[インデックス 12252] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のドキュメンテーションツールであるgodoc
のHTMLテンプレートファイルlib/godoc/package.html
に対する変更です。具体的には、生成されるパッケージドキュメントのトップレベルインデックスに「Examples」セクションへのリンクを追加し、そのセクションに直接ジャンプできるようにアンカーIDを設定しています。
コミット
commit 64bc38eb854b860342031d98eb8788eea1f69815
Author: Andrew Gerrand <adg@golang.org>
Date: Tue Feb 28 16:05:12 2012 +1100
godoc: add Examples link to top-level index
R=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5702043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/64bc38eb854b860342031d98eb8788eea1f69815
元コミット内容
godoc: add Examples link to top-level index
このコミットは、godoc
が生成するパッケージドキュメントのトップレベルインデックスに「Examples」セクションへのリンクを追加するものです。
変更の背景
godoc
はGo言語のコードからドキュメントを自動生成するツールであり、開発者がコードの利用方法を理解する上で非常に重要です。Go言語では、関数の使用例を示すExample
関数を記述することが推奨されており、godoc
はこれらのExample
関数を自動的に抽出し、ドキュメントに含めます。
この変更が行われる前は、godoc
が生成するパッケージドキュメントには「Examples」セクションが存在しても、そのセクションへの直接的なナビゲーションリンクがトップレベルのインデックス(目次のようなもの)にありませんでした。そのため、ユーザーはドキュメントをスクロールして「Examples」セクションを探す必要がありました。
このコミットの背景には、ユーザーエクスペリエンスの向上という明確な目的があります。特に、多くのExample
関数を持つ大規模なパッケージの場合、ユーザーが目的のセクションに素早くアクセスできるようにすることは、ドキュメントの利便性を大きく高めます。トップレベルインデックスに「Examples」リンクを追加することで、ユーザーは一目でそのセクションの存在を認識し、クリック一つで該当箇所にジャンプできるようになります。これは、ドキュメントの可読性とナビゲーション性を向上させるための小さな、しかし重要な改善です。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下の技術的知識が必要です。
-
Go言語の
godoc
ツール:godoc
はGo言語の標準ツールチェーンに含まれるドキュメンテーションジェネレーターです。Goのソースコード内のコメント(特にエクスポートされた識別子に付随するコメント)やExample
関数を解析し、HTML形式のドキュメントを生成します。このドキュメントは、Goの標準ライブラリのドキュメント(pkg.go.devなど)の基盤となっています。 -
Go言語の
html/template
パッケージ:godoc
は、Goのhtml/template
パッケージを使用してHTMLドキュメントを生成します。このパッケージは、Goのテンプレートエンジンを提供し、データ構造(この場合はgodoc
が解析したパッケージ情報)をHTMLにレンダリングするために使用されます。- アクション: テンプレート内では、
{{...}}
で囲まれた部分が「アクション」と呼ばれます。 - パイプライン: アクション内では、
|
で区切られた一連のコマンドが実行されます。 - 条件分岐 (
{{if .}}
):{{if .Examples}} ... {{end}}
のような構文は、Examples
というフィールド(またはメソッド)が真(nilでない、空でないなど)の場合にのみ、その間のHTMLコンテンツをレンダリングします。これは、特定のセクションが存在する場合にのみそのリンクを表示するために使用されます。 - 繰り返し (
{{range .}}
):{{range $.Examples}} ... {{end}}
のような構文は、Examples
コレクションの各要素に対してループ処理を行い、その間のHTMLコンテンツを繰り返しレンダリングします。
- アクション: テンプレート内では、
-
HTMLのアンカーリンク (
<a>
タグとid
属性): HTMLでは、<a href="#section-id">Link Text</a>
という形式で、同じページ内の特定の要素にジャンプするリンクを作成できます。このリンクが機能するためには、ジャンプ先の要素にid="section-id"
という属性が設定されている必要があります。このコミットでは、<h4>Examples</h4>
にid="examples"
を追加することで、#examples
というアンカーリンクが機能するようにしています。 -
Goの
Example
関数: Go言語では、Example
というプレフィックスを持つ関数を記述することで、コードの使用例をドキュメントに含めることができます。これらの関数は、go test
コマンドによってテストとして実行され、出力が期待される出力と一致するかどうかが検証されます。godoc
はこれらのExample
関数を解析し、生成されるドキュメントの「Examples」セクションに表示します。
技術的詳細
このコミットは、godoc
のHTMLテンプレートであるlib/godoc/package.html
を修正することで、パッケージドキュメントのナビゲーションを改善しています。
変更点は大きく分けて2つあります。
-
トップレベルインデックスへの「Examples」リンクの追加: 既存のインデックスリスト(
<dl>
タグ内)に、Examples
セクションへの新しいリンクが追加されました。このリンクは、{{if $.Examples}}
という条件付きレンダリングブロック内に配置されています。これは、パッケージにExample
関数が存在し、godoc
がExamples
データを生成した場合にのみ、このリンクが表示されることを意味します。これにより、不要なリンクが表示されることを防ぎ、ドキュメントの関連性を保ちます。 追加されたHTMLスニペットは以下の通りです。{{if $.Examples}} <dd><a href="#examples">Examples</a></dd> {{end}}
ここで、
<dd>
は定義リストの定義記述(description)要素であり、インデックスの各項目を表します。<a href="#examples">Examples</a>
は、ページ内のid="examples"
を持つ要素へのハイパーリンクです。 -
「Examples」セクション見出しへの
id
属性の追加: 「Examples」セクションのタイトルである<h4>Examples</h4>
タグにid="examples"
属性が追加されました。これにより、上記で追加されたアンカーリンクが正しく機能し、ユーザーが「Examples」リンクをクリックした際に、ブラウザがこの見出しの位置までスクロールするようになります。 変更されたHTMLスニペットは以下の通りです。- <h4>Examples</h4> + <h4 id="examples">Examples</h4>
この変更は、HTMLの基本的なアンカーリンクの仕組みに則ったものであり、ページ内ナビゲーションを可能にするために不可欠です。
これらの変更は、Goのテンプレートエンジンの機能とHTMLの基本的な構造を組み合わせて、動的かつ効果的なドキュメントナビゲーションを実現しています。godoc
がパッケージを解析し、Example
関数が存在するかどうかを判断すると、その情報がテンプレートに渡され、$.Examples
変数が設定されます。この変数の真偽値に基づいて、テンプレートは「Examples」リンクをレンダリングするかどうかを決定します。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/lib/godoc/package.html
+++ b/lib/godoc/package.html
@@ -12,6 +12,9 @@
<dl>
<dd><a href="#overview">Overview</a></dd>
<dd><a href="#index">Index</a></dd>
+ {{if $.Examples}}
+ <dd><a href="#examples">Examples</a></dd>
+ {{end}}
{{if $.Dirs}}
<dd><a href="#subdirectories">Subdirectories</a></dd>
{{end}}
@@ -54,7 +57,7 @@
</dl>
{{if $.Examples}}
- <h4>Examples</h4>
+ <h4 id="examples">Examples</h4>
<dl>
{{range $.Examples}}
<dd><a class="exampleLink" href="#example_{{.Name}}">{{example_name .Name}}</a></dd>
コアとなるコードの解説
このdiffは、lib/godoc/package.html
というGoテンプレートファイルに対する変更を示しています。
-
インデックスリストへの追加:
@@ -12,6 +12,9 @@ <dl> <dd><a href="#overview">Overview</a></dd> <dd><a href="#index">Index</a></dd> + {{if $.Examples}} + <dd><a href="#examples">Examples</a></dd> + {{end}} {{if $.Dirs}} <dd><a href="#subdirectories">Subdirectories</a></dd> {{end}}
この部分では、パッケージドキュメントの冒頭にあるナビゲーションリスト(
<dl>
タグで囲まれた部分)に新しい項目が追加されています。<dd><a href="#overview">Overview</a></dd>
と<dd><a href="#index">Index</a></dd>
の後に、新しい<dd>
要素が挿入されています。{{if $.Examples}} ... {{end}}
はGoテンプレートの条件分岐アクションです。$.Examples
は、現在のテンプレートコンテキスト(godoc
が生成したパッケージデータ)において、Examples
というフィールドまたはメソッドが存在し、かつその値が真(例えば、空でないリストやスライス)である場合にのみ、その内部のHTMLコンテンツがレンダリングされることを意味します。- もし
Examples
が存在すれば、<dd><a href="#examples">Examples</a></dd>
が出力されます。これは「Examples」というテキストを持つリンクで、クリックすると同じページ内のid="examples"
を持つ要素にジャンプします。
-
「Examples」セクション見出しへのID追加:
@@ -54,7 +57,7 @@ </dl> {{if $.Examples}} - <h4>Examples</h4> + <h4 id="examples">Examples</h4> <dl> {{range $.Examples}} <dd><a class="exampleLink" href="#example_{{.Name}}">{{example_name .Name}}</a></dd>
この部分では、実際に
Example
関数がリストされるセクションのタイトルに対する変更が行われています。- 変更前は単に
<h4>Examples</h4>
という見出しでした。 - 変更後は、この
<h4>
タグにid="examples"
という属性が追加されています。 - この
id
属性は、上記で追加されたインデックスリンクのhref="#examples"
と対応しており、ページ内リンクのターゲットとして機能します。これにより、ユーザーがインデックスの「Examples」リンクをクリックすると、ブラウザはこの<h4>
見出しの位置まで自動的にスクロールします。 - このセクション全体も
{{if $.Examples}} ... {{end}}
で囲まれており、Example
関数が存在しない場合にはセクション自体がレンダリングされないようになっています。
- 変更前は単に
これらの変更により、godoc
が生成するドキュメントは、Example
関数を含むパッケージにおいて、より使いやすく、ナビゲーションしやすいものになります。
関連リンク
- Go言語の
godoc
コマンド: https://pkg.go.dev/cmd/godoc - Go言語の
html/template
パッケージ: https://pkg.go.dev/html/template - Go言語の
Example
関数に関する公式ドキュメント: https://go.dev/blog/examples
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (pkg.go.dev)
- Go言語のブログ記事 (go.dev/blog)
- HTMLの
<a>
タグとid
属性に関するMDN Web Docs - Goテンプレートの構文に関する公式ドキュメント