プログラムを終了させます。引数に1
を指定すると、通常はエラー終了を示します。
技術的詳細
このコミットは、主にsrc/cmd/yacc/units.y
内のmain
関数におけるデータファイルパスの決定ロジックと、src/cmd/yacc/Makefile
のビルドスクリプトに焦点を当てています。
src/cmd/yacc/units.y
の変更点
-
コメントの更新:
- 古いGoツールチェインのコマンド(
6g y.go
、6l y.6
、./6.out $GOROOT/src/cmd/yacc/units
)が、新しいgo build
コマンド(go build -o units y.go
、./units $GOROOT/src/cmd/yacc/units.txt
)に置き換えられました。これにより、ドキュメントが現在のGo開発環境に即したものになりました。また、データファイル名がunits
からunits.txt
に修正されています。
- 古いGoツールチェインのコマンド(
-
$GOROOT
のチェックとエラーハンドリングの改善:- 変更前:
このコードでは、file = os.Getenv("GOROOT") + "/src/cmd/yacc/units.txt"
$GOROOT
が設定されていなくても、file
変数には/src/cmd/yacc/units.txt
というパスが設定されていました。これは絶対パスではないため、ファイルオープン時にエラーが発生しても、その原因が$GOROOT
の未設定にあることが分かりにくいという問題がありました。 - 変更後:
この変更により、if dir := os.Getenv("GOROOT"); dir != "" { file = dir + "/src/cmd/yacc/units.txt" } if flag.NArg() > 0 { file = flag.Arg(0) } else if file == "" { fmt.Fprintf(os.Stderr, "can not find data file units.txt; provide it as argument or set $GOROOT\\n") os.Exit(1) }
$GOROOT
が設定されている場合にのみ、その値を使用してunits.txt
のパスを構築するようになりました。 さらに重要なのは、else if file == ""
という新しい条件分岐が追加された点です。これは、以下の両方の条件が満たされた場合に実行されます。$GOROOT
が設定されていない。- コマンドライン引数としてデータファイルのパスが提供されていない。
この場合、プログラムは標準エラー出力に「
can not find data file units.txt; provide it as argument or set $GOROOT
」という明確なエラーメッセージを出力し、終了コード1
でプログラムを終了します。これにより、ユーザーは問題の原因と解決策をすぐに理解できるようになりました。
- 変更前:
src/cmd/yacc/Makefile
の変更点
clean
ターゲットの追加:- ビルドプロセスで生成される中間ファイルや最終的な実行可能ファイル(
y.go
,y.output
,units
)を削除するためのclean
ターゲットが追加されました。これは、開発者がビルド環境をクリーンな状態に戻すための標準的な方法であり、開発ワークフローの利便性を向上させます。
- ビルドプロセスで生成される中間ファイルや最終的な実行可能ファイル(
コアとなるコードの変更箇所
src/cmd/yacc/units.y
--- a/src/cmd/yacc/units.y
+++ b/src/cmd/yacc/units.y
@@ -15,9 +15,8 @@
// example of a Go yacc program
// usage is
// go tool yacc -p "units_" units.y (produces y.go)
-// 6g y.go
-// 6l y.6
-// ./6.out $GOROOT/src/cmd/yacc/units
+// go build -o units y.go
+// ./units $GOROOT/src/cmd/yacc/units.txt
// you have: c
// you want: furlongs/fortnight
// * 1.8026178e+12
@@ -288,9 +287,14 @@ func main() {
flag.Parse()
- file = os.Getenv("GOROOT") + "/src/cmd/yacc/units.txt"
+ if dir := os.Getenv("GOROOT"); dir != "" {
+ file = dir + "/src/cmd/yacc/units.txt"
+ }
if flag.NArg() > 0 {
file = flag.Arg(0)
+ } else if file == "" {
+ fmt.Fprintf(os.Stderr, "can not find data file units.txt; provide it as argument or set $GOROOT\\n")
+ os.Exit(1)
}
f, err := os.Open(file)
src/cmd/yacc/Makefile
--- a/src/cmd/yacc/Makefile
+++ b/src/cmd/yacc/Makefile
@@ -5,3 +5,6 @@
units: yacc.go units.y
go run yacc.go -p units_ units.y
go build -o units y.go
+\
+clean:
+\trm -f y.go y.output units
コアとなるコードの解説
src/cmd/yacc/units.y
のmain
関数内の変更
この変更の核心は、main
関数内でunits.txt
データファイルのパスを決定し、そのファイルを開く前のロジックにあります。
-
$GOROOT
の条件付き使用:if dir := os.Getenv("GOROOT"); dir != ""
という行は、$GOROOT
環境変数の値を取得し、それが空文字列でない場合にのみ、その値を変数dir
に代入し、units.txt
のパスを構築します。これにより、$GOROOT
が設定されていない場合に、無効なパスが生成されるのを防ぎます。 -
コマンドライン引数の優先:
if flag.NArg() > 0 { file = flag.Arg(0) }
という行は、プログラムがコマンドライン引数を受け取った場合、その引数をデータファイルのパスとして優先的に使用することを示しています。これは既存の動作であり、変更されていません。 -
改善されたエラーハンドリング:
else if file == ""
という新しいブロックが追加されました。このブロックは、以下のシナリオで実行されます。$GOROOT
が設定されていない(最初のif
ブロックがスキップされる)。- コマンドライン引数も提供されていない(2番目の
if
ブロックがスキップされる)。 この場合、file
変数は初期値(空文字列)のままです。この状態は、プログラムがunits.txt
を見つけるための有効なパスを持っていないことを意味します。そこで、fmt.Fprintf(os.Stderr, ...)
を使って、ユーザーに「units.txt
データファイルが見つかりません。引数として提供するか、$GOROOT
を設定してください」という明確なエラーメッセージを標準エラー出力に表示します。そして、os.Exit(1)
を呼び出して、プログラムがエラー状態であることを示しながら終了します。これにより、ユーザーは問題の原因と解決策を即座に理解できます。
src/cmd/yacc/Makefile
のclean
ターゲット
clean:
という新しいターゲットが追加され、その下にrm -f y.go y.output units
というコマンドが記述されています。
clean
: これは、make clean
コマンドを実行したときに実行されるターゲットの名前です。rm -f
: ファイルを削除するコマンドです。-f
オプションは、存在しないファイルを無視し、確認プロンプトを表示しないようにします。y.go
:yacc
ツールによって生成されるGoソースファイルです。y.output
:yacc
ツールがデバッグ情報として生成する可能性のあるファイルです。units
:go build
コマンドによって生成される最終的な実行可能ファイルです。
このターゲットの追加により、開発者はビルドによって生成されたファイルを簡単に削除し、クリーンな状態から再ビルドできるようになります。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://go.dev/doc/
- Yacc (Wikipedia): https://ja.wikipedia.org/wiki/Yacc
- Go言語の環境変数
GOROOT
に関する情報: https://go.dev/doc/install
参考にした情報源リンク
- https://github.com/golang/go/commit/bdca78e1a76cd97a20d45d5f6990b52533154aee
- https://golang.org/cl/5698062 (GoのChange Listページ)
- Go言語の
os
パッケージドキュメント: https://pkg.go.dev/os - Go言語の
fmt
パッケージドキュメント: https://pkg.go.dev/fmt - Go言語の
flag
パッケージドキュメント: https://pkg.go.dev/flag - Makefileの基本的な使い方に関する情報 (一般的な知識)